魚を食べて頭が良くなるのかどうかはわからないけど、美味しいことは確か
魚を捌くシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
「あ! 卵持ってるヤツだったかぁ……」
「卵あると、食べられない??」
「卵に栄養を持っていかれちゃうんで、身の味が落ちちゃうんですよねぇ……」
先ほどの場所からちょいと離れたところにある流れ込みに場を決めて、釣りを再開し……5投目で何とか魚をかけることができましたよ!!!
血抜きも済ませた魚を今まさに捌いているところなんだけど……内臓出しのために裂いた腹から、金色の卵が零れ落ちてくるとは思わなかったよね……。
卵を別の容器に取り分けておいて、大きめの魚体をざくざくと三枚に下ろしていくと、ついこの前見た時とはまた少し違う白い身が見える。
前は、たっぷり乗った脂肪で白濁していたような感じだったけど、今はだいぶ透明感のある白身になっている。
うん……この色味、何かに似てると思ったら、管釣りの小型ニジマス的な白身だわ……。
中骨に付いた身をこそげて食べてみたけど…………うん。旨味も脂気もないわけじゃないけど、なんか少し水っぽくなってるなぁ……。
「美味しく、ないの……?」
「脂気とか旨味が抜けてる感じなので、補ってあげれば美味しく頂けると思いますよ! 卵は確実に美味しいでしょうし!」
味見をした後、そうとう微妙そうな顔をしていたんだろう。しょんぼりと眉を下げたアリアさんが、こちらを覗き込んでいる。
この前食べた時よりちょっと水っぽい、って言うだけで、ちゃんと食べられる味ですよ!! 脂と旨味……コクを補ってあげれば、美味しく頂けると思う。
薄い膜に包まれた卵は、一粒一粒が丸くぷっくりと膨れており、鮭の腹子みたいにばらして調味液に漬け込んだら美味しいんじゃないかと思うんだ。
とりあえず、卵はちょっと置いておいて……まずは魚の方の下処理をしていこうと思うのですよ。
「皮、だいぶ硬くなってるし、剥いだ方がよさそうだなぁ……」
『かたいの?? 朕がシャッシャッってするー??』
「なんで、硬くなるんだろ?」
「産卵のために川底を身体で掘ったりする時とか、縄張り争いで怪我しないように……とかいう理由らしいですよ」
鱗にビッチリと覆われた皮は、もうそれ自体がだいぶ肥厚していてかなり硬くなっている。野営車両の切れ味抜群の包丁ですら、抵抗を感じる程度には硬い。
これを噛み切るのは大変そうだし、もう最初から取り除いちゃおう!
硬い分、皮を引くのはさほど難しくない。皮にほとんど身を残さないで皮を剥くことができた。
あとは腹骨をざっくりとそぎ落として……こちらは、頭と中骨と共におやつとなって、ごまみそのお腹に消えていった。
「コレを一口大にブツ切りにして、塩・コショウと特製スパイスで下味をつけるわけですよ」
「すごい!! いい匂い!!」
「ベースにカレー粉が入ってるんで、臭みも取れんじゃないかなー、と」
残った身の方をそぎ切りにして、下味をつけていく。ふわりとカレーの香りが車内に充満した。
他にも、クミンやらコリアンダーやらの甘いようないがらっぽいような、不思議な香りが鼻先をくすぐっていく。
脂気と旨味を補って、水っぽさを消すっていうと……カレーしか思い浮かばなかったよ!
こんかいはちょっとエスニックな……プーパッポンカリーならぬMTパッポンカリーにしようと思います!
……え? MTパッポンカリーとは何ぞや、って??
プーパッポンカリーの「プー」がカニ、「パッ」が炒める、「ポン」が粉……という意味らしいので、プーの部分をミルクトラウトに変えて、ミルクトラウトのカレー粉炒め、というか、スパイス炒めにしようかな、と。
ざっとまな板を洗ったら、玉ねぎとニンニクもスライスしていく。
「で、ミルクトラウトをまずはさっとソテーして……いったん避けたらニンニクと玉ねぎも炒めて……」
「美味しそうな匂い、する!! 匂いだけで、美味しい!」
「カレーの匂いは本当に食欲をそそりますよね! 残りは男性陣が戻ってきたら仕上げますよー!」
おやつを食べ終えてご満悦そうなごまみそを抱きあげたアリアさんが、ひくひくと形の良い鼻を動かしている。
ついでに、ごまみそも鼻を動かして……ぺぷしゅと商標的にグレーそうなくしゃみをしていた。
無心でごまみその腹毛をもふもふするアリアさんを横目に見つつ、炒まった玉ねぎとニンニクが入ったフライパンにミルクトラウトの身を戻して……一度ここで火を止める。
まだみんな帰ってきてないから、仕上げはちょいと後回し。
ついでだから、昨日買いだめしておいた卵と、これまた買ってきた牛乳、特製スパイスミックス、お醤油、砂糖を加えて調味液だけは作っておこうかな。
あとは、開いている方のコンロで、沸騰しない程度の温度になるようお湯を沸かして……。
「卵はこの膜を取らなきゃいけないんですが、手で取ろうとすると大変なんですよ……」
「ぴったり、くっついてるもんね……」
『朕、こまかいの、むり!』
「……とか言いましたけど、実はちょっとしたコツで簡単に取れる方法があるんです!」
「そんな、方法が……!!」
通販番組の如く提案してみれば、ワケがわからないなりにもノッてくれたアリアさん。
そんな彼女の目の前で、沸騰はしていないものの確実に手を入れたら火傷寸前であろうお湯をボウルに注ぎ入れ、塩を多めに溶かし入れる。
準備は、これでOK!
あとは、菜箸で卵の塊を摘まんで、塩湯の中でシャブシャブしてやれば、卵が自然にばらけてくるわけですよ!
たぶん、熱で膜のタンパク質が変性するからだと思ってるんだけど……どうだろうか?
あらかた卵が粒にばらけたら、すばやくザルに上げて水気を切って……今度はお風呂のお湯程度の塩ぬるま湯に入れて、膜の残りを掃除したり、細かいごみを取ったりすれば完了、というわけだ。
お湯につけると言っても、そんなに長い時間漬けっぱなしにするわけじゃないから、火が通っちゃうこともないし。
卵の皮が硬くなる、っていう人もいるけど、私は気にならないなぁ……。
「ほんとだ!! ばらばら!!」
「手間がなくて楽なんですよね、この方法。しかし、本当に金色ですねぇ……!」
「きれい……! 宝物みたい!!」
「確かに……食べる宝石的な感じですね」
一粒一粒ばらけた卵は、透き通ってキラキラと輝いている。シトリンの粒を集めたような感じがするなぁ!
うっとりと呟くアリアさんの言葉に、某食レポ芸人さんのような一言が口から飛び出した。
……他に言いようがなかったのか、私!?
兎にも角にも、せっかくだからこの色味が消えないようにしたいなぁ……。
お酒と、めんつゆ少々……塩をベースにした薄い色合いの漬け汁作ってつけておこうかな、うん。薄い飴色のような色味なら、金色卵の邪魔にはならない……と、信じたい!
卵と漬け汁の入った深めの小鉢を冷蔵庫に入れたそのすぐ後に、どやどやと何人かの声と足音が聞こえてきた。
うん。どうやら男性陣も戻ってきたようですな。
「それじゃあ、ご飯の仕上げをしちゃいますか!!」
「楽しみ!! おさら、準備する!!!」
ごまみそを床に放したアリアさんが、ワクワクを殺しきれない様子でお皿の準備をしてくれている。
放されたごまみそは不満そうだけど……まぁ、ご飯の誘惑に勝つのはなかなか難しいんじゃないかな、うん。
再びジュウジュウと活気を取り戻してきたフライパンに卵液を注ぎ入れつつ、いっそう賑やかになったドアの方を振り返る。
「今帰ったぞ、リン、アリア! ……というか、ものすごく腹の減る匂いだな、コレは!!」
「お帰りなさい! もうすぐご飯できるんで、ちょっと待ってくださいね!」
帰ってきて早々に瞳を輝かせる男性陣を眺めつつ、私はフライパンを大きく煽る。
トロトロふわふわの卵が放物線を描いて宙に舞い、再びフライパンへと還っていった。
閲覧ありがとうございます。
誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。
イクラ作り、楽しいですよ!!
けっこうな量ができるので、自宅でイクラ三昧できますし、自分好みの味にも作れるので良いと思います!╭( ・ㅂ・)و ̑̑
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