お客様の中に北斗ネ申拳が使える鍼灸師様はいらっしゃいませんか?
7月10日 追記
本文を書き直しました。
ご迷惑をおかけして申し訳ありません。
「まず確認しておきたいのは、リンは戦えたりはするのか? 基本的にリンが戦うことはないんだが、万が一ということもあるしな」
「あー……戦闘どころかケンカすらしたことないので、戦力外も戦力外だと思います、ハイ……」
「……予想はしていたが……まあ、そうだろうな……」
さすがにソレは予想していたのか、さもありなんという顔でヴィルさんが頷いた。
職場でマッサージを教えてくれた柔整師の先輩に、練習の合間に冗談交じりで投げ技とか受け身を教えてもらったことはあるけど、これが役に立つかって言われたら……ねぇ?
せいぜいできるのは相打ち覚悟のキャットファイトくらい……?
そもそも、柔道が必須だった柔整科と違って、鍼灸科は文系も文系ですから! 経絡経穴、十二正経八奇経361正穴をひたっすら暗記してた気が……。
……ちなみによく聞かれるけど、『経絡秘孔』とかないから! 鍼打った瞬間「ひでぶっ!!」とか「あべし!!」とかなんないから!!
なお、ヴィルさんの種族である鬼竜は物理攻撃にも魔法攻撃にも秀でている種族らしく、剣をメイン武器にして敵を薙ぎ倒したり魔法乗せて切り倒したりするのが、パーティでのヴィルさんのお役目らしい。
そして鬼竜は高い身体能力と魔法力を誇る代わりに、それを維持するためにめちゃくちゃエネルギーを必要とする高燃費体質らしいのだ。
……あー、うん。ヴィルさんの腹の虫が頻繁に騒ぐ理由が非常によくわかりましたよ……。
低燃費が叫ばれるこのご時世、なかなかお辛かったのではなかろうか……?
「もしリンさえよければ、簡単な戦闘訓練……というか、護身術に近いモノを教えることもできるが、どうする?」
「お言葉に甘えて、教えてもらいたいと思います。街中とはいえ治安がいい……とは言い切れない部分はあるでしょうし、自分の身は自分で守りたいです」
「わかった。護身術の方は任せてほしい」
ダンジョンの中ではパーティの人たちと一緒にいられても、自由時間のときに揉めごとに巻き込まれたらひとたまりもないだろうし……。
最低限でも、何かあったときに命からがら逃げだせる程度にしておかないとマズいと思うのですよ。アニメか何かで「キミを守るのはキミ自身だ」っていうセリフがあったけど、まさにその通りだよねぇ。
それに、「ダンジョンでは戦わなくていい」と言われているけど、ある程度自分で自分の身を守れれば、私のお守りに割かなければならないパーティの人たちの注意や戦力が少なくて済むんじゃなかろうかと思うのですよ。
まぁ、最悪何があってもどんな状況でも、モーちゃんに駆け込める程度の身体は作っておきたいと思います、ハイ。
筋肉は、死ぬまで鍛えられる器官ですから! 鍛えれば応えてくれる器官ですから!!
ついでに、小脳で運動の自動化ができる程度には練習するぞー!!
…………。
…………ハイ……いっつも利用者さんに言ってるように、これからは私も頑張って身体を動かします、ハイ……。
「だが、リンも身を守る重要性を知っているようで、少し安心した。話を聞く限りでは、リンのスキルは有能だが、どんなに強いスキルだったとしてもスキルは万能の力じゃないからな」
「……うん。それは、何となくわかります……」
「だからこそ、スキルは自分で納得がいくまで使い倒して、スキルでできること、できないこと、カバーできること、できないことを知っておくといい。ぶっつけ本番でなんとかなる確率はかなり低いぞ」
うむ。耳が……耳が痛い!!!
……でも、少し冷静になった頭で考えてみると、全くもってその通りだと思う。
かなり有能な生存戦略さんだけど、万能なスキルじゃないことは何となく気が付いていた。
生存戦略さんは生き延びる手伝いをしてくれる……というだけで、【生存戦略があれば必ず生き残れる】という代物ではないのだ。
例えば、生存戦略さんが『戦わないと死ぬよ!』と教えてくれたとして、生まれてこのかた『戦闘』などしたことがない私が徒手空拳で相手を打ち負かせるものなのだろうか……?
どんなに頑張っても、丁々発止と命のやり取りをし慣れている相手の方が有利なのではないだろうか……。
例えば、生存戦略さんが『コイツは危ない奴だから逃げろ!』と教えてくれたところで、今までろくにスポーツもやってこなかった私が逃げ切ることができるだろうか……?
体力的な問題なら、最悪モーちゃんで振り切ることもできるだろう。でも、もしそれが権力闘争や巨大な陰謀などの切り抜けるためには知恵と知識が必要なものだったとしたら……?
これも恐らく逃げ切ることは難しい。こちらの世界を取り巻く状況も常識も何もかもがわからない私が逃げ切れるとは到底思えない。良いように外堀を埋められて逃げ道をふさがれるだけだ。
…………そう。たとえどんなに生存戦略さんが有能でも、それを使いこなすべき私がへなちょこだったらどうしようもないのだ。
なぜなら、生存戦略さんが与えてくれる情報や知識を統合・判断し、最終的な意思を決定するのはあくまでも『私』なのだから……!
それにモーちゃん……野営車両だって、どこでも使えるわけじゃない。野外であることが最低条件だし、展開するにはある程度の広さが必要だし、運転するにしたってそれなりの広さの道がないといけないし……。
……結局のところ、スキルだけじゃなく私自身を鍛えていく必要はあるんだなー、ってことかな。
方向は違うけど、自分の技術を磨く……っていう点では、向こうの世界もこちらの世界も変わんないんだなぁ……。
「それにしても……リンを連れて行ったら、まずアリアが離さないだろうな……」
「アリアさん……というと、さっき伺った糸使いの女の人ですか?」
「ああ。俺もたいがいに食う方だが、アリアもよく食うからな。そもそも同性仲間を欲しがってたんだ」
ヴィルさんが言うアリアさんとは、ヴィルさんのパーティメンバーのうちのお一人だ。
美人さんでボンキュボーンのナイスバディで糸を巧みに操って戦う糸使いさんで……と属性がてんこ盛りだというのに、さらにそこに『蜘蛛人』で『人妻』属性まで加わっているというとんでもないお姉さん……というのが今現在の私のイメージだ。
蜘蛛人って言っても、外見は完全に人間で、虫っぽい要素はほぼないらしい。
ちなみに、旦那さんもパーティメンバーで、魔導錬金術士をしているエドさんとおっしゃるようですよ。
お嫁さんのアリアさんにメロメロ(死語)で、仲良くイチャイチャしようとアリアさんにちょっかい出しまくってるとのこと。
りあじゅうばくれつしさんするべし。じひはない。
「……いや……アリアだけじゃないな……エドも、セノンもそれなりに食うか……」
「あー……食事当番頑張りますね。大丈夫です。いっぱい作るのは慣れてます」
セノンさんは、エルフの男性神官さん。
エルフで神官……と聞くと、儚い外見で自然を愛し野菜や果物しか食べなさそうなイメージだけど、ヴィルさんの話を聞く限り、焙った骨付き肉を両手に持ってかじり付くことも厭わない程度には外見詐欺な方だそうです。
……却って見てみたいわ……両手に炙り肉を持って豪快に喰らうエルフとか!!
……それにしても、ヴィルさんご一行はどれだけ食べるんだろうか……。
でも、きっとなんとかなるさ! 食材が足りなくなったら好きなだけ狩ってやる、とのことですよ。最大8人まで増えた実家でのおさんどん経験が火を噴くぜ!!!
…………心配なのは、エンゲル係数かなぁ……。
「ちなみに、基本の食費は何処から捻出されるんですか?」
「パーティで受けた依頼の達成金やドロップ品を売った金の中から、一定割合を食費や薬なんかを買う費用に充てている……残りを頭割りにしたものが、個人の報酬だな」
「あー、なるほど……実入りによって食費とか医薬品費とかの共同用品管理費的なものの額が流動する感じですね」
「それで、リンの個人報酬なんだが……最初のうちは5等分して分けたうちの6割でも大丈夫か?」
「……わかりました、大丈夫です。報酬が貰えることを確約してもらっただけでも御の字です」
『5等分して分けたうちの6割』ということは……。
依頼を達成した後の基本報酬のうち、共同用品管理費を差し引いた分の収入――これを仮に報酬金元本と呼ぶとして――を、私を含めた5人で頭割りして、私は私の取り分からヴィルさんとメンバーさん達とに1割ずつお返しする……という形かな?
申し訳なさそうな声でヴィルさんが告げてくる内容を、自分なりに考えた上で返事をしたので少し間があいてしまったが、それでもヴィルさんが少し安心したように息を吐く感触が手に伝わってきた。
……お金に関しては、慎重を期した方が良いと思いますよ。
報酬金元本が上がらなければ、報酬を受け取る頭数が増えれば増えるだけ個人の報酬額は減っちゃうんですし……。
私が仲間に加わったことで基本報酬を……ひいては報酬金元本をどれだけコンスタントに上げ続けられるかわからない以上、取り分を決めるのは難しいと思いますしおすし……。
それに、以前からパーティ内で専属の荷物運びが欲しい、という話はあったそうですが、だからと言ってヴィルさんの独断で雇われた――という認識で良いのかな?――私を、お仲間さんの方が快く受け入れてくれるのかどうか……っていう面もあると思いますしねぇ……。
研修期間みたいなものだと思えば満額貰えないも理解できますし、命がかかってる『戦闘』の部分をみなさんに丸投げする上に守ってもらう立場なんですから、ある意味バランスが取れてると思いますよ。
ちなみに、ヴィルさんが提案してくれた方法だと、仮に報酬金元本が50,000円だったとして、5人で割った一人頭の報酬は10,000円……私はそこからさらに1割分の1,000円を4人にお渡しするので、10,000円-4,000円で手元に残るのは6,000円ということになる。
計算がちょっとめんどくさいかもしれないけど、報酬金元本の1割――上記の条件に当てはめると5000円――を貰うより金額が多いんだよねぇ。
報酬金元本をn(ただしnは1以上の整数とする)とした時に【n/5-(n/5×0.4)>0.1n】って感じ。
n/5-(n/5×0.4)の計算式で計上された方をもらっちゃっていいのかしら?
……でも、私も生きていかなきゃいけないしな……生きていく以上、お金はあるにこしたことはないし……。
…………そりゃ、本音を言えば、今すぐにでも日本に帰りたいですよ?
帰りたいですけど、帰る方法もわからない……というか、帰る方法があるのかどうかすらわからない以上、こっちの世界である程度過ごさなきゃいけない……って腹を括る必要はあると思うんだ。
……そういいながら、本当に腹を括れているのかはわかんないんだけどね……。
「あのな、リン。もしよければ、少しこの辺を探索してみないか? 実際に動きながらスキルを使った方が理解しやすいだろう?」
「え? いいんですか?」
「ああ。俺としても、リンにどの程度体力があるのか……実際にどのくらい動けるのかを知っておきたい。その方が、今後ダンジョンに潜る時の計画を立てやすいしな」
「ああ。行軍計画的な感じですか。それは確かに……体力とか運動能力は大事な判断材料ですよね」
わかるー。機能訓練計画を作る時に、現状を鑑みた上で無理なく達成できる小さな目標を階段状に作っていく……って大事なことだと思ったもんね。
現状を無視して計画作ったって、頓挫するだけだもん。……現実を……今の自分の実力を知るって大事ですよね……。
そして、そんな大事な自分の現状を知る機会と、スキルを知るための機会が今目の前にあるというのであれば……。
「いろいろご迷惑をおかけすることがあると思いますが、よろしくお願いします、ヴィルさん!」
「それじゃあ、行こうか。少し歩いてあの森で何か採取できるものがあるか探してみよう」
外に出していた調理道具やヴィルさんが使ったキャンプ用品をモーちゃんに収納し、いつも行動時に使っているボディバッグにすぐ取り出せるよう水筒や飴、タオルを詰め込んで……。
いざ、ファンタジーの世界へ突入ですよ!!
「あ、そうだ! ちょっと待ってくれ」
「何かありました?」
「何年か前に来たときは大して強い魔物は出なかったと記憶しているが、念のため羽織っていてくれ。ブラックディアーのレザーマントだ。多少暑いが防御の足しになる」
「ふへっっ!?!?」
引き留められたと思ったら、ヴィルさんが羽織っていたマントをくるりと巻き付けられました……。
なにもーこういうことサラっとできるってどないなっとんのん!? めっちゃじぇんとるやんかー!!!
トゥンク! ってなるやろー!!!!
…………と、私の脳内で荒ぶる人格が謎の関西弁を使ってしまう程度には混乱しておりますよ。
っていうか、レザーマントっていう割に、柔らかでしなやかで……コレかなり良いお品なのでは……?
しかも、ヴィルさんが羽織ってると膝丈くらいなのに、私が巻いてると足首くらいまであるんですがそれは……。
くっっ……!! チビじゃない!! チビじゃないぞ!! ちゃんと150㎝以上あるんだ!!! 静まれ……私の劣等感!!!
「それじゃあ行くか、リン。リンのペースで良いからな」
「………………ア、ハイ……」
『もうやめて! とっくにわたしのらいふはぜろよ!!』……とさけびたいくらいに、おにいさんのえがおがまぶしかったです。
…………鬼ぃさん、面倒見良いし、イケメンだし、めっちゃいい人だけど、近くにいると心臓がいくつあっても足りないぜ!!!
イケメンこわい!!!!
閲覧ありがとうございます。
誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。
好意のさじ加減が難しいなぁと思います。やりすぎても引かれるだろうし、控えめすぎても気付かないだろうし……。
……迷う……。
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