第997話。移民輸送作戦2日目。
本日2話目の投稿です。
【ワールド・コア・ルーム】ゲームマスター本部の入口。
私とトリニティとカリュプソ……つまり今夜【七色星・マップ】で仕事をするゲームマスター本部人員と、【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】のメンバーが集合しました。
「トリニティ。カルネディアは?」
「ベッドに入りました。後はウィローに任せておけば大丈夫でしょう」
トリニティが答えます。
あ、そう。
「ソフィア達も準備は良いですね?」
「うむ。食料は十分にストックしたのじゃ」
ソフィアが頷きました。
ならば良し。
「マイ・マスター。アープをゲームマスター本部職員としたのですか?」
トリニティが訊ねます。
「ええ。事務方ですが、一応そういう事になりました」
「……」
トリニティは複雑な表情をしました。
おそらくトリニティは、アープをゲームマスター本部職員として働かせる事に反対なのでしょうね。
しかしアープの採用はミネルヴァの提案であり、既に私も裁可を与えてしまったので、トリニティとしては反対の意思を示す事が出来ないのだと思います。
また、ついさっきウィローが私の職務上の指示に反意を示した事を、トリニティ自身が叱責したばかりでもありました。
「何か意見があれば、遠慮なく言って構いませんよ」
私はトリニティに言います。
「では、私はアープをゲームマスター本部職員として採用する事には些か疑問があります。アープがマイ・マスターから隷属された理由と、今回のアープがゲームマスター本部職員として採用された人事を知れば、外部の者達に誤ったメッセージを与える事になりはしないか?という懸念があるからです。つまりアープのようにゲームマスターたるマイ・マスターに公然と逆らっても後に許され、ましてやゲームマスター本部の職員という名誉ある職責に採用されるとわかれば、今後アープと同様にマイ・マスターに逆らう者が増えるのではないか、と」
トリニティは言いました。
「トリニティの考えは完全に的を射た妥当な推測です。しかしアープがゲームマスター本部職員になっている事を外部に伝えなければ何も問題ありません。アープの事は、そうですね……身寄りがない孤児を拾った事にでもしておけば良いでしょう。どう思いますか?」
「確かにアープの素性を知る者がアープの現在の処遇を知らなければ問題は起きようがありません」
「フレイヤ女王には一応口外無用の【契約】をした上で、アープを働かせている事は伝えます。フレイヤ女王を時々【ワールド・コア・ルーム】に連れて来てアープに会わせてあげるのも良いかもしれません。既にアープが許され、本人の意思でウチで働いていると知れば、フレイヤ女王のゲームマスター本部に対する恭順は深まるでしょうからね。この方法ならトリニティの心配は払拭されるのではありませんか?」
「はい。さすがは偉大なるマイ・マスターのお考えです。アープについては全てマイ・マスターのご決定のまま了解致しました」
トリニティは頷きます。
「では、ついでにトリニティは【マギーア】のフレイヤ女王にアープの処遇を伝えて、同時に、その内容を口外しない事をフレイヤ女王に【契約】させて下さい」
「仰せのままに致します」
「では【パンゲア】に向かいましょう」
一同は頷きました。
私達は【転移】します。
・・・
【パンゲア】西方国家【スキエンティア】王都【マキナリア】王城。
【七色星・マップ】側の【使い捨て門】部屋。
私達は【シエーロ】の【知の回廊】最上階【ハブ・ゲート・ステーション】を経由して、【使い捨て門】を通り、【スキエンティア】王都【マキナリア】に到着しました。
ウッコ王達【スキエンティア】の人達が出迎えてくれます。
略式儀礼の挨拶を交わし、早速トリニティがウッコ王に物資が入った【宝物庫】を渡し、ウッコ王は昨日渡して空になった【宝物庫】をトリニティに返却しました。
「ウッコ王。何か問題はありませんか?」
私は訊ねます。
ミネルヴァが【パンゲア】各国の首脳達と緊密にやり取りをしているので問題はないか、あるいはミネルヴァが即断で対応して問題は既に解決済でしたが、私は一応確認をしました。
「細かな問題は散見されますが、既にミネルヴァ様にご報告申し上げ、ご指示やご助言を頂き、適宜対応しておりますので問題はありません。あ、いや、1つ問題があると言えば、ない事はない……と申しますか……。しかし、このような事はノヒト様やミネルヴァ様のお耳に入れるまでもない事でございますので……」
ウッコ王は言い難そうにします。
はは〜ん。
ウッコ王の魂胆は読めました。
おそらくウッコ王は、私やミネルヴァに何か相談したい事や頼みたい事があるのでしょう。
そして、その相談や依頼は、ウッコ王の主導で提起された場合、私やミネルヴァから不興を買いかねない類の所謂……悪い話……なのでしょうね。
なのでウッコ王は自らは詳細を明らかにせず、煮え切らない態度で言葉を濁して見せた、と。
普通なら、こういう態度をウッコ王が取れば、私は……その、ない事はない問題とは何だ?……と確かめます。
しかしウッコ王は、あくまでも……いえいえ、ノヒト様のお耳に入れるような事ではありません……と言う訳ですよ。
そうなると気になるので、私は……良いから言ってみろ……と許可を与えざるを得なくなります。
ウッコ王は、これ幸いと私に相談や依頼を話す訳ですね。
私はウッコ王から何らかの悪い話(おそらく私が対応する必要もない些末で下らない話)を聞かされ、しかしウッコ王に……話せ……と言った以上、彼を叱る事も出来ずに、きっと気が進まないのに何らかの対応を迫られるのです。
その手には乗りません。
ふふっ、【共有アクセス権】によってミネルヴァの演算能力を借りられる今の私は思考能力が段違いに上がっているのですよ。
「ならば結構。聞きません」
「えっ?」
ウッコ王は……アテが外れた……とばかりにキョトンとした顔をしました。
「聞きませんよ。仮に【スキエンティア】やウッコ王の裁量権の範囲内にある事で何か問題が起きた場合、それが私やミネルヴァに報告する必要がない話であるなら、私やミネルヴァが対応する必要はない些末な話である筈です。仮に何か重大な懸念を内包していて、それを私やミネルヴァに意図的に報告しなかったという事になれば、その結果責任を負うのはウッコ王です。程度が悪い場合は、ウッコ王は私からの罰を受けかねません。そんな愚かな事をウッコ王がする筈はないので、本当に重大な事ならウッコ王から既に私かミネルヴァに報告があった筈。なので私は、そのような些末な話は聞く必要はありませんね」
「あ、はい。そうでございますね……」
ウッコ王は、あからさまにガッカリします。
「何じゃ?途中まで言いかけて、気になるのじゃ。ウッコよ、何があったのじゃ?」
ソフィアがウッコ王に訊ねました。
あ、ソフィアのバカ……。
「実は、ソフィア様の御高配により【ドラゴニーア】に遊学致しました孫のフレデリコと一緒に【ドラゴニーア】に渡った学友達の中に、既に婚約している者達がおりました。遊学は長期に及ぶ事が推定されるので、つまり残された婚約者達が不憫でなりません。この婚約者達も、【ドラゴニーア】に送りたいのですが……。しかしながら、ソフィア様から……無償遊学生はフレデリコと15人の学友まで……と言われております。お恥ずかしながら、現在の【スキエンティア】は復興の途にあり、無償遊学生達の婚約者達を【スキエンティア】の国費で送る余裕がございません。どうしたモノかと困っておりまして……」
ウッコ王は芝居掛かった口調で言います。
ほ〜らね。
やっぱりロクでもない話でしたよ。
つまり、ウッコ王は……婚約者だという者達の遊学費も、フレデリコ王子と15人の学友達同様に無償にするか、さもなければ幾らかまけて欲しい……と言っている訳です。
これがウッコ王の側から提起された依頼なら……ふざけんな……と一喝して終わりですが、ウッコ王が遠慮した(事になっている)話題を、こちらから訊ねた以上、ソフィアは何らかの便宜を図らなければいけないような状況となりました。
これを拒否する事は可能ですが、その場合、何となく申し訳ないような、ウッコ王に借りを作ったような気分になります。
ならば婚約者の遊学費用を無償にしたり、まけるのは、他の国からも同じ条件で遊学を受け入れている以上難しいとしても……他の何かしらで穴埋めをしてやろう……とソフィアが考える可能性はあり得る事。
それは即ちソフィアがウッコ王に外交上1つ借りを作った形になります。
もちろん、それがウッコ王の狙い。
なかなか狡猾な手口を使って来ます。
婚約者達というのは口実?
いいえ、フレデリコ王子の同行者を選ぶ時に、実際に婚約者が決まっている者を選抜したか、あるいは遊学の話が決まった後に慌てて誰かと婚約させたのかもしれません。
つまり婚約者の数はフレデリコ王子の婚約者も含めて16人以上いると予想されます。
貴族は、正室の他に側室や妾を何人も娶る事があり得ますので、もしかしたら婚約者が100人などという可能性も……。
そこまで、あからさまだと、さすがに私やソフィアが怒るかもしれませんが、数十人とか、そういう私達が怒らないギリギリを狙って人数を言って来る事はあり得ます。
ウッコ王……老獪ですね。
そして、ソフィアが口籠るウッコ王に強いて……話せ……と言った以上……卑怯だ……などと、ウッコ王を責める事も出来ません。
「ふむ。そういう事か。じゃが、それはウッコの手落ちじゃな。我は、予めキチンと条件を説明したのじゃ。後からゴチャゴチャ言われても、そんな事を聞いてやる義務はない。もしも我の対応に文句があると言うなら、ウッコと【スキエンティア】は、我と【ドラゴニーア】に対して、一戦に及べば良いのじゃ。我は受けて立つが、どうじゃ?」
ソフィアは、ウッコ王の思惑をキッパリと撥ね付けました。
おっふ……ソフィアもやりますね。
まあ、ソフィアは日本サーバー(【地上界】)最強の超大国【ドラゴニーア】に君臨する守護竜です。
この程度の外交の攻防は、どうという事もないのでしょうね。
私はソフィアを見直しました。
「ははっ。ソフィア様の仰る通りでございます。婚約者達の【ドラゴニーア】渡航費は、我ら【スキエンティア】の国費でなんとか捻出致します。つまらない事を、お耳に入れ、誠に申し訳ありません」
ウッコ王は跪いて謝罪します。
なるほど。
ウッコ王もダメ元でお願いしようとしてはみたものの、ソフィアが揺るがないと見るや、直ぐに謝罪をして、これ以上問題が大きくなる事を防いだ、と。
ウッコ王も交渉事は百戦錬磨だという訳ですね。
「うむ。自費遊学という事ならば問題ないのじゃ。【スキエンティア】には【使い捨て門】の開口部もある事じゃし自力で来るか、あるいは誰かを迎えに寄越す事も出来る故、遊学生達の婚約者達の準備が整ったら連絡を寄越せ」
ソフィアは言いました。
「はは〜っ。ご高配感謝致します」
ウッコ王は深々と頭を下げて言います。
こうして、ウッコ王からの……おねだり……をソフィアが軽くいなして問題とはならずに済みました。
今回の件は、私が少し構え過ぎてしまったようです。
今後、同じような事があったら、ソフィアの対応を参考にして、私も何事もなくやり過ごす事にしました。
一言だけ付言するなら、やっぱり政治はクッソ面倒です。
「トリニティは【マギーア】と【ノトリア帝国】を回り物資を渡して来て下さい。ミネルヴァが連絡を取っているので問題はない筈ですが、何か現地に問題などがあれば事情を聞き、ミネルヴァと相談してトリニティの能力で対応が可能なら対処しなさい。同様にカリュプソは【ヌガ法国】に向かい物資を届け、何か問題があればミネルヴァと相談してカリュプソの能力で対応が可能なら対処しなさい」
私は指示しました。
「仰せのままに致します」
「畏まりました」
「ソフィア達は、どうしますか?」
「う〜む。とりあえずノヒトに付いて行こうかと考えておるのじゃが?」
ソフィアは答えます。
「私は【パノニア王国】の移民団をピストン輸送でひたすら【シエーロ】に運ぶだけです。その間ソフィア達は【パノニア王国】王都【パノニア】でブラブラする事になりますが?【パノニア】は昨日も見て回ったのではありませんか?」
「そうじゃな……。では今日は【マキナリア】を見て回るかのう〜」
「ソフィア様。是非そうなさって下さいませ。我が王都【マキナリア】を、ご案内致しますぞ」
ウッコ王が言いました。
「うむ。ならば、ウッコよ、案内致せ」
ソフィアは鷹揚に言います。
「畏まりました」
ウッコ王は笑顔で頷きました。
ウッコ王は先程の……おねだり……の失敗のフォローも考慮してソフィアを接待するつもりなのでしょうね。
「ソフィア。では後程合流しましょう。私の輸送が終わったら報せますので、ここに集合という事で……」
私はソフィアに言います。
「わかったのじゃ」
ソフィアは頷きました。
オラクル、ヴィクトーリア……ソフィアとウルスラとティアの事を頼みます。
私は【念話】で伝えます。
お任せ下さい。
畏まりました。
オラクルとヴィクトーリアが【念話】で了解しました。
ソフィアとウルスラは目を離すと想像の斜め上を行く突拍子もない事件を仕出かす事がありますので、保護者代わりのオラクルとヴィクトーリアに面倒を看てもらう必要があります。
ティア・フェルメールには、そういう心配はありませんが、彼女の場合は戦闘力と生存性という意味で【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】の中では多少の不安もありますので、オラクルとヴィクトーリアに……いざという時には守って欲しい……という意味で頼みました。
ソフィアには万が一の事態に備えて【神蜜】を1本持たせてありますので、ティア・フェルメールが死亡するようなクリティカルな事態が起きても、ティア・フェルメールの遺体に脳と脊椎の大半が残っていて、また彼女の寿命が尽きていない状況なら死亡判定が出てから1時間以内に【神蜜】をティア・フェルメールの体内に投与すれば生き返りますので、オラクルとヴィクトーリアなら上手く対処してくれるでしょう。
私達は各自行動を開始しました。
トリニティは【マギーア】王都【マギーア】に【転移】して、カリュプソは【ヌガ法国】法都【ヌガ】に【転移】して、ソフィア達はウッコ王達に案内されて【マキナリア】の街に繰り出し、私は【パノニア王国】王都【パノニア】に向かって【転移】します。
お読み頂き、ありがとうございます。
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