第991話。寿司会終了。
本日3話目の投稿です。
【乙姫寿司】二階座敷。
「そう言やさ。この前ラファエルって子に会ったんだよ」
グレモリー・グリモワールは言いました。
ラファエルとは【シエーロ】の【天使】コミュニティの指導者達である【熾天使】の1人です。
「【シエーロ】で会ったのですか?」
私は訊ねました。
ミネルヴァの報告によると、最近グレモリー・グリモワールは、ちょくちょく【シエーロ】にある自宅の【マジック・カースル】や別荘の【ラピュータ宮殿】に来ているようです。
【マジック・カースル】はグレモリー・グリモワールが経営する【ナイアーラトテップ・テクノロジー】が生産を始めた安価な一般家庭用【乗り物】の基幹部品を造っていますし、【ラピュータ宮殿】はグレモリー・グリモワールが将来有望な商業農作物として期待をする【黄金のリンゴ】の試験果樹園がありますからね。
両方共にグレモリー・グリモワールが手掛ける主要ビジネスの根幹を支える重要拠点でした。
なのでグレモリー・グリモワールは【シエーロ】にいる【天使】達と会って話す事もあるようです。
余談ですがグレモリー・グリモワールは28日に私も一緒に向かう事になっている彼女の2つ目の別荘である【ドラキュラ城】で、ゲーム時代にグレモリー・グリモワール(私)が行っていた【天蚕】の飼育と【天蚕糸】の紡績や織布の事業も再開する予定なのだとか。
【黄金のリンゴ】も【天蚕糸】も現在【シエーロ】以外では全く流通していませんし、潜在需要が極めて高い商材ですので、グレモリー・グリモワールのビジネスは将来的に莫大な富を生む事になるでしょう。
「いや、ラファエルが【サンタ・グレモリア】に来たんだよ。【エタニティー・エトワール国際保健衛生総合大学】の教員や大学付属病院の医師としてノヒトとミネルヴァさんが大勢の【天使】を送ってくれたっしょ?ラファエルは、あの【天使】達の様子を見に来たらしい。ノヒト肝入りの【天使】医療団事業の最初の派遣チームだから絶対に失敗は許されない……ってさ。そんで色々とラファエルと話したよ。あの子、ちょっと猫を被って無邪気なキャラを作っているけれど、基本的には悪い子じゃないね」
グレモリー・グリモワールは言いました。
「そうですか?何を話したのですか?」
「う〜ん。まあ、色々と雑談みたいな感じだよ。別にこれと言う事もないかな……。あ、でも【天使】達は、時々日本サーバー(【地上界】)に来ていたらしいね?」
「はい、そのようです。この900年に渡って、ルシフェル自身やルシフェルの命令を受けた【天使】達が偵察や情報収集、あるいは資源採取や人種の拉致などを目的として秘密裏に日本サーバー(【地上界】)に来ていたという事がミネルヴァの調査でわかっています。ルシフェルは【ハイ・ヒューマン】形態に人化を取れるので、【天使】だとバレずに、日本サーバー(【地上界】)で、相当自由に行動していたのですよ。ルシフェルは堂々と日本サーバー(【地上界】)側の全【遺跡】を攻略していましたよ。大胆不敵というか、呆れましたね」
私の言葉を聞いて守護竜達は、苦々しい表情をします。
当然ですよ。
日本サーバー(【地上界】)の5大大陸は守護竜達の所有地。
そこに暮らす人種は守護竜の使徒。
その人種を拉致されたとあっては、守護竜達が黙っている筈がありません。
もちろん【神竜】を始めとする守護竜ズはルシフェル達の暴挙に激怒しました。
自分の使徒たる人種を拉致されたら、それは即ち戦争案件です。
ルシフェルは守護竜達に八裂きにされても、【シエーロ】に攻め込まれて【天使】コミュニティごと滅ぼされても全く文句は言えません。
実際私がいなければ、守護竜達が共同戦線を張り一致団結して【シエーロ】に攻め込み、ルシフェルや配下の【天使】達を皆殺しにした可能性が高いでしょう。
そこを……私が責任を持ってルシフェル以下の【天使】達の処罰を行う……と約束した事と……【シエーロ】は【創造主】の直轄地だから……という理由で、とりあえず守護竜達は怒りを収めてくれました。
また、ルシフェルと、その製造者にして上位者として【天帝】を僭称した【知の回廊の人工知能】は、当時生きていたオリジナルのNPC【天使】達3億人を虐殺して絶滅させてしまったので、現在の【天使】は全個体が【知の回廊の人工知能】とルシフェルによって製造されたクローンです。
そのクローン【天使】の中でも、ルシフェルやミカエルやガブリエルやラファエル……などなど、一部の強力なクローン【天使】を製造する素材には【擬似神格細胞】というモノが使われていますが、これは日本サーバー(【地上界】)の4つの島にいる【神格】の守護獣の細胞を採取して培養されたモノです。
この【神格】の守護獣の細胞を材料にして造られたクローン【天使】を私は【改造知的生命体】と名付けました。
その【神格】の守護獣の細胞を採取する為にも、ルシフェル配下のクローン【天使】達は日本サーバー(【地上界】)に来ていたのです。
ルシフェルは【神格】の守護獣を討伐したのか?
いいえ。
この世界の歴史上、【神格】の守護獣を倒したのはグレモリー・グリモワールただ1人です。
ルシフェルのスペックならば、もしかしたら【神格】の守護獣を倒せたかもしれません。
しかしルシフェルは、自ら【神格】の守護獣とは戦わなかったのです。
何故なら死ぬかもしれないから。
ルシフェルは強大な戦闘力を持つ【神格】の守護獣と戦って、万が一にも自分が死ぬリスクを取らなかったのです。
そして卑怯にもルシフェルは配下のクローン【天使】達を捨て駒にして、【神格】の守護獣の細胞を手に入れました。
【天使】とは上位者の命令には絶対服従するという鉄の階層社会を持ちます。
上位者に死ねと命じられたら死ぬのが、【天使】という種族の性質でした。
【神格】の守護獣の細胞を入手する方法は簡単です。
まずルシフェルは配下のクローン【天使】達の軍団に命じて、【神格】の守護獣の守る【スポーン・エリア】に侵入させました。
当然クローン【天使】は【神格】の守護獣に勝てないので全滅してしまいます。
しかしクローン【天使】達の1人が殺される仲間を囮りにしながら、【神格】の守護獣に接近・肉薄して細胞を採取。
速やかに【擬似転移門】を設置して、【神格】の守護獣の細胞を採取した容器を持ち【転移】を起動。
この段階では、まだ【バトル・フィールド】という隔絶空間が形成されているので、【バトル・フィールド】内から外部に【転移】する事は出来ません。
【擬似転移門】の起動は保留状態になります。
なので、【神格】の守護獣の細胞を採取した容器を【転移】のギミックが発動する範囲内に残したまま、その後【神格】の守護獣の細胞を採取した【天使】も含めて【スポーン・エリア】に侵入したルシフェルの配下達は、全員【神格】の守護獣に殺され全滅します。
味方か敵どちらか一方が全滅すると、【バトル・フィールド】は解除される仕様でした。
なのでルシフェルの配下が全滅すると【バトル・フィールド】が消え、それまで保留状態だった【擬似転移門】のギミックが発動し、【神格】の守護獣の細胞を採取した容器はルシフェルの手元に届きます。
つまり、この作戦は【スポーン・エリア】に侵入した配下全員の死を前提とした【神格】の守護獣の細胞採取なのですよ。
こんな背理的で陰惨な作戦を平然と配下に命じる事が出来るルシフェルを、私は狂っているとしか思えません。
前述のように【神格】の守護獣を討伐した実績があるのはグレモリー・グリモワール1人ですが、ルシフェルが行ったのと同じ方法で、【神格】の守護獣の細胞を入手したユーザーは何人かいました。
しかし、ユーザーは不死身です。
死んでも復活可能なので、全滅と引き換えにする作戦が行えました。
しかしNPCは違います。
ルシフェルが配下達に命じたミッションは確実に死ぬ事がわかっている……いいえ、そもそも配下達が全滅しなければ【バトル・フィールド】が解除されず、【神格】の守護獣の細胞が手に入らないのですから、首尾良く【神格】の守護獣の細胞を入手して【転移】の御膳立てが整えば、むしろルシフェルは一刻も早く配下が皆殺しになる事を願ったでしょうね。
グズグズしていれば、せっかくセッティングした【擬似転移門】が【神格】の守護獣によって破壊されてしまうかもしれないのですから。
もしかしたら、あのルシフェルなら……【神格】の守護獣の細胞採取と【擬似転移門】のセッティングに成功したら速やかに自殺しろ……と配下達に命令している可能性すらあります。
鬼畜の所業ですよ。
本当にルシフェルという外道の事を、私は許せません。
ゲームマスター業務の遂行に際してリソースが足りているか、あるいはルシフェルに利用価値がなければ、私自身がすぐにでもルシフェルを滅殺していたでしょう。
「マジか?拉致って話は聞いてないや」
グレモリー・グリモワールは言いました。
「ルシフェルが日本サーバー(【地上界】)から非道にも様々な種族を拉致して収集品として【シエーロ】に連れ帰り、強制的に繁殖させたりクローンを作ったりして数を増やしていたのです。中には奴隷として売られていた人種を買った場合もあるそうですが、奴隷制は【世界の理】違反で、奴隷は売っても買っても違法です。どちらにしろ許されざる【世界の理】の違反行為には変わりありません。現在【シエーロ】や北米サーバー(【魔界】)にいる【天使】以外の人種達には、そのようにしてルシフェルに日本サーバー(【地上界】)から不当に連れ去られた者達の子孫やクローンが結構な数でいますし、私が【改造知的生命体】と名付けた擬似【天使】をクローニングで製造する際の遺伝子情報にも、その拉致被害者達のゲノムが使われている例があります」
「そういう人達は日本サーバー(【地上界】)に戻してあげれば?」
「拉致された本人ではなく、既に【シエーロ】や北米サーバー(【魔界】)に帰属知識を持っている者達ですから、今更先祖の故郷に戻されても困ると思いますよ」
「あ〜、ま、そりゃそ〜か」
「不本意ですが致し方ありません」
・・・
さてと、ボチボチ夜も更けて来ましたね。
「では、そろそろお開きにしましょうか……」
私は、みんなに言いました。
カルネディアやレイニールやルカシーちゃんは、もう寝る時間です。
「この後ノヒトは今夜も【パンゲア】で仕事なんでしょう?」
グレモリー・グリモワールは訊ねました。
「はい。しばらくは、そういうルーティンですね。今日はグレモリーや【レジョーネ】はどうしますか?私達と一緒に【パンゲア】や【七色星】に向かいますか?」
「当然我は行くのじゃ」
ソフィアが言いました。
「ソフィア。眠くありませんか?」
「大丈夫なのじゃ。実は我は新技を開発したのじゃ。右脳と左脳を片方ずつ眠らせるという技じゃ。この技によって、順番に脳を眠らせる事で我は睡眠不足にはならなくなったのじゃ。もちろん我は元来眠らずとも体調に問題は起きぬが、眠るのが好きじゃから眠っておる。じゃが、夜に活動する必要がある場合は、脳を半分ずつ眠らせておけば良いのじゃ」
ソフィアは言います。
あ、そう。
また、ソフィアはおかしな技を開発したのですね。
おそらくソフィアの脳に共生する【知性体】のフロネシスが何かをしているのでしょう。
「ソフィアお姉様。脳を半分ずつ眠らせるとは凄いですわ」
リントが言いました。
「もちろんじゃ。至高の叡智を持つ天空の支配者にして、深淵なる思慮を持つ大海の支配者たる我には不可能はないのじゃ」
ソフィアは……エッヘン……と胸を張ります。
「その脳を半分ずつ使う技って、ウチのピオさんも出来るんだよ。便利そうだけれど、頭がこんがらがらないの?」
グレモリー・グリモワールが訊ねました。
「大丈夫じゃ」
ソフィアは頷きます。
「ノヒト。妾は今日は同行を遠慮するわ。もう【パンゲア】と【七色星】には転移座標を設置してあるし、用事があれば、いつでも行けるから。もちろん何か緊急の用件があれば呼び出して。すぐに駆け付けるわ」
リントが言いました。
他の守護竜ズも、今夜は【パンゲア】と【七色星】行きを遠慮するそうです。
まあ、リントが夜中にマインラート・クリッペンドルフの元に通って【ウトピーア】王になるようにと要請・説得していたように、他の守護竜達も各々が管轄する領域での職務もあるでしょうからね。
「今夜は私もパスだな。旅行中に溜まった【サンタ・グレモリア】やビジネス関係の仕事もあるからね」
グレモリー・グリモワールが言いました。
ならば今夜は私達ゲームマスター本部組と、【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】だけで【パンゲア】と【七色星】に向かう事になる訳ですね。
こうして美味しい寿司を鱈腹食べた食事会は終了しました。
また来月も、この身内メンバーで【乙姫寿司】の寿司会を開催する予定です。
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