第986話。ジョヴァンニ・カンパネルラの正体?
本日2話目の投稿です。
【乙姫寿司】の二階座敷。
「相済みません。空いたお皿をお下げ致しますね。追加はございませんか?お飲み物はいかがですか?」
【乙姫寿司】の従業員の女性が言いました。
この女性は【乙姫寿司】の仲居頭という役職のようです。
【乙姫寿司】は親方のベアトリーチェさんが女性なので、女将を兼任しているような形でした。
なので、この仲居頭さんが接客担当のトップ。
つまり一般的な女将のような立場です。
「では、日本酒を冷で、それから何かしら摘める物をお願い出来ますか?」
私は注文しました。
「畏まりました」
中居頭さんは言います。
【ファミリアーレ】の中にも飲み物やデザートを注文したり、お寿司を追加する子達がいました。
グロリアが気を利かせて、少し離れた所に座っているカルネディア達にも……何か注文はあるか?……と訊ねます。
さすがは気配りのグロリア。
【ファミリアーレ】のリーダーだけの事はありますね。
すると、一階のカウンター席にいたメンバーが全員二階の座敷に上がって来ました。
本格的な宴会が始まります。
「ノヒト。ここに座っても良い?」
グレモリー・グリモワールが訊ねました。
「どうぞ」
「あのさ。私、ヨハンナって子について少し引っかかる事があるんだよね……」
グレモリー・グリモワールは眉間にシワを寄せて言います。
「ヨハンナとは勇者養成機関【スカアハ訓練所】の訓練生ヨハンナ・ラ・フォンテーヌですね?」
「うん。彼女が医務室で言っていた事を思い出したんだよ。あの時は別に気にも留めなかったんだけれど、良く良く考えたら、何だかモヤモヤするんだよね」
「何がですか?」
「ヨハンナは、【スポーン・オブジェクト】で遭難して死亡した事になっているジョヴァンニって子の恋人らしいんだけれど。彼女が言うには……ジョヴァンニは絶対に死なない。捜索して欲しい……って。私は恋人が死んじゃった事で、取り乱して少し精神がアレになっちゃったんだと思っていたんだけれど……。でも、もしもヨハンナの言っている事が言葉通りの事実だとしたら、どう思う?」
グレモリー・グリモワールは訊ねました。
ヨハンナ・ラ・フォンテーヌの言っている事が事実だとしたら?
つまりジョヴァンニ・カンパネルラは生きているという事です。
確かにジョヴァンニ・カンパネルラは死亡した瞬間を目撃された訳ではありませんし、死体も見つかっていません。
しかし普通【スポーン・オブジェクト】の中で遭難して行方不明になった場合、【スポーン・オブジェクト】の【敵性個体】が束になって掛かって来ても問題にもしない圧倒的な戦闘力があるか、然もなければ安全に【スポーン・オブジェクト】から外部に撤退出来る【転移能力者】でもなければ、ほぼ生存は絶望的です。
ミネルヴァが、ジョヴァンニ・カンパネルラの【ギルド・カード】の登録情報を照会したところ、彼のレベルは20そこそこで、【転移能力者】でもありませんでした。
名前…ジョヴァンニ・カンパネルラ
種族…【ハーフリング】
性別…男性
年齢…30歳
職種…【戦術家】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】。
特性… 【才能……謀略、洞察力】
レベル…22
【グース・バンプス】のメンバーであるヨハンナ・ラ・フォンテーヌがレベル49の【聖格】持ちでしたので、リーダーのジョヴァンニ・カンパネルラがレベル22の【人格者】ではパーティのバランスが悪いような気がしますが、彼は【戦術家】です。
戦闘には加わらず指揮と作戦立案だけをしていたのかもしれません。
もちろん戦力にカウント出来ない被保護要員がパーティ内にいれば、他のメンバーの負担は増えます。
ただしジョヴァンニ・カンパネルラが【戦術家】として極めて優秀で、個体戦闘力の低さを帳消しにする程の能力があれば、他のメンバーが負担を肩替わりしてでもパーティに入れていた可能性はあり得る事。
また低レベルでも指揮官として優秀ならパーティのリーダーを任される事もあるでしょう。
遭難したジョヴァンニ・カンパネルラ達のパーティ【グース・バンプス】で救助された生存者達による報告では、【グース・バンプス】は【スポーン・オブジェクト】の中で迷い魔物に囲まれ追い詰められてしまったのだとか。
ジョヴァンニ・カンパネルラはパーティの仲間達を助ける為に、【誘引】という魔物のヘイトを引き付ける【能力】を発動する使い捨て【スクロール】を使い、無数の魔物を引き連れて走りパーティ・メンバーから離れて、それっきり消息不明になったそうです。
まあ、その状況から起死回生の策を打って生き残る可能性は限りなく低いでしょうね。
そんな策があるならトレインなんかしないで囲まれた時点で、その策を使えば良いのですから。
普通に考えれば、ジョヴァンニ・カンパネルラは自分を犠牲にしてパーティ・メンバーを救って、そして死んだという事なのでしょう。
「どう思うと訊かれても困りますね。私にはジョヴァンニ・カンパネルラの生存ルートが見えません」
「何処かの神殿で復活してるって可能性はないかな?」
!
「何ですって!?」
「死亡判定が出ても神殿で復活するNPCは守護竜だけ。あるいはトリニティさんみたいな固有種の場合なら、特定の場所で復活が可能だよね?でも、ジョヴァンニ・カンパネルラは明らかに守護竜でも固有種でもない。でもさ、もしもジョヴァンニ・カンパネルラってプレイヤーがNPCじゃなければ?」
「ユーザー?いや、そんな、まさか……」
「うん。私らは異世界転移したのはノヒト、ノート、シピオーネ、それから私の4個体だけだと思い込んでいるけれど、ヨハンナが言うみたいにジョヴァンニ・カンパネルラが本当に絶対死なないんだとするなら、つまりジョヴァンニ・カンパネルラって、ユーザーなんじゃね?」
「!」
「私もジョヴァンニ・カンパネルラのステータス情報を見たんだけれど、彼はユーザーの必須ステータスである……三種の神器……を持っているよね?もちろんNPCでも【収納】、【鑑定】、【マッピング】を3つ揃いで持っている場合もあるけれど、可能性としては低くない?」
「いや。ジョヴァンニ・カンパネルラのステータス表示には年齢がありました……30歳と。ユーザーなら年齢のステータス表示は……なし……となる筈です」
「そこが謎なんだけれど。でもジョヴァンニ・カンパネルラが不死身のユーザーだとしたら、一応ヨハンナの……絶対に死なない……って、言葉は辻褄が合うっしょ?」
「あり得ませんよ。ユーザーには年齢がありません。これは仕様ですので」
「私は、ジョヴァンニ・カンパネルラがユーザーだと仮定した瞬間にモヤモヤが消えたんだよね。私の予感て当たるんだよ」
「今回に関しては外れです」
「そうかな〜……」
チーフの言う通り、ジョヴァンニ・カンパネルラがユーザーである可能性は0.00000001%……数理的には、あり得ません。
ミネルヴァが【念話】で伝えて来ました。
「ミネルヴァも……ジョヴァンニ・カンパネルラがユーザーではあり得ない……と言っています」
「今、私も【念話】で聴いた。でも0.00000001%って、つまり0じゃないよね?」
「……そうだ。ユグドラ、ちょっと此方に来て下さい」
私は【完全記憶媒体】である【世界樹】の分離体であるユグドラを呼びます。
私が真剣な表情と声でユグドラを呼んだので、大人チームが揃って私達が座る方にやって来ようとしました。
なので、それを制して私達ゲームマスター本部チームとグレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオールが大人チームの方に移動する事にします。
・・・
「……つまり、わからない、と?」
「ああ。そのジョヴァンニ・カンパネルラは、9年前に突如【ナープレ】に出現した。それ以前の足取りは全く辿れない。周知の通り、私は植物を端末にして管轄領域内で起きた全ての事象を見聞きして記憶出来るのだけれど、逆に言えば見たり聞いたり出来ない物事は私には記憶しようがないのさ」
ユグドラは言いました。
「つまりジョヴァンニ・カンパネルラは不可視系と防音系の魔法かアイテムを使っていて、【ナープレ】でそれを解除したと?」
「その可能性が高いだろう。まさか人種である【ハーフリング】がスポーンする訳はないからね」
「あるいは、グレモリーが言ったように、ジョヴァンニ・カンパネルラはユーザーで、9年前に神界から渡って来たかじゃな?」
ソフィアが言います。
確かにユーザーがログインすれば、この世界の住人から見ると突如として現れたように思えるでしょうね。
「ユグドラ。では、9年前にジョヴァンニ・カンパネルラが【ナープレ】に出現して以降の行動は?ジョヴァンニ・カンパネルラがユーザーである事を窺わせるような情報や、逆にユーザーではあり得ない事が確定するような情報はありませんか?」
「そうだね……断定的な事は何も言えないな。ジョヴァンニ・カンパネルラは、ごく普通……いや、相当に良心的な人物という印象かな。彼は行く先々で人助けをしている。何の見返りもなくね。何の見返りみなく人助けをしているという事が、ユーザーの行動に近いという事は言えなくもないかな?」
ユグドラは言いました。
確かに良心的な性格のユーザーなら、見返りもなく人助けをしそうではありますね……。
「今ジョヴァンニ・カンパネルラは何処かにいますか?つまり生きていますか?」
「わからない。彼は【スポーン・オブジェクト】の【廃墟】に入って、魔物を引き連れて逃げていたが……消えた。そこから先はわからない」
「不可視化と【防音】をしたんだね?」
グレモリー・グリモワールが予想しました。
「その可能性が高いと思う。あるいは【転移】で私が見聞き出来ない隔絶された場所に飛んだのかもしれない」
ユグドラは説明しました。
なるほど。
ジョヴァンニ・カンパネルラは、【スポーン・オブジェクト】で魔物をトレインして走り、パーティ・メンバーから十分に離れた後、不可視化や【防音】や【認識阻害】などを使えば、魔物を巻く事が可能かもしれません。
つまり、ジョヴァンニ・カンパネルラがユーザーでなくても生存する可能性はある訳です。
この推定の方が……ジョヴァンニ・カンパネルラがユーザーだ……という想像より可能性が高いと思いますが……。
「ユグドラさんが見聞き出来ない場所なんかあるの?」
グレモリー・グリモワールが訊ねました。
「まあ、多くはないが結構あるのさ。例えば、私には【ワールド・コア・ルーム】の中は見聞き出来ない。後は守護竜の本拠地の中とかだね。私と同位階か、私より位階で上回る誰か……それは、つまり【神格者】な訳だけれども。【神格者】が自分の本拠地である神域を本気で隠蔽しようとした場合は、その中を見聞きするのは私にも不可能なのさ」
ユグドラは答えます。
後は、私がゲームマスター権限を行使した場合も、ユグドラの目や耳である植物の端末としての能力を完全に無効に出来ますけれどね。
「守護竜のみんなは、ユグドラさんになら別に隠す事なんかないと思っていたんだけれど?」
グレモリー・グリモワールは守護竜達に訊ねました。
「別に疾しい事があって隠している訳ではない。単なるプライバシーじゃ。それにユグドラだけを対象として隠蔽している訳でもない。一般的な防諜対策という意味合いもあるのじゃ」
ソフィアは説明します。
「ユグドラ。では、ヨハンナ・ラ・フォンテーヌは今何処にいますか?今日私は彼女を【フェンサリル】の海岸近くで見かけました。船に乗ると言っていました。もしも彼女がジョヴァンニ・カンパネルラを探しに行ったのなら、2人が接触しているかもしれません」
「1人で飛空船の中にいる。客室で眠っているようだ。飛空船の行き先は、対岸のセントラル大陸【ベンサレム】までの直通便さ」
【ベンサレム】?
何故?
私はヨハンナ・ラ・フォンテーヌは、ジョヴァンニ・カンパネルラを探しに行く為に、彼が行方不明になった【スポーン・オブジェクト】や、その周辺に向かったのだと思っていました。
まさか……本当にジョヴァンニ・カンパネルラはユーザーで何処かの神殿で復活したので、ヨハンナ・ラ・フォンテーヌに連絡をして落ち合う予定なのでしょうか?
いや、ないと思いますけれどね……。
私は今日、ヨハンナ・ラ・フォンテーヌを見掛けて【スパイ・ドローン】の【キー・ホール】で彼女を追跡していたのですが、【スカアハ訓練所】に問い合わせた際に……別に無理矢理連れ戻す必要もない。気が済んだら帰って来るだろう……と言われ、緊急性がないと判断して【キー・ホール】を撤収させてしまいました。
結果論ですが、今にして思えば早計だったかもしれません。
ミネルヴァ。
私は【念話】でミネルヴァに呼びかけました。
ヨハンナ・ラ・フォンテーヌが乗船する便を捕捉しました……現在、複数の【キー・ホール】で追跡しています。
ミネルヴァが【念話】で報告します。
ミネルヴァは、私の意図を汲んで指示がある前に動いてくれていました。
さすがはミネルヴァです。
「ユグドラ。引き続きヨハンナ・ラ・フォンテーヌの追跡をお願いします。ウチの方でも追尾をしていますが、ユグドラの方でも彼女が誰かに会っているなど何か状況の変化があれば教えて下さい」
「わかった。ジョヴァンニ・カンパネルラのように不可視化などをされない限り絶対に失尾する事はないから任せてくれたまえ」
ユグドラは言いました。
こうしてジョヴァンニ・カンパネルラのユーザー疑惑は、あるともないとも確証が得られないまま、とりあえず継続調査となったのです。
私とミネルヴァは、ジョヴァンニ・カンパネルラがユーザーだとは思いませんが、グレモリー・グリモワールの予感というヤツは、単なる勘と無視してしまうには存外に精度が高いのですよね。
ジョヴァンニ・カンパネルラは、ユーザーなのでしょうか?
いや、ないと思いますが……。
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・・・
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