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第97話。千年要塞とダンジョンボス。

(ウォーター)魔法(応用編)


中位…穿孔(ウォーター・ドリル)

高位…(ウォーター・)(プレッシャー)

超位…洪水(フルード)

……などなど。

 異世界転移、18日目。


 千年要塞。

 900年前、【ドラゴニーア】の支援で建築された、対魔物用の軍事要塞。

 900年、【アトランティーデ海洋国】を魔物の攻撃から守り続けた事から、誰からともなく、千年要塞、と呼ばれ始めたのだそうです。


「俺の師匠。先代の剣聖は、900年前、この城壁や千年要塞が造られるのを、間近で見ていたそうだ。師匠は、まだ剣聖を継ぐ前、【アトランティーデ海洋国】で900年前の防衛戦に参加していたんだ。その時、【ドラゴニーア】の竜騎士団と軍が主力となって【アトランティーデ海洋国】の国境を守り、【ドラゴニーア】軍の工兵隊が壁を造ったんだが、それが尋常じゃない速さだったらしい。1年で、今の城壁の原型となる物を造り、5年余りで、その壁を今に残る形で強化したそうだ。千年要塞も5年で完成した。それを見た師匠は、【ドラゴニーア】の、途轍もない国力を思い知ったそうだ」

 剣聖は言いました。


 同感ですね。

 なにしろ、【アトランティーデ海洋国】の国境を全て巨大な城壁で囲んでいるのです。

 その規模は、万里の長城なんて目ではありません。

 当時の【ドラゴニーア】の土木工学技術には、驚嘆するばかりです。


 剣聖クインシー・クインは、現在333歳。

 その師匠が900年前に生きていたとすると、その師匠も【聖格者】だったのですね。


 私は、剣聖に案内され、主塔の上階に転移座標を設置しました。

 このフロアは、【アトランティーデ海洋国】の王家が使用する場所らしいです。


 主な部屋は4つ。

 執務室、会議室、居室、寝室がありました。

 トイレは各部屋にあり、居室に隣してキッチンが、寝室に隣して浴室が据えられています。

 水周りは、全て【魔法装置(マジック・デバイス)】による給水。

 お湯も出ますね。


 最高級のスイートルームという(おもむ)きがありました。

 ただの転移座標の設置部屋としては、いささか立派過ぎます。


「良いのですか?」


「ああ、ゴトフリードは、ノヒト様に永代使ってもらって構わない、と言っていた」

 剣聖は、言いました。


 あ、そう。

 なら、遠慮なく使わせてもらいましょう。


 さてと、明るくなって来たら、周辺地理を確認してから、外の魔物と一当てしますか。

 それまでは、ソフィアを仮眠させましょう。


「ソフィア、ご苦労様。また、少し仮眠したら?」


「わかったのじゃ」

 ソフィアは、【宝物庫(トレジャー・ハウス)】から卵クッションを取り出し、ベッドに上がり、数秒で寝てしまいました。


 私は、ソフィアを【自動人形(オートマタ)】のディエチに任せて、剣聖達と会議室に移り、打ち合わせをします。


 現在は、日の出前である為、辺りは漆黒が支配していました。

 しかし、【マップ】には、かなりの数の魔物が確認出来、また、魔物の発する音や声も聞こえて来ます。

 時折、サーチライトが照らされ、魔物の接近を報せますが、城壁の上に据えられた砲座からの一斉射撃で、蹴散らされていました。


 この魔導砲は、900年前の【ドラゴニーア】の技術で製造されたロスト・テクノロジー。

 対地対空に対応する大口径の【魔導カノン】。

 基幹部品に、英雄(ユーザー)にしか造れない技術が使われている為、現在では、生産が出来ないそうです。

【魔導カノン】は、【ドラゴニーア】にとっても虎の子の兵器であったはずなのに、それを提供するのですから、太っ腹……いや、【ドラゴニーア】にとっても、【アトランティーデ海洋国】が魔物の手に陥ちれば、安全保障上、対岸の火事では済まない、というギリギリの判断だったのかもしれません。


【マップ】の光点(マーカー)によると、辺りにいるのは、【高位】以上の魔物ばかり……。

 少し、【マップ】の範囲を広げて見ると、10kmほどの範囲内に無数の魔物がいます。

 900年前に、こんな場所があれば、レベル上げには、最適の場所だったでしょうね。

 ここに住むNPCの住人からしたらたまったものではないのでしょうが……。


 剣聖達には、日の出後、私達が出撃する事を要塞の軍や冒険者達に周知してもらい、諸々の段取りをしてもらいます。

 しっかりと働いてもらいましょう。


 ・・・


 日の出。


 私とソフィアは、城壁の上に立っていました。


 さて、ティップ・オフです。


「やってやるのじゃーーっ!【神竜の咆哮(ディバイン・ブレス)】」

 まずは、ソフィアが口火を切りました。


 射角をやや下向きに調節したソフィアの切り札は、地面を舐めるように走って無数の魔物を巻き込みます。


 続けて、2発、3発、4発……。


 首を振りアングルを変えながら吐かれた【神竜の咆哮(ディバイン・ブレス)】で、目視で確認出来る範囲にいた【高位】の魔物は、跡形もなく消滅しました。


 私は、城壁を蹴って、外に飛び出し、【飛行(フライ)】を詠唱します。

 超高速で飛翔しながら、【神弓】を引き絞りました。

 私が速射で飛行する魔物を撃ち墜とし、ソフィアが地上の魔物をブレスで殲滅。


 1時間ほど身体を動かして、千年要塞周辺の魔物は、駆逐しました。


「ソフィア、【大密林】に少しだけ、入ってみましょう。【超位】の魔物は、素材を回収したいので、【神竜の咆哮(ディバイン・ブレス)】ではなく、対個体攻撃を行なって下さい」


「うむ、わかったのじゃ」


「一応、これを持っていて下さい。回収用です」

 私は、ソフィアに【宝物庫(トレジャー・ハウス)】を5個手渡しました。


「わかったのじゃ」

 ソフィアは、既に【宝物庫(トレジャー・ハウス)】を一つ装着している左腕にもう一つ、右腕に2つ、両足に1つずつの【宝物庫(トレジャー・ハウス)】を装着します。


 私とソフィアは、【大密林】上空に浸入しました。


 おやおや、魔物が濃い事……。

【大密林】は、正に、魔境ですね。


 私は、【超位】の魔力反応に向かって突入しました。


古代(エンシェント)(・ドラゴン)】や、【マーナガルム】の群、【スフィンクス】の(つがい)、【ヒュドラー】に【キマイラ】……。


 ここは、【超位】の魔物のサファリパークですか?


 私とソフィアは、次々に【超位】の魔物を(ほふ)って行きました。


 ズバーーッ!

 スパーーッ!


 私は【神剣】を振るいます。


 ズボーーッ!

 ボスーーっ!


 ソフィアは突撃して身体ごと体当たり。

 親善試合の時に、私に使った体当たりパンチです。

 ライフル弾のように身体を高速スピンさせながら、敵に突入……。


 あの技は、【超位】の魔物を【防御(プロテクション)】ごと突き破る威力があるのですね?


 戦闘技術もへったくれもない、デタラメな戦い方です。


 抜けぬ……ノヒトぉーー……ちょっと引っ張って欲しいのじゃ……。


古代(エンシェント)(・ドラゴン)】の背中に突き刺さったソフィアが【念話(テレパシー)】で伝えて来ました。


 私は、死んでいる【古代(エンシェント)(・ドラゴン)】の背中の穴に腕を突っ込んで、ソフィアの脚を掴み、引きずり出します。


「ぶはっ、ありがとうなのじゃ」

 ソフィアは、血塗れで言いました。


「ソフィア、帰ったらお風呂ですよ。もう少し、エレガントに戦えないのですか?」


「仕方がないのじゃ。我の魔法やブレスは、広域殲滅攻撃なのじゃ。死体を消滅させぬように戦うには、近接戦闘をする他ないのじゃ」


 唐突に、剣聖から、スマホに緊急連絡が入りました。


「すまん。要塞が5頭の【古代(エンシェント)(・ドラゴン)】の襲撃を受けている。支援を頼みたい」

 剣聖は、差し迫った口調で言います。


「わかりました。すぐ戻ります」


「行ってくるのじゃ。我はしばらく、ここで暴れているのじゃ」

 ソフィアは、言います。


「では、ちょっと行って来ますよ」


 私は、千年要塞に【転移(テレポート)】しました。


 ・・・


 千年要塞。


 城壁が崩れていました。

 これは、ヤバイか?


 敵は【古代(エンシェント)(・ドラゴン)】5頭。

 生まれてから年月を経た個体で、かなり知性が高いのでしょう、【魔導カノン】がある城壁に不用意には近付かず、高速飛行をしながら、遠距離からブレスを吐いていました。

 そのせいで、【魔導カノン】は、狙いが定まらず、当たりません。


 私は、【古代(エンシェント)(・ドラゴン)】に向けて突撃し、すれ違いざまに【神剣】を五回振り抜きました。

 瞬殺です。


 私は、【古代(エンシェント)(・ドラゴン)】の死体を【収納(ストレージ)】に回収して、城壁の上で指揮を執っていた剣聖の元に着地しました。


「被害は?」


「死人はいないが、砲兵隊に重症者が多数出ている」

 剣聖は報告します。


 私は、怪我人を治療し、崩落した城壁を修復しました。


「助かった。礼を言う」

 剣聖は、頭を下げます。


「おそらく、私達が森に入って暴れたので、逃げて来た個体でしょう。済みません、もう少し、気をつけるべきでした」


「いや、ノヒト様は、存分に戦ってくれ。こっちは、本来、俺が守らなけりゃならない。手を煩わせてしまった」

 剣聖は、詫びました。


 その時。


 ノヒト……加勢に来てくれ……やられたのじゃ。


 ソフィアが【念話(テレパシー)】で伝えて来ました。


 すぐ行きます。


 私は【念話(テレパシー)】で応え、ソフィアの持つ【ビーコン】を頼りに【転移(テレポート)】しました。


 これは!

 ダンジョンボス!


 サウス大陸北東の遺跡(ダンジョン)のボス個体、名持ちの魔物(ネームド・モンスター)の【ラドーン】がソフィアの小さな身体を踏み付け、腹に噛み付いていました。


「私の娘に、何をしているんだぁーーっ!」

 私は、【神位(ディバイン)光子(・フォトニック・)(カノン)】を放ち、【ラドーン】の頭を吹き飛ばしました。


 瞬殺。


神位(ディバイン)光子(・フォトニック・)(カノン)】は、【超位光魔法】の【光子(・フォトニック・)(カノン)】の消費魔力を、ゲームマスターである私の無限の魔力で増幅極大化し、なおかつ、極限まで収束率を高めた、【神位魔法】。

 私オリジナルの対個体用超火力魔法でした。


神位(ディバイン)光子(・フォトニック・)(カノン)】は、【神位魔法】の中でも、一際強大な破壊力を持っていますが、攻撃範囲がとても小さい為、精密な砲撃が行えます。


 この状況で広域殲滅魔法を使うと、ソフィアを巻き込んでしまいますので……。


 私は、ソフィアにのしかかる【ラドーン】の死体を蹴り飛ばし、ソフィアを助け起します。

 ソフィアの小さな身体は、右腕から右胸部にかけて、半円形にえぐり取られていました。


「【完全(コンプリートリー)治癒(・ヒール)】、【完全(コンプリートリー)回復(・リカバリー)】。ソフィア、大丈夫ですか?」


「ごふっ、ぺっ、ぺっ。油断したのじゃ……。ダンジョンボスが3体も現れたのじゃ」

 ソフィアは、喉に詰まった自分の血液を吐き出しながら、苦笑いして言います。


 周囲を確認すると、ダンジョンボスの【ピュトン】と、同じくダンジョンボスの【オピオン】……その他、たくさんの【超位】の魔物の死体が転がっていました。


「新しい必殺技を試して、ダンジョンボスを2体仕留めたのじゃが、最後の1体で、ちょっとだけ失敗したのじゃ」


 私は、ソフィアに新しい服を着せてやりました。


 ダンジョンボスは、通常、ダンジョン最下層にあるダンジョンコアを護っています。

 ダンジョンは1週間で1階層ずつ成長し、やがて最大の99階層に到達すると成長は止まりました。

 しかし、成長が止まっても、ダンジョンは内部に魔物を生み出し続けるのです。

 99階層のダンジョンで、魔物が増え過ぎると、やがてダンジョンは、魔物を地上に溢れ出させました。


 これを、スタンピード、と云います。


 スタンピードが起きるとダンジョンボスも暴走し、地上に溢れ出て来ました。

 3体のダンジョンボスは、このようにして、【大密林】に存在していたのです。


 因みに、名持ちの魔物(ネームド・モンスター)は、2体同時には存在しませんので、スタンピードでダンジョンの外に出たダンジョンボスが生きている限り、ダンジョンの中にはダンジョンボスは、生まれません。


 今回、私とソフィアが、3体のダンジョンボスを倒した為に、【ラドーン】、【ピュトン】、【オピオン】は、しばらくすると、本来の住処であるダンジョン最下層で復活する事でしょう。

 何だか、二度手間のようですが、世界(ゲーム)の仕様なので仕方がありません。

 また、復活するとわかっていても、目の前の脅威には違いないので、放置も出来ませんしね。


 ・・・


 私が千年要塞の救援に戻った後、ソフィアは、【ラドーン】を始めとする、ダンジョンボス3体と遭遇戦になったそうです。

 どうやら、待ち伏せにあったらしい、との事。

 ダンジョンボスは、狡猾ですからね。

 知性の高いダンジョンボスは、生存戦略として、共闘していたようです。

 個体でも強力なダンジョンボスが共闘するとか……。


 ソフィアは、新必殺技の試射には、もってこいの相手と思い、実行しました。

 2頭を瞬殺したところまでは良かったのですが、【ラドーン】1頭を残したところで、必殺技の発動に失敗。

 必殺技の発動が空振ってしまった後の無防備な瞬間に、【ラドーン】のブレスをまともに食らい、【防御(プロテクション)】が間に合わず、右半身を吹き飛ばされてしまったそうです。


「必殺技?一体何を使ったのですか?」

 私は、【ピュトン】の死体を検分しながら訊ねます。


 ソフィアの攻撃で倒した割には、死体が綺麗に残っていました。

【ピュトン】は、頭部が消滅しており、先ほど見た【オピオン】の方は、胸に貫通創がポッカリと空いていたのです。

 私の【神位(ディバイン)光子(・フォトニック・)(カノン)】や、【高位光魔法】の【光線(レーザー)】による傷に似ていますが、傷口には、全く焦げ痕がありません。

神位(ディバイン)光子(・フォトニック・)(カノン)】や【光線(レーザー)】は、熱反応を伴いますので、傷口は焦げるはずです。

 それから【光線(レーザー)】では、火力的に、ダンジョンボスを【防御(プロテクション)】や【魔法障壁(マジック・シールド)】ごと貫通するなんて事は不可能ですしね。


「ふふん、知りたいか?」

 ソフィアは、勿体振りました。


「ソフィア、この森は、魔物の巣窟です。勿体振っている余裕はありませんよ」


「う、うむ、そうじゃな。【神竜の咆哮(ディバイン・ブレス)】を収束させて撃ったのじゃ。攻撃範囲は狭まるが、威力は高まるのじゃ」


 なるほど、私の【神位(ディバイン)光子(・フォトニック・)(カノン)】と同じ原理ですね。

 確か、ソフィアは、昨日、ゴトフリード王達の前で、魔力そのものを収束させて放つ必殺技を開発中、とか言っていました。


神竜の咆哮(ディバイン・ブレス)】は、純粋な魔力の放出により敵を滅殺する、ソフィアのオリジナル攻撃です。

 ただでさえ【神位魔法】の10倍の威力がある【神竜の咆哮(ディバイン・ブレス)】をさらに収束させたのですから、その威力は桁違いでしょう。

 とんでもない事をしますね。


「つまり、失敗の原因は、パンクですか?」


「うむ。3発目は、ちょっと慌てたのじゃ」


 パンクとは、魔法発動時に、魔力を高めたり、魔法を収束させたりする際に、発動のタイミングなどを誤ると起きる現象でした。

 パンクすると、威力が下がったり、魔法自体が発動しなくなったりしてしまいます。

 それが、今回、起きてしまったという事。


「まったく、【神竜(ディバイン・ドラゴン)】が専売特許のブレスをパンクさせるなんて……」


「仕方がないのじゃ。この技は、ピーキーでエキセントリックなのじゃ。むしろ、我だからこそ、放てる技なのじゃ。褒めて欲しいところないのじゃ」

 ソフィアは、プンスコと頰を膨らませました。


「わかりました。ソフィアは凄いです」


「当然なのじゃ。ところで、ノヒトよ。右腕と一緒に【宝物庫(トレジャー・ハウス)】を2つ、ブレスで吹き飛ばされてしまったのじゃ」


「ソフィアが無事なら、あんな物の一つや二つ、なくなっても構いませんよ。ですが、【宝物庫(トレジャー・ハウス)】は【神の遺物(アーティファクト)】ですから、【神位】の攻撃でなければ、破壊は出来ないはずです。そこらを探せば見つかるでしょう」


「なのじゃ」

 ソフィアは、嬉しそうに笑います。


 私とソフィアは、かなり遠くまで吹き飛ばされていた2つの【宝物庫(トレジャー・ハウス)】を発見して拾いました。


 ソフィアは、不死身です。

 仮に死んでも、【ドラゴニーア】の竜城で蘇りました。

 経験と記憶を全て引き継ぎ、再生するのです。

 しかし、今のソフィアとは、僅かに自我が変質してしまう可能性がありました。


 再生すると、守護竜は、本来あるべき最適な存在にリセットされます。

 記憶を完全に引き継ぐので、別個体のように変わり果ててしまう事は、ありません。

 しかし、私は、ソフィアが僅かでも変わってしまうのが嫌なのです。


 私は、今のソフィアが大好きでした。


 例えば、自分の娘の記憶を完全に引き継いだクローンがいるとして、そのクローンは、娘、と呼べるのでしょうか?


 私は、ソフィアには、出来れば、ずっと、このままでいて欲しいと思っています。


 ・・・


 千年要塞。


 私は、要塞の広場で、倒した魔物の死体から、次々にコアを抜き取っていました。


 周りに集まった【アトランティーデ海洋国】の兵士や、冒険者達は、唖然としています。

 特に、私が、ダンジョンボスの死体を3体出した時には、見学者は全員、ドン引きでしたね。


「ノヒトよ、今回は、儲かったのじゃ」

 ソフィアは、無邪気に喜んでいました。


 今回は、ソフィアが倒した獲物は、全てソフィアに所有権を認めます。

 前回、ソフィアから獲物を取り上げたのは、私に無断で勝手な行動を取り、多くの人達に迷惑をかけた事への罰でしたので。


「さて、これで、【神の遺物(アーティファクト)】の【自動人形(オートマタ)】のコアが確保出来ましたね」


「おお。我のオラクルが、ついに復活するのじゃな?」


「オラクル?」


「名前を考えておいたのじゃ。オラクル、良い名じゃろう?」


 オラクル……神託という意味ですね。

 まあ、良いんじゃないでしょうか。


「ソフィアの取り分のダンジョンボスのコアを一つ下さい」


「何故じゃ?これは、我のじゃぞ」

 ソフィアは、【宝物庫(トレジャー・ハウス)】を隠すようにして言いました。


「【自動人形(オートマタ)】……オラクルのメイン・コアのバックアップが必要だとは思いませんか?」


「むっ!それもそうじゃな。バックアップは、必要なのじゃ。ノヒトよ、ならば、我が倒した【ピュトン】と【オピオン】のコアは、2つともバックアップ用にするのじゃ」


神の遺物(アーティファクト)】の【自動人形(オートマタ)】は、頑強なので、そう簡単には壊れません。

 バックアップは、1つあれば事足りると思いますが、ソフィアが供出したい、というのなら、そうしましょう。


 私は、【ピュトン】の消滅した頭部に空いた食道の中に潜り込み、体内からコアを切除します。

 この方法は価値のある外皮を傷付けないコアの取り出し方でした。

 次に、【オピオン】。

 こちらは胸部に貫通創が空いていたので、そこから、コアが取り出せました。


 うん、コアは3つとも、大きさ品質ともに文句なしですね。


 私の獲物も、ソフィアの獲物も、コアを全部取り出してしまいました。


 ・・・


 今回の狩の成果。


 私。

【ラドーン】(頭とコアなし)。

 85頭の【超位】の魔物。


 ソフィア。

【ピュトン】(頭部とコアなし)と、【オピオン】(コアなし)。

 48頭の【超位】の魔物。


 ダンジョンボスの死体は私達が確保して、残りの【超位】の魔物の死体は、千年要塞にある冒険者ギルドの施設に、どんどん運ばれて行きます。

 私もソフィアも、肉は【ドラゴニーア】の騎竜繁用施設に寄付して、残りの部位は売却する方針でした。


 査定が必要なので、買取は明日。


 ゴトフード王と剣聖の手配で、解体処理が終わったら、肉は【ドラゴニーア】の騎竜繁用施設に輸送しておいてくれるそうです。


 手間がなくて助かりますね。


 サウス大陸で討伐された魔物を、サウス大陸で売却すると、報酬が上乗せされます。

 これは、冒険者ギルドが危機的な状況のサウス大陸に多くの冒険者を集め、出来るだけ多くの魔物を狩ってもらい、サウス大陸を救おうとする政策の一環でした。


 千年要塞には、冒険者ギルドの支部があるのですが、ここは世界的にも最大級の解体設備と冷凍冷蔵倉庫群があります。

 また、民間企業の魔物素材の加工施設も軒を連ねていました。

 それだけ、千年要塞近辺は魔物が多い、という事でもあります。


 ・・・


【ラドーン】の体に突き刺さっていた剣が1振りありました。


神の遺物(アーティファクト)】の剣【ネァイリング】。


「この剣は……という事は……」

 剣聖が声を上げました。


 過去の情報から、なんとなく、そんな気はしていましたが……私とソフィアが倒した3体のダンジョンボスは、どうやら剣聖のレイド・パーティを全滅させた個体だったようです。

お読み頂き、ありがとうございます。


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