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第963話。【セイレニア】首脳会談。

 セントラル大陸中央国家【ドラゴニーア】。

【竜都ドラゴニーア】・【竜城】の礼拝堂。


 私は、ソフィアとウルスラとオラクルとヴィクトーリアとティア・フェルメールとトライアンフ……つまり【ラ・スクアドラ・(チーム・)ディ・ソフィア(ソフィア)】と共に【竜都】へと一時帰還しました。

 アルフォンシーナさん以下の【神竜神殿】の【女神官(プリーステス)】達が出迎えに居並んでいます。


「お帰りなさいませ。ソフィア様、ノヒト様、皆様」

 アルフォンシーナさんは、いつもの鉄壁の微笑みを(たた)えて言いました。


「うむ。会談が終われば、また戻るがの」

「たっだいま〜」

 ソフィアとウルスラは言います。


「アルフォンシーナさん。お疲れ様です」


「既にガートルード・セイレニア女王陛下と、グリード・グリーヴァス大統領閣下はお着きです」

 アルフォンシーナさんが報告しました。


「して、連中の様子はどうじゃ?」

 ソフィアが訊ねます。


「双方共に鋭く対立している様子ですが、一応は交渉をするつもりはあるようです」

 アルフォンシーナさんは苦笑しながら言いました。


「アルフォンシーナよ。この件について、其方の意見も聞いておきたい」


「はい。ガートルード・セイレニア女王陛下は主権を国民に返還し……君臨すれども統治せず……の、立憲君主の地位に退き、国家儀式と陞叙、他国の賓客の接遇、伝統文化と文化財の保護……などを司ります。王家の財は全て国庫に返納し、代わりに国から毎年歳費を受け取れるようにします。名目上はガートルード女王陛下が【セイレニア】の国家元首のままですが、実権は持ちません。グリード・グリーヴァス大統領閣下は大統領の地位を退き、新たに首相の地位に就き国政を担います。国家元首ではありませんが、実権はグリード首相閣下が握ります。双方とも一部立場を相手に譲った上で、お互いの領分を侵さない事を【契約(コントラクト)】させます。後の細かな事は両者に協議させ合意が出来たら、ソフィア様とティア猊下(げいか)が承認する。この辺りが落とし所として妥当かと」


「うむ。我とティアも同じ意見じゃ。ノヒトの意見は、どうじゃ?」


「私の意見は特にありませんね。【世界の(ことわり)】が守られるなら、口出しはしません」


「わかったのじゃ。では、今アルフォンシーナが申した内容を妥結点として我らは会談に臨むとしよう」


 私達は実務的な会談の前に執り行われる外交儀礼上の公式謁見に臨む為に移動します。


 ・・・


【竜城】の謁見の間。


 私達がスローンの上から謁見の間に入ると、フロアで10人程の人達が頭を下げていました。

 ガートルード・セイレニア女王達【シャムロック】の代表団と、グリード・グリーヴァス大統領達【セイレニア】の代表団です。

【人魚】族には脚がないので彼らは片膝を着き跪く姿勢ではなく、正座のような格好をしていました。


 海に棲む海生人種や淡水域に棲む水生人種の一般呼称として使われる【人魚】族と【魚人】族の区別を行う際には、脚の有無がポイントとなります。


 脚がヒレ状になっている場合は【人魚】族。

 脚が【(ヒューマン)】のように歩行が可能な形状をしている場合は【魚人】族。


 上が人で下が魚ならば【人魚】、上が魚で下が人ならば【魚人】……という具合に文字の順番に対応しているので、わかりやすいですね。


 いや、脚がある人物が1人いますね。


 見たところ、【シャムロック】側は全員【セイレーン】で、【セイレニア】側は【セイレーン】が3人と【アザラシ人(セルキー)】と【ローレライ】がいます。


 この中で【アザラシ人(セルキー)】だけが脚がありました。

 というか【アザラシ人(セルキー)】は厳密には【人魚】や【魚人】ではありません。

 水生の【獣人(セリアンスロープ)】という、また別の種族です。


 う〜む。

 ゲーム時代【セイレニア】は【セイレーン】の単一コミュニティだった筈ですが……。

 900年経って多種族コミュニティになっているのでしょうか?

 だとするなら多元的多様性の観点から言って好ましい変化にも思えます。


「「深淵なる思慮を持つ大海の支配者にして、至高の叡智を持つ天空の支配者たる守護竜【神竜(ソフィア)】様、【創造主】の御使(みつかい)たるノヒト・ナカ様、【妖精女王(ピクシー・クイーン)】ウルスラ陛下、【大海宗】ティア・フェルメール猊下(げいか)、【大神官】アルフォンシーナ・ロマリア猊下(げいか)。ご尊顔を拝し奉り恐悦至極でございます」」

 ガートルード女王と、たぶんグリード・グリーヴァス大統領だと思われる人物が声を揃えて儀礼に則った挨拶をしました。


 ガートルード女王とグリード大統領らしき人物の2人は、ソフィアを(うやま)って冠される口上……深淵なる思慮を持つ大海の支配者にして、至高の叡智を持つ天空の支配者……を用いましたが、普段私が聞き慣れた順番とは逆で……大海の云々が先で、天空の云々が後……にしています。

 これは彼らは海生人種なので、自分達の立場を先にしたという事でしょうね。

 ティア・フェルメールの名をアルフォンシーナさんより先に持って来たのも同じ理由だと思われます。


「ガートルード・セイレニアでございます」

「グリード・グリーヴァスでございます」

 ガートルード女王とグリード大統領は同時に名乗りました。


 これは一般的に先に名乗る方の権威が上と考えられるので、序列の上下をハッキリさせない為にワザと同時にしているのでしょう。


 たぶん双方共に……自分の方が相手より権威が高い……と主張して譲らず、こういう形式になったのだと思いますね。

 つまり同時自己紹介は苦肉の策の妥協の産物で政治的解決だという事。


 私にとっては、どうでも良い面子の問題でした。

 実に馬鹿馬鹿しいですね。

 だから私は政治が大嫌いなのですよ。


 まあ、2人は双方の陣営の民を代表する立場なので、相手の下位に甘んじるという事は、2人の民が相手側の民より下位だと認める形になるので絶対に譲れないという事は何となく理解出来ますが……。


 だとしても、クッソ面倒臭いです。


「ガートルード、グリード。(おもて)を上げよ」

 ソフィアは【認識阻害(ジャミング)】の指輪を外して命じます。


 ソフィアから濃密で膨大な魔力が溢れ出し、フロアにいる者達が気圧されているのがわかりました。

神竜(ソフィア)】はデフォルトで他の守護竜の10倍、ソフィアの脳に共生するフロネシスを含めれば12倍のスペックがありますので、ゲームマスターを除けば唯一無二の規格外の存在。


 普段のソフィアを見ていると、つい忘れがちになりますが、ソフィアは守護竜の中の守護竜。

 外界の神である【創造主(クリエイター)】やチーフ・ゲームマスターの私を除外した現世神の中では最強にして一番偉い神様なのです。


 ガートルード女王とグリード大統領は怖ず怖ずと顔を上げました。

 ガートルード女王は勝ち誇った笑みを浮かべ、グリード大統領は苦虫を噛み潰したような表情をしています。


 ああ……せっかく2人は同時に名乗り、上下(かみしも)を曖昧にボヤかせたというのに、ソフィアがガートルード女王を先、グリード大統領を後に呼び、事実上の序列を付けたからでしょうね。


 これは国際儀礼格式において……【神格者】→首席使徒→皇帝→王→大統領→首相……が正式な序列通則なので、王と大統領が並べば王の序列を先にするのが決まりだからです。

 因みに同列ならば在位期間が長い方が上位となりました。


 ソフィアは、その慣例に従っただけで、別にガートルード女王を擁護する立場に立った訳ではありません。

 しかし、その外交慣例を理解していても、グリード大統領には政敵ガートルード女王の下位に置かれた事に対して忸怩(じくじ)たる思いがあるのでしょう。


 グリード大統領は選挙を経て【セイレニア】国民からの付託と信任を受け、ガートルード女王の【シャムロック】より人口で圧倒的に上回る【セイレニア】の統治者に選ばれました。

 また武力においてもグリード大統領の側は、ガートルード女王側より強力です。


 グリード大統領にしてみれば、自分が権威においても権力においても、【セイレニア】を追われたガートルード女王に遅れを取る訳がないと考えている筈なのですから。


 私には本当にどうでも良い事ですけれどね。


 私達は社交辞令的な当たり障りのない言葉を交わした後、実務的な話し合いを行う為に会議室に移動しました。


 ・・・


【竜城】の会議室。


 双方の代表団のメンバーが紹介されます。

 飲み物などが準備されたテーブルに全員着席して会談が始まりました。


 バンッ!


 突然テーブルが叩かれます。

 そして1人の男性が立ち上がりました。


「ソフィア様に申し上げます。我々はソフィア様にガートルードを即時処刑して頂くか、あるいは速やかに我々に身柄を引き渡して下さる事を要求致します。この売女(ばいた)めは我が【セイレニア】の国民を(ないがし)ろにして国政を壟断(ろうだん)し、私利私欲に(まみ)れた稀代の悪女。万死に値します!」

 会談の口火を切り、グリード・グリーヴァス大統領側の代表団のメンバーが大きな声で主張します。


 彼はグリード大統領側の【セイレニア】暫定政府で外務長官を務めるカーステン・カークランド。

 カーステン長官は随分強気ですね。


 グリード・グリーヴァスは曲がりなりにも選挙を経て現在【セイレニア】暫定政府の大統領の地位にありました。

 グリード大統領にしてみれば……自分は【セイレニア】国民の付託を受けている……という強い自負があるのでしょう。

 また政権基盤を固める為に、女王と女王派を処刑して後顧の憂いを断ちたいというグリード大統領側の気持ちも一応は理解出来ます。

 同意は出来ませんが……。


 もしもグリード・グリーヴァスが失策を行い国民の支持を失えば、今度は彼自身がクーデターや市民革命の標的にされてしまう可能性があり、その際グリード・グリーヴァスが最も恐れるのは敵対勢力の者達がガートルード女王を神輿(みこし)に担ぎ出す事。


 事実、未だ【セイレニア】国民からガートルード女王()()に寄せられる人気は高いのです。


 グリード・グリーヴァスによるクーデターを支持した【セイレニア】国民は、女王の周りに(たむろ)して女王の権威や権力を笠に着て威張り腐り私腹を肥やす君側(くんそく)(かん)を取り払いたいとは思っても、おそらくガートルード女王自身の処刑までは望んでいません。


 なのでグリード大統領側は、今の内に将来の政敵となる可能性があるガートルード女王を、どさくさ紛れに処刑してしまい、将来的にガートルード女王が敵対勢力の神輿(みこし)に担がれる芽を摘んでおこうと考えているのでしょう。


 しかし、現在ガートルード女王はソフィアの庇護下にありました。

 ソフィアは【ドラゴニーア】軍の飛空艦隊と海上艦隊をガートルード女王が逃げ延びた海溝都市【シャムロック】の上空と海域に送り、また同盟国【リーシア大公国】の潜水艦艦隊も出動させて物理的に守っています。

 またグリード大統領側がガートルード女王を攻撃したり暗殺したり逮捕・拘束しようとすれば、ソフィアはグリード大統領側に(くみ)する者達を尽く討ち滅ぼす……と(おおやけ)に宣言してもいました。


 従ってグリード大統領側は、ガートルード女王に手出しが出来ません。

 なのでグリード大統領側のメンバーであるカーステン外務長官は、ソフィアに向かってガートルード女王の処刑を要求した訳です。


 私がログを調べた限り、ガートルード女王個人は【世界の(ことわり)】や国際法に反していないので処刑される理由はありません。


 まあ、ガートルード女王の臣下達が悪さをしていたのは事実のようですので、任命責任はガートルード女王にある事は否定しませんけれどね。

 そうでなければ、大統領に就任する前のグリード軍長官がクーデターを起こした際に国民から支持される事はなかったでしょう。


 ソフィアがグリード大統領側にガートルード女王の身柄を引き渡しても結果は同じ。

 グリード大統領側にガートルード女王が引き渡されれば処刑される事が確実でした。


 しかし、ソフィアが庇護を約束したガートルード女王をグリード大統領側に引き渡す事はないでしょう。

 もちろん、この会談の結果、ソフィアがガートルード女王に対して……処刑されるに値する罪がある……と判断すればガートルード女王の庇護は取り止められ、彼女はグリード大統領側に捕らえられて処刑されるかもしれませんが……。


 まあ、要求をしたグリード大統領側も、ソフィアがガートルード女王を処刑したり引き渡さない事はわかっていると思います。

 殺せ渡せと言われて、そうするならソフィアは最初から庇護などしません。


 おそらく、グリード大統領側の意図は、最初に一発ガツンと()()()()おいて会談を優位に進めようという狙いなのでしょう。

 つまり外交における交渉戦術の一環。

 開幕のジャブ代わりという訳です。


 ただし、この会談の主催者は誰か?という事を考えれば、カーステン外務長官の態度は悪手と言わざるを得ません。


「あ?其方は誰じゃ?」

 ソフィアは不機嫌そうに、ガートルード女王に向かって指を指して糾弾するカーステン長官に訊ねました。


 ソフィアは【神威】を使っています。


「え?あ、はい。私は【セイレニア】()()()()の外務長官であるカーステン・カークランドでございます」

 カーステン長官は()()()名乗りました。


 もちろんソフィアは、カーステン長官の名前と肩書を既に知っています。

 何しろ、たった今紹介されたばかりですので。


「其方が、この会談におけるグリード側の最終意思決定者か?」

 ソフィアはカーステン長官に質問しました。


「えっ?」

 カーステン長官は……ソフィアの質問の意味がわからない……という表情をします。


「もしも其方……カーステン・カークランドが、この会談におけるグリード側代表団の最終意思決定者ならば良し。であるならば、我は以後グリードの権威と立場は、カーステンより低いと見做して対応するが良いか?」


「え、あの……私は外務長官でして……。当然ながら大統領であるグリード閣下の方が私より権威が高いのですが……」


「うむ。そうか。ならば其方は我の前から失せろ」

 ソフィアはカーステン長官に言い放ちました。


「へ?」

 カーステン長官は立ったまま呆然とします。


 一部始終を見ていたグリード大統領はソフィアの言葉の意味を理解して顔面蒼白になりました。


 ソフィアは怒っています。

 何故ならグリード大統領側のメンバーが不規則発言と暴言によって、この会談の主催者であるソフィアの顔に泥を塗ったのですから。


 ガートルード女王側の代表団も皆、状況を理解して青()めています。


「カーステン・カークランド。ソフィア様は……この会談の結果に責任を持つ権限と資格がない者は、議事進行を行う者の許可を得て発言するか、()もなければ口を塞いで黙っていろ……と命令されているのです。因みに、この会談の議事進行は私ティア・フェルメールが取り仕切ります。そして忠告しておきますが、大海の守護竜たるソフィア様の御前において、怒号を挙げて会談相手を口汚く罵るなどという行いは言語道断。それ即ち、この会談を主催なさっているソフィア様に対しての不敬に他なりません。口を慎みなさい、この愚か者!それから、あなたは厚顔無恥にも【セイレニア】()()()()などと称しましたね?大海の守護竜たるソフィア様の【指名(ディジグネイト)】も承認も受けていないに【セイレニア】()()()()が正当を称するとは、ソフィア様の権威を軽んずる暴挙。あなた方【セイレニア】暫定政府はソフィア様に対して不遜にも叛意を持つと判断して宜しいのですか?」

 ティア・フェルメールは、カーステン長官を睨み付けながら一喝しました。


「な!?」

 カーステン長官は絶句します。


「グリード・グリーヴァス大統領閣下。あなたが、このカーステンなる分を弁えない無礼者に暴言を吐けと命じたのですか?」

 アルフォンシーナさんも鉄壁の微笑みを浮かべたまま、グリード大統領を威圧しました。


 微笑むアルフォンシーナさんが怖いです。


 アルフォンシーナさんも……ソフィアに恥をかかせた相手は容赦しない……という事なのでしょう。


「いいえ。そのような事は決してありません。カーステンの一存でございます。しかしながら部下の非礼は、私の不徳の致すところ……何卒お許し下さいませ」

 グリード大統領は床に伏して言いました。


「カーステン長官。わかったなら着席して口を閉じているか、この会議室から出て行きなさい」

 ティア・フェルメールは言います。


「申し訳ありませんでした。二度とソフィア様に対して非礼なる振る舞いは致しません」

 カーステン長官も床に伏して謝罪しました。


「うむ。グリードよ、其方の部下の愚挙に関しては今回に限り聞かなかった事にして議事録からも消しておいてやるのじゃ。ティアよ、議事を進めよ」

 ソフィアは指示します。


 一悶着ありましたが、こうして会談は始まりました。

お読み頂き、ありがとうございます。

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・・・


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