第962話。結成【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】。
【ホテル・フェンサリル】のバンケット・ルーム。
「ところでノヒトよ。勇者養成機関【スカアハ訓練所】のパーティ運用施策を参考にして、グレモリーからの助言に従い、我らは【レジョーネ】内に分隊を結成する事にしたのじゃ」
ソフィアが言いました。
「分隊ですか?」
「そうじゃ。現在、我ら守護竜とその側近達、及びノヒトらゲームマスター本部の者らは【レジョーネ】を結成しておる。これは言わば世界の危機に対応する神による最強戦力。じゃから……神の軍……とも言うべき【レジョーネ】と称する。しかし、今や【レジョーネ】は大きくなった。今後も守護竜を順次【レジョーネ】に加えていくとするなら、構成員はもっと多くなる。故に我は【レジョーネ】の中に我の私設分隊を作る事にしたのじゃ。名付けて【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】なのじゃ」
「確かに私達が【レジョーネ】として活動する場合、原則として【レジョーネ】に加わる全守護竜と私達ゲームマスター本部の全会一致の承認が必要です。守護竜の誰か1柱、あるいはゲームマスター本部が反対をすれば【レジョーネ】の総意として動く事が出来ない事になります。【レジョーネ】の総意ではない作戦を行う場合の分隊という訳ですね?」
「うむ。グレモリーから聴いた話では【秘跡】と呼ばれるモノの中には9人以下のパーティ編成でなければクリア条件を満たせぬモノが多いらしい。じゃから、そういうユニット数に制限がある【秘跡】を攻略する事も【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】は企図しておるのじゃ」
ソフィア分隊【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】のメンバーは……。
ソフィア、ウルスラ、オラクル、ヴィクトーリア、ティア・フェルメール、トライアンフ、(フロネシス)……です。
私は、このメンバーを以前から頭の中で勝手にチーム・ソフィアと呼んでいましたが、今後は彼女達は【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】として正式にパーティ登録される事になる、と。
場合によっては、この基本メンバーにアルフォンシーナさんや、他の守護竜の誰かや、ゲームマスター本部の誰かや、グレモリー・グリモワール……あるいは【秘跡】の【導き手】となる任意のNPCが臨時で加わる可能性もあるそうです。
パーティは最大編成が9個体までですが、ソフィアと不可分の味方ユニットであるウルスラと(フロネシス)、そしてウルスラと不可分の味方ユニットであるトライアンフは設定上パーティの頭数にはカウントされません。
私の個人的な感想として分隊運用は妥当だと思いますが、唯一の心配はソフィア分隊が自由気ままに動く事を許すと、ザ・トラブル・メーカーのソフィアが色々とやらかすのではないか?という事。
まあ、ソフィアも頭がアレに見えて肝心な時には、それなりに考えて行動します。
またオラクルとヴィクトーリアは、現在【超位覚醒】し固有の記憶と経験の蓄積をした事により個体差が顕著になり個性が深化して来ました。
以前ならソフィアに対して盲目的に従うだけだった2人も最近では……時にはソフィアの考えに異を唱えた方が、結果的にソフィアの為になる……という事を理解して状況判断が出来るようになって来ています。
それに、ソフィアの脳に共生するフロネシスは私の支配下にあり視点を共有し【共有アクセス権】のプラットフォームに接続していますので、いざという時には私がソフィアの元に飛んで行って介入する事も出来ますしね。
世の中には……可愛い子には旅をさせろ……という言葉もあります。
「なるほど。妥当な判断ですね。了解しました」
私は同意しました。
「ん?良いのか?ノヒトは反対するかと思ったのじゃが?」
ソフィアは意外そうに訊ねます。
「構いませんよ。ただしオラクルやヴィクトーリアから意見や提案があったら考慮して判断材料にして下さい」
「うむ。それは当然の事じゃ。我は最側近のオラクルとヴィクトーリアの事を信頼しておるのじゃからの」
ならば良し。
オラクル、ヴィクトーリア……ソフィアとウルスラの事を頼みます。
私は【念話】で2人に言いました。
お任せ下さいませ。
畏まりました。
オラクルとヴィクトーリアは【念話】で答えます。
・・・
「【ファミリアーレ】は午前中【スカアハ訓練所】の見学をしてみて、どうでしたか?」
私は【ファミリアーレ】に話を振りました。
「う〜ん。難しくて言っている事が良くわかんなかったです」
ハリエットが言います。
「ハリエット。講義内容は結構噛み砕いて説明されていて、わかりやすかったわよ」
リスベットがハリエットに言いました。
「え〜。なら、リスベットは……でぃーぴーえす……とか……えむぴーえふぃしぇんしー……とか……でゅらびりてぃいんでっくす……とかって呪文みたいな言葉の意味がわかったの?」
「もちろん、わかるわよ。ノヒト先生やトリニティ先生にも習ったでしょう?【秒間火力】は個人の1秒間当たりの攻撃力や、そのパーティ全体の合算値の事。【魔力効率】は個人の攻撃魔法や、【闘気】による近接攻撃によって消費する魔力量や、そのパーティ全体の合算値の事。【耐久性指数】は個人の耐えられる【敵性個体】からの攻撃に対する耐久限界値や、パーティ全体が防具の性能や【防御魔法】や【バフ】なども含めて全力で防御した際に味方に死亡者や無力化されるユニットを出さずに耐えきれる総合指数の事。サウス大陸の【遺跡】に向う前に試験にも出題されたじゃない?もう忘れたの?」
「うん、忘れた」
ハリエットはキッパリと断言します。
「はぁ〜。まったく、仕方がないわね。試験前に私達が毎日夜遅くまでハリエットの勉強に付き合ってあげた苦労は何だったのかしら……」
リスベットは溜め息を漏らしました。
「ごめん……。でもさ、そんな訳のわからない言葉なんか覚えなくても戦う事は出来るよ」
「今はね。でも、これから私達のパーティが、もっと強い【敵性個体】と戦う事を想定するなら、【秒間火力】や【魔力効率】や【耐久性指数】を正確に把握しておかないと困るわよ。ギリギリ紙一重で勝敗が分かれる時に、自分の最大火力と魔力量の減少率とパーティの耐久性が正確にわからなければ、致命的よ」
「例えば?」
「例えば、私達のパーティが、任意の魔物と戦うとするでしょう。その魔物の範囲【ブレス】は、パーティの【後衛】が全力で【前衛】を【バフ】して防御しないと受けきれない。つまりパーティ全体で【ブレス】に備えないと【前衛】が死んでしまうのよ」
「うん」
「魔物の【ブレス】の【クーリング・タイム】が仮に10秒必要だとするなら、ブレスが吐かれてから次のブレスの魔力収束が完了するまでの10秒間に魔物のHPを私達のパーティの【秒間火力】で削りきれれば倒せる。つまり私達のパーティの【秒間火力】10単位分のダメージが魔物のHPと外皮の耐久力と【防御】と【魔法障壁】の合算値を上回るなら、理論上私達は魔物の【ブレス】の【クーリング・タイム】の10秒間、パーティ全員で総攻撃をすれば勝てる計算になるわね?」
「うん」
「でも、仮に私達のパーティ全体の【秒間火力】10単位分を、魔物のHPと外皮の耐久力と【防御】と【魔法障壁】の合算値が上回れば、私達が総攻撃をしても10秒間で魔物は倒せない。魔物は魔力の収束を完了させて範囲【ブレス】を吐き、私達のパーティの【前衛】の誰か、又は【前衛】全体、あるいはパーティ全体が倒されてしまう。だから、それがわかっているなら、10秒間の総攻撃をするのではなく、次の【ブレス】を防ぐ為にパーティ全体の防御体制が整う時間を逆算して攻撃を中断して備えなくてはならない」
「なるほど」
「また10秒間総攻撃をして魔物を削りきれると計算上わかっても、【秒間火力】の最大威力値を10単位維持出来ずに、【魔力効率】上7秒しか保たないとするなら、その時も次の【ブレス】を防ぐ為に体制を整える必要があるわよね?」
「うん」
「でも、それらを加味した上で、計算上私達のパーティ全体の【耐久性指数】では、魔物の【ブレス】を2発耐えきる事が不可能だとわかったら、その時は撤退を決断したり、初めから戦わないという判断をしなければならないわよね?」
「そうだね」
「だから【秒間火力】や【魔力効率】や【耐久性指数】は大切なのよ」
「……言いたい事はわかったよ。でも、それは【ファミリアーレ】のリーダーであるグロリアとか、指揮役のティベリオとか、参謀役のロルフとリスベットとかがやれば良いんじゃない?頭が良いメンバーが戦術を組み立てて、アタシみたいな馬鹿は指示を聞いて目先の攻防に集中すれば良い。適材適所だよ」
「実戦において役割分担として、それをするのは構わないわ。実際、勇者パーティとか、【月虹】とか、有名な冒険者パーティには指揮役や戦術担当のメンバーもいるのだから。ただし、だからといってパーティ・メンバーが【秒間火力】や【魔力効率】や【耐久性指数】を全く理解していないのは論外よ。指揮役や戦術担当がメンバーに指示を出しても、その指示がどういう意図で行われているのかわからなければ、指揮役が……3秒後にハリエットに【能力】を使って溜め斬りをして欲しい……と考えていても、ハリエットが【秒間火力】や【魔力効率】や【耐久性指数】を理解していないから指揮役の意図が全く伝わらなくて、【闘気】を練っていない……という行き違いが起きるかもしれない。これだとギリギリの戦闘では味方に犠牲が出るわ。ハリエットは自分の勉強不足の所為で仲間が死んでしまったら、自分を許せる?」
リスベットはハリエットに噛んで含むようにして話します。
「う……それは……」
ハリエットは口ごもりました。
「ハリエット。色々な知識を、すぐに覚えなくても良いし、こういうのは慣れもあるわ。だから、ゆっくりで構わないから一緒に勉強しましょう」
リスベットは優しく言い聞かせます。
「うん。わかった……。でもアタシは本当に馬鹿だから、物覚えが悪くて皆に迷惑を掛けるかもしれないよ」
ハリエットは言いました。
「構わないわよ。パーティ・メンバーを助けるのは当然の事だもの。逆に戦闘になったら私だってパーティ最強のハリエットに頼る事になる。私やハリエットや他のパーティ・メンバー1人1人が、それぞれ頑張るという前提があれば、その時こそお互いの苦手を補い合う適材適所という言葉が使えるのよ」
リスベットは言います。
【ファミリアーレ】の他のメンバーも頷きました。
「わかった。アタシは頑張るよ」
ハリエットは決然として言います。
リスベットの言う事は正しいですね。
ハリエットが必要な知識を一生懸命に勉強した上で、それでも細かなステータス把握や戦況分析が苦手なので得意な味方に任せる……というのは役割分担ですが、初めから知識を覚える気がないのは怠慢であり、やりたくない役目を味方に押し付けるのは無責任でしかありません。
ただし、私はハリエットとリスベットのやり取りを聞いていて嬉しくなりました。
【ファミリアーレ】の子達がレベルやステータスや戦闘技術だけでなく、人間性も確実に成長していると実感出来たからです。
きっと【ファミリアーレ】は良いパーティ(クラン)になりますね。
私にとって理想のパーティは、かつての仲間達と組んでいた【ラ・スクアドラ・インカンタトーレ】です。
【ラ・スクアドラ・インカンタトーレ】は各自が完璧に自分のやるべき事を理解していていました。
なので、刻一刻と状況が変転し続ける戦場の霧中にあっても、パーティ・メンバーで最低限の指示や合図やアイ・コンタクトを交わすだけで、お互いの意図を正確に理解し合って戦う事が出来たのです。
だからこそ、【ラ・スクアドラ・インカンタトーレ】は、たった5人編成(戦闘職は3人)という少数精鋭でありながら最強パーティの名を欲しいままにして、他のユーザー達のパーティ(最大9人編成)や、クラン(最大49人編成)や、アルト(最大99人編成)を相手取っても蹂躙していました。
この世界において、チーム・ワークが戦闘に及ぼす影響は無視できない程に大きいのです。
・・・
食後。
この後私とソフィアは一時【竜城】に戻り、海溝都市【シャムロック】(【セイレニア】亡命政府)の代表ガートルード・セイレニア女王と、海底都市【セイレニア】(暫定政府)の代表グリード・グリーヴァス大統領との会談に出席しなければいけません。
【レジョーネ】は午後も勇者養成機関【スカアハ訓練所】の視察を続けます。
トリニティとカルネディアとウィローとカリュプソ、【ファミリアーレ】、グレモリー・グリモワール達一行は【スカアハ訓練所】の体験入所で【経験値迷宮】での訓練に参加させてもらう予定。
トリニティとカルネディアに関しては、午後3時から浜で観光地引き網に誘われていますので、良きところで私が迎えに行くか、こちらに合流してもらう必要がありますね。
ソフィア達【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】は、【竜城】での会談が終わり次第【スカアハ訓練所】組に再度合流する予定。
ソフィアは視察より【経験値迷宮】の方に参加したがると思います。
私は午後はどうしましょうかね?
【リマインダー】のやらなきゃリストには膨大な仕事が溢れていますが、ミネルヴァとの約束で、この旅行の日程中(昼間)は仕事を忘れる(夜間は【パンゲア】でお仕事)という事になっています。
まあ、やる事がなければ地引き網の時間まで目的もなく1人でブラブラ散歩するのも一興かもしれません。
「ソフィア。そろそろアポイントの時間です。私達は【竜都】に向かいますよ」
「うむ。面倒じゃが、これも守護竜の役割じゃからして致し方あるまい」
私とソフィア達【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】は、【スカアハ訓練所】組と分かれて【竜都】に向かい【転移】しました。
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