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第948話。瀕死の【ガレリア共和国】。

 【ホテル・フヴェルゲルミル】のメイン・ダイニング。


 私とグレモリー・グリモワールと彼女の子供達と、ディーテ・エクセルシオールは【転移(テレポート)】して来ました。


 すぐに私とグレモリー・グリモワールは【ガレリア共和国】北方で起きた【精霊信仰教会】原理主義派の反乱について、ウエスト大陸の守護竜である【リントヴルム(リント)】と話し合います。


 具体的な対応は先程私とグレモリー・グリモワールで簡単に話した内容の繰り返しとなりました。

 つまり、【精霊信仰教会】原理主義派の反乱軍が【サンタ・グレモリア】又は【ウトピーア】側の国境を侵犯したら、【神の軍団】で即時迎撃して無力化するという方針です。


 これは【ガレリア共和国】の正規軍の扱いについても同じ事。


 仮に【ウトピーア】と【サンタ・グレモリア】側に越境したのが【ガレリア共和国】の正規軍だったとしても、彼らと反乱軍は同じ【ガレリア共和国】軍の正式装備を身に付けているので傍目(はため)からでは識別出来ないからです。

 つまり越境して来たのが【ガレリア共和国】正規軍であろうと反乱軍であろうと、国境侵犯した軍隊は即ち敵と判断して(まと)めて排除してしまう予定でした。


 その結果や被害に対する責任は全て【ガレリア共和国】にあります。


 リントは【ガレリア共和国】政府に指示して、【ガレリア共和国】正規軍の援軍を出動させ、【精霊信仰教会】原理主義派の邪教軍の反乱を速やかに鎮圧するように命じました。

 しかし、【ガレリア共和国】政府は正規軍の援軍を大規模に派遣して反乱鎮圧する事に及び腰なようです。


 その理由は……【精霊信仰教会】原理主義派の反乱軍に加わる末端の兵士達の多くは【精霊信仰教会】原理主義派によって扇動されているだけで本来は友軍であり、また新たに援軍を北方に送ると送り出した各地の治安維持が手薄になり、そちらでも次々に【精霊信仰教会】原理主義派による反乱が起きるかもしれない……からだとか。


【ガレリア共和国】は現在ノート・エインヘリヤルが庇護する【クレオール王国】と戦争状態にありました。

 この上、国内各地で宗派対立による内戦が頻発すれば、もはや滅亡まで一直線。

【ガレリア共和国】政府としては、それだけは避けたいのでしょう。


 とはいえ、この【ガレリア共和国】の宗教反乱の混乱に乗じてノート・エインヘリヤルと【クレオール王国】が【ガレリア共和国】に対して大規模な侵攻を仕掛ける可能性は低いのです。

 何故なら、現在ノート・エインヘリヤルと【クレオール王国】のスライマーナ・トランスペアレント女王には、ミネルヴァから……しばらく防衛以外の目的で対【ガレリア共和国】方面への攻勢は控えて欲しい……との要請が行われているからでした。


 その理由は……【ガレリア共和国】の現政権は【ドラゴニーア】を始めとする自由同盟陣営に加盟を目指している……からです。


【ガレリア共和国】は自由同盟への加盟条件として奴隷制の廃止を、ソフィアと自由同盟諸国に約束していました。

 その経緯で私は、【ガレリア共和国】が奴隷制廃止を事前に約束した通り誠実且つスケジュールに則って履行している限り、ゲームマスターとして【ガレリア共和国】に【神の怒り(ラス・オブ・ゴッド)】による神罰を落とす事を猶予しているのです。


 他方【クレオール王国】は奴隷解放を旗印にして【ガレリア共和国】と【イスプリカ】に宣戦布告して攻撃していました。


【クレオール王国】南西方面で戦線を構える【イスプリカ】は、【ガレリア共和国】と違いゲームマスター本部からの奴隷解放命令を無視しているので、どうなろうと知った事ではありませんが、【ガレリア共和国】は一応奴隷制廃止を約束して【世界の(ことわり)】を守る意思を示しているので、滅亡ルートだけは回避してあげようという配慮です。


 なのでゲームマスター本部は【クレオール王国】に対して……【ガレリア共和国】方面への期限付の侵攻停止……を要請しました。


 これは要請であり命令ではないので強制力はありませんし、仮に【クレオール王国】がミネルヴァの要請を無視して【ガレリア共和国】への侵攻を継続しても、ゲームマスター本部が【クレオール王国】にペナルティを科すつもりもありません。

 ゲームマスター本部は……国家紛争には不介入……が原則ですので。


 実際のところ【クレオール王国】は、いずれ軍を再編して攻勢能力を回復したら、現在勢力圏に収めている北東の港街【トランサルピナ】までを攻め取り領域支配する事を戦術目標にしているそうです。

 しかし現在【クレオール王国】も軍事リソース的に攻勢限界を迎えている為、この期限付要請を受け入れてくれました。


 【トランサルピナ】は現在都市城壁内を【クレオール王国】が占領し完全な実効支配を確立していますが、同都市は【ガレリア共和国】の勢力圏の中に()()()として存在していました。

 飛び地は周辺を敵に包囲されてしまうとロジスティクスの観点から干上がってしまうので、そのままに出来ないという考えは理解出来ます。

 またウエスト大陸の守護竜である【リントヴルム(リント)】も……奴隷解放を掲げる【クレオール王国】対奴隷制国家【ガレリア共和国】……の戦争においては明確に【クレオール王国】を支持していました。


 セレブ・ニートのノート・エインヘリヤルが、このような合理的な戦術判断をしているとは思えないので、おそらく【クレオール王国】のスライマーナ・トランスペアレント女王か軍の司令官の考えなのでしょう。


 閑話休題。

 つまり、この期に【クレオール王国】が【ガレリア共和国】に侵攻して、【ガレリア共和国】が防衛と反乱鎮圧という内憂外患の絶望的な2正面作戦を戦わなければならない致命的危機は起こりません。

 もちろん【ガレリア共和国】は【クレオール王国】が侵攻停止している期間の内に速やかに反乱を鎮圧する必要がありますし、【ガレリア共和国】側から【クレオール王国】に攻撃を行えば【クレオール王国】もの期限付侵攻停止を撤回して反撃を行うでしょう。


 さすがに国内で反乱が起きている時に【クレオール王国】に攻め込んで自ら2正面の戦局を作る程【ガレリア共和国】も馬鹿ではないと思いますが……。

 ともかく【クレオール王国】が動かない間に【ガレリア共和国】は反乱を鎮圧する必要がある訳です。


 ただし、私もリントも【クレオール王国】陣営も、【クレオール王国】が期限付で対【ガレリア共和国】への侵攻を停止している事をワザワザ【ガレリア共和国】に教えてあげたりはしません。

 ゲームマスター本部は原則として人種国家の紛争には介入しませんし、【クレオール王国】にとって【ガレリア共和国】は戦争中の敵国なのですから。


 あくまでもゲームマスター本部は強制力のない要請を行い、その要請を【クレオール王国】が独自の判断で自主的に受け入れているだけなのです。

 それ以上でも、それ以下でもありません。


「【ガレリア共和国】は何を悠長な事を言っているのかね?軍事合理性を考えるなら反乱を速やかに鎮圧しなけりゃ、【精霊信仰教会】の原理主義派の思想に近い潜在敵が竹の子みたいにニョキニョキ生えて、あちこちで反乱が激化するよね?連中は馬鹿なの?」

 グレモリー・グリモワールは呆れました。


「【クレオール王国】との前線維持と、この前のテロもあって現状北方に増派し難い事情は理解出来ますが……優先順位は反乱鎮圧の方が高いですよね」

 ファヴが言います。


 ミネルヴァが【クレオール王国】に対して、対【ガレリア共和国】への期限付の侵攻停止を要請して、それを【クレオール王国】側が一応受け入れている事は、守護竜達は知っていました。

 しかし【ガレリア共和国】は、それを知らないので、ファヴは【ガレリア共和国】の考えを代弁した訳です。


「たぶん、【ガレリア共和国】正規軍の司令部の中にも【精霊信仰教会】原理主義派や、彼らに同情的な者達がいるのだと思うわ」

 リントが言いました。


「【ガレリア共和国】の政府は()(がた)いね……」

 グレモリー・グリモワールは嘆息します。


「まあ、どちらにしろ【ガレリア共和国】の現政府は……ノートとスライマーナ達【クレオール王国】を相手にした戦争で連戦連敗、首都【マッサリア】で数百人の人命を失うテロ、そして今回の【精霊信仰教会】原理主義派による反乱……と政治的失点が続いているから政権が保たないわよ。政府支持率は地を這うような数字らしいわ」

 リントが突き放すように言いました。


「うむ。(いくさ)の勝敗やテロや反乱は、直接的には現政府与党の失策とまでは言えぬが、プラス・マイナスで言えば失点である事は間違いない。民主主義の普通選挙が行われる限り、現与党が次の選挙で下野するのは確実じゃろう。最悪クーデターや市民革命で【ガレリア共和国】の現政府は打ち倒される可能性すらあるのじゃ」

 ソフィアが推測します。


 確かに【ガレリア共和国】現政府の状況は、もはや詰んでしまっているようにも思いますね。

 ソフィアが分析するまでもなく、【ガレリア共和国】は誰が見ても瀕死の状態です。


 まあ、別に私は【ガレリア共和国】の現政府の肩を持つ気はありません。

 彼らは奴隷制廃止に向けて舵を切っている点で、奴隷制を継続しようとしている国家より多少マシではありますが、そもそも最初から奴隷制を否定している国々に比べれば、私からの【ガレリア共和国】の評価は低いのですからね。


 身も蓋もなく言えば、私は【ガレリア共和国】が滅びたところで惜しくはありません。

 むしろ【ガレリア共和国】の現体制が一旦完全に崩壊してしまった方が【ガレリア共和国】の社会に深く根を張った既得権益も同時に失われて、その後に奴隷制廃止など【世界の(ことわり)】を守る新体制を作りやすくなるかもしれないので、ゲームマスター本部としては、やり易くなる可能性もあります。


 1つ気になる事があるとするなら、何となく現在の【ガレリア共和国】政府の詰んだ状況は、何者かによって作られた盤面のようにも思える事。


【マッサリア】でテロを起こした犯人が、もしかして【精霊信仰教会】原理主義派の反乱にも関与していて、全ては【ガレリア共和国】の現政権を追い落とす為に動いている……などと考えるのは邪推が過ぎるでしょうか?


「ま、【ガレリア共和国】が滅亡しても、私にゃ関係ないけれどさ」

 グレモリー・グリモワールは言いました。


「そうね。だから(わらわ)も今の【ガレリア共和国】を国家承認していないのだし。なるべく無辜の民の生命が失われて欲しくはないのだけれど、(わらわ)を信仰している訳ではない【精霊信仰教会】の信徒達を助ける理由もないわ」

 リントは言います。


「そうなると、全体主義を標榜する連帯平等党が【ガレリア共和国】の政権を奪取する可能性があるのでは?ソフィアお姉様、自由同盟諸国は全体主義に変わった【ガレリア共和国】を同盟に加盟承認するでしょうか?」

 ファヴが訊ねました。


「承認せぬじゃろうな。我は全体主義が嫌いじゃ。第一、全体主義者達が標榜する労働価値説は経済学的に誤っておる故、全体主義では永続的な国家運営が出来ぬ。あれは一種の宗教じゃからのう。途上国ならば開発独裁という手法が国家の発展に寄与する局面もあるが、成熟した国家では市場原理の方が合理的じゃ」

 ソフィアが断言します。


「でも、【ガレリア共和国】の与党が倒れる事が確実なら、最大野党の連帯平等党が政権を奪取してしまうのは既定路線となるわ。難しい問題よね」

 リントが頬に手を当てて言いました。


「いや、リントが守護竜として、次の選挙前に【ガレリア共和国】に対する方針を(おおやけ)に発表して、次の国政選挙の争点を(あらかじ)め規定してしまえば良いのじゃ。連帯平等党が政権を取ってもリントは支持しない……と明確に公言すれば、【ガレリア共和国】の有権者が馬鹿でない限り、連中が選挙に勝つ事はない」

 ソフィアは言います。


(わらわ)は、なるべく選挙介入はしたくないのですが?」

 リントは忌避感を見せました。


「守護竜は、そもそも人種の自治に介入する事を前提とした存在として【創造主(クリエイター)】に創られたのじゃからして今更じゃろう?仮にリントが民主主義の原則を大切にしたいのであれば、例えば……【ガレリア共和国】の官僚と国会議員の全てに【世界の(ことわり)】の遵守とリントへの忠誠を【契約(コントラクト)】する事を義務付ける……など比較的穏当なやり方は幾らでもある。我は【ドラゴニーア】で、それを行ってポピュリストや扇動政治家や、他国に利益誘導を行うような工作員を元老院と行政府から排除しておるのじゃ」

 ソフィアは言います。


「それは、やや強権的過ぎませんか?それが行き過ぎれば……数理モデルによって誤ったシステム……と証明され、【創造主(クリエイター)】からも……好まざる政治形態……だと判断されている全体主義の独善的論理と同じになるような気がします」

 リントは疑義を呈しました。


「そうじゃ。じゃが必要な事じゃ。自由主義や民主主義や国民主権は、それなりに良く出来たシステムじゃが、我ら守護竜は人種を守る存在じゃ。人種が誤りを侵すなら、それを正すのも、また人種を守る事になる。無軌道な自由とは、無政府主義(アナーキズム)に他ならぬ。寛容な社会を守るには、不寛容な者に対しては毅然として不寛容でなければならぬのじゃ。そして誤解してはならぬ事は我らの世界史においても、地球(神界)の歴史においても、ほとんどの場合において全体主義の権威独裁者を生み出したのは自由主義と民主主義と国民主権によってじゃ。人種は時に、自由主義と民主主義と国民主権の中で致命的な誤りを侵す事もある。まあ、ウエスト大陸の事は、最終的にはリントの一存において決めれば良い。我は、我の個人的な考えを披歴しただけの事じゃ」

 ソフィアは説明します。


「なるほど……」

 リントは頷きました。


「ともかく何はともあれ食事じゃ」

 ソフィアが宣言します。

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