第939話。グレモリー・グリモワール対【グライア】。
【スキエンティア】王都【マキナリア】王城。
ノヒト……【グライア】達に発見されて【遭遇】した……現在抗戦中。
グレモリー・グリモワールが【念話】で伝えて来ました。
グレモリー・グリモワールは【七色星】の【老婆達の森】で【グライア】という謎の【知性体】と会う為に、その住処に向かっていたのです。
これは、ミスりました。
私は未知の【知性体】で魔法の威力値が【超位超絶級】だと計測されていた【グライア】達を警戒していたので、トリニティをグレモリー・グリモワール達に付けていたのです。
それなのに【パンゲア】を含む【七色星・マップ】が開放され【ストーリア】側の【メイン・マップ】にエントリーされるという事件に浮き足だって、実験の為にとトリニティを此方に呼び寄せてしまいました。
くっそ、私は馬鹿ですね……。
可能性は低いとは思いますが、万が一グレモリー・グリモワールの身に何か致命的な事が起きてしまったら、私は自分の愚かさを呪うでしょう。
ユーザーであるグレモリー・グリモワールは死亡してもコストを支払って【復活】する事が可能でした。
しかし死亡・復活出来れば、いっそマシです。
この世界の設定には、拘束されたり封印されたり【精神支配】されたり【憑依】されたり、生きたまま自我が崩壊してしまったりという状況があり得ました。
グレモリー・グリモワールは【精神支配】系には完全耐性を持ちますが、【グライア】という【知性体】のステータスやスペックを私は未だ理解していないので、連中がどんな攻撃手段を持っているのかがわかりません。
グレモリー・グリモワールには2人の子供達もいるというのに何かがあったら……。
もしもグレモリー・グリモワールに良くない事が起きたら、私は、あの子達に何と言って詫びたら良いのでしょうか……。
緊急時には【ビーコン】を発報するように言っておいたのですが、グレモリー・グリモワールは未だ【ビーコン】を起動していません。
つまり戦闘を自分達の力だけで何とか出来るという自信があるのか、あるいは【ビーコン】を起動する暇すらない程手が離せない状況か、どちらかなのでしょう。
グレモリー・グリモワールは【シエーロ】でルシフェルと戦った時に【ビーコン】をローブのポケットに入れていたのですが、戦闘によって片腕が捥げ、もう片腕も手首の骨を砕かれて【ビーコン】を起動させられなかった……と話していました。
あるいは……今回も……。
「トリニティ。行きますよ」
私はグレモリー・グリモワールが【ビーコン】を起動出来ない状態にある可能性を考えて、速やかにグレモリー・グリモワール達がいる【グライア】の住処にトリニティと一緒に急行する事にしました。
グレモリー・グリモワールがいる場所には、こちらに呼び出されたトリニティが【転移】して来る前に現地に転移座標を設置しています。
そのトリニティの転移座標は【共有アクセス権】で私も使用出来ました。
「仰せのままに……」
トリニティは頷きます。
あ〜、ノヒト……こっちは問題ないよ……制圧したから。
グレモリー・グリモワールが【念話】で報告しました。
え?
早くない?
抗戦開始の一報を受けてから数秒ですよ。
あ、そう……ミネルヴァによると【グライア】達3個体と同時に戦えば、トリニティと同等の戦闘力があると試算されていましたが、随分簡単に制圧してしまいましたね?
私は【念話】で訊ねます。
私は、万全の状態でグレモリー・グリモワールが【グライア】達3個体と戦えば問題なく勝つ推定をしていました。
しかし今のグレモリー・グリモワールは味方ユニットで最大戦力である【神格】の守護獣の【ホムンクルス】……ヒモ太郎を子供達の護衛役として留守番に置いて来ています。
なのでヒモ太郎を欠いた現状のグレモリー・グリモワール対【グライア】3個体の戦闘における私の勝敗予想は五分五分。
ま、私も日々成長してるって事だよ……ノヒトから、なるべく戦闘を避けるように言われていたから、一応報告はしたけれど、こっちは何も心配ないから。
グレモリー・グリモワールは【念話】で言いました。
わかりました……一応トリニティを、そちらに戻します。
私は【念話】で伝えます。
あ、そう……わかった。
グレモリー・グリモワールは【念話】で了解しました。
「トリニティ。グレモリーの元に向かって下さい」
「仰せのままに……」
トリニティはグレモリー・グリモワールの元に【転移】して行きます。
「ノヒト。グレモリーがどうした?」
ソフィアが訊ねました。
「大丈夫。【グライア】と抗戦して制圧したそうです」
「ふむ、そうか。グレモリー程の者ならば、そうじゃろう」
ソフィアは頷きます。
トリニティとの【パス】によって、【グライア】達の住処の様子が伝わって来ました。
グレモリー・グリモワールは、どうやら【グライア】達を【ソロモンの指輪】に封じ無力化したようです。
周辺に危険な兆候はありません。
3個体でトリニティに匹敵する難敵を相手に瞬殺……。
さすがはグレモリー・グリモワールですね。
きっと強力な【前衛壁職】であるラーズグリーズルとランドグリーズル姉妹がいるので正面防御が安定した事で、グレモリー・グリモワールは姉妹に守られながら時間を掛けて魔力を練り上げられ、初撃において必殺の極大魔法を放てたのでしょう。
しかし滅殺ではなく封印してしまうとは……。
強力な【敵性個体】を封印するのは、場合によっては殺すより難しいのです。
それを、いとも容易くやり果せてしまうとは、もしかしたらグレモリー・グリモワールは私と同一自我だった時より2回り程は強くなっているのではないでしょうか?
チーフ……グレモリーさんは【神位級】の【聖魔法】である【鎮魂】なる【固有魔法】を行使しました。
ミネルヴァが【念話】で報告しました。
「はい?何ですって?」
私は驚きます。
驚きのあまり、声が裏返ってしまいましたよ。
「何じゃ?一体どうした?」
ソフィアが訊ねました。
「あ、いや。現在【七色星・マップ】が【ストーリア】側の【メイン・マップ】にエントリーされた事で、ミネルヴァは【七色星】においても【ストーリア】同様に十全なサーベイランス能力を発揮出来るようになりました。なのでミネルヴァは、グレモリーが【グライア】に対して使った魔法の威力値を正確に判定可能になっているのですが、グレモリーは【神位級】の【聖魔法】を行使したのだそうです」
「ふむ。【神位級】とは、さすがはグレモリーじゃ」
ソフィアは頷きます。
「えっ!?【神位級】だなんて、いくらグレモリーでもあり得ないでしょう?」
リントが驚愕しました。
「いや。それが、あり得るのじゃ。稀にじゃが、ユーザーの中には【超・超位級】に位階分類される【固有魔法】を自力で開発してしまう者がおる。グレモリーなどは、その代表格じゃな。【超・超位魔法】とは【創造主】が定めた位階における、本来なら神ならぬ生命体が行使可能な極限である筈の【超位超絶級】を上回る威力の魔法という意味じゃ。建前上【神格者】以外には【神位級】の魔法は使えぬという事になっておる故、一応【超・超位級】という位階に分類されておるが実は、その【超・超位魔法】が正確な計測を行うと【神位級】の効果を持つ場合があるのじゃ」
ソフィアが説明します。
「まさか。そんな事例は聞いた事がありません」
リントは絶句しました。
「ソフィアが説明した通りなのですよ。グレモリーの手持ちの【固有魔法】で【超・超位級】に位階分類されるモノは数多くあり、その内少なくとも3つは確実に【神位級】相当です。これは公式設定上【神格者】以外には使えない位階の魔法という建前になっているので【神位級】とは呼称されず、あくまでも【超・超位級】に分類されます。また、あまりにも世界の均衡を壊すと見做された時には、私達運営から【弱体化補正】される場合があり、グレモリーの【固有魔法】にも【弱体化補正】されたモノが沢山ありました。ただし必ず【弱体化補正】される訳ではなく、グレモリーのように様々な理由から【弱体化補正】を免れる場合もあります」
「グレモリー・グリモワールの【超・超位魔法】の内【神位級】の領域に踏み込んでいるモノは、対個体魔法の【処刑】と、広域殲滅魔法の【世界の終焉】だね?あと1つは何だい?」
ユグドラが訊ねます。
「この前、私がグレモリーに教えた【玩具の兵隊の行進】です。私が知る限り、この3つは確実に【神位級】相当ですね」
「ふむ。ならば、ノヒトは何を驚いたのじゃ?グレモリーは【神位級】に相当する魔法を既に使えるのじゃから、今更驚く事ではなかろう?」
ソフィアが訊ねました。
「実質【神位級】の【超・超位魔法】をグレモリーが行使したり、新たに開発しても驚きません。私が驚いたのはグレモリーが【神位級】の【聖魔法】を行使したからです。グレモリーのキャラ・メイク上【聖魔法】系統には大幅な【弱体化補正】が掛かります。彼女は【聖魔法】など信仰に依拠した魔法は本来苦手なのです」
【死霊術士】が【聖魔法】を使うだなんてゲーム・メタ的にキャラ崩壊も甚だしいですからね。
「確かに【死霊術士】は【聖魔法】系統は苦手の筈じゃな?どういう事じゃ?」
ソフィアは首を捻ります。
「わかりませんね」
チーフ……グレモリーさんが行使した魔法【鎮魂】は【死霊術】系統の魔法として詠唱が完了していますが、【魔法公式】に虚数解部分が存在するので、発動の段階では効果が反転しています……なので【職種】属性上の【弱体化補正】が行われていないようです。
ミネルヴァが【念話】で報告しました。
なるほど。
確かに、グレモリー・グリモワールは、そのような話をしていましたね。
自分の使役する【不死者】軍団を広域に【強化】する【死霊術】系の範囲魔法を開発したつもりが、虚数解により効果が反転して不浄を滅する【聖魔法】となってしまった……と。
しかし普通は、そのような事は起こり得ません。
何故なら虚数解を内包する【魔法公式】などというモノは、通常魔法が発動しない失敗と判定されるからです。
魔法を発動するには詠唱者自身の【器】による魔力制御と、【魔法公式】という2つの要素が、あたかもIDとパスワードのような対の関係性となっており両者の相互作用において整合しなければ魔法は発動しません。
しかしグレモリー・グリモワールは、超絶レアな【先駆者】という【能力】を持っていました。
【先駆者】は魔法の開発に特化した【能力】で、これを身に付けた者が開発した新しい魔法は……魔法制御との整合性を無視して、とりあえず【魔法公式】の方だけさえ数式として成立していれば、魔法が発動してしまう……というギミックがあります。
なのでグレモリー・グリモワールが開発する新しい魔法というモノは少々強引にでも発動してしまう事があり得ました。
これは、もちろんグレモリー・グリモワールという【魔法使い】の傑出した能力も影響していますが、ほとんどの場合は魔法開発において閃き先行で見切り発車する傾向があるグレモリー・グリモワールの細部の瑕疵を【先駆者】のギミックが無理矢理フォローして成立させてしまう事で発生する現象なのかもしれません。
それ程【先駆者】という【能力】は異質で強力なのです。
ならば【先駆者】を身に付ければ皆が誰でも魔法開発の先駆者となれるのではないか?
その通りです。
しかし【先駆者】を身に付ける者は極少数に過ぎず、ユーザーではグレモリー・グリモワール1人しかいません。
【先駆者】は【スヴェティア】の首都である魔法都市【エピカント】の中枢【 魔法の殿堂】の禁書庫にある世界に1冊しか存在しない特別な魔導書を読まなければ取得出来ない【能力】なのです。
そして、その禁書庫に足を踏み入れ禁書を読む為には、【スヴェティア】の寡頭制君主【九賢者】にならなければいけません。
ユーザーで【九賢者】となった者は歴史上グレモリー・グリモワールだけなのです。
900年前のゲーム時代に【九賢者】第一席が崩御しました。
【九賢者】第二席のノア・レメゲトンは、当時【スヴェティア】国立大学の魔法学の主任教授であったグレモリー・グリモワール(私)を【九賢者】第一席の後継に推薦したのです。
グレモリー・グリモワール(私)は、【 魔法の殿堂】の禁書庫にある膨大な魔導書を一度読んでみたくて、つい、その推薦を受けてしまいました。
そして禁書を全て読み尽くした後に、【九賢者】は終身職で就任したら原則死ぬまで辞任出来ない事を知ったのです。
あれは迂闊でした……。
なのでグレモリー・グリモワールは900年が過ぎた現在も、正式な【スヴェティア】の君主【九賢者】のままなのです。
グレモリー・グリモワールは政治が嫌いなので君主などという立場は早く辞めたくて仕方がないのですが、【九賢者】は終身職なので死ななければ辞められません。
ユーザーは不老不死で不死身。
つまりグレモリー・グリモワールは【九賢者】を永久に辞められないのです。
気の毒に……。
現在の私は、グレモリー・グリモワールと自我が分かれたので他人事ですけれどね。
閑話休題。
このような特殊な条件によって、グレモリー・グリモワールが開発する魔法は、時々常識を逸脱したバグった効果を持つ事があるのです。
私はグレモリー・グリモワールから件の新魔法の【魔法公式】を見せてもらいました。
新魔法の名前は【鎮魂】と云うのですか……。
今度私も実験してみましょう。
私は【魔法公式】の構造を理解しさえすれば他人の【固有魔法】だろうがなんだろうが全ての魔法を行使可能なチートなゲームマスターですからね。
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