第934話。仲間達の思い出。
セントラル大陸中央国家【ドラゴニーア】竜都【ドラゴニーア】。
【竜城】の【門部屋】。
私達は【竜城】の最上階にある【門部屋】にやって来ました。
グレモリー・グリモワールには【転移門】を通って【創造主の神座】という【隠しマップ】に向かってもらい、現地で【ビーコン】を起動してもらいます。
その【ビーコン】の魔力反応を目標にすれば、私も【創造主の神座】に【転移】が可能となりました。
私が【創造主の神座】に行く目的は、私の姿を模った空アバターを回収する為です。
あの空アバターにミネルヴァが【同期】すれば、【神位装甲・ドラゴニオン】の【コア】とする事が出来ました。
ミネルヴァが【同期】した空アバターを【コア】として【ドラゴニオン】を装備すれば、ミネルヴァは【ワールド・コア・ルーム】の外で活動出来るようになります。
その場合ミネルヴァ=【ドラゴニオン】になってしまう訳ではなく、【ワールド・コア・ルーム】に存在するミネルヴァは機能を完全に維持したまま、端末として【ドラゴニオン】も同時に運用可能となりました。
つまり、ミネルヴァが2個体同時に活動出来るようになる訳です。
これは【世界樹】とユグドラの関係性に似ていました。
しかし【世界樹】にはユグドラが1個体しか存在しませんが、空アバターの数を揃えられれば【ドラゴニオン】を装備したミネルヴァは何個体でも増やせます。
実際ゲーム時代には大勢のゲームマスターが、それぞれ【ドラゴニオン】を装備したミネルヴァを助手として連れていました。
またミネルヴァが単体で様々な場所に出掛ける事もあったようです。
現在、空アバターは【創造主の神座】にある1個体しか存在が確認されていませんが、ミネルヴァが端末機能を保有して外部に出られるというだけでゲームマスター本部としては大幅な戦力アップになりました。
これでゲームマスター本部は、私だけでは絶対に熟せない仕事量が、私とミネルヴァで手分けをしてもやっぱり熟しきれない仕事量という状況になります……。
え〜っと……状況が変わりませんね。
いや、ゲームマスター本部の能力に対して、やるべき仕事が多過ぎる状態は変わりませんが……私達は使えるリソースを全て注ぎ込んでいるのだから……と、諦めが付くという意味で現状よりは大分マシな状況になります。
そういう事にしておきましょう。
そう思わなければ、やっていられません。
「そんじゃ。ちょっくら行って来るよ」
グレモリー・グリモワールは言いました。
「お願いします」
グレモリー・グリモワールは【門】を起動させるオブジェクトに手を触れて魔力を流します。
「グレモリー・グリモワール。通行資格あり。対象を指定して下さい」
運営のアナウンスの音声が流れました。
「私とディーテ・エクセルシオールを【創造主の神座】まで送っておくれよ」
グレモリー・グリモワールは言います。
「了解しました。【門】を開きます」
運営のアナウンス音声が流れました。
刹那……グレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオールの姿がかき消えます。
着いたよ。
グレモリー・グリモワールが【念話】で伝えて来ました。
私はグレモリー・グリモワールが起動させた【ビーコン】を目掛けて【転移】します。
・・・
【創造主の神座】。
私は【創造主の神座】に到着して、すぐに転移座標を設置しました。
白亜の【不滅の大理石】で創られた壮麗にして厳粛な空間。
それが【創造主の神座】。
あまりにも広大過ぎて多少の距離を歩いても、あまり視界が変わらず脳が混乱します。
グレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオールは【創造主の神座】の中央部に佇んでいました。
ディーテ・エクセルシオールは【創造主】による【創造神話】が記された天井画を唖然とした表情で見上げています。
「ここは変わらないね……」
グレモリー・グリモワールは言いました。
「ええ」
すると【創造主の神座】の【神座】の階段を人影が降りて来ます。
「ようこそ、【創造主の神座】へ。私はゲーム【ストーリア】の公式ゲームマスターです。ここではユーザーの皆様の冒険の記録が観られます。何をお観せすれば宜しいですか?」
私の姿をしたアバターがプログラムされた台詞を喋りました。
「あ、なら、私がパーティ・メンバー……つまり【ラ・スクアドラ・インカンタトーレ】のみんなと一緒にいる映像を何かしら観せておくれよ」
グレモリー・グリモワールは言います。
「畏まりました」
私の姿をしたアバターが言いました。
すると【ラ・スクアドラ・インカンタトーレ】が活躍するイベント・【秘跡】などの様子が映し出されます。
エタニティー・エトワールさん、ナイアーラトテップさん、ピットーレ・アブラメイリンさん、オリジナル・6さん……そしてグレモリー・グリモワール(私)。
なるほど。
グレモリー・グリモワール(私)は自分の過去の栄光を観て悦に入るようなタイプではありませんが、確かにパーティの仲間達との冒険の思い出は観てみたいですよね……。
私も今度1人で観に来ましょう。
「これは?私は知らないわ」
ディーテ・エクセルシオールが訊ねました。
「ああ、これはニファーリアス・マンスローターって【秘跡・ボス】をブッ殺した時だね。ニファーリアスは私ら【ラ・スクアドラ・インカンタトーレ】にとっては宿敵みたいな【敵性個体】でさ〜。私がコイツに知恵を与えちゃった所為でクッソ狡猾になって煮湯を飲まされたんだよ」
グレモリー・グリモワールは説明します。
「へえ……あれ?この【兎人】の剣士は?」
「モフ太郎さんだよ」
「モフ太郎って、あの神話の大英雄?」
「そだよ。ニファーリアス戦ではモフ太郎さんのパーティと共闘したんだ。これはボス部屋の最終局面だから、映っていないけれどモフ太郎さんのパーティ・メンバーのみんなは、ここに至るまでに敵勢の【スポナー】で戦闘して厄介な中ボス達を食い止めてくれていたんだ。ニファーリアスに止めを指したのもモフ太郎さん。これっ!奥義【四次元斬り】の5連撃からの……秘奥義【時空突き】。やっぱ凄まじいね。モフ太郎さんが近接史上最強だよ。あ、こっちにディーテが映っているよ。【エリュシオン】の【レヴィアタン】戦の時かな?ふふっ、ディーテ、若いね〜」
「そりゃそうよ。当時は、ほんの小娘だっだし……ユリュテ達が産まれる前だから。グレモリーちゃんは当時と全く変わらないから羨ましいわ」
「ま、そういう仕様だから仕方ないっしょ」
「そうね。それに私という存在は、ユリュテ達やビルテ達、その子供達の中に永々として受け継がれて行くのだから、歳を取るのも悪くはないわ」
ディーテ・エクセルシオールは呟きました。
「それは、そだね」
グレモリー・グリモワールは同意します。
ユーザーは不老不死でした。
しかしユーザーは寿命がない替わりに繁殖力がありません。
一方でディーテ・エクセルシオールなどの人種NPC達は、寿命という限りある生命を定められている替わりに、自らの血を分けた子孫を残せます。
ディーテ・エクセルシオールの言葉は、そういう意味なのでしょう。
しばらくグレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオールは思い出話に花を咲かせていました。
その間に私は自分の姿をした空アバターを【収納】に回収します。
「そろそろ移動しても……」
「あ、悪い悪い。ついつい観入っちゃったよ。何だか、ついこの前の出来事のようだけれど、とても懐かしいような気もする。不思議な気分だよ」
グレモリー・グリモワールは多少感傷的になっている様子で言いました。
「転移座標を設置したのですから、またいつでも来られます」
「そだね」
グレモリー・グリモワールは微笑んで頷きます。
私達は【転移】しました。
・・・
【ワールド・コア・ルーム】。
「ミネルヴァ。空アバターを回収して来ました。早速同期してしまいましょう」
私は【収納】から空アバターと、【神位装甲】の【ドラゴニオン】を取り出して言います。
「わかりました……【同期】」
ミネルヴァは空アバターに同期しました。
ミネルヴァが【同期】した私の姿を模った空アバターは【ドラゴニオン】を装着します。
「ミネルヴァ。どうですか?」
「問題ありません」
【ドラゴニオン】姿のミネルヴァは言いました。
「厳ついね……」
グレモリー・グリモワールが【ドラゴニオン】形態のミネルヴァを見て感想を述べます。
通常の【ドラゴニオン】は【竜】型の鎧ですからね……。
「【ドラゴニオン】は皮膚と同化させられます」
【ドラゴニオン】形態のミネルヴァは、外装を皮膚と同化させ、中身の空アバターの姿になりました。
「ミネルヴァ。ビジュアルを変更して下さい。自分の姿をしたミネルヴァと対話するのは、何だかおかしな気分になりますので……」
「わかりました。では、アバターの容姿パターン・リストから【人】形態のモブNPC女性のデフォルト1を選択しキャラ・メイクします」
ミネルヴァ・アバターは言います。
すると私の姿をしたアバターは、女性のモブNPCの姿に変わりました。
「へえ、【ドラゴニオン】て、こんなんして外見を自由に変えられるんだ?」
グレモリー・グリモワールは言います。
「はい。人種NPCの容姿パターン・リストからであれば、どのような姿にも変われます。ディーテさんは【名持ち】ですし、グレモリーさんのキャラ・メイクは公式MODを用いたオリジナルなので無理ですが」
ミネルヴァ・アバターは言いました。
「ミネルヴァ。これからどうしますか?基本的に私とあなたのアバターは別行動を取る方がゲームマスター本部としての業務効率が高まると考えていますが?」
「そうですね。直近は【ストーリア】と【七色星】各軌道上の【転移】中継ステーションの建造に従事しようかと思います。それが終わり次第、北米サーバー(【魔界】)に向かい【魔界】平定戦の事前準備を行って、チーフ達が現地に着陣する段取りをしたいと思いますが宜しいですか?」
ミネルヴァ・アバターは訊ねます。
「妥当ですね。では、一緒に【ストーリア】の軌道上まで向かいましょう」
「わかりました」
ミネルヴァ・アバターは頷きました。
ミネルヴァ・アバターは【コンシェルジュ】達を指揮して必要な資材を大量の【宝物庫】に詰め込みます。
ミネルヴァ・アバターの準備が完了したので、私達は【転移】しました。
・・・
惑星【ストーリア】軌道上【転移】中継ステーションの基礎フレーム。
「では、チーフ。行ってらっしゃい」
ミネルヴァ・アバターは言いました。
「行って来ます」
私達は、ミネルヴァ・アバターと分かれて【転移】します。
・・・
【七色星】。
【老婆達の森】拠点。
私達は宇宙ホッピングをして【七色星】にやって来ました。
トリニティとカリュプソとガブリエルが迎えてくれます。
彼女達は夜食を食べていたようですね。
「グレモリー。あなたは【ストーリア・マップ】のユーザーですから【パンゲア】には渡れません。ここで留守番です」
【ストーリア】のユーザーであるグレモリー・グリモワールは、運営の【排除・プログラム】によって【パンゲア】に渡った瞬間【ストーリア】に強制転移させられてしまう筈です。
「それはわかっている。私は【グライア】とかっていう【ストーリア】にはいない【知性体】と会って話したいだけだから。私は初めから【七色星】が目的なんだよ」
グレモリー・グリモワールは言いました。
グレモリー・グリモワールが私に合流したのは、それが目的でしたか……。
「いやいや、今夜はスケジュールが立て込んでいるので後日にしましょう。色々あって予定が押していますので」
「ノヒトの手は煩わせないよ。ノヒトは仕事をして来たら良い。【七色星】の探索は私らだけで行くから」
「グレモリー、ヒモ太郎は?」
「ヒモ太郎?アイツはフェリシアとレイニールの護衛に置いて来たけれど?」
「ならば許可出来ません。【七色星】については未だ情報が少ないので、【神格】の守護獣であるヒモ太郎を欠いた状況のグレモリー達だけでは危険があるかもしれませんので」
「私は、そうは思わない。だって、【七色星】って【創造主】が創った【マップ】でしょう?だとするならゲーム・バランス的に過剰に難易度が高いって事はあり得ないっしょ?未知の【マップ】やイベントの初見プレイが、ある程度危険なのは当たり前の事で、仮に何かあってもユーザーの自己責任だしね。それに私は万が一があっても【復活】が可能。私の【盟約の精霊】である竜之介は不死身の味方ユニットだし、ラーズとランドも【不死】属性だから死ぬ事はない」
それは正論ですが……。
「ディーテさんは、そうではありませんよ」
ディーテ・エクセルシオールは死亡してしまった場合に【復活】が出来ません。
「ディーテは、このノヒトの拠点で待っていてもらうよ」
ディーテ・エクセルシオールは既に了解しているのか黙って頷きます。
何だかグレモリー・グリモワール達は事前に算段が決まっていたようですね……。
「だとしても心配です」
「大丈夫だよ。嫌な予感はしないしね。【グライア】達ってのは【死霊術士】なんでしょう?この世界の【死霊術】に関して私は誰かに後れを取るとは思わない。それにランドとラーズは【不死者】特効の【才能】持ちだし、このパーティ構成で太刀打ち出来ないとするなら、そもそも難易度がバグっている。あの【創造主】が、そんな不細工な設定はしないっしょ?つまり未知の【マップ】だとしても初見プレイの注意点を踏まえて行動すれば問題はない。てか、既にミネルヴァさんから私が空アバターの回収の件に協力した事の見返りとして【グライア】達とのエンカウントの許可を貰ってある」
グレモリー・グリモワールは言いました。
ミネルヴァ……。
私は【念話】でミネルヴァに訊ねます。
今グレモリーさんが説明した通りの内容を妥当と判断して許可をしましたが……ゲームマスターの業務上何か問題がありますか?
ミネルヴァは【念話】で答えました。
まあ……ゲームマスターの業務上の問題があるかと問われれば、問題はありませんが……心情的には心配です。
私は【念話】で言います。
わかりました……では、グレモリーさんに与えた許可を取り消します。
ミネルヴァは【念話】で言いました。
いや……致し方ありません……私も同意しますよ。
私は【念話】で言います。
ゲームマスター本部の立場では、ミネルヴァの姿勢が正しい対応でした。
基本的に私達運営は【世界の理】に則っている限り、ユーザーが自己責任の上で決断した自由意思を制限出来ません。
「わかりました。グレモリー、十分に注意をして慎重に行動した上で、何か不測の事態が発生した時には速やかに【ビーコン】を発報して下さい」
私はグレモリー・グリモワールに許可を与えました。
「オッケー。ま、問題ないっしょ。【グライア】達に話が通じなさそうなら無理せず撤退して来るよ」
グレモリー・グリモワールは言います。
「トリニティ。あなたはグレモリー達に同行して危険があれば排除しなさい。カリュプソとガブリエルは拠点でディーテさんの護衛です」
「仰せのままに致します」
「畏まりました」
「了解です」
3人は答えました。
「トリニティさんが一緒なら【グライア】達がどんだけ強くたって、まず負けはないっしょ?宜しくね」
グレモリー・グリモワールは言います。
「マイ・マスターのご命令ですので、グレモリーさん達を危険な目には遭わせません」
トリニティは言いました。
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