第931話。神々のイリディセント上陸。
【七色星】の軌道上。
「ふむ。これはガスのようにも水面に浮かぶ油膜のようにも見えるが厚みはない。然して内部に入ってみると……ガスや膜状のモノなどは全く視認も知覚も出来なくなる。明らかに魔法的なギミックではあるが、魔力反応などは全くない。何ともはや不思議なモノじゃ」
ソフィアは惑星【七色星】を覆う【認識阻害】の層に顔を突っ込んだり出したりしながら言いました。
「【創造主】が施した魔法……いいえ、これはオブジェクトと呼ぶべきかしら?」
リントが言います。
「どういう理屈で【認識阻害】の効果を発揮しているのかが皆目わからないので、この強力な【認識阻害】のギミックを僕達が再現して利用する事は不可能ですね」
ファヴが言いました。
「【創造主】が創り出したモノが私達には解析不能なのは今更さ。それは……そうあるべし……として創り出された……永久不明事象……として飲み込んでしまう他はないのさ」
ユグドラが言います。
「ノヒトも時々そういう訳のわからぬ事をするのじゃ。狡いのじゃ」
ソフィアが言いました。
「ノヒトは【創造主】の御使でござります故、存在それ自体が私達とは根源的に異なるのでござりましょう」
ニーズが言います。
「【調停者】もまた世界の法則から逸脱した不規則存在という訳だな」
ヨルムンは頷きました。
「うむ。ノヒトのように訳のわからぬ力を行使する狡っこをする奴がおると、我の至高の叡智を以ってしても完璧な計算が狂わされ想定外の要素となって厄介なのじゃ」
ソフィアは言います。
……酷い言われようですね。
ただし私は【ストーリア】の神々の好奇心や探究心や愚痴を無視して、真面目に仕事をしていました。
【転移】中継ステーションの基礎フレームを構築しなければいけません。
「良し、出来ました。さあ、みんな【七色星】に降りますよ。【転移】を使いますので、【認識阻害】層の内側に入って下さい」
「うむ。未知なる場所の冒険は楽しみじゃ」
ソフィアが言いました。
私達は拠点に向かって【転移】します。
・・・
【七色星】のメガラニカ大陸中央領域【ゴルゴネイオン】。
【老婆達の森】の拠点。
私達は【七色星】の地上に降りました。
未知の場所にワクワクすると同時に、土地勘がないので不安な気持ちもあります。
警戒の為にサーチ半径は広げておかなくてはいけません。
【七色星】出身のNPCであるカリュプソから現在ミネルヴァが情報共有を行なっている最中ですが、カリュプソが【七色星】の【オーバー・ワールド】で活動していた期間が短く、またカリュプソは【遺跡】の【徘徊者】だったので【オーバー・ワールド】についての知識は限定されたモノです。
カリュプソから得られた【七色星】の地理は、現在私達がいる【老婆達の森】は【ゴルゴネイオン】という国の中にあり、【ゴルゴネイオン】は、とある大陸の中央国家として存在していたという事。
カリュプソが【七色星】にいた時に活動していたのが、この【ゴルゴネイオン】を含む、とある大陸……つまりメガラニカ大陸なのだとか。
カリュプソが【七色星】で活動していたのがメガラニカ大陸だったので、予め【マッピング】が行われており、私達と初めてこの森に降り立った時点でカリュプソには地名などがわかったのです。
「とりあえず、この拠点の近く……【球体隔壁】の内側での自由行動を許可します。私の【球体隔壁】の中にいれば危険はないと思いますが、一応周囲に警戒はしておいて下さい。また【七色星】は未知であるという前提で行動して、良くわからないモノを手に取ったり食べたりしない事。もしも此方の現地生命体と遭遇しても、いきなり攻撃を仕掛けたりせず、最初は平和的に邂逅が図れるように配慮して下さい。みんなが【ストーリア】において敬意を払われて然るべき存在であるという事を【七色星】の原住生命体は知りません。ですから多少の無礼などは大目に見てあげ、相手を怖がらせないように、こちらが譲る必要があります」
私は一同に注意事項を説明しました。
「そんな事は今更説明されずとも十分にわかっておるのじゃ。ノヒトは、我らを一体誰じゃと思っておるのじゃ?守護竜とは万知と万能を司る最上位の【神格者】なのじゃ」
ソフィアが言います。
私は、あなたの行動が一番心配なのですけれどね……。
「【七色星】においても【神格】、【聖格】(【真祖格】)、【人格】という【ストーリア】の生命位階と同じ区別が定義され存在しているのですよね?」
ファヴが訊ねます。
「はい。それはカリュプソの記憶をミネルヴァが情報共有してわかっています。ただしカリュプソが【七色星】の【オーバー・ワールド】で活動していたのは数百年昔の事で、その期間自体も短かったので現在も【七色星】のコミュニティで位階の概念が受け継がれているのかはわかりません」
一同は皆で列を為してゾロゾロと歩き始めました。
私は、その間に拠点の改修工事を行います。
今後この拠点を仮の陣地ではなく永久要塞とするなら、それなりの快適性も向上させる必要がありますからね。
「ふむ。一見して森の木々や草などは【ストーリア】のモノと変わらぬようじゃな……ふむふむ……」
ソフィアが言います。
「宇宙空間の真空と無重力によって物理的に隔絶された2つの惑星で、植生が同じになるのは少し奇異にも思えますわね?」
リントが言いました。
「【創造主】が……そのようにして創ったから……でしょうね」
ファヴが推測します。
「おかしいな……」
ユグドラが怪訝な表情をして呟きました。
「どうしたのでごさりますか?」
ニーズがユグドラに訊ねます。
「う〜ん。私は【ストーリア】においては全ての植物と思念波を相互に共有可能なのだが、此方の植物とは思念波を共有出来ない。【七色星】の植物は、【ストーリア】の植物とは違うようだね」
ユグドラは多少困惑気味に答えました。
「それは例えば【七色星】の植物を【ストーリア】に植えたら、あるいは逆に【ストーリア】の植物を【七色星】に植えたらどうなるのでごさりますか?」
ニーズが訊ねます。
「どうやら【ストーリア】と【七色星】の、それぞれに領域が指定されているようだね。実はみんなの身体や衣類に付着している微細な植物片などからも思念波は出ている筈なのだが、【七色星】に来て以来、その反応が消えたのだよ。私が植物に対して持っている神としての権能は惑星【ストーリア】に限定されたモノであるらしい。つまり【七色星】の植物を【ストーリア】に持って行けば、おそらく思念波を共有可能になるのだろう」
ユグドラは推定しました。
「ならば、そこいらに生えている草を鉢植えにでもして持って帰れば良い。【完全記憶媒体】のユグドラならば、【七色星】の歴史などが詳らかにわかるのじゃ」
ソフィアが提案します。
「いや、それは無理なのさ。私が植物を通して見聞き出来る情報はリアルタイムのモノに限られる。過去の事象を植物の記憶としては読み取れないのだよ」
ユグドラは言いました。
「何じゃ、【完全記憶媒体】とは完全と謳う割には存外に不便じゃの」
ソフィアは身も蓋もない事を言います。
「そういう仕様なのさ。役に立てずに申し訳ない」
ユグドラは苦笑いしました。
「ミネルヴァ様によって……概ね危険はない……との推定はされていますが、検疫などの事を考慮するなら【ストーリア】と【七色星】の植物を相互に移植するなどの試みは慎重に行う必要があります。生態系に影響を及ぼさないとも限りませんので」
トリニティが一同に注意喚起します。
「確かに、此方には【ストーリア】には存在しない植物があるようだよ」
ユグドラが言いました。
「どれがじゃ?」
ソフィアがキョロキョロと辺りを見回しました。
「例えば、これさ。この苔は【ストーリア】のヒカリゴケに近似するモノだと思う。だが【ストーリア】のヒカリゴケとは明らかに違う」
ユグドラが地面に生えている苔を示して言います。
「どう違うのでござりますか?」
ニーズが訊ねました。
「ヒカリゴケとは洞窟の中などてエメラルド色に光って見える特徴がある。ただし、それは光反射という仕組みでヒカリゴケ自体が発光している訳ではなく、ヒカリゴケの細胞が暗所に入ってくる僅かな光を反射する事によって発光しているように見えているだけなのさ。だが、この苔は完全に自力発光している。生物発光は有機化合反応で、【ストーリア】においては動物、魔物、昆虫、微生物、菌類などに見られるが、基本的に植物は自力では光らない。この苔は特別だね」
ユグドラが説明します。
「なるほど。未知の新種という訳じゃな……」
ソフィアは頷きました。
「生物発光はほとんど発熱しないので、この苔から発光物質を抽出出来れば、エネルギー効率の高い光源として利用出来るかもしれませんね?」
ファヴが言います。
「ふむ。それに【七色星】由来の動植物を利用して【ストーリア】既存の動植物に掛け合わせて品種改良すれば、農業や畜産業に有益かもしれぬ」
ソフィアが言いました。
「さっきトリニティが言ったように生態系に影響が及ばないように検疫体制を整備して管理された施設で実験を行う必要があるけれど、確かに【七色星】固有の動植物の利用価値は高そうね」
リントが言います。
「私が命じてエクセルシオール家に管理・運営させている【ザ・ライフ・バンク】にも【七色星】由来の植物の種苗や、動物の受精卵などを保存したいものだな」
ユグドラが言いました。
ディーテ・エクセルシオールは世界中で様々な植物の種苗や動物の受精卵などを大量に収集し保存する事をライフワークとしていたそうです。
【世界樹】内亜空間フィールドにある保管施設には、膨大な量の種や苗や卵などが永久保存されているのだとか。
その保管施設の名称が【ザ・ライフ・バンク】と呼ばれています。
ディーテ・エクセルシオールは【ザ・ライフ・バンク】に保存されている種や苗や卵を活用して、多くの動植物が魔物のスタンピードによって絶滅してしまったサウス大陸の生態系回復事業などに協力してくれていました。
あの【ザ・ライフ・バンク】は、そもそもユグドラがディーテ・エクセルシオールに命じて始められたそうです。
ユグドラによる【完全記憶媒体】ならではの着眼点なのかもしれません。
「この森に住むという【グライア】なる【知性体】にも会ってみたいの。ミネルヴァによると、【敵性個体】である可能性が高いとの事じゃが?」
ソフィアが言いました。
「詳細については現在調査中ですが、戦闘力は【超位超絶級】で【死霊術】を使う事がわかっています」
「【超位超絶級】か……。我らにとっては脅威ではないが、そのような胡乱なる【知性体】が同じ森に生息していて、カルネディアが無事で良かったのじゃ」
ソフィアは言います。
「カルネディアが生活していた【誕生の家】には【創造主】の【結界】があったので、その中にいる限りは安全です。またカルネディアによると【グライア】達はカルネディアを襲わないそうです。【グライア】達がカルネディアに害意を向けない理由はわかりません」
「ふむ。【グライア】を捕まえて喋らせれば手っ取り早いじゃろう?今から捕まえに行くのじゃ」
ソフィアは言いました。
「まずは平和的に邂逅を試みますよ。それが無理そうなら自衛の為の実力行使は止むを得ませんけれどね。それからグレモリーが同じ【死霊術士】として【グライア】に興味があるらしいので、グレモリーがいる時に会いに行くつもりです」
「なるほど。確かに【グライア】が【死霊術士】であるならば、【死霊術】の第一人者たるグレモリーの意見は是非とも聴いてみたいところじゃな」
ソフィアは頷きます。
「【誕生の家】なる施設にも訪れてみたいものだね」
ユグドラが言いました。
「確かに、赤ん坊がスポーンするだなんて奇想天外なギミックは見てみたいわね」
リントが言います。
「今日はスケジュール的に時間がありません。また後日改めて行きましょう」
「うむ。致し方あるまい」
ソフィアは頷きました。
「では、そろそろ【パンゲア】に向かいますよ」
私は声を掛けました。
一同は頷きます。
「トリニティとカリュプソとガブリエルは拠点に留守番です。何かあれば連絡を。緊急時には【ビーコン】を発報して下さい」
「畏まりました」
「了解しました」
カリュプソとガブリエルは言いました。
「仰せのままに……」
トリニティは多少不本意そうに言います。
現在のトリニティは【世界の理】的にユーザーと判定される認定ユーザーになっています。
彼女が【パンゲア】に行った瞬間に【ストーリア】の【マップ】に強制的に排除されてしまうと予測されていました。
どちらにしろトリニティは【パンゲア】には付いて来られません。
ゲームマスター本部の3人を【七色星】に残して、私と【レジョーネ】は【パンゲア】に【転移】しました。
お読み頂き、ありがとうございます。
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