第93話。グレモリー・グリモワールの日常…13…周期スポーン。
覚醒後
名前…フェリシア
種族…【エルフ】
性別…女性
年齢…13歳
職種…【弟子】
魔法…【闘気】(未習得)、【風魔法】(未習得)、【回復・治癒】(未習得)、【気象魔法】(未習得)
特性…【グレモリー・グリモワールの使徒】
レベル…4
名前…レイニール
種族…【エルフ】
性別…男性
年齢…10歳
職種…【弟子】
魔法…【闘気】(未習得)、【風魔法】(未習得)、【防御魔法】(未習得)、【回復・治癒】(未習得)
特性…【グレモリー・グリモワールの使徒】
レベル…3
深夜。
私は、湖畔に立っていた。
【エルダー・リッチ】200体、【腐竜】8体の最強布陣で、【湖竜】を待ち構える。
【ゾンビ】200体は集落の中で防衛。
【スケルトン】400体は、城壁の上で弓矢を構える。
【ゾンビ】、【スケルトン】は、対【湖竜】用の戦力ではない。
私が、【湖竜】と戦っている間に、他の魔物が村の中に入り込まないようにする為に念の為の出動だ。
本来なら、【スケルトン】達は、戦闘飛空挺のクルーや、重砲兵隊として最適化されており、歩兵ではない。
が、肝心の戦闘飛空挺や魔導重砲が、こちらにない以上、贅沢な事は言っていられない。
使える物は、骸骨でも、鍋の蓋でも、何でも使うだけ。
もちろん、キブリ隊も堀で迎撃態勢を取っていた。
キブリ隊は……湖底のスポーンエリア周囲に展開して、先制攻撃を加える……と志願してくれたが、それでは、キブリ達に被害が出る、良くて半壊、最悪は全滅もあり得る。
そんな事は、やらせられない。
あくまでも、味方の損害を最小限に留めて勝ちきる。
それが、戦争、というモノだ。
私は【魔法のホウキ】に跨り、浮かび上がる。
そろそろ、時間か……。
私は、上空高く舞い上がった。
すると【竜の湖】の湖底が眩く輝き、私の【マップ】に真っ赤な光点が出現する。
【湖竜】は、身体をくねらせ尻尾を振りながら、垂直に泳ぎ、湖面から飛び出した。
刹那!
【エルダー・リッチ】100体が最大出力で【排出】を発動。
【湖竜】の強大な魔力を散逸させる。
同時に、【エルダー・リッチ】100体が、それぞれ、手持ちの最強魔法を放つ。
【湖竜】は、怒りの咆哮をあげた。
勝った。
鳴き声をあげる暇があったら、【ブレス】の一発でも吐けば良かったのに……。
生まれたての魔物は、戦い慣れていない。
もはや、【湖竜】の死は決まった。
十二分に魔力を収束させた、【腐竜】8体が【腐竜の咆哮】を吐く。
直撃!
【湖竜】は、生まれて初めての恐怖を感じたに違いない。
アンデッド化して、魔法効率が弱まっているとはいえ、生前は【古代竜】だった【腐竜】8体のブレスだ。
効かないはずはない。
【湖竜】の強固な【魔法防御】を剥がした。
「【重力崩壊】、【重力崩壊】、【重力崩壊】」
私は【超位闇魔法】を連発。
直撃!
【湖竜】の【防御】を剥がし、極大ダメージが入った。
そして、今【湖竜】は丸裸……。
次で、トドメだ!
が、【湖竜】は、【超位】の【対魔法結界】を自分の周囲一帯に張った。
ちっ、さすがは、【古代竜】。
知恵が回る。
これで、双方共に魔法は、行使出来ない。
【湖竜】は、こちらの攻め手が魔法偏重だと読んで、魔法を封じ、ダメージの回復を優先した。
既に、傷が、回復し始めている。
「甘ーんだよっ!この、ドグサレ蜥蜴野郎がぁっ!」
私は、上空から加速をつけて、【魔法のホウキ】で真っ逆さまに急降下する。
超高速。
幾ら非力な魔法職でも、この加速で一撃を食らわせれば、魔法の防御がない敵なら、致命傷を与えられる。
すれ違い様、私の唯一の近接武器、【神の遺物】の【死神の大鎌】で、【湖竜】の首をズバッと一閃。
私は、何故か【湖竜】の身体に激突し、そのまま、湖にボチャン……衝撃を受け、視界が真っ黒になった。
甚大なダメージを食らう。
不味いな。
私、防御力、紙だった……。
「グレモリー様ぁーーっ!」
フェリシアとレイニールの悲痛な叫びが、薄れ行く意識下で、聞こえる。
頭の中に直接聞こえる声だ……。
私は、走馬灯のように流れる情報の波を見ながら、湖底に沈んで行った。
・・・
「グレモリー様、起きて下さい」
「聖女様、しっかり」
私は、目を覚ました。
生きていたか……。
私の側で、難しい顔をしたピオさんが、私に繰り返し【治癒】をかけている。
ピオさんは、私の心臓を、どうにかしている。
ああ、心臓が止まっていたのか……。
ぐあっ、身体が痛い……。
全身打撲と、体中の骨も内臓もグチャグチャだ。
片目は失明しているし、たぶん、顔面も潰れている。
脳の挫傷が酷い……これは致命傷になり得るね。
私は、瀕死の状態。
ギリギリの間一髪で、【エルダー・リッチ】達を呼び寄せ、【治癒】をかけさせた。
危ね〜、死にかけたよ。
「ゲボッ、おえーっ……ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ……」
身体を起こした私は、大量の水を吐いた。
「「グレモリー様ぁ……」」
フェリシアとレイニールが抱きついて来た。
憔悴したピオさんが、クラッと倒れかける。
おっと。
私は、ピオさんに、【回復】をかけた。
ピオさんは、魔力が枯渇するまで、【治癒】を、かけ続けてくれたらしい。
「グレモリー様なら、一瞬でも、意識が戻れば、魔法で何とかなさるだろう、と思いましたので……」
「ピオさん、ありがとう。生命の恩人だね」
「いいえ、何ほどの事もありません」
・・・
現状確認。
村に被害はなし。
私の事は、キブリ隊が潜水して、地上に引き上げてくれたらしい。
あとで、ご褒美の【湖竜】の肉をあげよう。
「【湖竜】は?」
「沈みました。おそらく、絶命せしめたと、思われます」
ピオさんが言う。
確かに、魔力反応はない。
仕留めたか……。
「そっか。キブリ、【湖竜】の死体と、【魔法のホウキ】と【死神の大鎌】と、あと【漆黒のトンガリ帽子】と【魔女のトンガリ靴】をサルベージしといて」
私は、パスを通じて、キブリに指示した。
キブリから……ガッテンだ……という思念が伝わって来る。
よし、とりあえずは、これで良し。
私は、ヨロヨロと立ち上がった。
「グレモリー様、どちらに行くのですか?」
「みんなを回収に。私の大事な手足だからね。放っぽり出したままには、してはおけないよ」
私は、ピオさんとスペンサー爺さんに両肩を抱えられながら、グレモリー軍団を回収した。
軍団は、無傷。
良かったよ。
すると、キブリ隊が私の武器やアイテムや、【湖竜】の死体を引き上げていた。
うん、アイテム類にも、ロストはなし。
【湖竜】の首に【死神の大鎌】がザックリ食い込んでいた。
ああ〜、切断しきれなかったか……。
この衝撃のせいで、私の手首は、瞬間的に折れてしまい、すれ違うはずが、角度が変わって、【湖竜】に激突してしまったのか……。
【湖竜】……生身でも硬え〜。
長柄武器の熟練値上げとかないと、ダメだね。
「スペンサーさん、大鎌、扱える?」
「ええ、使うだけならば……」
「じゃあさ、【湖竜】の首を切断して、キブリ達のご褒美にあげてくれない?」
「わかりました」
スペンサー爺さんは、【湖竜】の首に突き刺さったままの【死神の大鎌】に手をかけ、ザクリ、ザクリ、と首を切断して行った。
さすが【剣豪】、刃物の扱いが上手いね。
「グレモリー様、骨にぶつかって刃が止まっておりました。骨の継ぎ目に入れば、綺麗に切断出来たはずです」
なるほど。
でも、外から見て骨の継ぎ目なんか、絶対に、わからないよ。
それが、達人の心眼なのかな?
私は、【理力魔法】で【湖竜】の頭を、持ち上げて、それを堀の中に投げ込んでやった。
「キブリ、みんなで分け合ってお食べ。骨と牙は、後で回収するから、プールサイドに並べておいてよ」
キブリは、ヒレを上げて、ラジャー、のポーズ。
【湖竜】を【宝物庫】にしまって、一段落。
意識が弛緩して、私は、急に身体から力が抜けた。
こりゃ、少し、睡眠が必要だね。
無理もない。
全身グッチャグチャの瀕死の重体からの復活だ。
身体のパーツが、そっくり新品に交換されたようなモノ。
まだ操縦に慣れていないのだ。
「私は、休むね。みんなも、ありがとう。もう、寝て下さい」
私は、【避難小屋】のベッドに潜り込んだ。
・・・
9月16日。
早朝。
いつもルーティン。
異常なし……いや、村人さん達の視線が変わった。
以前は、自分達を庇護してくれる道楽者という視線だったけれど、今朝は、全員、私を拝むようにして恭しく礼を執っている。
昨日までは、白っぽいマーカー反応の村人さんも結構な数がいたけれど、今朝は、全員、真っ青。
これは、昨晩の戦闘を見て、私の力を認めた、という事なのだろう。
忠誠、心服、信仰……そして畏怖。
そんな、思念が入り混じった視線だった。
ま、私は変わらない。
身内は守り、敵はぶっ飛ばす。
それしか出来ないし、やるつもりもない。
見回りの最後に、キブリ達への餌やり。
レイニールの投げる魔物の肉をキブリ達は、キャッチ。
【湖竜】の肉でなくてゴメンよ。
あれは、まだ解体していないんだ。
プールサイドには、すっかり白骨化した【湖竜】の頭部があった。
「これは、武器や武具に加工すれば、一財産になりますね」
気配を消して近付いて来た、ピオさんが話しかけて来る。
「おはよう。昨晩はありがとう」
「おはようございます。とんでもない。【古代竜】を人種が倒す瞬間を、この目で見られる日が来るとは。グレモリー様には、驚かされます」
・・・
朝食後。
私は、商業集落の内装工事に着手した。
まずは、昨日到着した人達から……。
そうこうしていると、駅馬車が到着。
50台体制。
駅馬車隊の隊長さんは……今朝は、お客と荷物が多いので全台投入して来た……と言う。
そう、移住者の本隊がやって来たのだ。
移住者の入村手続きは、アリスとグレースに任せておく。
治療を希望する患者さん達もいた。
今日は、20組。
1人だけ、重篤な患者さんがいた。
腸閉塞。
それ以外は、ほとんど子供とお年寄り。
扁桃腺を腫らせたり、重い物を持って腰を傷めたり、という程度。
問題なく治療が完了。
聖堂からの、病院スタッフも到着。
彼らには、早速、病院内の設営に取り掛かってもらった。
ベッドなどは、トリスタンが確保してくれた物が、昼の駅馬車から、順次運ばれて来るはず。
丸投げしておけば良い。
冒険者ギルドの職員で、ヘザーさんと名乗る人物が、やって来た。
どうやら冒険者ギルドの出張所を、商業集落に開設してくれるらしい。
ヘザーさんは、出張所の所長。
事務方専門で、戦闘経験はない、との事。
正直助かる。
冒険者がいれば、湖畔から【魔法粘土】を採って来たり、森の浅い場所で薬草類を採取したり、森から出て来た魔物を討伐したりと、村人さんを危険な仕事に従事させなくても良い。
それを、ワザワザ私が出張ってやるには、負荷が軽過ぎて労力が勿体ないからね。
ヘザーさんは、冒険者ギルドの建物に備え付けてある、完全無菌化された広大な解体施設と、巨大な冷凍冷蔵倉庫に、驚いていた。
【イースタリア】はおろか、【アヴァロン】の冒険者ギルドの解体設備より大規模らしい。
当然だ。
私は、日々、討伐される魔物の解体と保管を、この出張所だけで賄う事を想定している。
村の獲物の量は、このくらいはなければ、収容できないだろう。
ヘザーさんは、冒険者の管理を主眼に据え、買取業務や解体などは、【イースタリア】で、と考えていたらしい。
「すぐに、応援を呼びます。所長も、私などではなく、都市のギルマスを経験なさった方を呼んだ方が……」
ヘザーさんは言った。
「私としては、ここの責任者には、あなたを指名します。上層部にも、それを、伝えて下さい。ヘザーさんの下で働く、部下と解体職人を呼び寄せれば、事足りるでしょう」
私は、冒険者上がりのギルマスより、事務方上がりのギルマスの方が信用出来る……ような気がする。
偏見かもしれないけれど……。
・・・
昼食後。
私は、商業集落の内装工事を仕上げてしまう。
全てを終わらせて、大通りに立って眺めた。
活気がある。
うん、町らしくなったね。
病院の方を様子見。
問題ない。
石鹸を販売したい?
もちろん、どんどん売ったら良いよ。
病院の1階の片隅に、薬局を設置。
ここで、石鹸やら、薬やら、ポーションやら、を売ってもらう。
購買所も造ろう。
病院に隣接した建物の中が、ポーションと薬剤の製造施設だ。
こちらは、既に稼働中。
未明から起き出して、【湖竜】の血液だけは確保しておいた。
ポーションの材料と、新しい畑の土壌改良剤とする分だね。
物知りのピオさんに聞いたら、【古代竜】の血液を畑の肥料にするなら、一気にやるより、血液を水に希釈して、少しずつ月に1回程度の頻度で、やる方が効率が良いらしい。
なるほど、私は、原液を一気に撒いちゃったからね。
勿体ない事をした。
ポーション工場では、複数の【エルダー・リッチ】を張り付けて、日産100本の【ポーション】を作る。
それとは別に、私が日産10本の【ハイ・ポーション】を作る計画だ。
うん、村の経営は、本格的に動き出したね。
・・・
夕食時。
今日は、移住者の歓迎会。
集会所を増築して、集会場に格上げした建物で行う。
大急ぎで、さばいた【湖竜】の尻尾肉のステーキでおもてなし。
みんな、喜んでくれた。
「皆様、ご静粛に願います」
アリスが立ち上がって言う。
既存の村人さん達は、礼を執って傾注。
新規移住者は、何事か、という表情。
「この度、【ブリリア王国】国王マクシミリアン・ブリリア王陛下の裁可ありまして、この村は、正式に独立自治体として認証されました。【イースタリア】の下部自治体で、開拓村【サンタ・グレモリア】として、新たな一歩を記します。これから、村民全員で協力して、私達の村を、素晴らしい故郷にして行きましょう」
アリスは、言った。
うん、子供だと思っていたけれど、もうアリスは立派な為政者だね。
ん?
今、何か、おかしな言葉を聞いた気がする。
「アリス、【サンタ・グレモリア】とは?」
「はい。湖畔の聖女が庇護する村……聖女グレモリー様の村……【サンタ・グレモリア】でございますよ」
「いやいやいや、ないない。そんな、名前を付けて、私、どんだけ自己顕示欲が強いんだって周りから思われるでしょう?却下、却下」
「あのう、私に任せる、と仰って下さったので、この名前に致しました。王の裁可あっての命名でございますので、今更、却下は難しいかと……」
あ、そう。
やっちまった〜。
これ……村に自分の名前付けるだなんて、プププ……って、絶対、痛い奴だと思われるでしょ?
・・・
宴会が終わり、酔っ払い達が死屍累々の惨状を呈する頃、私は、村を見回した。
家々に灯りが灯り、人々の笑い声が聞こえる。
うん、良い村だね。
私は、これから村を発展させて行く事を、決意していた。
とりあえず、【湖竜】を解体しなくちゃね……。
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