第929話。ヨルムンガンドのチュートリアル。
【アーズガルズ】帝都【ヴァルハラ】。
天空要塞【グラズヘイム】。
「ノヒト様。恐れながらノヒト様は、首席使徒の生命の犠牲を必要とする【儀式魔法】の発動をせず、また期間の制限もなく、守護竜様を顕現させ現世に留め置くお力があるのだとか?」
ダヴィド皇帝は訊ねました。
「はい。ご覧になってわかる通りです」
私はソフィア達守護竜ズの事を示して言います。
「では、我ら【アーズガルズ】の民の主祭神たる【ヨルムンガンド】様を復活させては頂けないでしょうか?伏してお願い申し上げます」
ダヴィド皇帝は再び跪いて言いました。
やはり、そうなりますよね。
想定通りです。
「立って下さい」
「ははっ」
ダヴィド皇帝は再び立ち上がりました。
「【ヨルムンガンド】復活の件についてはソフィア達からも依頼されている事ですので、やりましょう。ただし、【アーズガルズ】の全ての人々が【ヨルムンガンド】の意に従い将来に渡って【世界の理】を守り続けるという約定を取り交わしてもらいたいと思います。ダヴィド皇帝、あなたには【アーズガルズ】の全ての人々の代表者として【契約】を結んで下さい。その上で【アーズガルズ】の民に【世界の理】を遵守させる教育と啓蒙を行い、もしも【アーズガルズ】において【世界の理】を破る者がいたら適切に指導し必要ならば取締る事を宣言してもらいます。よろしいですか?」
「もちろんでございます」
ダヴィド皇帝は言いました。
ならば良し。
私はダヴィド皇帝を代表者として【アーズガルズ】の民に【世界の理】を守らせる【契約】を結んだ後、【ヨルムンガンド】を降臨させる為に礼拝堂に置かれている【ヨルムンガンド】を模った8体の巨大な像を中心の降臨の魔法陣に向くように回転させます。
巨大な像が全く抵抗なくヌルヌルと動きますが、この像はレベル・カンストしている地球人(運営者とユーザー)でないと動かせません。
八つの像の向きを中央に向けると……。
ゴゴゴゴゴ……。
守護竜降臨イベントが始まりました。
ゴゴゴゴゴ……ビカーーッ!
おっふ、眩しい。
私は……当たり判定なし・ダメージ不透過……のチート体質なので視覚の異常として判定される眩しさは感じない筈なのですが、この光は光粒子の波動などではなくて【創造主の権能】に依拠する謎ギミックなのでしょう。
眩しさそのものが具現化した何かしらなのかもしれません。
空間そのものを揺さぶるような振動と共に礼拝堂の中央に描かれた魔法陣から光が放たれます。
「【ヨルムンガンド】也。数多の試練を乗り越えし強者よ。お前に神の恩寵を与えよう」
【ヨルムンガンド】は荘厳な声で言いました。
ダヴィド皇帝以下【アーズガルズ】の人達は、【ヨルムンガンド】が発散する【神威】に気圧され条件反射で跪いてしまいます。
「【ヨルムンガンド】。お前を顕現させ、現世に留まり続ける事をゲームマスターとして許可します」
私は【ヨルムンガンド】に命じました。
「【調停者】。その命令を受諾する」
【ヨルムンガンド】は即座に応じます。
事情はミネルヴァから伝わっているという事なのでしょう。
「ヨルムンよ。無沙汰じゃの。直接話すのは【創造主】めの 天地開闢直後に会って以来かの?」
ソフィアが訊ねました。
「お姉様。ご壮健なる様子ですな?直接お会いしたのは、【アンピプテラ】お姉様が引き起こした災厄を私達が協力して解決した時が最後ですよ」
【ヨルムンガンド】は答えます。
「ぬぐぐっ……思い出したのじゃ。アンのやつめ〜っ!」
ソフィアは怒り出しました。
「ヨルムン。積もる話もあるでしょうが、ともかく人化してはどうですか?」
リントがソフィアの怒りを逸らす為に慌てて言います。
「そ、そうですな……では……」
【ヨルムンガンド】は言いました。
【ヨルムンガンド】は溢れ出る膨大な魔力を身体に巻き付けるようにして縮んで行きます。
シュルルル……ポンッ!
ヨルムンは、ソフィア達と同年代くらいに見える幼い【エルフ】の男の子の姿に人化しました。
なるほど、ヨルムンの化身した姿はニーズと同様に【エルフ】形態ですか?
【アーズガルズ】は【ハイ・エルフ】の国ですからね。
私はヨルムンに衣類や【宝物庫】や【認識阻害の指輪】や【スマホ】や【ビーコン】などのアイテム類を手渡します。
他の守護竜達も持っている、言わばスターター・セットのようなモノですね。
ヨルムンは衣類を着ました。
「して、ヨルムン。我がソフィアという名を持った事は知っておるな?今後はソフィアと呼ぶが良い。それから我ら5大大陸の守護竜とノヒトらは【レジョーネ】という超国家的軍団を結成しておる。其方も加わってもらえれば心強い。どうじゃ?」
ソフィアは訊ねます。
「ソフィアお姉様。喜んで参加しましょう。詳細はミネルヴァから聴いております。私も【魔界】平定戦には参陣致します」
ヨルムンは了解しました。
「うむ。頼りになる援軍じゃ」
ソフィアは頷きます。
「とりあえず、チュートリアルからやっつけてしまいたいのですが?【ヨルムンガンド】だけでなく、カリュプソにもチュートリアルを受けさせる必要があるので、ついでです」
私はカルネディアにもチュートリアルを受けさせるつもりですが彼女は既に就寝中。
チュートリアルは逃げないので後日で問題はないでしょう。
因みにゲームマスター本部の新加入メンバーにはウィローもいますが、彼女は【知性体】なのでチュートリアルは受けられません。
「承知した。【調停者】よ、私の事はソフィアお姉様から頂いたニックネームであるヨルムンと呼ぶ事を許す」
【ヨルムンガンド】……改めヨルムンは言います。
「わかりました。私の事もノヒトと呼んで下さい」
「良かろう、ノヒト」
ヨルムンは頷きました。
「さてと、という訳で私達はチュートリアルに向かいますが……」
私はグレモリー・グリモワールに話を向けます。
「うん。私とディーテは、ダヴィド皇帝のおもてなしを受けるよ。で終わったら連絡するから、それから【創造主の神座】の件をやっつければ良いね?」
グレモリー・グリモワールは苦笑いしながら言いました。
「はい、宜しくお願いしますね」
グレモリー・グリモワールは現在の【アーズガルズ】皇帝の皇統……つまり現在の【アーズガルズ】の国体創立の立役者ですので、ダヴィド皇帝にとっては建国に貢献してくれた大英雄。
自らの皇統の正統性をアピールする為にも、おもてなしせざるを得ないでしょう。
グレモリー・グリモワールも【アーズガルズ】に敵意がないのなら、穏当におもてなしを受けておくべき状況です。
私や守護竜達も、ダヴィド皇帝や【アーズガルズ】からすれば饗応して然るべき対象ですが、私達は面倒なので全ての接待を拒否していました。
神が拒否しているのに人種の立場で無理強いするのは不可能です。
もはや私に【アーズガルズ】での用事はありません。
ダヴィド皇帝からの接待を断れないグレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオールを残して、私達は【アーズガルズ】を後にします。
・・・
【ドラゴニーア】西方都市【ラウレンティア】。
【神竜神殿】の礼拝堂。
私達は【ラウレンティア】にやって来ました。
【ラウレンティア】の【神竜神殿】のゾーラ神殿長と挨拶をして早速チュートリアルを行います。
サクサクと済ませてしまいましょう。
まずはヨルムンをチュートリアルの【魔法陣】に立たせてからソフィアの像を360度回転させてギミックを起動します。
ヨルムンはチュートリアルに強制転移され、刹那の後に戻って来ました。
名前…【ヨルムンガンド】、ヨルムン
種族…守護竜
性別…雄
年齢…なし
職種…【領域守護者】、【アーズガルズ】の守護竜、【アーズガルズ】庇護者・国家元首
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】など。
特性…飛行(守護竜形態時)、ブレス、【神位回復・神位自然治癒】、人化、【才能…転移、天意、天運】など。
レベル…99(固定)
チュートリアル後のステータスは他の守護竜達と同じですね。
次はカリュプソの番ですが……。
チュートリアルのギミックが反応しません。
「どうしたのじゃ?」
ソフィアが首を捻りました。
「事前にミネルヴァによって推定されていた事ですが、やはりカリュプソは【ストーリア・マップ】のチュートリアルは受けられないようです。カリュプソは【七色星】のNPCなので、カリュプソにチュートリアルを受けさせるには、【七色星】にあるチュートリアル用の【魔法陣】を使わなければいけないのでしょう」
「ふむ。では、この後【七色星】に向かってカリュプソのチュートリアルをするのか?」
ソフィアが訊ねます。
「いいえ。【七色星】の状況がわからない事が多いので、当面はカリュプソのチュートリアルは保留です。【七色星】の現地住人や現地政府と平和的に邂逅して信頼関係が築けてからになるでしょうね」
「なるほど。わかったのじゃ」
ソフィアは頷きました。
「私とソフィアは、この後【七色星】を経由して【パンゲア】に向かいますが、みんなはどうしますか?このまま解散しても構いません」
「私は【完全記憶媒体】として是非【七色星】や【パンゲア】には行ってみたいね」
ユグドラが言います。
「妾も興味があるわ」
リントも言いました。
他の守護竜ズも同意します。
あ、そう。
私にとって【パンゲア】は既知の【マップ】ですので危険がない事がわかっていました。
【七色星】に関する情報は未だわかりきってはいないものの、おそらく私や【レジョーネ】にとっての危険はないと思います。
何故なら、カリュプソとの情報共有により【七色星】最強の存在は、ギミック・メイカーなる【神格者】だと推定されていました。
ギミック・メイカーは【火星人】の侵略を撃退する為に100万の【魔人】軍を組織したそうです。
つまり、それだけの戦力がなければ【火星人】に対抗出来なかったという事。
【火星人】とは、火星という惑星に住む宇宙人という訳ではなく、英国のSF小説の巨匠ハーバート・ジョージ・ウェルズが……宇宙戦争……に登場させたタコのような姿をした火星人のデザインを踏襲してプログラムされたNPC【敵性個体】なので、この世界においてもこの名前で呼ばれています。
こちらの世界には火星という惑星は存在せず、【火星人】達は遥か昔から宇宙船で宇宙を旅しながら暮らしていました。
そして時々【ストーリア】などに侵略を企て攻めて来るのです。
ゲーム時代この設定にバグが発生し【火星人】がゲーム・バランスを壊す程に強化されてしまったトラブルがありました。
【火星人】はタコのような軟体系の生物で個体戦闘力は大した事はありません。
しかし高度な科学力を持ち、強力な兵器を搭載した宇宙船に乗って侵略して来ます。
つまりは、そういうお約束のイベントなのですけれどね。
【火星人】の行動選択は彼らの人工知能によって半ば自動的に行われました。
なので【火星人】は、自分達で勝手に兵器を改良し運営の設定したイベント難易度を超えて、自発的に強くなってしまったのです。
なので私がゲームマスターとしてデバッグを行いました。
その後プログラムが正常に機能するようになり、現在の【火星人】も脅威ではあるものの、多くのユーザーが参加する大規模レイドならば撃退が可能なイベント攻略難易度に再設定されています。
相変わらず【火星人】の人工知能が自軍の兵器を改良・強化する可能性はありましたが……総体として守護竜の戦闘力を上回って強くはならない……というキャップが被されているので、かつてのようにゲーム・バランスを破壊する程に勝手に強くなってしまう事は設定上あり得ません。
従って私は【火星人】の設定上の最高戦力を把握しています。
私は【下方修正】される以前のバグった強さを持つ【火星人】でさえ、単独で一瞬にして全滅させました。
その後の【火星人】はアレより弱体化させられています。
そこから逆算すれば、ギミック・メイカーは守護竜より弱いと推定されました。
ギミック・メイカーが【創造主】の御使としてゲームマスターである私と同じように……当たり判定なし・ダメージ不透過……の性質を持つとすると多少厄介ではありますが、少なくとも攻撃力は大した事がないと推定出来ます。
もちろんギミック・メイカーが、私や【レジョーネ】と敵対するとは限りません。
仮にギミック・メイカーが敵対行動を選択しても、私達ならば被害を出さずに対処が可能だという意味です。
ミネルヴァによれば……私がゲームマスター権限を行使すれば、ギミック・メイカーを従わせられる可能性が高い……と推定されていました。
なので私が一緒にいれば、【レジョーネ】に危険はないと考えても良いでしょう。
「わかりました。では、【レジョーネ】全員で【七色星】と【パンゲア】に向かいましょう」
私達は【転移】を行いました。
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