第92話。グレモリー・グリモワールの日常…12…魔法適性。
邂逅時点
名前…フェリシア
種族…【エルフ】
性別…女性
年齢…13歳
職種…【捨て子】
魔法…なし
特性…なし
レベル…4
状態異常…低位麻痺、低位衰弱
名前…レイニール
種族…【エルフ】
性別…男性
年齢…10歳
職種…【捨て子】
魔法…なし
特性…なし
レベル…3
状態異常…低位麻痺、低位衰弱
9月15日。
早朝の見回りルーティン。
農業集落が広くなり過ぎて、徒歩では回れなくなった。
なので、【魔法のホウキ】に、レイニールと2人乗り。
「しっかり、掴まっているんだよ」
「はい、グレモリー様」
レイニールは、私のお腹に腕を回して、ヒッシとしがみ付いた。
くすぐったい。
もう、ちょっと下にして欲しい。
私は、レイニールの組まれた手に触れた。
ん?
レイニールの身体から、強い魔力を感じる。
【魔力探知】ではなく、接触した肌から、直接魔力を感じた。
魔法適性が生えた?
レイニールは、【エルフ】。
魔法が使えても不思議じゃない。
【鑑定】すると……。
ふむふむ。
種族特性で底上げされている【風魔法】は、間違いなく覚醒しているね……。
それから、【防御魔法】。
たぶん、【回復・治癒】もありそう。
覚醒直後だというのに、多才だ。
ウチの子、天才かもしれない。
そっか。
これは、喜ばしい事だ。
姉のフェリシアの方も、後で確認してみよう。
「レイニール。前に魔法を覚えたい、って言ってたじゃない?今日から、魔法を教えてあげるよ」
「えー、本当?わーい」
レイニールは、無邪気に喜んでいた。
「魔法の、お勉強は、難しい事も、いっぱい覚えなくちゃいけないんだよ。頑張れる?」
「うん、僕ね。いっぱい頑張る。それで、グレモリー様みたいな立派な【大魔導師】様になるー」
レイニールは、屈託なく言う。
ふふふ、この姉弟は、本当に良い子達だね。
見回りの仕上げは、キブリ隊への餌やり。
レイニールは、【竜魚】一頭一頭に話しかけている。
「僕ね〜、魔法を教えてもらうんだよ〜」
レイニールは、魔物の肉を投げながら、【竜魚】の全個体に言っていた。
微笑ましい。
・・・
朝食。
私は、フェリシアの手を握った。
おお!
やっぱり覚醒している。
【風魔法】、【回復・治癒】、【気象魔法】。
多才だ。
姉弟揃って、NPCとしては破格のポテンシャル。
これは、本当に天才かもしれないよ。
それに、フェリシアの【気象魔法】。
こんなの、【才能】持ちでもなければ、ユーザーでも生えない魔法適性だ。
いや、本当に凄い。
でも、NPCなのが惜しいけれどね。
NPCは、ユーザーと比べて経験値のレベル換算率が桁違いに悪い。
NPCは、本当にゆっくりとしか育たないのだ。
でも、【エルフ】は長命。
これだけの魔法適性持ちなら、姉弟は、【ハイ・エルフ】にだって、昇格出来るかもしれない。
数百年後には、本当に【大魔導師】も夢じゃないよ。
「ほう、覚醒おめでとうございます」
ピオさんが言った。
ピオさんは、村での食事は、【宝箱】に持って来た携帯食で済ませている。
それを、不憫に思ったアリスが……よろしければ、ご一緒にいかがですか……と誘ったらしい。
あの携帯食は、栄養バランスが完璧な完全食品。
900年前にアルキメデス・ラボラトリーが発売して、全世界の冒険者ギルドで買える。
グレードが3種類あって、ピオさんが食べていたのは、最高級品だった。
あれ、【ドラゴニーア通貨】で1つ金貨1枚もする。
さすが世界銀行ギルドのNo.2……大富豪だね。
ま、今の私なら、そのくらいの出費、屁でもないけれど。
最高級品の携帯食には【ポーション】の成分が練りこまれている。
食べると、体力と魔力も少し回復する訳だ。
興味があったので、一欠片もらって食べてみた。
激烈不味かった……。
臭え〜、そんで、超苦え〜……。
百倍に臭くして苦くした、正〇丸たみたいな味だったよ。
あんなもの人が食べられるもんじゃない。
ゲームの時は、味覚がないから、あんなものバクバク食べていたけれど……。
「で、薬草採取なのですが……」
ピオさんが言った。
「うん、この後から行くよ」
「僕も行きたい」
レイニールが言う。
「レイニール、森は危ないからダメだよ。死んじゃうからね」
私はキツめに言った。
「わかりました」
レイニールは、言う。
レイニールは、本当に聞き分けが良い。
私が、やってはいけない、と言った事は、絶対にやらなかった。
うん、素直が一番。
こっちの世界の森は、まず間違いなく魔物がいる。
森とか洞窟とか渓谷とか高地とか、そういう場所は、ランダム・スポーン・エリア。
規模の小さなダンジョンと言っても良い。
人種生存圏は、平野部や盆地だけ。
その平野部だって、魔物が多少は湧くから、安全ではない。
この世界は、NPCには、本当に過酷な環境なのだ。
「レイニールが、【中位魔法】を使えるようになったら、森に連れて行ってあげるからね」
「はい。一生懸命、魔法のお勉強をします」
レイニールは言った。
・・・
朝食後。
アリスに呼び止められた。
何?
「グレモリー様、実は、この村の自治体認証に関して、一つ問題が……」
アリスは、スマホにリーンハルトから連絡があったと言った。
「問題?王や妖精信仰の連中が何か言って来た?」
「いえ、そうではありません。実は【湖畔の村】という名称は、既に【サウスタリア】で、登録されておりまして、私どもの村で、その名称は、使えません。どう致しますか?」
「何だ、そんな事。アリスに任せるから、適当な名前を付けておいてよ」
「畏まりました」
私は、ピオさんと村を出た。
・・・
私は、村の近くの森に入る。
この世界の森は、特殊。
スポーン・エリアである事もそうだけれど、樹木の生え方が異常。
森、と領域設定されている場所では、木の芽が一晩で大木に成長する。
切っても切っても、すぐ木に覆われる。
木材が無限に取れる、なんて喜ぶのは甘い。
つまり、森を切り拓いて、耕作地にする事が事実上不可能なのだ。
やるなら、木を切り、根っこを引っこ抜き、魔法的な処理をしなければ、どんなに造成しても、翌朝には、森が復活する。
この魔法的な処理が出来ない。
地面を固めて【永続バフ】すれば良いんだけれど……。
この【バフ】は、最大効果でなくてはならない。
最大効果の【バフ】って、【神位魔法】だ。
つまり、神様にしか出来ない。
現世で活動する神様って、守護竜、守護獣……そしてゲームマスター。
守護竜は、人種の庇護者だけれど、自然破壊は、やりたがらない。
守護竜は、人種よりも、はるかに知性が高いのだ。
目先の利益では動かず、常に、人種の未来を見て判断する。
森を切り拓いて人種の生存圏を増やす事が、長い目で見たら人種を滅ぼす事になる、と判断するなら、絶対にやらない。
守護獣は、中立個体で人種の味方でも敵でもない。
でも、自分の生息域を破壊するような開発は、絶対に認めない。
むしろ、自然破壊をすると、襲って来る。
守護獣……【シエーロ】の自宅に帰ればツテがない訳じゃないけれど……現状、私は帰宅困難だからね。
ゲームマスターは……。
あの人達は、そもそも人種の味方ではない。
あの人達が守るのは、ゲームの世界観であり、設定であり、仕様。
確か、世界の理、って言うんだよね。
ゲームマスターは、ゲームプレイ上の不具合などでは、ユーザーを助けてくれる。
ユーザー同士のトラブルの仲裁なんかもしてくれた。
その仲裁の様子を見て、NPCはゲームマスターを【調停者】と呼び始めたのかもしれない。
でも、ユーザーが世界の理に違反するような行為に及べば、ゲームマスターは、躊躇なくユーザーを殺してしまう。
アカウント停止は、もちろん。
物理的にもユーザーを攻撃して来る。
アカウントをBANしても、違反行為によって造られた構造物や、諸々の波及効果は、ゲームの世界の中に残るからだ。
それをゲームマスターは、根こそぎ、破壊し尽くす。
顔色一つ変えず、ただ淡々と違反ユーザーを殺戮して、構造物や集落を蹂躙する。
私は、一回、ノース大陸で、ゲームマスターの破壊活動を見た事がある。
数人のゲームマスターが、違反ユーザーの拠点を焼き討ちして、逃げ惑うユーザー達を事務的に惨殺していた。
あの人達は、実は、物凄く、おっかない人達なんだよ。
だから、私は、違反行為だけは絶対にしなかった。
ゲームマスターに立ち向かった違反ユーザーもいたけれど、勝てっこない。
当たり判定なし、ダメージ不透過、攻撃力は、測定不能。
たぶん、ユーザー限界値の1億倍とかのレベルだと思う。
ハッキング?
それこそお笑い種だ。
ゲームの世界に入らず、外から攻撃するような、ハッキングは、可能なんだと思う。
ま、軍事機密を守るレベルの防衛対策が何重にもされているみたいだけれど……。
でも、ゲームの世界に入ってハッキングや不正ツールで悪さをする事は、現在、事実上不可能になっていると思う。
私は、違反行為をせずに裏技的な事が出来ないかと思って、色々調べたからね。
ゲームの世界に入る為には、特殊な認証を得る必要がある。
これを手にしなければ、ゲーム内には入れない。
でも、この認証。
ゲームの世界で遊べる、という認証ではない。
実は、【創造主】の支配下に入る、という事を、ユーザー側が認証させられているモノなのだ。
つまり、どんな高度なハックをかけても、世界の世界に入ったユーザーは、【創造主】に完全に支配される。
つまり、ユーザーは【創造主】の代行権限者であるゲームマスターには、絶対に勝てないのだ。
・・・
【湖畔の森】。
私とピオさんは、森を歩く。
「ははは、これって、私、囮役なんですね……」
ピオさんは、少し抗議気味に言った。
ピオさんは、私の【ゾンビ】達に手伝わせて、地上で、薬草を採取している。
私と【エルダー・リッチ】達は、上空で、近付いて来る魔物を攻撃。
「ごめんね、ピオさん。この役割分担が一番安全で、効率が良いんだよ。逆でも良いけれど、ピオさん【高位】の魔物を倒せる?」
「とても無理ですね。逃げるくらいは、なんとかなると思いますが……」
「でしょう。だから、頑張ってよ。私が、バッチリ守ってあげるからさ」
「グレモリー様は、ウチの頭取と同じ部類の方ですね。人使いが荒い……」
ピオさんは、ブツブツ文句を言いながらも、薬草を探してくれる。
午前中いっぱいかけて、物凄い量の薬草が採れた。
【魔法草】も結構ある。
何しろ、【ゾンビ】200体での人海戦術だからね。
この株を、村の畑で育てて増やし、薬や【ポーション】を製造する。
農業集落を増築した理由は、新しい移住者を迎えるという意味もあるけれど、主目的は、【魔法草】を栽培する事だった。
これで【ポーション】を製造販売する。
これが、今後、村の主産業になるだろう。
私とピオさんは村に戻り、お昼ご飯を食べる。
・・・
昼食後。
村の整備に勤しんだ。
農業集落。
既存の農業集落は、一辺1kmの正方形。
既存の農業集落は回廊に面しており、その奥に、もう一つの農業集落を増築してある。
ここに新しい移住者20世帯を迎える。
畑は、まだない。
次の満月のスポーンで、【湖竜】を倒したら、その血液を撒いて、畑を耕すつもりだ。
この長方形の区画を、改めて農業集落と呼ぶ事にする。
回廊に面した最初の農業集落の西側に病院を建てた。
回廊に面した既存の農業集落と病院の間は、今は、ただの空き地になっている。
当初は農業に従事する村人さん達用の家屋を増やそうかと考えていたけれど、そこに駅馬車のターミナルと、巨大な倉庫群を建てるつもりだ。
倉庫群には、冷凍冷蔵倉庫も造る。
薬草採取の時に、【高位】の魔物を、たくさん狩ったから、そのコアで冷凍冷蔵の【魔法装置】がたくさん造れる。
小さな冷凍冷蔵庫なら、【中位】の【魔法石】で造れるけれど、【中位】の【魔法石】は、魔力回復速度が遅い。
巨大な倉庫を大出力で丸っと冷やし、なおかつ、24時間時間365日稼働させっ放しにするには、【中位】の【魔法石】では、少し心許ないのだ。
冷凍冷蔵庫の冷気発生装置が壊れる、とか、洒落にならない。
中身がオジャンだ。
なので、【高位】のコアは、全部、冷凍冷蔵庫の冷気発生装置に使ってしまう。
また、しばらくしたら森に間引きに入ろう。
回廊から見て病院の奥は、薬草畑。
こちらは、もう、株を植え変えておいた。
薬草畑の中央にポールを立て、その上に【湖竜】のコアを使った【魔法装置】を設置。
これは、魔力を周りにダダ流れにさせるだけの原始的な装置だ。
【古代竜】のコアだから出来る、魔力散布機。
薬草や【魔法草】は、魔力を浴びると、その効能成分が高まるのだ。
こうしておけば、ほとんど手入れもせず、一年中、収穫出来る。
この辺りの緯度帯の気候は、真冬でも、厳寒という訳ではないし、豪雪地帯でもない。
たぶん、雪が降るのは、年に数回。
積雪は、年に数日だろう。
うん、露地栽培で問題ない。
・・・
夕食後。
私が、フェリシアとレイニールに魔力の扱い方の基本を教えていると、最終便の駅馬車で、商業集落に移住する人達が到着した。
これは第一陣。
すぐに、アリスが入村手続きをして、希望する建物の住居部分に家財道具を運び込んでいる。
あと、朝、駅馬車で【イースタリア】に向かった村人達が戻って来た。
全員、村人さん達の子供達で、年長組の男女6人。
若いから、きっと、【イースタリア】で、今日1日、遊んで来たんだろう。
デートかな?
いや、野暮な詮索はしないよ。
おや?
彼らが、それぞれ、見慣れない男女を連れて来ている。
誰?
「「「嫁です」」」
「「「旦那です」」」
「ほら、この方が、私達の庇護者であられる、湖畔の聖女様だよ。みんなも、ご挨拶して」
一人の村の若者が促した。
「「「「「「よろしくお願い致します」」」」」」
花婿・花嫁は、礼を執る。
今日、【イースタリア】で結婚して来た?
何ですと?
君達、何歳だっけ?
「「「「「「15歳です」」」」」」
そっか……。
この世界は、15歳成人だった。
で、今日、結婚して、もう連れて来た、と。
「家を造ってあげるね。新婚さんで実家に同居は、色々、気も使うでしょう?」
農業集落は家屋が疎らだから、スペースはあるからね。
「聖女様、ありがとうございます」
一人の若者が礼を言う。
残りの一同も礼を言った。
アリスが入村の手続きをして、集会所に集まり、村人総出で、歓迎会と結婚の、お祝い。
要は、宴会が出来れば、名目は何でも良い訳だ。
私は、その間に、六軒の家を新築。
それぞれの実家の近くに建ててあげた。
商業集落の商店や工房の内装も、仕上げてあげなくちゃ。
いや、もう今日は、魔力を温存しなくちゃダメだ。
今夜は、満月。
【湖竜】が、周期スポーンする。
それに、備えなくちゃいけないからね。
商人さん、料理人さん、職人さん、ごめんよ。
明日、商店と工房の内装は、するからね。
集会所に、顔を出した。
みんな、良い具合に、出来上がっている。
それで、新婚カップル達を、祝福するように頼まれた。
いや、私は聖職者じゃないから、祝詞とかも知らないし……。
村人さん達は、アルコールが入っているから、しつこく頼んで来る。
もう、仕方ないなあ。
ここは、ウエスト大陸だから……。
「ご結婚おめでとう。夫婦仲良く、いつまでも幸せに暮らし、村の発展に寄与してくれる事を願います。【創造主】と【神竜】と【リントヴルム】の加護がありますように……」
魔法で、キラキラした光が、新郎新婦の上に降り注ぐエフェクトを出して見せる。
これは、魔法効果のない、ただのエフェクト。
結晶化した水蒸気の微細な粒子に、【光源】を乱反射させて、キラキラ見せているだけ。
単なる、宴会魔法だ。
村人さん達は、全員、姿勢を正して、お祈りを捧げていた……私にだ……。
困ったね。
キラキラエフェクトにも、とても感動しているみたい。
上手く行ったよ。
結婚かあ〜。
とにかく、身内が増える事は良い事だ。
お読み頂き、ありがとうございます。
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