第91話。グレモリー・グリモワールの日常…11…駅馬車。
【湖畔の村】
グレモリー・グリモワール
グレモリー・グリモワールの従者・養子
【エルフ】姉、フェリシア
【エルフ】弟、レイニール
村長・代官(仮)
アリス・イースタリア
副村長
グレース
副村長代理
スペンサー
村人
20世帯100人
【竜魚】警備隊。
キブリと、その子分約100頭
銀行ギルド【湖畔の村】支店
支店長
ピオ
(世界銀行ギルド副頭取、兼任、英雄調査部スーパーバイザー)
朝食後。
朝便の駅馬車が到着。
20台体制だ。
スペンサー爺さんが村人さん達を指揮して、荷降ろしと、運び込みをする。
私に治療をしてもらう為に来た、患者さんは30人。
付き添の人達もいる。
距離と駅馬車の速度を考えると、駅馬車は【イースタリア】を未明に出発したはずだ。
にも関わらず、結構な人数がいた。
かなり大きめの荷物を抱えている人もいる。
どうやら、入院を覚悟しているらしい。
そんな必要は、ないけれどね。
「治療の人は、馬車から降りないで良いですよ。すぐ終わるからね」
私は、駅馬車を回って、サクサクッと治療を終わらせた。
駅馬車が荷降ろしをしている間に、治療は終わり。
病み上がりのリハビリ・メニューや、病後の注意点などを伝え終わったら、このまま、駅馬車で、お帰り頂く。
ついでに、馬車を牽引している馬にも【回復】をかけておいた。
駅馬車隊の隊長さんと挨拶。
私が造った【魔法装置】を馬車に着けさせてもらう。
これは、重量軽減の【魔法装置】。
これで、最大積載量が増やせるし、今までと同じ荷重なら、速度が出せる。
ピオさんが乗っていた、【宝箱】の移動装置を見て思いついた。
本当は、ボールベアリングとか、ダンパーとサスペンションとか、それこそ、動力装置なんかだったら、もっと良いんだろうけれど。
今は、鋼材を持っていないから、製作出来なかった。
その辺りは、追っ付けだね。
私は、駅馬車隊の隊長さんに、他の駅馬車にも、重量軽減の【魔法装置】を着けてもらうように依頼。
「あっと言う間の治療でした。凄まじいですね?これが英雄の力……」
ピオさんが、音も気配もなく、私の背後に近付いていた。
ま、【マッピング】で、バレバレだけれど……。
ピオさんの光点は、初対面の時は、白かったけれど、今は、青々としている。
味方の証拠だ。
私の、どこが信用に値したのかは、わからないけれど、ピオさんみたいな頭がキレて、能力の高い人は、敵に回すより、断然味方にしておきたいからね。
「入院が必要な患者さんなんて、日に1000人以上とかで、毎日押しかけて来るレベルじゃなければ、起こらないよ」
私は、ピオさんに答えた。
つまり、戦争とか、そんな事に【イースタリア】が巻き込まれる事態。
私が、これから病院を造る意味は、産科医院と新生児病院としての機能を考えての事だ。
私は、どんなに健康でも、出産前後の母子には、医療設備がある場所での経過観察は、必要だと考えている。
産婆さんの手による自宅分娩とかは、それが、どうしてもやりたければ自己責任の範囲で好きにしたら良いとは思うけれど、医学的には、産科病院での出産に比べてリスクは、確実に高くなる。
私は、自分の家族を自宅分娩させたいとは思わない。
治療を終えた患者さん達を乗せて、駅馬車は、帰って行った。
明らかに軽やかに走っている。
私の【魔法装置】が役立ったのなら何よりだね。
帰りの駅馬車には、【イースタリア】の冒険者ギルドに買い取ってもらう魔物の素材や、村の産物のサンプルを載せて行ってもらう。
産物は、現時点では【魔法粘土】の陶器、魔物肉の燻製、魚の一夜干し、などだ。
これをトリスタンが見て、どう商売するかを、考えてくれる。
優秀な手駒を持つと、私は楽だ。
駅馬車には、ピオさんや、村人さん達も用事を依頼している。
駅馬車は、路線バス、運送業、郵便、宅配便の四役をこなす。
村人さんの数人は、【イースタリア】に行くらしい。
護衛の皆さんに……ウチの大切な村人さんを頼みます……と、お願いした。
プレッシャーをかけた、という意味もある。
基本的に駅馬車は無料。
私が費用を全額持っているからね。
その内、小額の切符を販売して、駅馬車の本数も増やし、駅馬車事業だけで採算ベースまでもっていければ良いのだけれど、中々、難しいだろうね。
駅馬車隊の隊長さん達には、私のスマホを貸し与えてあった。
魔物が現れたら、これで私とリーンハルトに連絡出来る。
スマホは、バトンパスして交替で使用するけれど、2台貸し与えたら、私のストックは、もう残り1台。
この1台は、私のスマホが故障した場合のバックアップとして必要だ。
つまり、ストックは、もうない。
リーンハルト曰く、携帯型魔法通信機は、ロストテクノロジーらしいから、新しく買い足せないし、私も、造れなかった。
私は【魔法公式】は、【超位】のモノが組める。
魔法の天才だからね。
スマホの構造も理解していた。
でも、その【超位】の【魔法公式】を【魔法石】に刻むには、【超位】の【工学魔法】が必要だ。
私には、これがない。
どこかの地中から、900年前のスマホが大量発掘されたりしないだろうか?
・・・
駅馬車を見送って、私は、ピオさんを連れて、商業集落に向かった。
銀行ギルドの支店の内装を仕上げなくちゃならない。
銀行ギルドと言えば、天下に冠たる主要ギルドだから、商業集落で一際立派な建物を選ぶ。
ピオさんの希望を聴いて、1階部分の内装を仕上げた。
銀行ギルドと言えば、カウンター。
後は、セキュリティへの対策。
「金庫は?」
【湖畔の村】の規模の銀行業務なら、ピオさんの【宝箱】で、事足りるような気もするけれど……。
「そうですね……地下に貸金庫と、証書などの保管の為の部屋を、お願い出来ますか?現金の金庫は、必要ありません。本店や、各国の主要店舗と【送金機】で繋ぎますので、小さな支店や出張所では、通貨を常備しておく必要がないのです」
なるほど。
そういう用途に金庫は必要な訳だね。
私は、地下を堅牢にして、扉も重厚にした。
とはいえ、材質は【魔法粘土】。
頑丈にするにも限度がある。
それに、この世界では、【ドラゴニーア】の本店みたいな【創造主の魔法】で創られた絶対に壊れない初期オブジェクトの金庫部屋でもなければ、安全とは言えない。
あの【ドラゴニーア】の金庫は、最強の核兵器の直撃でも、絶対に壊れないのだ。
仮に厚さ2mのアダマンタイトとオリハルコンの複合材で金庫を造っても、魔法的な強化がされていなければ、【超位】の【加工】にかかれば、呆気なく穴が開けられる。
この世界では、金庫の存在意義として、金属の強度が、あまり意味をなさないのだ。
とりあえず、地下金庫室は、強度がイマイチな替わりに、センサー系と魔法による対抗措置を何重にも施した。
地下から近付くモノ、金庫室を破壊しようとするモノがいたら、途轍もなく馬鹿でかい音を立てるようにして、同時に【迎撃魔法】で、ドカン、という訳。
ピオさんに頼まれるまま、私は銀行ギルドの2階は接客用の個室、3階はオフィスにした。
「ピオさんの居住スペースは?」
「農業集落の方に、小さな家を建てて下さいませんか?掘っ建て小屋で構いませんし、費用も払いますので」
「農業集落に家を建てるのは構わないし、魔法で出来るから費用もいらないけれど、銀行ギルドの上に寝起きした方が便利なんじゃないの?安全面を心配しているなら、私は、広範囲の魔力反応が【魔力探知】出来るから、魔物が近付いたら、すぐ飛んで来るし、正直、私が造った建物は、【イースタリア】のどの建物より頑丈だよ。【バフ】が効いているからね。今はゴーストタウンみたいで寂しいけれど、明日になれば、人が少しづつ移住して来るよ」
「いえ、そうではありません。このくらいのスペースは銀行業務に最低限必要なのです。いや、足りないくらいですね。数日すれば、本店から職員達が参ります。また、【イースタリア】でも、銀行ギルド職員を雇用しなくてはなりません。なので、私が住むスペースは、こことは別に必要なのです」
「そうかな?集落の銀行ギルド支店としては、むしろ大規模過ぎる気がするんだけれど?」
「ははは、グレモリー様、私ども銀行ギルドは、近い将来、ここ【湖畔の村】がウエスト大陸の経済の中心地になり、最大の金融センターになると予測しております」
ピオさんは、少し、怖い顔で微笑んでいる。
「いや、まさか。こんな辺境の村が?」
「【ドラゴニーア】に世界の富が集まるのは、【ドラゴニーア】が発展した大都会だから、というだけではありません。【ドラゴニーア】が世界最強の国だからです。安全保障は、安定した経済発展と切っても切れない相関関係を持ちます」
私は、ピオさんの様子に、何だか、ゾクゾクッ、と背筋が寒くなった。
・・・
昼食後。
私は、病院建築を開始する。
ついでに区画も新しく作っちゃおうかな。
今後、私の村を発展させるには、今の規模では手狭になるかもしれない。
ま、現状でも開拓村としては、十分大規模な方なんだけれどね。
私は農業集落の西に2つの城壁区画を造る事にした。
出でよ、愉快な仲間達……。
私は、【エルダー・リッチ】と【ゾンビ】を全員出動させた。
「な、なんと、この方達は?」
ピオさんが驚愕する。
ピオさんは、どうやら、【死霊術】を知らない様子。
リーンハルトも【イースタリア】の聖堂の人達も【死霊術】を知らなかった。
おそらく、この900年の間に、【死霊術】が廃れているに違いない。
900年前から超絶不人気職だったからね。
これは、私にとっては、ラッキーだ。
NPCが【死霊術】への先入観がないとするなら、誤魔化し方次第では、かつてのような、強烈な忌避感を受けずに済むかもしれない。
900年前、【死霊術】や【ゾンビ】は、目の敵にされていた。
街道を【ゾンビ】達をゾロゾロ連れて歩いていただけで、問答無用で攻撃された事も数え切れない。
悪い事は、何も……いや、少ししかしていないのに……。
かつての私は死体を弄り回している狂気の存在として、みんなから、凄く気持ち悪がられていたのだ。
これは、上手に誤魔化さなくては……。
「ふふふ、私の奥の手だよ」
「なるほど、秘匿魔法。グレモリー様の奥義なのですね?【召喚】か?だとするなら、つまり、あの【エルフ】達の正体は、精霊か妖精……」
ピオさんはブツブツと呟きながら、思案し始めた。
誤魔化せた?
おっし。
私の【エルダー・リッチ】達が強力なのには、理由がある。
私は、ゲーム発売直後、ある難関クエストに挑んだ。
【エルフ】の国【エルフヘイム】の国家存亡に関わる重大な攻略クエスト。
私は、それをクリアして、【エルフヘイム】の女王陛下から、直々に国家功労賞の勲章を貰った。
その時に、【エルフヘイム】の女王陛下から、こう言われたんだよね。
「この度の活躍の報酬として、何か一つ願いを叶えよう。妾に出来る事ならば、何でもしよう。願いは、何か?」
で、私はこう答えた訳。
「王家の墓から、代々の【エルフ】の王族の遺体を200体分頂きたい」
あまりの酷い願いに、私は大ひんしゅくを買ったよ。
でも、願いは、聞き届けられた。
間違いなく【エルフヘイム】の女王陛下に出来る事だったからね。
私は、【エルフヘイム】の王家の墳墓をあばき、良質の魔法適性を持つ遺体200体を手に入れた。
全員、生前は【ハイ・エルフ】。
魔法が素晴らしく得意な【ハイ・エルフ】にあっても、王家の血筋に連なる者達の魔力は、別格。
なので、私の【エルダー・リッチ】達は、最高なのだ。
私は、農業集落の西に一辺1kmの正方形の区画を2つ建造する。
途中で魔力が尽きた。
【収納】から【魔法のホウキ】を出して、魔力を補給。
城壁がない状態で、中途半端に作業の中断は出来ない。
やり始めたら、最後までやらなければ……。
【エルダー・リッチ】達が、1体、また1体と魔力切れで、リタイアして行く。
お前達の献身は無駄にはしないぞ。
200体の【エルダー・リッチ】に続いて、私も、魔力が枯渇。
ガス欠だ。
私は、【腐竜】を【宝物庫】から取り出して、【回復】させる。
その膨大な魔力で私と【エルダー・リッチ】は、復活。
【アンデッド】の魔力効率は、生者よりも悪くなる。
でも、ワタシの【腐竜】は、腐っても【古代竜】だ。
さすがの魔力タンクぶり。
続きを行う。
とりあえず、形は出来たぞ。
ひえー、大変だ。
石材を表面に貼り付け、耐久力向上、防御力向上、魔法防御力向上、の【永続バフ】をかけて仕上げ。
城壁が完成した。
次は堀。
こちらも、もはや慣れた作業だ。
出来た……疲れた。
中身は空っぽだけれど、城壁と堀さえ造っておけば、建物は後からどうにでもなる。
私じゃなくても誰か大工に任せても良いしね。
【竜魚】のキブリ隊が早速、新しい堀にもやって来た。
「今後は、こちら方面の防衛も頼むよ」
キブリ達は、ピシッとヒレを上げて敬礼。
ザバーーンッと水飛沫を上げて、堀を泳ぎ始めた。
「【古代竜】に、今のは、魚系魔物まで……。グレモリー様は、【調伏士】でも、あらせられるのですね?信じられない」
ピオさんが言う。
「ピオさん、暇みたいだね?」
「はい、お客様が誰もおりませんので」
あ、そう。
「ピオさんさ、なら、明日、森に【魔法草】や、薬草を取りに行くから、付き合って。ピオさん、冒険者時代は、先行偵察をしていたんでしょう?なら探し物は得意でしょう?」
「ええ、構いませんよ、お伴しましょう」
「助かるよ……。もう、バテバテだ……」
結局、【腐竜】タンクが4体分、空になったね。
これだけ、魔力を酷使したのは、ダンジョン攻略以来だね……。
でも、もう一踏ん張りだ。
病院の敷地を確保して、基礎を築く。
この続きは、夜にやらなくちゃ。
明日、【イースタリア】の聖堂から、私の村に移籍する医療班が来てしまう。
明日までには、必ず、完成させておかなければいけない。
それから、将来アリスの新しい屋敷も基礎工事までを完了させる。
アリスの屋敷は役所の庁舎も兼ねているから巨大にする予定。
高層建築は構造計算上芯材の鉄骨が必要だから、アリス屋敷の上物を造り始めるのは鋼材が届いてからだ。
さてと、続きは、夕ご飯を食べてからにしよう。
私は、【エルダー・リッチ】と【ゾンビ】を【宝物庫】にしまって、アリスの家に向かった。
・・・
夕食後。
病院の敷地での作業を再開。
私は、【宝物庫】から、【エルダー・リッチ】と【ゾンビ】を全員出動させた。
病院の基礎工事をして、地上3階建の建物を造る。
耐久力向上、防御力向上、魔法防御力向上、の【永続バフ】。
各所に、【魔法装置】を設置して、終わった……。
後はベッドやら何やら、備品を運び込んだりすれば良い。
それは、明日から来る、聖堂の医療班に丸投げしてしまおう。
こんな、突貫工事は、もう懲り懲りだよ。
次からは、もっと、計画性を持って、余裕のある工期を設定しなくちゃね。
お読み頂き、ありがとうございます。
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