第903話。ギミック・メイカー?
【ヌガ法国】北方都市・臨時政府所在地【ルトリア】。
【アブラクサス】教団仮説本部教会を兼ねる【ルトリア】中央政庁舎の地下【メイン・コア・ルーム】。
「で、カリュプソ。あなたは【ヌガ法国】の神などになって何をしているのですか?」
私は【アブラクサス】のカリュプソに訊ねます。
「話せば長い事ながら、私は本来【七色星】の【遺跡】に【徘徊者】としてスポーンしたのです。【創造主】からの神託によると……【七色星】の輝かしいオープニング・NPCとして【マップ】に配置された……との事でございます。しかし、900年前に突然【創造主】からの神託が途絶えました。それから、しばらくは何事もなく暮らしておりましたが、ある時、強大な力を持つギミック・メイカーという神が【遺跡】に現れ、私達【遺跡】の【徘徊者】を次々に【遺跡】から解き放ったのです。【火星人】が攻めて来たから防衛に力を貸せ……との事でした。私も、ギミック・メイカー率いる100万の軍勢に加わり【火星人】と戦い、甚大な犠牲を出しながら辛くも撃退したのです。しかし、またいつ【火星人】が攻めて来るかもわからず、ギミック・メイカーは……【七色星】を守るには防衛力強化が急務だ……と判断しました。なので、私がギミック・メイカーから託された使命を帯びて【パンゲア】に渡ったのです。元来【七色星】の原住民は【魔人】ばかりで人種はいませんでした。私達【魔人】は戦闘力は高いのですが、一部を除いて道具というモノを使う技能があまり高くないので農業や工業などの技術に【下方補正】が掛かり【七色星】の産業力は必ずしも高くはありません。【七色星】の防衛力向上には産業を興し運営する能力に長けた人種の協力が必要だったのです。私が【パンゲア】に来た理由は【パンゲア】の機械工学や農業などの知識や技術を持つ人種をリクルートして【七色星】に送る事です。【ヌガ法国】の歴代法王が私の使命に賛同・協力してくれました。その対価として、私は【ヌガ法国】の歴代法王とその忠実な配下達に知識や魔法や戦闘技術を教えていました。私自身は鞭の扱いに長けますので、魔物の調教と使役が得意です。従って私の教えを受けた【ヌガ法国】では周辺国に比べて多くの【調伏士】を輩出し、魔物を使役して国防戦力としていました」
カリュプソは言いました。
何ですと?
まあ、とりあえずカリュプソの話を一旦丸っと飲み込むとして……。
運営の私ですら初めて聴く良くわからない単語がありましたね。
ギミック・メイカー?
何それ?誰それ?
「ギミック・メイカーとは?」
「詳しくはわかりませんが、姿は人型を模した人形のような神です。ノッペリとした顔には目鼻耳口などはなく、関節は球体関節でした。人語を解し【魔人】をも凌駕する高い知性と身体能力を有し、そして強大な魔法を行使します」
カリュプソは説明します。
人形?
【自動人形】でしょうか?
私や【マリオネッタ工房】が造る【自動人形】の各エディションには球体関節が使われていますが、【コンシェルジュ】や【神の遺物】の【自動人形】の関節は人間と同じ腱によって繋がる構造です。それに【自動人形】には各種センサーとしての目鼻耳や、発声器官としての口もありました。
それに神ですって?
いや、あり得ない事はないですね。
演算装置に過ぎない非生命体NPCの【知の回廊の人工知能】だって設定上は【神格】という位階に分類されています。
「非生物NPCの【神格者】ですか……。その外見上は人形のように見えるギミック・メイカーの個体識別が【神格者】になっていたのですね?」
「はい。ギミック・メイカー本人が説明するには、その人形はギミック・メイカーの身体という訳ではなく、遠隔操縦された容れ物なのだそうです」
良くわかりません。
ただし、そのギミック・メイカーを創ったのは【創造主】で間違いないでしょう。
ギミック・メイカー……この世界のギミックを造る者……つまりゲーム開発会社(運営)の側にいる何者かという意味ですよね。
つまりギミック・メイカーが遠隔操縦する人形は、ミネルヴァが【コンシェルジュ】を管制して動かしている状況と同じ事でしょうか?
いや、ミネルヴァが管制する【コンシェルジュ】の個体識別は、他者から見て【神格】と表示される事はありません。
むしろギミック・メイカーの人形は、ミネルヴァの容れ物として創られた神位装甲【ドラゴニオン】みたいなモノに近いのでしょう。
ならば、そのギミック・メイカーが遠隔操縦する人形をゲームマスター本部で使わせてもらえれば、ミネルヴァの空アバターとして使えないでしょうか?
ミネルヴァに【ドラゴニオン】を装備させる事が出来れば、彼女を【ワールド・コア・ルーム】の外で活動させられて私の業務の一部をミネルヴァに肩替わりさせられます。
いや……空アバターは自我がない生物NPCの容れ物でなければならない……という設定がありますので、人形では用をなしません。
という事は【七色星】のギミック・メイカーは、ミネルヴァとは異なる性質を有しているのでしょう。
そして最も重要なのは【七色星】には、ミネルヴァのような管理者的な何者かが存在するという事。
そしてギミック・メイカーなるNPCは【火星人】の侵略から【七色星】を守ったようですので、おそらく私やミネルヴァと同じ運営側の存在である事は間違いないと思われます。
どうにかして、そのギミック・メイカーなる【神格者】とコンタクトを取りたいですね。
「なるほど。人形を遠隔操縦しているギミック・メイカーの正体は【知性体】かもしれませんね。ギミック・メイカーは【七色星】の庇護者という位置付けでもあるようです。そして【遺跡】の【徘徊者】を任意に解き放つ事が出来た事から言って、ギミック・メイカーは【創造主】によって世界の管理権限を与えられた存在です。カリュプソ、私はギミック・メイカーと話したいのですが、ギミック・メイカーとは何処に行けば会えますか?」
「ギミック・メイカーの所在はわかりません。ギミック・メイカーは【七色星】に危機が起きた場合などに突然【転移】して人形の姿で現れます」
「ギミック・メイカーの遠隔操縦する人形は1個体ですか?それとも複数いるのですか?」
「ギミック・メイカーは私が知る限り1個体です」
なるほど。
ギミック・メイカー……ギミック・メイカー。
ゲームマスター……ゲームマスター。
何となく【創造主】の意図がわかるような気がします。
つまり、ギミック・メイカーとは、ケイン・フジサカが創った【七色星】担当のNPCゲームマスターなのではないでしょうか?
だとするならギミック・メイカーは私の同僚?あるいは部下という扱いになるのでは?
ならばギミック・メイカーはゲームマスター本部とも目的が同じ。
私がゲームマスター権限でギミック・メイカーを使役したり、あるいは少なくとも私達ゲームマスター本部と目的を共有する同士で業務提携が出来る筈です。
トリニティ……聴いていましたね?……【七色星】にはギミック・メイカーなる【神格者】が存在するそうです……もしかしたらギミック・メイカーはトリニティとウィローを【マップ】に出現した異物として排除に動く可能性がないとは言えません……十分に注意して異変を感じたら即時ウィローを回収して私の元に【転移】して来なさい……そうすれば、あなたは瞬時に【ストーリア】に【排除】されて撤退出来ますからね。
私は【念話】で警戒を促しました。
仰せのままに致します……マイ・マスター……こちらの拠点に【魔人】が近付いて来ています……排除しても宜しいでしょうか?
トリニティは【念話】が訊ねます。
排除は止めておいてあげなさい……もちろん、自衛の必要があるなら構いませんが、対象がトリニティ達を害する意思や攻撃する素振りがなければ、まずは身を隠して接触を避け、それが無理なら自衛策に万全を期した上で可能な限り平和的に接触を試みて下さい。
私は【念話】で指示しました。
仰せのままに致します。
トリニティは【念話】で答えます。
さてと、ギミック・メイカーを含めた【七色星】の事は一旦トリニティとウィローに任せて、とりあえず私は【パンゲア】での仕事を先に片付けなければいけません。
「カリュプソ。このアープをエスコートして【ヌガ法国】の聖職者や公職者が集まっている大広間に移動しておきなさい。示威をしたら、私もそちらに合流します」
「畏まりました」
カリュプソは頷きます。
私は【ルトリア】の上空にある【キー・ホール】を目標にして【転移】しました。
・・・
私は【ルトリア】上空で【神位魔法】の大サービスをします。
普段なら7大【神位魔法】を並べる【最後の審判】を発動する場合、1つ1つの属性魔法がクリアに粒立つように気を付けるのですが、何だか面倒臭くなって制御が雑になってしまい属性の違う魔法が混ざりあってグチャッとしてしまいました。
まあ、より見た目が混沌になって私への畏怖心を煽る示威としては良かったかもしれません。
私は【キー・ホール】を追加投入してから【ルトリア】の臨時政庁舎に戻ります。
・・・
【アブラクサス】教団仮説本部教会を兼ねる【ヌガ法国】中央政庁舎の大広間。
「【ヌガ法国】の民よ。私は、お前達の庇護者として永年君臨して来た【アブラクサス】のカリュプソである。以後お前達【ヌガ法国】の民は、私の上席者である真なる神たるチーフ・ゲームマスターのノヒト・ナカ様に忠誠を尽くし全力でお仕えしなければならない。私の意に反する者は、即ち【アブラクサス】教の背教者。もしも【アブラクサス】教団が私の意に逆らう場合は、【ヌガ法国】の民は速やかに【アブラクサス】教団を弾劾するべし」
カリュプソは、ヴェリタス法王などが国民に布告を出す前に機先を制して宣言しました。
カリュプソの宣言は、私が思念波という形で【パンゲア】全土に伝えています。
ヴェリタス法王以外の【アブラクサス】教団幹部と思われる者達は驚くと共に苦々しい顔をしていました。
【アブラクサス】のカリュプソと、ヴェリタス法王以下の【アブラクサス】教団幹部は、お互いの利益の為に打算的に協力して来ただけ。
つまりヴェリタス法王以下の【アブラクサス】教団幹部達は、【アブラクサス】のカリュプソに対して本心では信仰心などを持っていません。
しかし、【ヌガ法国】の国民は、【アブラクサス】教を敬虔に信仰していました。
【ヌガ法国】の国民にとって信仰対象の神は、【アブラクサス】のカリュプソなのであって、【アブラクサス】教団ではないのです。
つまり、【アブラクサス】教は、もはやカリュプソのモノとなり、ヴェリタス法王以下の【アブラクサス】教団幹部のモノではなくなりました。
今後ヴェリタス法王以下の【アブラクサス】教団が、私やゲームマスター本部や【アブラクサス】のカリュプソの意に反する命令や教義や戒律などを【ヌガ法国】の国民に強いたとしても、それは【ヌガ法国】の国民が信仰する【アブラクサス】のカリュプソの意思を代弁した言葉などではないので、【ヌガ法国】の国民は【アブラクサス】教団には全く従わなくなります。
まあ、本来あらゆる宗教教団は神の代弁者などではなく信徒達の互助組織に過ぎないので、教団が信徒に何かを命令して権力を持つ権威構造というモノ自体が本質的に正しくないのですけれどね。
何故なら……神の前では、全ての人が平等。
つまり【アブラクサス】教においては、ヴェリタス法王も一介の【ヌガ法国】国民も、神たる【アブラクサス】のカリュプソから見れば全員平等に同格。
であるならば、神たる【アブラクサス】のカリュプソの名においてヴェリタス法王や【アブラクサス】教団幹部が【ヌガ法国】国民に命令をする事は不可能となります。
事実、大広間に集まっている【アブラクサス】教の聖職者の大半は、カリュプソが……ゲームマスターに忠誠を誓え……と命じた直後から【マップ】の光点反応が青色になりました。
ヴェリタス法王も私が法王に【指名】した時点で青色の光点反応に変わっています。
一部【アブラクサス】教団幹部は未だ白色の光点反応ですが、彼らも私やミネルヴァやカリュプソの意に従わないなら背教者として罷免や更迭され聖職者ではいられなくなるでしょう。
「さてと、ヴェリタス法王。あなたは今後【ヌガ法国】と【アブラクサス】教団をどのように運営して行きますか?」
私は訊ねました。
「【アブラクサス】様……あ、いやカリュプソ様が【調停者】ノヒト様の従者様にお成り遊ばされました以上、カリュプソ様の使徒たる私も【調停者】様は元より、最高神の【創造主】様および世界の管理神格たるミネルヴァ様に対しても心からの帰依を致し、絶対の忠誠を尽くして参る所存でございます。また【世界の理】に従い、現行の【アブラクサス】教の教義や戒律、および【ヌガ法国】の法において【世界の理】に反する条文は全て破棄し、【世界の理】に整合する教団運営と国家運営をして参ります……【誓約】」
ヴェリタス法王は跪いて宣誓します。
ならば良し。
一時は面倒な状況も予想された宗教国家【ヌガ法国】の教化問題は、私が【ヌガ法国】国民が信仰する【アブラクサス】のカリュプソを押さえた結果、どうやら平和的に解決しそうですね。
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