第9話。ソフィアvsミスリル・ガーゴイル。
雷系魔法。
低位魔法…ライトニング(放電)
中位魔法…サンダー(雷撃)
高位魔法…サンダーボルト(轟雷)
超位魔法…サンダーストーム(霹靂)
神位魔法…ディバイン・サンダー(雷霆)
……などなど。
私とソフィアは【冒険者ギルド】を後にしました。
外は、もう日が傾いています。
「孤児院の様子を見にくのじゃ」
ソフィアが言いました。
エミリアーノさんから孤児院の場所は聞いています。
「少し遠いですよ。ソフィアは、その姿で高速飛行で飛べますか?」
「我を誰だと思っておるのじゃ。【飛行】。さあ行くのじゃ」
ソフィアは飛び上がりました。
「あ、そう。【飛行】」
私もソフィアを追います。
私とソフィアは、【神格者】ならではの音速を軽く超える【飛行】で移動を行いました。
大気を貫く轟音と衝撃が地上に影響を及ぼさないように魔法的な措置を講じています。
・・・
あっという間に孤児院の上空に到着しました。
私とソフィアは【遠隔視】の魔法で、孤児院の様子を眺めます。
「降りて見学しなくても良いのですか?」
「平気じゃ。子供らの勉学や職業訓練の邪魔になるといかん」
ソフィアは言いました。
【神竜神殿】付属孤児院の建物は立派で、一見して清潔で安全に見えます。
大勢の幼い子供達が、孤児院の職員である【修道女】達に見守られながら、園庭で遊んでいるのが見えました。
運動場では年長の子供達が訓練の最中。
建物の中では色々な授業や職業訓練が行われている様子。
皆健康で栄養状態も良さそうに見えます。
「うむ。子供らは懸命に生きておるようじゃ」
「そうですね」
年嵩の【修道女】が手招きして、園庭で遊ぶ幼い子供達を集めました。
年嵩の【修道女】は、もしかしたら院長先生でしょうか?
彼女は、しゃがみ込んで子供達に何事か話していました。
子供達は頷いたり手を挙げたりしています。
みんな笑顔でした。
「帰るのじゃ」
ソフィアは微笑みを浮かべて満足気に言います。
「【転移】で帰りますよ」
私はソフィアに手を差し伸べました。
ソフィアは私の手を握ります。
・・・
私とソフィアは【竜城】の私室に帰還。
「むっ。【ガーゴイル】じゃ」
ソフィアは私が造った【ガーゴイル】に気が付きました。
「それは、私の備品です。壊さないで下さいよ」
「ほ〜、この【ガーゴイル】め、生意気にも強大な魔力を有しておるの?」
ゴツンッ!
ソフィアが私の【ガーゴイル】を小突きました。
あ……もう何してるんですか……。
「敵性反応感知。迎撃シークエンスに移行します。【放電】」
バシュッ!
【ガーゴイル】が口から自衛用の【低位雷魔法】を放ちました。
ソフィアは避けもせず、仁王立ちのまま感電します。
大気を焦がすオゾンの匂いが部屋に充満しました。
「ほ〜う、面白い。我に挑むとは。身の程をわからせてくれよう。神竜・パーンチッ!」
ソフィアは拳を握って振りかぶり、クルクルと回してから私の【ガーゴイル】に向けてスイングしました。
ガキンッ!
ソフィアの打撃は【ガーゴイル】の【防御】の【バフ】によって跳ね返されます。
「くっ……小癪な!」
ソフィアは自分が放った攻撃の反動によるノックバックを受けて弾き飛ばされ……ゴロゴロ……と転がりました。
「脅威度判定上昇。迎撃シークエンス強化。【雷撃】」
【ガーゴイル】は一段強力な【中位雷魔法】を放ちます。
バリバリバリッ!
ソフィアは、また正面から【ガーゴイル】の攻撃を受けました。
今度は腕を顔の前でクロスして【魔法障壁】を展開したようです。
ソフィアの全身からは……プスプス……と煙が上がっていました。
今の一撃でソフィアの着る【町娘の服】にかけてあった【魔法障壁】の【バフ】は破壊されています。
「少しは、やるようじゃの……。今度は我の番じゃ」
ソフィアは息を吸い込むような仕草で頭を後ろに大きく仰け反らせてから、反動をつけて顔を前に突き出し顎が外れるほど口を開けました。
「喰らえ!【炎の咆哮】!」
ソフィアは【ブレス】を吐き出しました。
ドカーーンッ!
その後も、お互いに決め手を欠き互角の撃ち合いは続きます。
とはいえソフィアの方は、明らかに【ガーゴイル】を壊さないように魔法の威力を加減していました。
ソフィアにとっては、じゃれ合い程度なのでしょう。
ただし密室で暴れられては溜りません。
「そろそろ、決着をつけてやるのじゃ」
ソフィアは魔力を高めています。
「【轟雷】」
【ガーゴイル】が先に魔法を放ちました。
【轟雷】は【高位】の【雷魔法】。
昨日アルフォンシーナさん達から聴いた話では、現代の世界の基準では、【高位魔法】は戦術級の魔法だという事でした。
私が造った【ガーゴイル】プロトタイプ・アルファが持つ最強の攻撃です。
しかしゲーム時代のには【高位】の更に上にある【超位魔法】をユーザーやNPCが普通に使っていました。
おそらく900年前にユーザー達がいなくなって魔法技術が衰退してしまったのでしょう。
キュイーン……ドゴーーンッ!
ソフィアは【魔法障壁】を張って【ガーゴイル】の魔法を耐えました。
【ガーゴイル】の攻撃でソフィアの服に掛けてあった【バフ】が全て砕け散り、服そのものにも所々に破損や焦げ跡を残します。
しかし、何故ソフィアは全く攻撃を避けようとしないのでしょうか?
「おのれっ!【雷霆】」
遅れてソフィアも魔法を詠唱します。
あ……ソフィアの馬鹿。
キューン……チュドーーンッ!
膨大な魔力が解放され【神位】に分類される雷撃系の最強魔法が炸裂しました。
【神位魔法】は別名【神の怒り】とも呼ばれ、【神格】を持たない者には設定上使用不可能な究極魔法。
もちろん【神格者】であるゲームマスターの私は使えます。
……。
全てが終わった後には、腰に手を当て誇らしげに立つ、裸のソフィアの姿がありました。
ソフィアが張った【魔法障壁】は、ソフィア自身が放った【雷霆】の余波が貫通したらしく、彼女の服は全て消滅。
ソフィアの体も傷だらけでした。
私は、すぐにソフィアに【治癒】と【回復】を掛けてやります。
こんな狭い密閉空間で強力な魔法をブッ放せば、当然自分にも被害が出る事は自明の理。
私は既に経験して学んでいました。
ましてや【神位魔法】だなんて、デタラメにも程があります。
【ガーゴイル】や、私の着ていた紺色のローブも跡形もなく消滅していました。
私のシャツとズボンはゲームマスターのオリジナル装備なので、不滅の効果があり傷一つありませんでしたが……。
私は【大気】で室内の大気を清浄に戻しました。
ゴツンッ!
私はソフィアの頭にゲンコツを落とします。
「ぬおっ!痛いっ!何をするのじゃっ!?」
ソフィアは頭を押さえ涙目になりながら抗議しました。
「壊すな……って言いましたよね?」
「しかし、彼奴めが【高位魔法】などを撃つのが悪いのじゃ。さすがの我も少し体が痺れたのじゃ」
「先に手を出したのは、ソフィアでしょう?【ガーゴイル】は自衛プログラムに従っただけですよ」
「ちょっと触ってみただけなのじゃ」
「ソフィアが軽く触っただけで、十分に致命的脅威なんですよ」
「ごめんなのじゃ……」
「もう良いですよ。今後は無辜の民に危険が及ぶ場合、または【神位魔法】を使うに値する脅威がない限り、【神位魔法】の使用は禁止です。わかりましたね?」
「うむ、わかったのじゃ」
私は【収納】から【村娘の服】の一式を出してソフィアに着せてやります。
自分用には白地に瑠璃色で縁取りがされた【白魔法使いのローブ】を取り出して被りました。
またソフィアに渡してあった【魔力探知】を【認識阻害】する指輪も消滅の憂き目にあったので同じ物を再度支給します。
「すまんのじゃ」
ソフィアは言いました。
先程ソフィアが撃った【神の怒り】に数えられる【雷霆】は、ソフィアの最強攻撃【神竜の咆哮】と比較すれば10分の1程度の威力しかないものの、それでも都市を容易く滅ぼす程の威力です。
それを、こんな密室で使うなんて……。
私が当たり判定なし・ダメージ不透過の無敵体質でなかったら、可哀想な【ガーゴイル】と同じように消滅してしまっていたでしょう。
因みに、私は世界最強の攻撃と設定されている【神竜の咆哮】は使えません。
ブレス系は【竜】族などの種族固有の攻撃なのです。
・・・
私は【ガーゴイル】を造り直していました。
ソフィアは私の隣で正座して反省中。
「久しぶりに思い切り戦って、楽しかったのじゃ」
「ん?【神竜】は、ユーザーにクリア・ボーナスを渡す時以外に現世に降臨する事がありましたっけ?」
「何度もあるのじゃ。最近では千二百年前じゃ。【テュポーン】の奴が暴れておったので、八つ裂きにしてやったのじゃ」
【テュポーン】とは、ゲーム設定ではセントラル大陸南東の【遺跡】のボスである【古代竜】です。
各【遺跡・ボス】は討伐しても、しばらくすると【遺跡】最下層で【復活】する不死の【敵性個体】でした。
その【テュポーン】が【遺跡】の外に出て来たという事なのでしょう。
「ソフィアは、どうやって現世に留まり戦ったのですか?クリア・ボーナスを渡したら、また、すぐ亜空間に休眠してしまう仕様ですよね?」
「【ドラゴニーア】の総力を上げても抗せぬほどの強大な敵が現れた時には、大神官が、その生命を触媒として【儀式魔法】を行い我を亜空間から喚び出すのじゃ。その【儀式魔法】の効力で、我は9日間だけ外界に顕現出来る」
ソフィアは、さも当然というふうに言いました。
え?
何その設定……怖っ!
という事は緊急の時にはアルフォンシーナさんも……。
そんな設定は知りませんでした。
「ノヒトが我を解放してくれたから、もしもの時にもアルフォンシーナが我を降臨させる為に【儀式魔法】で生命を対価に差し出さなくても良くなった。感謝しておるのじゃ」
ソフィアは屈託なく言います。
その場の思い付きで適当に【神竜】の設定を変更して、現世に存在を固定してしまいましたが、結果アルフォンシーナさんの生命を犠牲にするような恐ろしい【儀式魔法】が必要なくなるのなら喜ばしい事ですね。
・・・
私は、耐久力向上、防御力向上、魔法耐性向上……などの【永続バフ】を【効果付与】して、新しい【ガーゴイル】を完成させました。
「さてと、出来ました。【ガーゴイル型空気清浄機】プロトタイプ・ベータ、起動……」
ブイン……。
よし、動いた。
今回は外装をアダマンタイト製にして、コアの【魔法石】も一回り大きくしました。
「今度こそ壊さないで下さいよ」
「さっきのより強そうじゃ。戦いたい」
「ダメですよ。これは、あくまでも戦闘機能もある空気清浄機であって、けして戦闘用【ガーゴイル】ではないのですから」
「十分に強大な戦闘力があると思うがのう。ノヒトよ、【ガーゴイル】が作れるなら【ゴーレム】も造れるか?」
「造れますよ」
「現身して、【神竜】の姿で暴れたいのじゃ。50mの【アイアン・ゴーレム】を造って欲しいのじゃ」
「簡単に言わないで下さいよ。50mはデカ過ぎます」
通常の製造品の【ゴーレム】は大きな物でも5mほど。
5mの【アイアン・ゴーレム】の重量は最低でも30t以上。
概算で体長が倍になると重量は8倍になるので、50mの【アイアン・ゴーレム】の重量は大体2400t以上。
2400tもの重量物で、激しい戦闘に耐え得る程の機動力を備える【ゴーレム】となると……動力と管制には馬鹿デカい【コア・ユニット】が必要になります。
「そんなデカい戦闘用【ゴーレム】を動かすには、大きさと品質を備えた【魔法石】が必要になります。【ダンジョン・コア】級の【魔法石】が必要です。今は手持ちがありません」
「ならば、【ダンジョン・コア】を【遺跡】に取りに行けば良いではないか?我は前々から【遺跡】の脅威に対して人種が守勢を強いられている状況が気に入らなかったのじゃ。じゃから、こちらから攻め込んでやれば良い」
「【遺跡】を攻略するのは構わないですが、ソフィアは【ドラゴニーア】を離れて大丈夫なのですか?守護竜でしょう?」
「問題ないのじゃ。【ドラゴニーア】に何かあれば我にはわかる。我も礼拝堂の【降臨の魔法陣】になら、世界中の何処からでも瞬時に【転移】で帰還出来るのじゃ」
「アルフォンシーナさんから許可が出たら良いですよ」
「約束なのじゃ」
「はいはい」
・・・
竜城の広間。
私達は夕食を摂っています。
「ソフィア様。さすがに、そのような理由で【ドラゴニーア】の外に遠征なさる許可は致しかねます。大きな【ゴーレム】と戦いたい為に、その材料となる【ダンジョン・コア】を入手に行くなどと……」
アルフォンシーナさんは呆れて言いました。
「これは必要な事なのじゃ」
「いけません」
「ノヒト。黙っていないで、其方からも何とか言うのじゃ。アルフォンシーナに許可をもらう約束をしたじゃろう?」
「私を巻き込まないで下さい。アルフォンシーナさんの許可がもらえたら、ソフィアと【遺跡】に行く……とは約束しましたが……私がアルフォンシーナさんを説得する……などとは一言も約束していません」
「ぐぬ。アルフォンシーナは少し頭が固いのじゃ。我は巨大な【アイアン・ゴーレム】が欲しいのじゃ」
ソフィアは口を尖らせます。
「では、1つ約束をして頂きます。ソフィア様が、その約束を守って頂けるのならば、ノヒト様と2柱で【遺跡】に遠征する事を許可致します」
「約束とは何じゃ?言ってみよ」
「では、明日から毎日、お行儀の訓練を受けて頂きます」
「行儀?良かろう。そのくらい容易い事じゃ」
「では、明日から毎日ですよ」
アルフォンシーナさんはニッコリ微笑みます。
アルフォンシーナさんとの約束で、ソフィアは毎朝1時間の行儀習いをする事になりました。
行儀習いは、ソフィアが淑女の嗜みを身に付けるまで毎日続きます。
【遺跡】への出発は【神竜】の復活を全世界に向けて公式に宣言して、式典と祝賀などが全て終わった後と決まりました。
私は、何となくソフィアが泣き言を言う未来が予測出来ます。
アルフォンシーナさんの行儀習いの指導は凄く厳しそうですからね……。
そんな事は考えもしないソフィアは、既に【アイアン・ゴーレム】を手に入れた事を想像して、機嫌良く肉を食べていました……手掴みでです。
さて、ソフィアに行儀を覚えさせる事は可能なのでしょうか?
ソフィアの行儀習いが、どんなに大変でも私には関係がありません。
お読み頂き、ありがとうございます。
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