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第88話。グレモリー・グリモワールの日常…8…スーパーバイザー。

本日9話目の投稿です。

 私は、銀行ギルドでの用事を、無事に済ませた。


 まず【湖畔の村】を法人化して登記。

 ピオさんが呼んだら、商業ギルドのギルマスが自らやって来て、あっという間に登記処理をしてくれた。

 普通、法人登記は、何日もかかるもの。

 でも、速攻で審査が終わって、【湖畔の村】は、とりあえず事業組合になった。


 さらに、【湖畔の村】は、仮で、自治体認証が付く事が決まる。

 あくまでも、仮だ。

 仮の開拓村。


 これは、銀行ギルドや商業ギルドの裁量で、どうにか出来る話じゃない。

 お役所仕事だ。


 で、ピオさんが呼んだら、リーンハルトが自らやって来たよ。

 リーンハルトの決裁で、【湖畔の村】は、仮の自治体として認可された。


 正式には、国の最終決定が必要だけれど、地方の領主には、街の外に出来た集落を自治体に指定する、代理執行権限、ってのがあるらしい。


 戦争とかで他国から、ぶん取った土地を、仮の自治体に指定して、ここは、もうウチの領土だ、って、実効支配権、を主張する為……だって。


 政治の話は、よくわからない。


 とにかく、私の村は、仮の自治体、開拓村【湖畔の村】となった。

 仮とはいえ、自治体になったら、役所を開いて、代官を置かなくてはならない。

 で、私は、農業集落のアリスの家を村役場に指定して、アリスを代官に任命してもらった。


 リーンハルトは、アリスなら、と文句はない。


 で、何か、ピオさんに誉められちった。


「さすが、グレモリー・グリモワール様。リーンハルト侯爵の、ご息女が代官を務めている村なら、仮の開拓村の、仮、が取れ、国から正式に自治体に認められる事が早くなりますね。これも、既成事実化の一歩ですか……。グレモリー様、あなたも中々の策略家ですね?」


 あ、いや、特に何も考えてなかったけれど……。


「越後屋、其方も中々の悪よの〜。ガッハッハッハ……」

 って、笑って誤魔化しておいた。


「越後屋?」

 みんなが、ポカーン、としている。


「ああ、英雄(ユーザー)が生まれる国ではね。物語の中で、政治権力と結託して悪さをする商人とかを暗喩する時、越後屋って呼ぶんだよ。で、越後屋って呼ばれた方は……お代官様こそ……って、言って、2人で、悪い顔して笑うところまでが様式美」


「なるほど……しかし、これは、手続きに則っており、違法な行為ではないのですが……」

 リーンハルトが顔を引きつらせて言った。


「あくまでも、暗喩。お芝居とか、ジョークの範疇だよ。こういう、コミュニティの実力者同士が集まって、知恵やアイデアを出し合ったり、(はかりごと)を巡らせる状況の時に使う」


 私、何で、こんなどうでも良い時代劇のお約束を説明しているんだろう……馬鹿馬鹿しい話だ。


 私の村は、今は、仮の開拓村で単なる事業組合だけれど、正式に国の審査を通れば開拓村として公益法人になり、最終的には国から認証を受けて独立自治体にまで持っていければ良い。

 公益法人化が認められた開拓村は、当該地区の領主が認めれば、ほぼノーチェックで、自治体に格上げされるのだ、とか。


「リーンハルト、あんた、わかっているだろうね?」

 私は、リーンハルトを、ギロリと睨んでやった。


「お任せ下さい」

 リーンハルトは、頷く。


 スーパーバイザーのピオさんの命令で、私の資金は非課税扱いで、全額、村の法人口座に送金出来た。

 昨日、支払った税金も戻って来たよ。

 良かったね。


 ピオさん、実は超偉い人みたいだ。

【イースタリア】の銀行ギルドの支店長も、商業ギルドのギルマスも、みんな、ピオさんにヘコヘコしているし、リーンハルトでさえ、ぞんざいには扱っていない。

 スーパーバイザーって、【イースタリア】の、じゃなくて、世界銀行ギルド全体のスーパーバイザーなんだって。


 スーパーバイザー?


 ピンと来ないから……。

「ぶっちゃけ、どんくらい偉いの?」

 ……って本人に訊いたら。


「実はスーパーバイザーは兼任の肩書きで、もう一つの肩書きは、世界銀行ギルド副頭取です。偉さ、で言えば……そうですね、私の命令一つで、【ブリリア王国】を国家破綻させられるくらいの政治力は持っている、と自負しております。【ブリリア金貨】の信用は、【ドラゴニーア通貨】で信用の裏書きをする事で担保しておりますが、その外貨準備を担っているのが当方、銀行ギルドでございます。銀行ギルドが【ドラゴニーア通貨】の供給を止めれば、【ブリリア王国】は、という事です……」

 ピオさんは、微笑みながら、怖い事を言った。


 リーンハルトは、また、顔を引きつらせている。


 副頭取……つまり世界中の銀行ギルド職員の中で、2番目に偉いって事?

 うん、ピオさんは、味方に付けておこう。


 私は、戦闘力なら国とだって喧嘩出来るけれど、経済的に締め上げられたら、弱い。

 ピオさんは、敵に回しちゃダメな部類の人だ。


 ・・・


【イースタリア】領主屋敷。


 私はリーンハルトと会議していた。

 何故かピオさんも一緒。


 どうしてか、わからないけれど、ピオさんは、私の味方っぽい立ち位置にいる。

 ま、正直、色々と知恵を貸してもらえて、ありがたいけれど。


 リーンハルトのところに来たのは、私の村に寄越す若い家族の選定作業の進捗を確認する為。

 モタモタしていたら、おケツを蹴っ飛ばすよ、と圧力をかける意味もある。


 リーンハルトに対する、私の信頼は低い。

 民からの支持は高い領主みたいだけれどね。

 私がリーンハルトを信頼しない理由は、例の生贄の件のせいだ。


 リーンハルトは、生贄制度やめさせよう、と働きかけていたらしいんだけれど、【ブリリア王国】では【アヴァロン】にある中央聖堂の政治的発言力が強くて、中々、古い因習を改められなかったらしい。


【ブリリア王国】は、妖精信仰とかっていう、カルトな宗教を国教としている。


 妖精信仰は、奴隷制度を否定していたり、種族差別を禁止していたり、基本的には穏当なモノらしいんだけれど、生贄を認めている。

 これは、許せない。


 当代の【ブリリア】王は、生贄に関して、中央聖堂と対立する政治姿勢らしいけれど、どこの世界でも一度根付いてしまった既得権益のしがらみを排除するのは、中々難しいみたいだ。


 私なら、問答無用で、【アヴァロン】の中央聖堂に【超位魔法】を、ぶっ放すけれどね。

 私は、進路を塞ぐムカつく奴らは、正面から叩き潰す流儀。


 900年前の、この世界(ゲーム)では、宗教は世界に一つだけだった。

 世界を創った【創造主】と、世界を管理する【超越者】と、世界の(ことわり)を守る【調停者】と、人種の庇護者である【神竜】を始めとする守護竜達……。


 ゲームの公式設定には明示はないけれど、【創造主】ってのは、このゲームの生みの親、プロデューサーのケイン・フジサカの事だっていうのが、ユーザーの中では定説になっている。

神竜(ディバイン・ドラゴン)】降臨イベントの後に流れるスタッフロールをよく見ると、ケイン・フジサカの名前が流れる場面で、背景には、創造主を意味する各国の文字のエフェクトが薄っすらと出ているらしい。

 私は、ただの背景の模様だと思っていたよ。


【超越者】ってのは、大勢いるって、公式設定に書いてあるから、開発スタッフや、管理スタッフや、プログラマーや、デザイナーや、システム・エンジニアの事だと推理されていた。

 これも、スタッフロールでわかるみたい。


【調停者】は、たぶんゲームマスター(GM)の事だろう。

 この【調停者】ってのは、ゲームの公式設定には記述がないから、たぶん、ゲーム開発チームとは関係なく、こっちの世界の住人であるNPCによるネーミングなんじゃないかな。


 守護竜は、ゲームの中に実在する。

 私に【避難小屋(パニック・ルーム)】をくれたのは、【ドラゴニーア】の【神竜(ディバイン・ドラゴン)】だからね。


 この宗教体系の事を、この世界(ゲーム)では、世界の(ことわり)と呼ぶ。


 世界の(ことわり)教?


 よくわからないけれど、この世界(ゲーム)で、本物の神様は、【創造主】、【超越者】、【調停者】……それから守護竜、守護獣しかいない。

 他の神様や、宗教は、全部偽物だ。

 これは、神学や、宗教学的な解釈の付け入る余地のない絶対の事実。

 何故なら、この世界(ゲーム)は、そのように創られ、設定されているのだから。


 つまり、妖精信仰の妖精聖堂の連中は、信仰を名目にして金儲けや政治介入をする悪い奴らだ。

 ムカつく。


「リーンハルト、私が、【アヴァロン】の中央聖堂の連中を、ぶっ飛ばして来てあげようか?」


「それは、やめて下さい。絶対にやめて下さい。お願い致します」

 リーンハルトは、必死に頼む。


「何でよ?リーンハルトも、あいつらの、やっている生贄に反対なんでしょう?」


「問題もあるとはいえ、妖精信仰は、我が国の国教。そんな事をすれば、私も【イースタリア】の民も、粛清されます」


「いや、グレモリー様を旗印にして、【ブリリア王国】や妖精信仰から、【イースタリア】が独立宣言をする、という事は可能ですよ」

 ピオさんが言った。


「戦争になりますね?民の犠牲を考えると、とても出来ませんよ」

 リーンハルトは、首を振る。


「じゃあさ、もしかして、私が生贄をやめさせた事で、リーンハルトの立場が悪くなる?」


「ご心配なく。私も、【イースタリア】の妖精聖堂も、生贄を出している事にして報告しています。ただし、【湖竜(レイク・ドラゴン)】が討伐された為、生贄には、用がなくなって、街に戻ったと。そういう建前です。【イースタリア】の妖精聖堂は、グレモリー様の味方でございます。聖職者達も、元来は、平和と安寧と慈悲をもたらしたいという意志を持つ者。【アヴァロン】の中央聖堂の権威より、民の病気を癒やすグレモリー様を信奉しております。悪いのは、権力の中枢にいる一握りの高位聖職者達なのです。我が(あるじ)、マクシミリアン王は、その悪い高位聖職者を排除して、聖堂の腐敗を改革しようとしておいでなのです……」

 リーンハルトは、言った。


「あのさ、そもそも、何で妖精信仰なんて、()()()()を信仰してんのさ?普通に【創造主】と守護竜を信仰すりゃ良いじゃん?」


「ははは、これは手厳しい。インチキですか?まあ、私も、薄々は、そう考えていますが……」

 リーンハルトが苦笑いする。


「ウエスト大陸には、守護竜がいません。それが原因です。ウエスト大陸の守護竜が【サントゥアリーオ】の民を追放して以来、ウエスト大陸は、守護竜には、守られていないのです。そのせいで、グレモリー様が仰るところの、酷いインチキが蔓延(はびこ)っております。【神竜】様と【調停者】様も、心を痛めておいでです」

 ピオさんが解説してくれた。


 なるほど。

 ウエスト大陸の守護竜は、確か【リントヴルム】。

 降臨イベントを起こせば、会って話は出来るだろうけれど、【サントゥアリーオ】を中心に広大な領域に張られた【神位結界(バリア)】は、私にも手に負えない。

 ま、そっちは、どうしようもないね。


 ん?

 ピオさんが、今、おかしな事を言った。


「ピオさん、何か【神竜(ディバイン・ドラゴン)】と【調停者(ゲームマスター)】を知っているような口振りだね?」


「ああ、ええ、まあ。【神竜】様は、ご復活あそばされました。【ドラゴニーア】に顕現され、今後は、ずっと現世におられるそうです」

 ピオさんが言う。


「【神竜(ディバイン・ドラゴン)】って、降臨イベントの時以外は、休眠している設定のはず、だけれど?」


「それが【調停者】様が、世界の(ことわり)を書き換えて、【神竜】様に、ソフィア様という名前を与え、【神竜】様を復活させたのです」


「ピオさん!私の事を、【調停者(ゲームマスター)】に伝えてよ。私、この世界(ゲーム)に閉じ込められて帰れないんだよ!」

 私は、ピオさんの肩を掴んで、ガシガシ揺さぶった。


「【調停者】様は、グレモリー様の事を、ご存知ですよ。いつもグレモリー様の事を気にかけていらっしゃる、ご様子……。私は、てっきり、【調停者】様の、お知り合いなのだ、と」


「知り合いじゃないよ。でも、【調停者(ゲームマスター)】は、私達、ユーザーが困っていたら、助けるのが仕事なんだよ。だから、助けに来いって伝えてくれない?」


 私が、自分で、セントラル大陸に向かっても良いけれど、村を、何日も無防備な状態にできないしなあ……。

 運営のノロマ!

 私の事に気付いているなら、早く救出に来いっ!


「【調停者】様、ご自身も、神界に帰れなくなっているそうです。それが、どうしてなのかは、わからないそうです。私の個人的推理では、きっと900年前の英雄大消失に、何か関係があるのではないか、と。実は、私の上司……世界銀行ギルドの頭取であるビルテ・エクセルシオールは、【調停者】様より、格別の信頼を賜っております。【ドラゴニーア】にある、当銀行ギルド本店には、【調停者】様の専用の部屋が、ございます。民間で、こういう特別室を作る栄誉に預かっている組織はありません」


「そんな事は、どうでも良いんだよ!早く、助けに来いって言ってるの!」


「し、失礼しました。グレモリー様、落ち着いて下さい。首が、首が取れるっ。どうか、話を聞いて下さいませ」

 私に、揺さぶられて過ぎて、ピオさんは、首がグラングランになっていた。


「あ、ごめん。力を入れ過ぎた」


 私は、レベル99カンスト。

 魔法職だけれど、それでも腕力は、普通の人種より、メッチャ強い。

 それを忘れていたよ。


「【調停者】ノヒト・ナカ様は、いずれ、グレモリー様に会いに来られるはずです。そのような口振りで、お話しになっていらっしゃいますので、いずれ、お会い出来るはずです」

 ピオさんは、首を押さえて言った。


 私は、ピオさんの首を【治癒(ヒール)】で治す。


 ごめん、ピオさん、むち打ち、になってたよ。


 ノヒト・ナカ?

 あ、ゲーム会社公式ゲームマスターの「中の人」だ。

 公式設定には顔写真がある。

 日本人だった。

 私は、ゲームの中では、一回も会った事がないけれど、チュートリアルにも出て来る有名人だよ。

 確か、ゲームマスター(GM)の中で、唯一、ゲームの企画の段階から開発にも携わった人だよね。

 凄えー、会えたら、サイン貰おう。


「待ってれば、その人が来るんだね?」


「はい、いずれ」


「わかった。待つよ」


 とりあえず、ゲームマスター(GM)に、私の存在が認知されているのは朗報だ。

 中の人、本人も帰れなくなっている、っていうのは、悪いニュースだけれど……。

 相手は、ゲームの仕様を知り尽くした、運営の人間。

 会って話を聴けば、私の置かれている状況を、上手く説明してくれるだろう。

お読み頂き、ありがとうございます。


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