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第86話。グレモリー・グリモワールの日常…6…預金引き出し。

本日7話目の投稿です。

 9月12日。


 早朝。


【エルフ】弟ことレイニールが私を起こしに来た。


「グレモリー様、見回りの時間だよ。起きてー……」


 日課の朝の見回りの時間らしい。

 レイニールは朝から元気だね。

 うん、子供が元気なのは、良い事だよ。


「うん、おはよう……」

 私は、ベッドから起き出す。


「早く来てね〜」

 レイニールは、【避難小屋(パニック・ルーム)】から駆け出して行った。


 私は、【トンガリ帽子】を被って、靴を履いて、立ち上がる。

 魔力は、満タン。

 昨日、魔力回復作用のある【魔法のホウキ(ブルーム・スティック)】を抱き締めて寝た甲斐があった。


 私は、【魔法のホウキ(ブルーム・スティック)】を【収納(ストレージ)】にしまって、【避難小屋(パニック・ルーム)】を出て、伸びをする。

 鼻面にシワが寄るほどの大きなアクビも一緒に出てしまった。


 朝の畑の世話をしていた、村人さん達に笑われてしまう。

 恥ずかしい姿を見られてしまった。

 最近アリスに言われたんだけれど、私は、男っぽいらしい。

 性格というより、立ち居振る舞いが、だ。

 私って男なのかな?

 それは、あり得る。

 記憶が欠損しているから確証はないけれど、現実世界では男性なのに、ゲームの中では、女性のキャラメイクをして遊ぶユーザーは、結構いるからだ。

 いわゆる、ゲーカマ。

 私も、そうかもしれない。

 もちろん、その逆パターンも、たくさんいる。


 ゲームは、そういう遊び方も肯定されている自由な世界だ。

 だって、そもそも、ゲームは仮想世界なんだから。


 私と目が合った、村人さん達が口々に挨拶をして来た。


「みなさん、おはよう」

 私も挨拶をする。


 私は、この世界(ゲーム)では、かなり傍若無人な振る舞いをして来たけれど、挨拶をされたら、条件反射で挨拶を返してしまう癖があるみたいだ。


 もしかしたら、現実世界の私の両親は、案外、躾に厳しいタイプだったのかもしれない。

 記憶が全くないので、寂しい、とも、会いたい、とも思わないけれど。


 レイニールが何やらコオロギみたいな虫を見つけて、地面をバシバシ叩いて、ジャンプさせて、喜んでいた。


「レイニール、害のない生き物だから、()()()()、虐めないであげなさいね」

 私は、自分の過去の所業を棚に上げて、レイニールを諭す。


「はーい」

 レイニールは、屈託なく返事をした。


 畑の様子は順調そのもの、私の、稲ちゃん達は、現実世界でなら信じられない成長スピードだ。


 インテリのナイアーラトテップさんは、この世界(ゲーム)は、地球より豊かだと、言っていたっけ。

 その理由は、農業生産性が地球より、ずっと高いから。


 私は、農業に詳しくないんだけれど、こちらの農業は、二期作、三期作、四期作が当たり前なんだって。

 さらに、穀物や野菜や果物は、現実世界より、簡単に栽培出来るらしい。


 それは、そうだろう。

 この世界(ゲーム)の時間の流れは、現実世界にリンクしている。

 つまり、1年は、同じ長さなのだ。

 職種が農業系のユーザーもいる。

 ゲームの農業が一年がかりの事業で、さらに凶作なんかに頻繁に襲われて、せっかくの農産物が全滅したりするなら、どんなマゾ・プレイだよ、って突っ込みを入れられる事だろう。


 この世界(ゲーム)では、気候の穏やかな地域の平野部でなら、春に一回、夏に二回、秋に一回の収穫を得られる。

 作物は、地球の物より、収量が多く、暑さ寒さ、雨風霜、日照りにも強い。

 そもそも、この世界(ゲーム)の気候は、干ばつや長雨や洪水などは、全く起きない仕様になっている。


 農作物を荒らす類の害虫や害獣も、いるにはいるけれど、みんなデカイから、すぐ分かって駆除もし易い。

 農作物の病気に関しては、存在すらしない。

 つまり、この世界(ゲーム)は、地球より、農業が簡単なのだ。


 そうでなければ、農業系の職種を選ぶユーザーはいない。


 しかし、その農業生産力の高さに対してバランスを取ろうとするモノがいる。

 悪い方にバランスを取るのだ。

 それは、言うまでもなく、魔物の存在。


 魔物は、ユーザーにとっては、お金儲けの種と同意語だけれど、この世界(ゲーム)の住人……つまり、NPCにとっては、不倶戴天の敵だ。


 魔物が厄介なところは、色々あるけれど、私は、繁殖を必要としない事だと思う。

 魔物も他の動物と同じように、繁殖可能。

 でも、繁殖しなくても増える事が出来る。

 スポーンするのだ。


 突然、何もいない場所に、パッと出現する。

 その他にも、特定スポーン・エリアや、ダンジョンでも、出現するのだ。

 つまり、世界中の魔物を狩り尽くしても、魔物は、絶滅しない。


 魔物=お金。


 と、考えているユーザーと違い、NPCにとっては、このスポーンという、世界(ゲーム)の仕様は、本当に、厄介極まりないと思う。


 魔物から、身を守る為に、NPCは、城塞都市に住んでいる。

 城塞の外には、地球より簡単に作物が育つ広大な土地があるというのにだ。


 開拓村といって、城塞都市の外に集落を造る人達もいる。

 でも、成功するのはユーザーばかり、NPCが開拓村の運営を軌道に乗せるのは、本当に難しいらしい。


 魔物の襲撃から村を守るには、戦闘力が高くなければいけない。

 ユーザーは、それを自分の戦闘力で賄えるけれど、大多数のNPCには、それが出来ないのだ。

 つまり、誰か戦える人員を開拓村の中から探すか、外から雇わなくてはならない。

 その人達の食い扶持は?

 報酬は?

 いくら地球より農業が簡単だとはいえ、一軒の農家が百人の傭兵を雇ってなお、利益を上げるほどの収穫がある訳ではない。

 つまり、城塞都市の外で農業をやるのは、NPCにとって、物凄く割に合わないのだ。


 ただし、例外的な場所がある。

 各大陸の中央国家だ。

 中央国家には、大陸の守護竜がいる。

 その守護竜が張る、【神位結界(バリア)】によって、その内部には魔物は、スポーンしない。

 つまり、守護竜が張る【神位結界(バリア)】の中でなら、城壁の外でも、開墾や耕作がし放題。

 さらに、【神位結界(バリア)】の中では、豊穣の実りが約束されると言われるほど、土が肥沃になるらしい。

 土地が痩せたり、連作障害なども起きなくなるのだ。


 こういう理由から、各大陸の中央国家は、その大陸で最も豊かな大国になる事が普通。

 セントラル大陸の【ドラゴニーア】や、ノース大陸の【エルフヘイム】のように。


 しかし、そうでない場合もある。

 まずは、イースト大陸の場合。

 イースト大陸の中央国家【アガルータ】は、【大砂漠】と呼ばれる荒涼たる砂漠の真ん中にある。

 これは、気候変動でもなければ、環境破壊でもない。

 ゲーム発売時点から、そのように設定されているのだ。

 その為、【アガルータ】は、農業が困難な土地。

【アガルータ】の(みやこ)【シャンバラ】の都市城壁の中だけはオアシスとして設定されている為に、農業は可能だけれど、城壁の外は雑草一本すら生えていない死の荒野になっている。


 それから、サウス大陸。

 この大陸は、NPC達から、悲劇の大陸と呼ばれている。

 私達がゲームで遊んでいた頃のサウス大陸は、豊かな場所だった。

 ほとんど耕作などしなくても、種を蒔いて放置しておけば、勝手に高品質な、穀物や野菜や果物が出来る、というくらい、農家にとってはヌルゲー地帯。

 サウス大陸の農家の仕事は、朝酒を飲んで昼寝する事だ、などというジョークが一般的だったほど。


 しかし、900年前、ユーザーが忽然(こつぜん)と姿を消して、サウス大陸は、ダンジョンから溢れた魔物によるスタンピードで塗り潰され、5か国中、4か国までもが、滅亡してしまった。

 残ったのは、北の一国だけ。


 現在は、北の一国に加え、東と西の国の首都だけは、人種の手に戻ったけれど、それでも、都市の外は、魔物に支配されているらしい。


 そして、私が今いる、ウエスト大陸。

 ウエスト大陸の中央国家は、【サントゥアリーオ】と云う。

【サントゥアリーオ】も滅び、今は【大森林】と呼ばれる、人を寄せ付けない森に覆われている。


 ウエスト大陸の滅亡の理由は、特殊だった。

 大陸の守護竜が、人種に牙を剥いて、【サントゥアリーオ】の国民を追放し、【都市結界(バリア)】の性質を変えてしまい、誰も中に入れないようにしてしまったらしい。


 守護竜が、人種を守護しないで、人種の敵に回るだなんて……。

 確かに、ゲームの設定集には、太古にも、似たような事があった、という記述がある。

 でも、あんなのは、世界観作りの為の、雰囲気だけの歴史だと思っていた。


 とにかく、私がいるウエスト大陸の中央国家【サントゥアリーオ】は滅亡し、誰も【サントゥアリーオ】の中に入れなくなっている。

 きっと、【イースタリア】が、医療の前段階の公衆衛生すら、まともに出来ないほど文明が衰退してしまったのも、ウエスト大陸の守護竜が人種を守護しなくなった事が遠因なのだろう。


 ・・・


 私は、レイニールと手を繋いで、城壁が壊れていないか、門は壊れていないか、堀は壊れていないか、を確認して回った。


 村人さん達には、私と一緒か、さもなければ【イースタリア】の兵士、衛士などの護衛がない限り、集落の外に出る事は、控えてもらっている。

 その内、集落の周りの魔物を狩り尽くして、ある程度、外出可能なようにするつもりだ。


 城壁の外を一回りして、堀で、キブリ達【竜魚(ドレイク・フィッシュ)】に、【古代(エンシェント)(ドラゴン)】の焼肉を投げてやる。

 もう、内臓はなくなってしまった。

 最近、キブリの子分がまた増えた、数えると50頭以上はいるね。


 大好きな、生肉でなくてゴメンよ。


 レイニールは、キブリ達への餌やりが大好きだ。

 レイニールが焼肉を投げて、【竜魚(ドレイク・フィッシュ)】が行儀良く、順番に餌を食べる。

 以前、キブリが他の【竜魚(ドレイク・フィッシュ)】の分まで横盗りしたのを、私が叱って以来、キブリは、部下達に餌を順番に食べさせるようになった。


 レイニールが投げた焼肉を、【竜魚(ドレイク・フィッシュ)】が空中でキャッチ。

 レイニールが、キャッキャ、とはしゃぐ。


 美味しいかい?

 そうか、なら良かった。


 私とレイニールは、手を繋いで、誰も人がいない商業集落を見回る。

 うん、人がいない集落って、不気味だね。


 よし、見回り終了。

 朝ご飯を食べに行こう。


 ・・・


 朝ご飯の後。


 私は、【イースタリア】に向かった。

 いつものように、何かあれば、幼い子供を優先的に、【避難小屋(パニック・ルーム)】に退避させ、スマホで私に連絡するように伝える。

 毎回、同じ事を言っているけれど、大切な事は何度でも言って聴かせるのが、私の性分なのだ。


魔法のホウキ(ブルーム・スティック)】をかっ飛ばす。

 途中で見つけた魔物は、一応、駆除しておく。

【中位】が1頭、あとは雑魚。

 でも、NPCなら、雑魚が相手でも、相当危険。

 私の村人さん達に被害が出るかも、って思ったら、無視なんか出来ない。

 あっと言う間に【イースタリア】へ到着。


 門番さんに挨拶して、私は、街に入った。


 さてと、今日、私が、【イースタリア】に来た理由は2つ。


 1つ、銀行ギルドから、出金する。

 2つ、人を雇う。


【イースタリア】は、買い物などをしても、大商店でなければ、ギルドカードでの決済が出来ない。

 普通の、個人商店は、どこも現金商売なのだ。

 だから、現金が必要。

 その他にも、村に病院を建設したり、村の防衛能力を高めたりしたい。

 コミュニティを維持するのって、何かと、お金がかかるね。


 人を雇うのは、村に招く為ではない。

【イースタリア】にいて、私の代わりに色々と動いてくれる人が必要なのだ。

 リーンハルトでも良いけれど、あいつは、領主として色々忙しいだろうから、勘弁してやろう。


 ともかく、街の中に、私の手駒が欲しい。

 何故なら、私の村は、人口が増えている。

 以前ならば、5人だけだったから、何か起きても、私が駆け付けるまで【避難小屋(パニック・ルーム)】に立て(こも)もっていてくれれば、安全だった。

 でも、今は違う。

 今の村人を全員、【避難小屋(パニック・ルーム)】に収容するのは不可能だ。

 つまり、私が村を離れている時に、万が一があれば、死人が出る。

 それを、私は、絶対に受け入れられない。


 なので、私が村を離れなくても、【イースタリア】での用事が済ませられる体制を取りたい。


 人材のアテはある。


 ・・・


 私は、まず冒険者ギルド【イースタリア】支部に向かった。

 今まで、倒した魔物を買い取ってもらう為。

 もう、いい加減、私の【宝物庫(トレジャー・ハウス)】はいっぱいなのだ。

 魔物の肉などは、少しづつキブリ達に食べさせているけれど、コアだけでも、相当貯まっている。

 もう限界。

 今日は、【宝物庫(トレジャー・ハウス)】の中のガラクタを売っぱらって、スッキリさせたい。


 冒険者ギルドで、買取依頼をして、量が多いので、と断って、解体場と倉庫がある建物で、【宝物庫(トレジャー・ハウス)】の中の魔物を放出する。


 一度では無理だ、と言われた。

 ですよね。

 とりあえず、価値の高い物から順番に、最大限預かってもらう。


「査定結果は明日、出ます」

 ギルド職員さんが言った。


 ほらね。

 こういう時、私の代理人がいれば、翌日また来なくても良い訳。


 私は、職員さんに挨拶して、冒険者ギルドを後にした。


 ・・・


 次は、銀行ギルド。


「いらっしゃいませ」

 カウンターの、お姉さんが声をかけて来る。


「すみません。【ドラゴニーア通貨】で100金貨分、全て【ドラゴニーア銀貨】で、出金をお願いします」


「畏まりました。100【ドラゴニーア金貨】を、全て【ドラゴニーア銀貨】での、ご出金ですね。ギルドカードをお預かり致します」


 カウンターの、お姉さんに、私の言い回しを微妙に言い直されてしまった。


 何か、馬鹿だ、と言われたみたいで傷付く。

 ま、事実だから、文句は言わないけれど……。


「はい」

 私は、ギルドカードを手渡した。


 すると、カウンターの、お姉さんは、私のギルドカードを見て、ワナワナと震え始める。


「英雄……」


「ああ、そうです。ちょっと前に復活したみたいです。何か、900年前に、英雄(ユーザー)がいなくなったんですってね。あらかじめ断っておくけれど、私も、その辺の事情は、わかりませんので、質問されても答えられませんよ」


「し、少々、お待ち下さいませ。し、支店長ぉーーっ!」

 カウンターの、お姉さんは、奥に座る、おじさんのところへ、私のギルドカードを持って走って行ってしまった。


 あの、私、こう見えても暇じゃないんだけれどなあ……。


 その後、私の接客は、支店長対応に変わった。

 応接室を勧められたけど、拒否。

 言外に、急いでいる、って滲ませたら、後はテキパキと処理をしてくれた。

 大量の麻袋に入った【ドラゴニーア銀貨】を私は、何とか【宝物庫(トレジャー・ハウス)】にしまい込んだ。


 くっ、ガラクタを放出したのに……。

 また、【宝物庫(トレジャー・ハウス)】の容量を圧迫する。

 これじゃあ、堂々巡りだ。


 それから、明細を確認。


 おっふ……。

 マジか?


 私の預金残高は、900年間の利子で、とんでもない金額に増えていた。

お読み頂き、ありがとうございます。


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