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第85話。グレモリー・グリモワールの日常…5…刺客?

本日6話目の投稿です。

 9月11日。


 早朝、グレースさんに起こされた。

 もう、各世帯に調理器具が揃ったから、【避難小屋(パニック・ルーム)】のキッチンには用はないはずなんだけれど……。


「グレモリー様、お話があります……」

 グレースさんが、スペンサー爺さんも【避難小屋(パニック・ルーム)】の中に呼び込む。


 何?

 2人とも難しい顔をして。


「実は、謝らなくてはいけない事がございます」


「謝る?」


「はい。私とスペンサーは、メイドと御者ではございません」


「ああ、そんな事なら、初めて会った時から知ってるよ。【鑑定(アプライザル)】で見たし。グレースさんの職種は【暗殺者(アサシン)】。スペンサーさんの職種は【剣豪(ソード・エキスパート)】でしょう。謝る事ってそれ?そんな事なら気にしなさんな。私は、あなた達の雇い主じゃないから、経歴詐称で訴えたりしないよ」


 私だって、第一職種(メイン・ジョブ)を隠しているしね。

 お互い様だ。


「お見通しでしたか?」

 グレースさんが言う。


「うん」


「あの、それでは、私達の任務も、ご存知で?」


「知ってるよ。アリスの護衛をしながら……隙を見て、私の寝首を掻け……って、リーンハルト侯爵から命令されてたんでしょう?鳥文を使って、手紙のやり取りをしていたのも知ってるよ。それで、アリスの病気の回復とか、街の住人の治療とかで、私に利用価値がある、という判断になって、寝首を掻くのは、とりあえず保留になったんでしょう?」


「何もかも、ご存知でしたか……」


「ご存知だよ。【認識阻害(ジャミング)】アイテムを装備してない時点で【暗殺者(アサシン)】落第だね。じゃあ、私も教えてあげる。私の服は【神の遺物(アーティファクト)】。強力な【効果付与(エンチャント)】がしてあるんだよ。もし、2人が、私の寝込みを襲っても、2人のレベルじゃあ、私には傷一つつけられない。そして、服の【効果付与(エンチャント)】は、それだけじゃない。私に害意を持って触れたら、その瞬間、【迎撃魔法(カウンター・マジック)】で、返り討ちだったからね。ふふふ、私は、熟睡したままでも、刺客を撃退出来るんだよ。フェリシアとレイニールを人質に取るのも不可能。あの子達にも、【神の遺物(アーティファクト)】の【ペンダント】を与えているからね」


 私は、グレースさんとスペンサーさんの正体に気が付いていたので、2人の家には天井に監視カメラ替わりの【魔法装置(マジック・デバイス)】を仕掛けさせてもらった。

 プライバシーの侵害とか言われるかもしれないけれど、刺客を野放しにする方が、私にとっては、重大な問題。


 ご丁寧に、グレースさんは、リーンハルトとの密書を読んだり書いたりを書斎でやっている。

 暗号も使わず、平文でだ。

 どうやら、この世界(ゲーム)のNPC達は、素朴で大らかな性格の人ばかりみたい。

 この世界(ゲーム)のNPC達は、正直過ぎて、生き馬の目を抜く、日本では、たぶん生きていけないんじゃないかな。


 もしも、私の【魔女の服】の【効果付与(エンチャント)】で防ぎきれない強敵が近付いたら、私は【魔力探知(ディテクション)】で瞬時に目が醒める。

避難小屋(パニック・ルーム)】にフェリシアとレイニールだけ(かくま)っておいて、私は、【エルダー・リッチ】、【ゾンビ】、【スケルトン】、【腐竜(アンデッド・ドラゴン)】で、迎撃する算段だ。


 たぶん、単独で、私の率いる軍団に勝てるユーザーはいない。


 私は、()()世界武道大会を連覇したウルビーノ・ウルバーニアに野試合を挑まれて、ボッコボコにしてやったんだから。


 ウルビーノ・ウルバーニア……マジでムカつく奴だった。


 そういう下衆キャラのロールプレイだって言う人もいたけれど、アレは絶対に地だよ。

 あいつ、自分から戦いを挑んで来た癖に、私に負けるとわかったら、レベル半減と所持金半減が嫌だからって……私に貴重なアイテムを譲るから殺さないでくれ……って買収して来たんだもん……毒を隠し持ちながらね。

 まあ、無視して、ボコってやったけれど。


 あの後、レベルが半減して弱体化したウルビーノ・ウルバーニアは、大勢のユーザーにストーキングされて、復活する度に狙われて、プレイヤー・キル(PK)されていた。

 最後は、レベル1だったらしい。

 よっぽど、嫌われていたんだね。


 あれ以来、ウルビーノ・ウルバーニアの名前を全く聞かなくなった。

 きっと、ストーキングから逃れる為に、アカウント変えたんだろう。

 世界武道大会連覇の実績を捨てるくらいだから、相当しつこくストーキングされたんだね。

 ノイローゼになってたりして……。

 ま、自業自得だ。


 世界チャンピオンといえば、世界武道大会5連覇のモフ太郎さんだけど……あっちとは戦った事がない。

 私の軍団を並べて待ち構えて迎撃すれば、まず間違いなく勝てると思うけれど、武道大会だと勝てないと思う。

 私の戦闘スタイルは、武道大会向きじゃないんだよね。


 武道大会のルールでは、開始の合図の前に、魔法を使えないし、罠も張れない。

 たぶん、私が【腐竜(アンデッド・ドラゴン)】を1体出した時には、モフ太郎さんにバッサリ斬られて試合は終わっていると思う。

 でも、ウザがられていたウルビーノ・ウルバーニアと違って、モフ太郎さんは、謙虚で善い人だったから、素直に実力を認められるよ。


 私は、世界チャンピオン級のユーザーを相手にボコれるくらいだから、NPCでは、私を殺すのは絶望的に困難だ。

 私を確実に殺したければ、軍隊を連れてくるか、強力な編成のパーティで挑むか、守護竜かゲームマスター(GM)クラスでなくちゃね。


「恐れ入りました。私達の事は、いかようにも、ご処断下さいませ。ただ、アリス様は、この事を知りません。何卒、アリス様には、お怒りを向けないで下さいませ」

 グレースさんは、土下座した。


 スペンサー爺さんも土下座する。


「処断なんかしないよ。2人とも、せっかくの村の管理と差配が出来る貴重な人材なんだからね。それに、わたしが怒っているように見える?私はね、職責を真摯にこなす人達には、割合、寛容なんだよ。私が、リーンハルトに怒ったのは、あいつが、領主の職責をおざなりにしていたから。自分の領民を生贄に出すなんて、領主失格だからね。そゆこと」


 グレースさんと、スペンサー爺さんは、リーンハルトからの、私の暗殺指令の撤回を機に、リーンハルトから(いとま)をもらったらしい。

 私に、暗殺計画を告白して、それで殺されるつもりだったのだ、そうな。


「では、私達は、こちらに残って、働かせて頂きます」

 グレースさんは言った。


「このような老いぼれですが、一生懸命、相勤めます」

 スペンサー爺さんは言う。


「グレースさん、スペンサーさん。私でなく、アリスの家来として働いてもらうよ。今日からは、リーンハルトではなく、アリスの命令に従う。わかった?」


「「畏まりました」」


 うん、一件落着だね。

 いや、待てよ。


「給金はどうしようか?」


「給金でございますか?」

 グレースさんが言った。


「私は、住むところと食べる物、そして馬達の糧秣があれば結構でございます」

 スペンサー爺さんは言う。


「いや、そういう訳にはいかない。給金は払うよ。タダ働きは、親の言いつけでもしたくないもんね。アリスは、この村の村長だけれど、税も報酬ももらってないし。そうすると、当然、グレースさんと、スペンサーさんの給金が捻出出来ないよね?困ったな。どうしたら良いか、2人とも知恵を貸して」


「何か産業を興すか、貨幣収入を得る方法があれば……」

 グレースさんが言った。


「それ、採用。まず、ポーションを造って売るでしょう。それから、この【竜の湖】は、メッチャ魚影が濃いんだよ。だから、漁業をして、魚を【イースタリア】や【アヴァロン】に売ったり出来るね。後は、畑を増やして、お米を生産して売るか、だね。お米はウエスト大陸では、珍しいんでしょう?売れそうじゃない?そんな感じかな。じゃあ、次、スペンサーさんのアイデアは?」


「私のアイデアなど……」


「あ、そゆの、いいから、とりあえず発表してみて」


「では……村人に、もっと多くの税を納めさせては?グレモリー様の定めた税率は低過ぎます。あれでは、タダのような物です」

 スペンサー爺さんは言う。


「村人さん達は、畑の面倒を見てもらう事が目的だから、税も、あれで良いんだよ。でも、スペンサーさんのアイデアは、核心を突いている。つまり、税を徴収する手立てが他にあれば良い訳だよね?なら、村を、もう一つ造って、そっちを商業区にして、所得税を徴収したらどうかな?」


「どうやって村を造るのですか?この集落を、お造りになったのでさえ、驚くべき偉業です」

 グレースさんが言った。


「そんなの魔法でチョイチョイだよ。よし、この村の隣に商業区を造ろう。リーンハルトに連絡……。あ、もしもーし、あのさ、私、村をもう一つ造るんだ。そっちは、商業区。でね、独立開業したい商人や料理人を誘致したいんだけれど、探しておいてくれない?店舗と住宅は、準備しておく。もちろん、無償で貸してあげるよ。また、正直で勤勉な、若い夫婦が良いかな……。あ、はーい、よろしく〜」


 ・・・


 という訳で、私は、村の隣にもう一つ村を造り始めた。

 回廊を挟んで向かい側に、農業集落と同じ大きさの城塞集落を造り、その真ん中に大通りを造って、両側に商店兼住宅や、工房兼住宅を建てる予定。


 まずは、城壁から。

【エルダー・リッチ】と【ゾンビ】をフル出動。

 しばらくして、城壁完成。


 魔力がヤバい、クラッと来た。

 リーンハルトからもらった、【ポーション】を2本続けて飲む。


「ぷはー、次だ」


 次は、街区整備。

 建物の基礎と、地下配管の敷設を同時に行う。


 よし、区画は、出来た。

 うん、順調だね。


 スマホが鳴った。

 グレースさんから。


「グレモリー様、キリのよろしいところで、お昼にいたしましょう」


「はいよー」

 私は、農業集落に戻った。


 ・・・


 お昼休憩後。


 午後は、いよいよ、建物を造り始める。


 商業集落の建物は、長屋だ。

 全て同じ構造の建物を大通りに面して、横並びに連ねる。

 地上3階、地下1階。

 農業集落の2階建て住宅に、店舗・工房を1階部分に追加したような形で、基本構造は同じだ。

 地下は倉庫、1階は商店か工房、2階3階は、住宅だ。

 幾つか、大きめの店舗も造ろう。


 よし出来た。

 時間がかかったね。

 3階建ては、案外大変だ。


 リーンハルトからもらった【ポーション】の最後の1本を飲み干す。


「よっしゃああ。やったるぜ」


 次は、水道工事。


避難小屋(パニック・ルーム)】には、備え付けの水道オブジェクトがあるので、給水給湯が可能だし、シャワールームにも給水給湯オブジェクトがある。

 排水は、シンクの排水口、シャワー室の排水口、備え付けの水洗トイレには、何でも流せる。

 この排水口は流れていった先が亜空間で、排泄物も汚水もゴミも、亜空間に移った瞬間に全て消滅してしまう、という便利機能。


 農業集落の各戸には、私が製作した【魔法装置(マジック・デバイス)】での給水給湯を行っている。

 この水は、清潔なので、そのまま飲料水にしても問題ない。


 共用浴場は、【魔法装置(マジック・デバイス)】で給湯して、源泉掛け流し。


 農業用水は堀から引いている。


 下水は、地下の下水管を通して、地下深くにあるプールに集めて、浄水の機能を持たせた【魔法装置(マジック・デバイス)】で綺麗にしてから、【魔法装置(マジック・デバイス)】のポンプで、堀に戻していた。


 私の従魔のキブリによると、魔力含有量の高い【竜の湖】の湖水と、浄化された真水が混ざる堀では、魚が異常に繁殖するらしい。

【竜の湖】の魔力含有量の高い湖水が希釈されてしまって、環境が変わってしまう事を心配したが、どうやら杞憂みたいだ。


 私が堀と湖が繋がる地点を【鑑定(アプライザル)】した結果。

 湖水の成分は、どれだけ真水が流入しても不変一定だった。

 もしかしたら、自然環境の設定は、ゲームの世界では不変一定なのかもしれない。

 一応、湖水の成分に変調を感じたら、すぐ伝えるようにキブリ達には、命じてある。


 そんな感じで、農業集落の方は、上下水道ともに万全。


 給水、給湯、浄水の【魔法装置(マジック・デバイス)】は、構造が単純なので、【中位】の【魔法石】で、十二分に高性能な物が出来る。


 商業集落の水道も、基本的には、農業集落の方式を踏襲した。

 でも、商業集落では、飲食店などの誘致を想定しているので、水周りは増やす。


 うん、悪くない。


 農業集落では内装もある程度、私が設えたけれど、商業集落では、内装は、どうしよう?

 住居部分は、農業集落と同じで良い。

 問題は、1階の商店・工房の部分だ。


 定食屋とレストランとカフェとバーでは、当然、意匠が異なる。

 もちろん、オフィスと、工房と、飲食店も全く違うのだ。


 とりあえず、外箱だけを造っておいて、商人や料理人が来てから、希望を聞いて内装を仕上げよう。


 よし、完成だ。


 辺りは、もう暗い。

 集中してやっていたら、夕刻だった。


 タイミング良く、グレースさんからスマホに入電。

 晩ご飯が出来たとの事。


 さあ、ご飯、ご飯。


 今日のメニューは、キブリ達が捕まえて来た、お魚。

 見た事もない魚だったけれど、【鑑定(アプライザル)】で見ると、毒などはなく、喫食可能、と表示された。

 食べてみたら、超〜、美味いんですけど。


 癖や臭みは、全くない。

 味は、ニジマスのようでもあり、鮎のようでもあり、とにかく、これは売り物になるね。

 これから、どんどん地場産業を盛り上げて行かなくっちゃ。

お読み頂き、ありがとうございます。


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