第84話。グレモリー・グリモワールの日常…4…村への移住者。
本日5話目の投稿です。
9月9日。
「おはようございます」
グレースさんに、起こされた。
スペンサー爺さんは、お馬の、お世話……アリスと【エルフ】の姉弟は、まだ眠っている。
もう、朝か……。
私は、【避難小屋】で目を覚ました。
炊事が出来る場所が、ここにしかないから、日の出前には、グレースさんが起こしに来る。
でないと、みんなの朝ご飯の用意が出来ないからだ。
村の各家にもキッチンは、ある。
でも、薪がないし、釜戸に対応した鍋もない。
だから、炊事が出来ない。
薪は、森に行けば、そこら中に落ちているし、いざとなったら、生えている木を伐採したって良い。
私なら、魔法で木材の乾燥も出来る。
魔法は、便利だ。
でも、面倒臭い……というか、他の事が忙しくて、手が回らない。
村の外の仕事は、今のところ、私が、全部やらなくちゃならないから。
だって、壁の外には、魔物がウロウロしているだもん。
とても、誰かに森へ行かせる事なんか出来ない。
キブリ警備隊が、1日で、だいたい20頭やそこいらの魔物を退治してくれている。
【中位】以上だけでだ。
ここは、【湖竜】の縄張りだから、【低位】の魔物は、お馬鹿な虫みたいなのくらいしか、近付かない。
鍋は、昨日、買い忘れた。
今日、街で買わなくっちゃ。
「じゃあ、今日は、1日留守にするから、帰りは夜遅くになるかもしれない。魔物が来たら、【避難小屋】に、みんなで立てこもって、通信機で、私に連絡してね」
「畏まりました」
グレースさんは、言った。
よし、今日も一日、張り切って行こう。
まずは、村の見回り。
ふむふむ、異常なし。
キブリ警備隊に【湖竜】の内臓をパス……キャッチ……お見事。
村の防衛は、任せた。
キブリ警備隊は、ヒレを、ピシッ、と上げて、敬礼。
よし。
・・・
朝ご飯を食べて、いざ出陣。
さてと、街道整備だ。
私は、【土魔法】で地面を整地して、【火魔法】で表面を焼き固める。
うん、良い感じだ。
これを、【イースタリア】まで、繋げれば道はOK。
でも、魔物への備えが少し心配。
なので、壁と屋根で道を、すっかり囲う事にした。
これは、道というより、回廊だね。
私の【バフ】なら、【低位】の魔物なら、問題なく守れる。
【中位】以上は、一撃食らったら、壊されるな。
でも、魔物が回廊を破壊している間に、荷物を放り投げて、回廊の中をダッシュで逃げれば、たぶん生命だけは助かるはず。
途中、途中に、【修復】の【魔法公式】を刻んだ【魔法石】を設置しておけばメンテナンス・フリーだ。
【魔法石】……勿体ないけれど、人命には替えられない。
【魔法石】の備蓄がなくなるね。
補充しなくちゃ。
工事中に出現した魔物は、サクサク倒して行く。
結構、頻繁に出て来て、面倒だな。
私は【宝物庫】から、手持ちの最精鋭達を取り出した。
【エルダー・リッチ】……200体。
【ゾンビ】……200体。
この忠実な兵隊達と一緒に、私は、【マグメール】の【ベヒモス】を丸焼きにしてやった。
私の本職は、【大死霊術師】。
たぶん、この世界で、歴史上最高の【死霊術士】だ。
【死霊術士】……超絶不人気職なんだよね……メッチャ強いのに……。
でも、私が、不可能と云われていた、単身での99階層ダンジョン完全攻略とか、【神位】の守護獣討伐とか、を、成し遂げたせいで、その後、1年間くらいは、ご新規さんの【死霊術士】が増えたらしい。
結局、そんなに使い勝手が良くないって、不人気職に戻ったけれど……。
あのね、根本的に考え方が間違っているんだよ。
【死霊術士】は、死体を【ゾンビ】やら、【リッチ】やら、にして甦らせる人じゃないの。
【ゾンビ】やら、【リッチ】やら、を、【操作】する……これが、本質。
これに、気付けなければ、【死霊術士】の本領は発揮出来ない。
私は、【才能】で、【操作】系の、最上位、超激レアの【完全管制】が出るまで、クッソほど、リセマラしたんだから。
これがないと、【死霊術士】は、パーティ上限の9人の内、自分を除いた8体の【不死者】しか、【操作】出来ない。
つまり、メッチャ弱い。
【死霊術士】は、職種特性で、防御力が弱々だからね。
私は、さらに、攻撃偏重のキャラ・メイクだから、防御力、紙、だし。
【完全管制】があれば、【不死者】を、千単位で使役出来る。
千単位だと、さすがに、【管制】の負荷で、脳の回路、焼き切れそうになるけれどね。
「【エルダー・リッチ】諸君!私は、工事に集中するから、敵を近付かせるな!【ゾンビ】諸君は、工事を手伝え!」
【エルダー・リッチ】は、ユラ〜、と飛んで、私を守り始め、【ゾンビ】は、資材を運んだり組み立てたりし始めた。
【高位】の【不死者】200体は、幾ら何でも、過剰火力だったか?
ま、いっか。
工事、工事……ふふん、ふふん……。
私の【宝物庫】は、一個は、【エルダー・リッチ】200体で、満杯。
一個は、【ゾンビ】200体で満杯。
一個は、【スケルトン】400体で満杯。
一個は、【腐竜】8体で満杯。
最後の一個は、雑多な資材やアイテムを入れてある。
【腐竜】、かさばり過ぎ。
まあ、【古代竜】の死体を【不死竜】化してあるから、仕方ないんだけれど……。
【宝物庫】が実装されるまでは、この子達を、しまえなくて、ゾロゾロ引き連れて歩いていたから、大変だったなぁ……。
おかげで、私の二つ名は、正式には【不死者の指揮者】なのに、【不死者の添乗員】なんて、呼ばれていた。
旅行会社の【添乗員】みたいって意味。
私も悪ノリして、旗を持って、先導したりしていたしね。
因みに、【湖竜】を、やっつけたのは、8体の【腐竜】と、200体の【エルダー・リッチ】による魔法飽和攻撃からの……私の【超位魔法】で、トドメ。
これが黄金の必勝パターンだ。
【ゾンビ】は、【ゴーレム】なんかと違って、器用だから、建築の手伝いなんかには、便利。
もちろん、操縦する私の腕と【才能】によるけれど。
ザ・人海戦術。
・・・
夜半過ぎ、回廊は【イースタリア】まで開通した。
魔力が切れたよ……。
リーンハルト侯爵が迎えてくれた。
領主の屋敷で、休憩させてもらう。
「あのような、素晴らしき回廊を建築頂き、感謝致します」
「うん。たぶん、平気だと思うけれど、一応、毎日、衛士に巡回させておいて。壊れていたら、報せて。あと、【魔法石】がはまっているけれど、盗んだら承知しないよ。あれがないと、自動で【修復】されなくて、メンテナンスに支障が出るんだから」
「畏まりました。領主令として、厳命致します」
リーンハルト侯爵から、工事の、お礼にと、お金を積まれたけれど断った。
「お金より、【ポーション】が良いな。【エリクサー】とまでは、贅沢言わないから……」
「畏まりました」
リーンハルト侯爵は、執事さんに命じて【ポーション】を用意してくれる。
「ありがとう」
私は、腰に手を当てて、一気飲み。
少し精製が甘い2級品だけれど、まあ、【ポーション】だね。
魔力が4分の1くらい回復したよ。
どうやら、【イースタリア】では、【ポーション】は、超貴重品で、軍や衛士や、病院代わりの聖堂などには全く備蓄がないのだ、とか。
【イースタリア】……大丈夫か?
この【ポーション】は、王都【アヴァロン】から、特別に購入した物で、アリスの容態が悪化した時の為に、少量だけが備蓄してあったらしい。
白血病に、体力と魔力の回復薬じゃあ……気休め程度にしかならないね。
「それさ、アリスの病気が治ったんだから、いらないでしょ。私が買い取るよ」
私は【ドラゴニーア金貨】で、【ポーション】を買い取った。
3本しかない。
仕方ないね。
材料が手に入れば、自分で作るんだけれど。
次の満月になれば、【湖竜】が湧くから、ベースとなる【超位】の魔物の血液は、手に入る。
【古代竜】の血液を使えば、【エリクサー】も作れるんだけれど、私は【錬金術】の【超位】が使えないから、【ハイ・ポーション】までだ。
あとは、【魔法草】だけれど……湖畔の近くの森なら、魔物も濃いし、たぶん生えているよね。
株ごと抜いて来て、村の畑で栽培するか。
精製は、【エルダー・リッチ】達にやらせとけば良いしね。
よし、【ポーション】が、そんなに貴重品なら、【ポーション】屋さんを開業して、村の現金収入源にしよう。
「なら、行くよ。街の周りで、どっか、魔物が濃い場所とか、ない?」
「北の森は、恐るべき【闇狼】の群がおります。その、被害に頭を悩ませています」
「あ、そう。なら、帰るついでに、殲滅しておいたげる」
【闇狼】ごときが、恐るべき、なら、【イースタリア】の戦力は、本当に大した事がないんだね。
私は、街で、鍋、釜、フライパン……などなどを買い込んで【イースタリア】を出る。
帰る途中、リーンハルト侯爵との約束通り、北の森の魔物を全滅させといた。
これで、しばらくは、安全。
高位の【魔法石】を大量に吐き出したのに、手に入るのは安物の【魔法石】ばっかりだね。
はあ、村の防衛が出来る【超位】の防御系魔法職がいれば、【湖竜】達を強制エンカウントさせて、コアを大量ゲット出来るんだけれどなぁ。
エタニティー・エトワールさんが、いれば……。
今やったら、私が戦っている間に、村が無防備になって危ないから、出来ないんだよね。
エタニティー・エトワールさんは、元々、私のファンだった子。
で、私の名前を文字ったハンドルネームを付けて、私に弟子入り志願をして来た。
でも、キャラメイクは、防御系魔法職だった、ゲームの知識が、よくわかってないままキャラメイクしちゃったらしい。
本人は、アカウント作り直して、キャラメイクからやり直すって言っていたけれど、チュートリアルで、超激レアの防御系の【才能】をもらってたから、勿体無い、って、そのままやらせた。
私の愛弟子。
私が、魔法を教えて、2人で世界中のダンジョンを巡った。
攻撃力のグレモリー・グリモワールと、防御力のエタニティー・エトワールのコンビは、有名。
エタニティー・エトワールさんは、全ダンジョンのクリアを成し遂げ、彼女と一緒に、私は10周目の全ダンジョン・クリアを達成。
世界最速で、10周達成……世界ランク1位になった瞬間だった。
何だか、何もかもが懐かしい……。
深夜……私は、泣きながら、村に帰った。
・・・
9月10日。
朝、リーンハルト侯爵から、携帯型魔法通信機に連絡が入った。
お願いしていた20世帯の移住者が揃ったらしい。
早いね。
早速、【イースタリア】に移動。
まずは、聖堂で、治療。
この間、重病人は、全員、完治させたから、軽症者や軽い病状ばかりで、人数も少ない。
でも、今日は、病気の家畜とかを、連れて来る人がいる。
まあ、やるけどもさ。
家畜は、一頭あたり、少額の報酬をもらう事にした。
「聖女様、治療費は、野菜で払っても良いですか?」
うん、物納でも可とする。
畜産家が、野菜や果物を、カゴ一杯に持って、牛や馬や豚を連れて、聖堂に列をなす光景は、中々に、シュールだ。
結構早く捌けたね。
牛や馬や豚の治療は、そんなに重篤な症状ではなかった。
怪我とか、寄生虫とか、乳の出が悪いとか、その程度。
余った時間で、聖堂の医療班に医学の指導をした。
怪我人を治療したり、赤ちゃんを取り上げる時に、手を洗わないでやるなんて、論外。
公衆衛生の基礎からして、なってない。
だから、穀物屋さんの奥さんは、敗血症になったんだよ。
「まず、この世界は、あらゆる物が細菌やウイルスや微生物の類で埋め尽くされている、と考えること、井戸水も、空気中にも、人種の体にも。この世界は汚染されている。だから、人種の身体の中に触れる……つまり、傷口や粘膜に触る場合、そういう、汚染が身体の中に入らないように最大限、注意しなければいけません。傷口に唾つけときゃ治る、とか、葉っぱ、貼っときゃ治る、なんて事は、自殺行為です。そんな事していたら治るものも治らなくなりますよ。なので、汚いの禁止」
私は、清潔、とは何か?
その定義から、説明し始めた。
聖堂の医療班は、目から鱗がボロボロ落ちている、みたいな顔をしている。
一方の私は、頭が痛くなった。
何とか、かんとか、清潔、を理解させて、実技に入る。
患者1人を診察・治療する度に、毎回、絶対に手を洗う事。
必ず石鹸を使ってね。
水は、どんなに綺麗に見えても、必ず煮沸して使う事。
そして、石鹸を使って綺麗に洗濯した布を、熱湯でグツグツ煮て、風通しの良い場所で天日乾燥させて、清潔な場所に保管しておく。
石鹸で手を洗ったら、毎回、その煮沸布で手を拭く事。
汚い布で手を拭いたら、手洗いの意味がない。
手を拭いたら、その後に、アルコールで消毒。
エール?
ワイン?
ダメダメ、エタノール……なければ、アルコール度数が高い……つまり蒸留酒で、酒精の高い、お酒を手に振りかけて揮発乾燥させる。
どのくらいの酒精?
うーん、火が着くくらいだよ……ボッ、てね。
その時に、絶対、ビンを触らない事。
ビンの外側とかも、ばっちい、から、手洗いの意味がなくなる。
誰か他の人に、ビンを持たせて、酒を注がせて消毒するの。
そこまでして、初めて、患者さんの傷口や患部に触ってよし。
わかった?
石鹸は高い?
交易品?
高けりゃ、自分達で作んなさいな。
作り方を知らない?
まず、獣脂をだね……。
こうして、私の公衆衛生学の講義は、続いた。
・・・
ちっ、だいぶ、時間を取られたよ。
あんな、素人が医療班だったら、ほとんど、病気平癒の祈祷をしているようなレベルだね。
全く、なってない。
リーンハルト侯爵と挨拶。
さてと、村への移住希望者は?
100人いる。
多くない?
健康な、若い夫婦は、複数の子持ちが普通?
あ、そう。
ま、いっか。
ところで、強制的に招集したとかじゃないよね?
大丈夫?
むしろ、希望者殺到で、くじ引きをした?
なら、よし。
20台の馬車に分乗して出発。
一家族を乗せた2頭引きの馬車は、遅い。
家財道具もいっぱい積んでいるしね。
あとは、薪、これが、大量にある。
ちっ、ノロマな馬め。
私は、4台の馬車に馬をまとめた。
10頭引きの馬車なら、スピードが出るだろう。
回廊の道は平らだから、スピード超過で車輪が壊れるような事もないはず。
で、4台の馬車に馬をまとめたから、当然、16台の馬車は、馬がいない。
もちろん、その辺は、ちゃんと考えてあるよ。
私は、超絶最高な魔法の天才なんだからね。
【エルダー・リッチ】に【理力魔法】を使わせ重量を軽減させながら、【ゾンビ】達に馬車を引かせる事にした。
さあ、引け〜っ!
ぐっ、ちょっと、重い。
私が引く訳じゃないけれど、パスが繋がっているから、【ゾンビ】の状況が私に伝わる。
頑張れ、私の【ゾンビ】達。
村に着いたら、今日は、タップリと身体のケアをしてあげるからね。
・・・
村に到着。
「みなさん、湖畔の村、に、ようこそ。えーと、まず、この村の村長は、アリスです。領主のリーンハルト侯爵の娘さんです。知っていますね?副村長は、グレースさん。それから、副村長代理は、スペンサーさん。フェリシアとレイニールは、私の従者です」
「「「え?」」」
アリス、グレースさん、スペンサーさんが驚きの声を上げた。
「決定事項です。異論は認めません。移住者の、みなさん、何かあれば、この3人に、お伺いを立てて下さい。みなさんの、お家は、世帯分、ちゃんとあります。好きな、お家を選んで下さい。広さと間取りは同じですが、日当たりとか、そういう好みがあるでしょうから、もしも、希望者が重なったら、くじ引きで決めてもらいます。それから、畑は、基本的に家の前の1区画は、各世帯の私有財産です。そこでは、何を育てても自由。その他の畑は、共有の畑です。みんなで協力して、世話をして下さい。今、畑には、米、という穀物を育てています。小麦と違い、粉にしなくても茹でるだけで食べられますし、収量も小麦より多いです。この村は、米、を主食とします。共有の畑で採れる米500kgを毎年私に納めて下さい。これが、税となります。その他の租税は一切取りません。それから、村の外は、魔物がいるので、出歩けません。その内、村の外も、安全に出歩けるように、駆除はしますので、しばらく待っていて下さい。あと、堀の中に【竜魚】の群が住み着いていますが、あれは、味方ですので、安心して下さい。あとは……集会所と、鍛冶場と、保育園と、学校と、共同浴場は、自由に使って下さい。お風呂には、毎日入って下さい。お風呂の使い方は、フェリシアとレイニールに聞いて下さい。保育園は、大人が働いている間、小さな子供を預かる施設です。しばらくは、誰か大人が交代で、子供の世話をして下さい。学校は、6歳から、15歳までの子供が通い、読み書き計算などを学びます。しばらくは、グレースさんが先生をします。その内、専門の教師を雇うつもりです。あと、15歳以下の子供は、労働は禁止にします。これは、家庭内の簡単な、お手伝い程度は、認めますが、基本的に、小さな子供は、元気に遊ぶ事……6歳から15歳までの子供は、学校で学ぶ事が、仕事だと、考えて下さい。以上」
移住者の家族は、家を選び、家財道具を運び込んだ。
今日は、集会所で、【湖竜】の焼肉パーティ。
少しだけれど、私が持っていたワインも出した。
お読み頂き、ありがとうございます。
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