第83話。グレモリー・グリモワールの日常…3…【イースタリア】で買い出し。
本誌4話目の投稿です。
8日目。
どうやら、こちらの暦では、今日は9月8日らしい。
今日は、朝から、【イースタリア】に行く事にした。
買い出しだ。
穀物とか、野菜とか、調味料とか、そういう物が不足している。
私の稲ちゃんは、ビックリするほど、順調にスクスク育っていて、もう、10cmになっている。
でも、さすがに、まだ、お米は、実らない。
私は、一度、きっちり誤解を解いておこうと、アリスと2人で、【イースタリア】に行く事にした。
アリスは、体調がすこぶる良いらしい。
残りのメンバーには、魔物が来たら、【避難小屋】の中に逃げ込めば安全だと、言い含めた。
何だか、信用してないみたいだったから、【避難小屋】の中に、順番に入れて、私が外から、魔法をガンガン撃って見せる。
ほら、大丈夫。
信用してくれた。
それから、キブリ達に、全員の顔と魔力パターンを覚え込ませて……この人達を守れ……と命令。
キブリ達は、ヒレを、ピシッ、と、挙げて……姐さん、任しときな……と、頼もしい返事。
ご褒美に【湖竜】の内臓を投げてやった。
レイニールが、やりたがったので、投げさせてやる。
レイニールは、大喜びだ。
では、留守番よろしく。
私とアリスは、出かけた。
・・・
【魔法のホウキ】は、やっぱり速い。
私は、【飛行】の詠唱で、飛べるけれど、【魔法のホウキ】は、魔力消費が断然、お得。
さらに、【魔法のホウキ】は、魔力回復を助けたり、魔力を貯めておく事も出来る。
【飛行】は、ゆっくり飛ぶなら、発動効果は、【理力魔法】と同じなので、大して魔力は使わない。
でも、中速域から、途端に燃費が悪くなる。
まず、空気抵抗で、目が乾くし、呼吸が出来なくなるので、ゴーグルやマスクを装着するか、【結界】や、【防御】で、保護しなければならない。
また、空気中に、虫とかゴミとかがあった場合、スピードを出して飛ぶと、これが思わぬ凶器となる。
失明したり、皮膚を切り裂いたり……結構、洒落にならない。
ぶつかるのが、鳥とかなら、下手をすると死ぬ。
いわゆるバードストライクってやつ。
だから、飛行中の防御は、必須。
それから、G、の問題がある。
急加速、急制動、急旋回……などで、色々、ヤられる。
まず、だいたい、気持ち悪くて、吐く。
それから、瞬間的に目が見えなくなったり、失神したりする……ブラックアウト現象というらしい。
で、内臓や脳が揺さぶられる。
内臓破裂、腹膜の破断、脳出血……普通に死んじゃう。
だから、体内を保護しなくちゃならない。
だいたいは、体内を保護する系統の魔法を組み合わせて対処するけれど、【治癒】を、かけっぱなし、にして、痛みや気分の悪さは、気合いと根性で乗り切る、なんていう強者もいる。
なので、高速【飛行】は、魔力を馬鹿食いして、実用向きではない。
【魔法のホウキ】は、飛行自体に、魔力は微量で足りる。
その上で、勝手に【結界】や、慣性制御もしてくれる、から、超低燃費。
一度使うと、これなしでは、お出かけ出来ない。
・・・
【イースタリア】に到着。
あっという間。
門番が、私を見つけ、血相を変えて、街の中に走って行った。
私とアリスが、門の中に入ろうと、したら、止められる。
どういう了見で止めるのか?
確かに私は、世界中で、散々、暴れ回って、冒険者ギルドからは、多少、目を付けられているけれど、辛うじて犯罪だけは、やっていない。
冒険者クラスは竜鋼・クラスだし、ドラゴンスレイヤーの称号持ちで、【聖格者】だ。
【エルフヘイム】の女王や、【ドラゴニーア】の大神官から、直々に、勲章だってもらっている。
どこの都市だろうが、国だろうが、私は、顔パスで入れる、VIPのはずだ。
何せ、私は、超絶最高な魔法の天才、グレモリー・グリモワールなんだから。
門番は、ちょっと、私が睨んだら、土下座して泣きながら……しばし、お待ち下さい。お怒りは、私の命だけで、ご容赦下さい……と懇願された。
いや、命なんかいらないし、鍛えていそうだから、死体が綺麗なら、私の兵隊として使ってあげても良いけれど……。
アリスによると、この人は、【イースタリア】の副衛士長……つまり、日本の警察で云うなら県警副本部長格らしい。
結構、偉い。
しばらくして、領主が馬に乗って、全速力でやって来た。
私の前で馬を降り、即、土下座。
「偉大なる魔女グレモリー・グリモワール様、本日は、どのような、ご命で、ございましょうか?もしも、何か不手際が、ございましたのなら、そのような仕儀に立ち到りましたのは、全て、領主たる、私の責任。どうか、民の生命は、お救い下さいませ」
領主は、言った。
「お父様、誤解をなさらないで下さい。グレモリー様は、善き【大魔導師】様でございます。そのような無体な振る舞いは、なさいません。そもそも、街に来て、お怒りを露わにされたのも、元はと言えば、人身御供などという、前時代的な風習を止めさせ、罪なき子供の生命を助ける為。また、その圧倒的な武威を持って、永年【イースタリア】の民に塗炭の苦しみを与えて来た【湖竜】を討伐せしめ、その対価すら要求されません。グレモリー様は、魔女などではなく、聖女様で、いらっしゃいます」
アリスは、きっぱりと言う。
アリスは、私が、誤解を解いた、おかげで、既に、私の味方になっていた。
これを、洗脳とも言う。
「アリスなのか?そのように、健康な姿となって……」
領主が、感動の再会っぽい口調で言った。
あのさ、どうでも良いから、街に入りたいんだけれど……。
何か、イライラして来た。
「もう、入るよ。良いね」
私は、スタコラサッサ、と街に入る。
面倒臭い領主の相手は、アリスに任せとけば良いよね。
さてと、買い出し、買い出し。
まずは、穀物。
【避難小屋】には、小さいけれどキッチンもある。
魔動コンロが一個と、魔動オーブンが一台。
魔動オーブンの使い方を説明したら、グレースさんは……使った事は、ないけれど、たぶん、パンは焼ける……って、言っていた。
穀物屋さんに、入る。
「白パン用の上質な小麦粉を1袋……いや、あるだけ頂戴。それから、ドライイーストも、あるだけ」
「魔女様……どうか、お許しを。街の備蓄を全てだなんて……」
「違うよ。街の備蓄を全部寄越せだなんて、言わないよ。私は、この店の在庫から、私に売っても、商売として不具合が出ない程度で、買えるだけ買いたいの。お金も、ちゃんと払うし」
穀物屋さんは、まだ、逡巡している。
すると、店の奥から、奥さんらしき女の人が出て来た。
「あなた、売って差し上げましょう」
奥さんは言う。
「お前、起きて来ちゃダメじゃないか。身体に障るといけない」
穀物屋さんは、言った。
「奥さん、病気なの?」
「え?ああ、産後の肥立ちが悪くて、ずっと伏せっているんです」
穀物屋さんは、言う。
「ちょっと、診るよ……」
私は、穀物屋さんの奥さんを【鑑定】した。
ふむふむ、血液中に細菌反応がある……ただの敗血症だね。
「【治癒】。ホイ、治ったよ」
「「え?」」
穀物屋さん夫妻は、驚いた。
「え?」
あまりにも、2人のリアクションが、おかしかったから、私も驚く。
で、何や彼や、あって、穀物は売ってもらえる事になった。
販売しても差し支えない在庫、上質な小麦粉20袋とイーストも相応分。
最初は、ただ、で良いなんて、言われたけれど、ちゃんと定価は払うし。
「250万金貨で、ございます……」
高っ!
何、その法外な値段?
ステルス戦闘機が買えるわ!
は!
インフレ?
900年経っているし……。
ヤバい。
私、900年経って、超絶セレブから、一転、ビンボーになってしもうた……。
「お金が足らない。そんなに持ちあわせがなくて……」
「では、お支払い出来るだけで、結構で、ございますよ」
私は、半ベソをかきながら、ギルドカードを渡した。
「あのう、ギルドカードは使えません。ご覧の通りの田舎商店ですので、現金しか、お取り扱い出来ないのです……」
穀物屋さんは、恐縮しながら言う。
私は、仕方なく、首からぶら下げていたコインケースに入っていた金貨を1枚、渡した。
「これで、どのくらい、買えますか?スプーン1杯とか?」
「こ、これは?【ドラゴニーア金貨】?」
「ん?金貨でしょう?使えないの?」
そっか〜っ!
900年経って、お金も変わってたか〜っ!
私、ビンボーどころか、無一文じゃんか!
ぎゃー、ひもじいのは、嫌だーっ!
「申し訳ありません。このような高額な貨幣は、お釣りが支払えません。【ブリリア金貨】か、さもなければ、【ドラゴニーア銅貨】は、ございませんでしょうか?」
「ふぇ?」
「【ドラゴニーア金貨】では、お釣りが……」
「その金貨、使えるの?」
「はい、もちろん。【ドラゴニーア金貨】は、世界で一番、信用のある貨幣で、ございますので」
「なら、【ドラゴニーア】の、お金でなら、お幾ら?」
「そうですね……今日の相場なら、2銀貨と5銅貨でございますね」
「うっそ。貨幣価値1000万倍!ジンバブエドル?ヤバくない?」
「ジンバブ?」
「あ、いや、それは、何でもない。なら、【ドラゴニーア】の、お金は、価値が高過ぎるんだね?」
「はい。なので、お釣りが、ございません。申し訳ありません」
私は、2銀貨と5銅貨を支払って、商品を購入。
【宝物庫】にしまった。
「しゅ、【収納魔法】?」
穀物屋さんは、驚いている。
あー、【宝物庫】?
【神の遺物】だからね。
因みに、私は、なんと、5個持ち。
ふふん、良いでしょう?
・・・
青果物屋さん。
とりあえず、ポポイのポイ、と野菜を見繕い、お会計。
すると、お店の、お婆ちゃんが、腰を痛そうにしているのに気が付いた。
「お婆ちゃん、腰を治してあげるよ」
私は、【鑑定】で、体内サーチ。
ふむふむ、腰は、椎間板ヘルニアが神経を圧迫していて、骨粗しょう症も併発している。
はい、楽勝、楽勝。
ん、大腸に、小さな癌があるね?
こっちも、治療してっと。
ついでに、老衰で弱っている内臓やら、視力やら、聴力やら、丸っと治してあげた。
はい、完治。
そうしたら、お婆ちゃん、腰が伸びちゃった。
結構、背が高いんだ?
若い頃は、きっと美人さんだったんだね。
「お婆ちゃん、痛くなーい?」
「あ、ありがとう、ございます。ありがとう、ございます……」
お婆ちゃんは、私を、拝み始めた。
嫌だな、私、まだ、生きてるから……。
・・・
魚屋さん、肉屋さん、調味料屋さん、で買物。
【イースタリア】、物価安っ!
ついつい、買い過ぎてしまった。
そして、何故か、行く先々で、病人に出会う。
この街には、【治癒】を使う魔法詠唱者が1人もいないらしい。
ていうか、【魔法使い】自体、【ブリリア王国】の王都【アヴァロン】にしかいないんだって……。
で、商店街の顔役だという、調味料屋さんに、案内してもらって、街の病院代わりの、聖堂、に行った。
うわーっ、病人だらけ。
ここは、野戦病院か?
怪我人と病人と老衰と妊婦と新生児と、全部、一まとめに大部屋で寝かせているよ。
疾病管理とか、感染予防とか、そういう観念はないのか?
お馬鹿なのか?
何か、効果のない植物の葉っぱを傷口に貼り付けたり、効果のない木っ端を燻して煙を当てたり、しているけれど……ここは、未開国?
私の知っている【ブリリア王国】は、有名な大企業、ニュートン・エンジニアリングがあったりして、結構な先進国だったはずなんだけれど……。
900年で、文明が衰退している?
ま、そんな事は、どうでも良いや。
「片端から、治して行くから、症状の重い人から順番だよ」
私は、聖堂の人達を治療し始めた。
そうしたら、街中から、病人や怪我人が集まって来ちゃった。
みんな、口々に、私を拝み倒して来る。
「おい!庶民、私が先だ!」
何だか、列の後ろから、順番を無視して、デブった、おっさんが、やって来た。
デブってる。
150kgくらいありそう。
着ている服は上等。
いけ好かない、金持ちだ。
「誰?」
「私は、【イースタリア】で一番の金融業を営んでおります。トリスタンで、ございます。私の病を治して下さい」
あ、そう。
「列に並んで。順番破りする人は、治療しないよ」
「なっ!私は、【イースタリア】で一番の金融……」
「それは、聞いた。金貸しだろ?列に並べ!じゃないと、魔法で焼豚にするよ」
「ひっ、わ、わかりました」
デブった、おっさんは、列の最後尾に並んだ。
ったく!
あーいうヤツからは、治療費をふんだくってやる。
3時間くらい、治療を続けていたら、アリスと領主がやって来た。
「【大魔導師】様、私は大変な誤解をしておりました。お許し下さいませ」
アリスと領主は、きっちり、話し合って来たらしい。
アリスの説明で、私が、世界の支配を目論む、悪い魔女じゃない、って、理解した、と。
何?
私って、そんな、イメージ?
ちょっと、【超位魔法】で、脅かしただけじゃんか……。
ま、良いけれど。
「わかれば良いよ。あのさ、この聖堂の医療体制はなってないね。今度から、病気になったら、湖畔の私の村まで来なよ。貧乏な人は、ただで治療したげるし。お金持ちからは、いっぱいもらうけれどね」
「グレモリー様、大変に、ありがたい、お言葉ですが、あの湖までの道すがらは、【湖竜】以外にも、強力な魔物がいて、そう簡単には、近付けません。生贄……あ、いや、子供達を送り届けるのも、毎回、命がけだったのです」
「私が、魔物は、掃除しといたげる。あと、街道の工事もしておいてあげるよ。だから、大丈夫。それから、村まで来れない人の為に、私が週一で、来たげるから、聖堂で治療するよ。あとは、急患が出たら、これで連絡して」
私は、領主に、携帯型魔法通信機を渡した。
「これは?」
「携帯型魔法通信機だよ。知らない?」
「これは、ロストテクノロジー。失われた、古代の超技術でございます」
「あ、そう。私は、たくさん、予備を持っているから、それ一台、預けとく。失くしたり、壊したり、しないでよ。それなりに貴重な技術なんだとしたら、新しく買ったり、直したり、出来ないかもしれないし」
「畏まりました」
領主は、恭しく、携帯型魔法通信機を受け取った。
アリスは、私が治療を続ける横にいて、色々、手伝い始める。
領主は、私が、指示した、医療体制の改善の為、聖堂の偉いさんと話し合いを始めた。
順番が最後の方になって、さっきのデブった、おっさんの番。
「【ドラゴニーア金貨】で、1000金貨。前金で、よろしく」
「はい?無料なのでは?」
「貧乏な人は、無料。金持ちは、有料」
「いや、しかし、【ドラゴニーア金貨】で、1000金貨は、あまりにも、法外。私の身代を全て売り払わなくては、いけません」
「ふん。あんたの病気は、糖尿病、痛風、高血圧、血管障害、肝炎、肥満……全部、贅沢病の類だね。そんな、自分で贅沢をして、自分で病気になるような馬鹿は、私は、治療したくないよ。どうしても、治療して欲しかったら、【ドラゴニーア金貨】で、1000金貨。ビタ一文まけないよ」
デブった、おっさんは、不服そうにしていたけれど、領主が、やって来て、一喝したら、スゴスゴと帰って行った。
その後、残りの患者を治療して、終了。
・・・
「なら、諸々は、よろしく」
「畏まりました」
「あ、でさ。私の村で働いて、畑の世話をしてくれる人を探しているんだけれど。貧しい人達の中から、なるべく、真面目で働き者の家族を見繕って、20世帯ばかし、引越してもらってくれない?若い夫婦とかが理想だね。当面、食べる物と住む所は、私が、バッチリ面倒見るし、畑の作物は、私が食べる分以外の残りは、全部、作った人にあげるよ」
「畏まりました、では、準備をして、ご連絡致します」
領主は、言う。
「よろしく」
因みに、この領主は、リーンハルト・イースタリア侯爵といって、【ブリリア王国】では、結構、偉いらしい。
ふーん、権力とか興味ないし。
私は、相手が王様でも、ムカついたら、兵隊達を、けしかけるよ。
こうして、私とアリスは、【イースタリア】を後にして、湖畔の村に帰った。
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