第816話。【ルナ・ベース】。
本日2話目の投稿です。
【ウェーブ・スウィーパー】の第2艦橋。
「ソフィア。そう言えば、あなたは先程……【ドラゴニーア】の宇宙局が【七色星】を観測した……と話していましたが、どうやって観測を行ったのですか?【ストーリア】から観測したとするなら、遠大な距離を調べるには超高出力の【魔力探知】が行える……言わば魔力天体望遠鏡のような【魔法装置】が必要でしょう?そのような【工学魔法】技術は、ユーザー消失で衰退した世界ではロスト・テクノロジーなのではありませんか?」
私は訊ねました。
「ん?あ〜、宇宙観測技術か?確かに【ドラゴニーア】以外の【ストーリア】の国々では、それらは【失われた古代の魔法体系】じゃ。しかし【ドラゴニーア】は、その技術を保有しておる。その技術は天体望遠鏡ではなく、無人探査船じゃがな。900年前から【ストーリア】の月には【英雄】達が建造した月面基地がある事はわかっておった。我は15年程昔に【ドラゴニーア】宇宙局に命じてロケットを打ち上げ、月面に【探査BOT】を送り込む事に成功したのじゃ。【探査BOT】は【英雄】らが遺した月面基地を調査して、その基地内に【英雄】達が遺した宇宙船を発見したのじゃ。現在それら宇宙船などを含む備品の類は【英雄】の動産資産保全を定めた国際条約に則り、適切に回収あるいは遠隔操縦して運び【竜城】の亜空間倉庫に保管されておる。じゃが亜空間倉庫に保管される前に【ドラゴニーア】の研究機関によって技術解析が行われ、それらの宇宙船などに使われておる【英雄】達が【神話の時代】に実用化しておった高度な技術の一端は垣間見る事が出来た。その技術をリバース・エンジニアリングして、【ドラゴニーア】は国産の宇宙船を開発したのじゃ。それら隔絶した高速宇宙航行を可能とする宇宙船によって【ドラゴニーア】は【七色星】など太陽系内の惑星に向けて宇宙航行を行い間近から観測が出来るようになった訳じゃ」
ソフィアは答えます。
「なるほど。ユーザーが建設した月面基地と言えば、グレモリー・グリモワール(私)のパーティ・メンバーであるナイアーラトテップさんが昔所属していた生産系ユーザー・サークルの老舗【ヴァルプルギスの夜】の本拠地兼宇宙船造船所である【ルナ・ベース】の事ですね?」
「うむ。確かそんな登録名称じゃったと思うぞ」
ソフィアは頷きました。
【ヴァルプルギスの夜】の月面基地にあった宇宙船からのリバース・エンジニアリングに成功したならば、現代の【ドラゴニーア】宇宙局が【七色星】の近くまで観測船を飛ばせても不思議ではありません。
あの月面基地は私もグレモリー・グリモワールのアバターとして一度見学させてもらった事があります。
あの【ヴァルプルギスの夜】の月面基地は、とんでもないですよ。
単に【ストーリア】から宇宙船で月に資材を運んで基地を建設しただけではなく、月の地下を掘削して鉱物を掘り当て建築資材を現地調達までしていましたからね。
更に完成した基地は真空気密が完璧に保たれ人種が長期間滞在出来る環境になっている事はもちろん、【ヴァルプルギスの夜】は将来的に、あの基地のギミックを使って……月をテラ・フォーミングして人種が宇宙服なしで屋外で活動出来るように環境を作り替える……などという途方もないプロジェクトを計画していました。
ナイアーラトテップさんからの情報によると【ヴァルプルギスの夜】にはアメリカ航空宇宙局に所属する本物の宇宙エンジニアが参加しているのだそうです。
【ヴァルプルギスの夜】の人達は宇宙開発ガチ勢なのですよ。
「【ストーリア】において自力で国産宇宙船を実用化したのは現在【ドラゴニーア】だけでしょうか?」
「さて、それはどうかの……?【シエーロ】の【天使】達は高度な科学技術を保有しておるようじゃが?」
「【シエーロ】の【天使】コミュニティでは惑星間航行を可能とするような高速宇宙船は実用化されていません。科学技術の水準的には彼らは既に惑星間航行技術を獲得するだけの域に到達していますが、ルシフェルがリソースを宇宙開発分野に振り分けるのを躊躇ったようですね。他に優先順位が高い予算の使い道がある……という事情のようです。そもそも【隠しマップ】の【シエーロ】は閉塞した亜空間フィールドですから上空を高く飛んでも宇宙空間には出られません。宇宙空間に開けた空がある【魔界】方面に関しても、現地の科学水準があまり高くはないので競合する勢力がなかった為に宇宙開発は後回しにしていたみたいですね」
「ふむ。確かに宇宙開発事業には馬鹿みたいに予算が掛かるからの〜。その割には目に見える形での見返りは大して多くはないのじゃ。【ドラゴニーア】宇宙局の上部官庁である教育省の長官ロザリアも……宇宙局は万年予算不足……と、いつもボヤいておる。【英雄】の月面基地調査計画についても、安全保障上の懸念から我が無理を通して予算案を元老院にねじ込んだのじゃ」
【ドラゴニーア】の教育長官ロザリア・ロンバルディア女史は、大神官アルフォンシーナさんの相談役を務め、同時に【ドラゴニーア】首席国家魔導師も兼務するという多才な人物です。
彼女の種族は【聖格】持ちの【蛇人】で、世界一の超大国【ドラゴニーア】が誇る万能の天才科学者なのだとか。
私も【竜城】で何度か姿を見かけた事がありますが、彼女とは一度時間を設けて話してみたいですね。
「そうですか。だとすると私が既知の【マップ】では、高い水準の宇宙開発技術を保有するのは、おそらく【ドラゴニーア】だけでしょう」
「うむ。我が知る限り、現在国産の宇宙船と、国産の惑星間宇宙航行技術と、国産の有人宇宙航行技術を保有するのは【地上界】では【ドラゴニーア】だけじゃ。単に宇宙を飛べるだけのロケットなら、【ニダヴェリール】や【タカマガハラ皇国】も既に造っておるが、それらは精々【ストーリア】軌道上に小さな衛星を打ち上げる程度の推進力しか持たぬ。惑星間航行など、まだ当分先の話じゃろう。【ユグドラシル連邦】には長距離宇宙航行が可能で膨大な積載量を誇る【箱船】があるが、あれは現代技術では再現不可能な【失われた古代の魔法体系】じゃから、もはや【ユグドラシル連邦】の国産実用化技術とは呼べぬ。【ドラゴニーア】が国産技術という意味で【ストーリア】の宇宙開発分野を大きくリードしておるのじゃ」
ソフィアは……エッヘン……と胸を張ります。
「大したモノです。さすがは超大国【ドラゴニーア】ですよ」
「うむ。我が君臨する国家じゃから当然じゃ。ま〜、そもそもは【英雄】の隔絶した技術を、我の【ドラゴニーア】が率いる【自由同盟】と鋭く対立しておった【ウトピーア法皇国】ら【神権連合】側に奪われない為に、件の月面基地の確保を急いだのじゃ。我ら【自由同盟】は【英雄】名義の動産資産の保全を謳った国際条約を厳格に守っておるが、【神権連合】の奴らは【英雄】の動産資産を密かに盗んでバラバラに分解し技術盗用しておるのじゃ。あの基地の技術を【ウトピーア法皇国】ら【神権連合】が握っておれば、あるいは国際安全保障のゲーム・チェンジャーとなったかもしれぬ。じゃからして我は、あの月面基地と宇宙船は絶対に【ウトピーア法皇国】の手に渡してはならぬと考え宇宙開発を急がせたのじゃ」
ソフィアは説明しました。
【ヴァルプルギスの夜】の本拠地【ルナ・ベース】にあった宇宙船は、純粋な戦闘力という意味で【ドラゴニーア艦隊】の【旗艦】である【グレート・ディバイン・ドラゴン】などには劣ります。
とはいえ、それでも相当な火力を持つ戦闘艦でした。
しかし宇宙空間から地上に向かって攻撃されれば、世界最強の【ドラゴニーア艦隊】とはいえ苦戦が予想されます。
実は【グレート・ディバイン・ドラゴン】など【ドラゴニーア艦隊】の主力艦にも宇宙航行性能がありました。
しかし【ドラゴニーア艦隊】は大気圏内で運用する目的で建造された飛空船艦隊ですので、各艦の上部構造体は気密が甘く、宇宙航行をする為にはクルー全員に宇宙服を着させなくてはいけません。
対して、【ヴァルプルギスの夜】の【ルナ・ベース】にある宇宙船は、元来が宇宙航行を目的とした戦闘艦なので気密は完璧ですからね。
宇宙空間から一方的に遠距離射撃されれば、さしもの【ドラゴニーア艦隊】と言えども負けるかもしれません。
確かに覇権主義と軍拡を追求していた【ウトピーア法皇国】が【ルナ・ベース】に格納されている宇宙船を確保していたら、軍事超大国【ドラゴニーア】にとっても大変な脅威となっていたでしょう。
ソフィアの普段の頭がアレな行動を見ていると信じられませんが、【ルナ・ベース】の確保を指示した判断は間違いなく一国の指導者としてソフィアに先見の明がありましたね。
「ソフィア様が治める【ドラゴニーア】という国は惑星間航行技術を持つのか?此処【パンゲア】に紐付くという惑星【七色星】と、【ドラゴニーア】がある惑星【ストーリア】の位置関係や距離感はわからないが、同一惑星系内であっても途方もなく遠い事だけは確かだろう。【ドラゴニーア】の文明水準には率直に感嘆する他ないな」
シピオーネ・アポカリプトは嘆息します。
「シピオーネよ。其方らが【ストーリア】に移住したら、いつでも我の【竜城】に訪ねて来るが良い。歓迎するのじゃ。ノヒトやゲームマスター本部を例外とすれば、【ドラゴニーア】は科学技術だけでなく、人文科学分野でも世界最高峰じゃ。また魔法学でも世界最高レベルを争っておる。シピオーネだけでなく、シピオーネが庇護する【魔法使い】や科学者や技術者や技術官僚も視察や研修に受け入れる用意がある。我の【ドラゴニーア】は友好的な国家や集団や個人に対しては、常に門戸を開き、来る者拒まずのスタイルなのじゃ」
ソフィアは言いました。
「ならば是非貴国に私の陣営の者達による視察と研修をお願いしたい。私は戦争には多少の心得があるのだが、それ以外の民政分野は不得意なので、陣営の者達に指導が行き届かず困っていたところでね」
シピオーネ・アポカリプトは苦笑いしながら頭を掻きます。
「うむ。いつでも来るが良い」
ソフィアは鷹揚に頷きました。
「ソフィア様。我が国の技術者にも研修をお願い出来ますかな?」
【スキエンティア】のウッコ王は訊ねます。
「ウッコ王。抜け駆けは狡いわ。ソフィア様、我が【マギーア】も【魔法使い】を研修に参加させて頂きたいと存じます」
【マギーア】のフレイヤ女王は言いました。
「う〜む。我は、未だ其方らを信用してはおらぬ。もしも【ドラゴニーア】で研修を受けたくば、次代の王を継ぐ事が確定している者を送って寄越すのであれば遊学という体裁で研修をしてやっても良い。既に【ドラゴニーア】では2か国から次期女王と次期国家元首になる事が決まっておる者らを迎えて研修しておるからの。もう2、3人増えたところで研修の労力は変わらぬ故、次期国家元首確定者であれば喜んで迎えてやるのじゃ」
ソフィアは言います。
現在【竜城】には【アルカディーア】のドローレス・アルカディーア皇太王女と、【ウトピーア】のエクストリア・プルミエール【トゥーレ聖堂長】という2人の次期国家元首が研修を受けていました。
彼女達は【ドラゴニーア】にとっての元敵対国から迎え入れられた研修生で、【竜城】で帝王学を学び将来的に二度と【ドラゴニーア】に敵対しないようにするという意図で思想矯正が図られ、また教育をされているのです。
とはいえ研修自体は実際に国家運営や外交交渉など為政者のスキルとして確実に役立つ高度な内容が教えられていました。
【ドラゴニーア】にとってはもちろん、一応【アルカディーア】や【ウトピーア】にとっても利益がある機会ではあるのです。
「次期国家元首とは、つまり儂の倅を人質を寄越せという意味でございますかな?」
ウッコ王は胡乱気な視線で訊ねました。
「身も蓋もなく言えば、そういう意味合いが含まれている事は否定せぬ。何しろ我は其方らの事を良く知らぬ。其方らの国が将来的に信用出来る友邦国となるならば良し。じゃが万が一其方らの国が将来【ドラゴニーア】の敵になるような事態を想定せねばならぬとするなら、潜在的な敵に【ドラゴニーア】の先進的な知識や技術を簡単には教えられぬ。むしろ敵に対しては防諜を行い機密保護をせねばならぬのじゃからな」
ソフィアは言います。
当然の話ですね。
将来の敵にワザワザ塩を送り、より強力な敵として自ら育ててやるような者は、お人好しを通り越して単なる馬鹿です。
しかし、こういう国同士の安全保障の為に人質を送るような外交のやり方について、現代日本人である私の感性では……如何なモノか?……という多少の忌避感がない訳ではありません。
ただし人質交換は地球の歴史でも中世頃までは普通に行われて来た事です。
【ストーリア】や【パンゲア】の住人にとって人質外交は、私が考えるよりは是認の範疇にある日常の出来事なのかもしれません。
「一理ある話ですわね。つまり逆に考えれば、次期女王になる予定の私の娘を、ソフィア様の国【ドラゴニーア】に人質として差し出せば、ソフィア様と【ドラゴニーア】は将来に渡って【マギーア】と友好関係を築いて下さるのですね?また、当然ながら私が退位して娘に女王位を継がせる際には、【ドラゴニーア】は人質の娘を間違いなく【マギーア】に返して下さる、と?」
フレイヤ女王は訊ねました。
「もちろんじゃ。【ドラゴニーア】で教育を受けた他国の有力者達は【ドラゴニーア】と敵対しようとは思わなくなるじゃろう。また【ドラゴニーア】としては他国の次期国家元首を教化して、いずれ本国の元首を継承させ、当該国を親【ドラゴニーア】の国家と為す事が目的じゃからして、遊学中は丁重に扱い無事に国に送り届ける事を約束するのじゃ。もちろん滞在中の経費も基本的に【ドラゴニーア】持ちじゃ。それに遊学するのが王位継承者であれば、側使えや近習や護衛なども大勢引き連れて来るのじゃろう?そういった者達にも大学や官庁や研究所や軍などで、それぞれ望む教育や研修を受けさてやるのじゃ。【ドラゴニーア】は【ストーリア】最大の経済大国にして最強の軍事大国じゃ。其方らの国にとっても悪い話ではあるまい」
「確かに……。ならば私の娘を人質、いいえ【ドラゴニーア】への遊学に送りたいと存じます。ソフィア様、何卒娘の事をよろしく御頼み申します」
フレイヤ女王はソフィアに深い礼を執って依頼します。
「ソフィア様。物は相談なのですが。儂の倅である王太子は、もう随分と年嵩です。歳を取ると頭が固くなって新しい知識や技能は中々身に付かぬモノ。なので、もしも可能であれば倅の息子、つまり儂の孫を人質、いや、【ドラゴニーア】へ遊学に送る訳にはいかぬでしょうか?」
ウッコ王は訊ねました。
「その者が将来、間違いなく其方の国の王位を継承するのであれば構わぬぞ」
ソフィアは同意します。
「はい、お約束致します。では儂の可愛い孫をソフィア様と【ドラゴニーア】にお預け致します。ついでに孫が【ドラゴニーア】の才媛を嫁として連れて帰って来てくれれば、尚ありがたい事ですな。ガッハッハッハ……」
ウッコ王は豪快に笑いました。
「【ドラゴニーア】は国民に政略結婚を強要したりはせぬ故、嫁の手配までは約束出来かねる。じゃが【ドラゴニーア】は基本的に身分階層のない自由恋愛の国柄じゃからして、もしも其方の孫に見染められた女子が、其方の孫と結婚して【スキエンティア】に嫁いでも構わぬと言うのなら、それは慶事じゃ。祝福して送り出してやるのじゃ」
ソフィアは答えます。
「ありがとうございます。それでは孫の事を何卒よろしくお願いします」
ウッコ王は深々と礼を執りました。
「うむ」
ソフィアは頷きます。
勝手に話が進んでいますが、それらの人員を【パンゲア】から【ドラゴニーア】まで運ぶのは私ですよね?
また仕事が増えました。
まあ、記念すべき初の惑星間友好の架け橋となるならば、私が面倒を被っても構いませんけれどね。
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