第815話。ワールド・クラス・プログラマー。
【ウェーブ・スウィーパー】の第2艦橋。
昼食後。
私達が【パンゲア】の諸懸案について話し合っていると、ミネルヴァから【念話】が届きました。
チーフ……【キー・ホール】によるサーベイランスの続報を伝えます……【七色星】には【ストーリア】と同じ配置で複数の大陸と島があり、各大陸には初期構造オブジェクトの複数の都市と街道がありました……また【七色星】には知的生命体がいます……大半は【魔人】ですね……おそらく【七色星】には【魔人】がスポーンする仕様がプログラムされているのでしょう……【魔人】達は社会性を持ち国家と見做せるコミュニティを形成しているようです……【魔人】の他に人種も僅かですが生息しているのが確認されました……人種は、おそらく【パンゲア】の虚無海に事故などで堕ちた者か、その子孫達であると推定出来ます……更に詳しく調査を行います。
ミネルヴァは【念話】で報告します。
ミネルヴァ……ありがとう……調査の継続を頼みます。
私は【念話】で伝えました。
なるほど。
公式設定でさえ……謎の惑星……と記載されている【七色星】に【マップ】が存在していても不思議ではありませんね。
【七色星】はハビタブル・ゾーン(太陽からの適切な距離にある惑星で、生命を育める環境が存在する可能性のある範囲)に存在していますので以前から可住惑星である可能性が予想されていましたが、【スパイ・ドローン】の【キー・ホール】から送られて来たデータによると初期構造オブジェクトが存在し、【魔人】と人種がコミュニティを形成していましたか……。
これは、もちろん【創造主】の仕業です。
あの人はゲーム開発の最終決定権者であるだけでなく、会社の経営方面でもクッソ忙しいというのに、いつの間に【七色星】の【マップ】を作り込んだのでしょうか?
まあ、フジサカさんなら、やり遂せてしまうのでしょうね。
フジサカさんの肩書はゲーム・プロデューサーですが、元来の本職はプログラマーでした。
私の本業もゲーム・プログラマーです。
私は世界的に見ても比較的仕事が速い部類のプログラマーだと思います。
私は複数のモニターと複数端末を同時に駆使して、複数のプログラムを同時進行で組めるという特技がありました。
また、必要に応じてオリジナルのキャド・オペレーションを開発したりとタスクの効率化も得意です。
そんな私と比較しても、フジサカさんのタスク処理速度は異常に速いのですよ。
あの人はワールド・クラスのプログラマーで、プログラミング業界では世界最強の化け物です。
とにかく、【七色星】に文明がある事が判明した以上、一度【七色星】にも向かって私の存在を認知させ、現地の代表者達とコンタクトを取って【世界の理】を教化しておく必要がありますね。
1つ仕事が片付きかけたと思ったら、また仕事が降って湧きました。
仕事がひたすら増えて行きます。
デス・マーチは続くよ、何処までも……。
・・・
「とりあえず奴隷制の廃止は決定事項として可及的速やかに履行して貰います。あなた達を信用して奴隷解放までの期限は設けませんが、私が見て奴隷解放の進捗が遅いと判断した場合は事前警告なしに、その国家を私が滅ぼす可能性があり得るという事を了解しておいて下さいね。その他にも基本原則として先程渡した【世界の理】を遵守して下さい。【世界の理】を遵守している限りにおいて、私は個人の滅殺や、社会集団や国家の滅亡という最終手段を選択せずに済みますからね。これは脅しではありません。実際に私は先日【パンゲア】と同じような【隠しマップ】である【シエーロ】の国家を1つ一瞬の内に滅亡させましたので。【世界の理】は、如何なる場合においても、あなた達が絶対服従するべき最高権威であるという事を、くれぐれもお忘れなく」
私は【パンゲア】の各国元首達に太い釘をグッサリと刺しておきます。
居並ぶ【パンゲア】各国元首達は青い顔で頷きました。
「とはいえ、今まで慣習的に行って来た旧来の規範や制度を根底から変える事になりますので、あなた達も大変でしょう。なので私から、あなた達に1つ助け船を出しておこうと思います。端的に言えば、私の名前を脅しに使う事を許可します。具体的には……もしも【世界の理】を遵守・履行しなければ、ゲームマスターのノヒト・ナカという者と、ゲームマスター本部が抵抗不可能な強大な武力を以って滅ぼしに来るぞ……という脅し文句を行使する許可です。あなた達がやろうとする奴隷解放、及び奴隷制廃止、又はその他の【世界の理】に順じた制度変更に対して、反対勢力となる者達が現れたら、この論理を用いて問答無用で従わせるのです」
「ノヒト様。私共は……私共の意思を、いとも簡単に操って自分自身を殴らせる……などという神の力を知りましたが、本国にいる者達はそれを知りません。また私共が説明してもノヒト様の御力を信じるかどうか……。ノヒト様の御力を知らない者達には、ノヒト様の御意向が上手く伝わらない可能性があります」
【マギーア】のフレイヤ女王が言いました。
「そうだな。我国も同様の懸念がある。特に奴隷制廃止は、既得権益を持つ貴族連中や資本家らの欲望も絡む。儂が命令したとて、おいそれと従わせられるような簡単な話ではない」
【スキエンティア】のウッコ王も眉間にしわを寄せて考え込みます。
「その懸念は当然ですね。わかりました、何とかしましょう。あなた達は今から本国と連絡を取る手段がありますか?」
「この船の【魔法通信機】をお借り出来れば、王都の王城にある【魔法通信機】に連絡が出来ます」
フレイヤ女王が言いました。
居並ぶ【パンゲア】各国元首達も同様に肯定します。
「では今から各自【魔法通信】で本国に連絡をして下さい。通信内容は……私というゲームマスターの存在を報せる事。私の目的は【パンゲア】全土に存在する全知的生命体に対して普く【世界の理】を守らせる事。【世界の理】に違反する場合、私は違反者や違反国を滅殺したり滅亡させる意思と能力がある事……です。私に【パンゲア】を滅ぼす能力がある事を証明する手段は……今夜、私が順番に各国の首都を訪問して首都上空で【神の怒り】という魔法を放ちますので、それを見学すればわかる……と伝えて下さい」
居並ぶ【パンゲア】各国元首達は了解を示しました。
「ノヒト様。我が【ヌガ法国】は現在法都【ヌガ】が【特異点】の【事象の地平面】に飲み込まれてしまっておりますので、首都機能を現在地から北方にある都市【ルトリア】に移しております」
【ヌガ法国】のヴェリタス法王が言います。
「では、【ルトリア】上空で示威行動を行います」
「ありがとうございます」
ヴェリタス法王は頭を下げました。
ならば良し。
「さてとシピオーネ、グウィネス女王。あなた達には、これから【パノニア王国】の国家丸ごとの移住計画を開始してもらわなければいけません。とりあえず今夜、私が【パンゲア】各国で【神の怒り】の示威行動をする時に、ついでに【パノニア王国】にも寄って【転送機】と【使い捨て門】を主要都市に設置して回ります。それから【輸送機】を複数機と【コンシェルジュ】達も相応の数貸与しておきます。これらを移住作戦に役立てて下さい」
「え〜っと、理解が追いつかないな。説明を頼む」
シピオーネ・アポカリプトは言います。
「【転送機】とは非生物を遠隔地に転送可能な【魔法装置】です。距離を無視して一瞬で大量の物資を輸送出来ます。【使い捨て門】は生物も含めて【転移】出来る【転移門】です。2個1対セットで2つの【門】の間を距離を無視して一瞬で大勢を移動させられます。こちらは【門】の起動に【賢者の石】を毎回1個消費しますので物資輸送だけならコスト的に【転送機】の方でお願いします。つまり【使い捨て門】は、【パンゲア】の【ワープ・ホール】のギミックの大量輸送版と考えてもらえば良いでしょう。後で【賢者の石】は大量に持って来ますので、其方からの持ち出し分はありません。ただし移住計画で使って余ったら、【賢者の石】の残りは返して下さいね。【輸送機】は文字通り超高速の輸送機です。小型ですが内部は慣性制御が効いた乗り心地が良い汎用機なので、傷病者や高齢者や妊婦や幼児、それから精密機器類などの輸送に活用して下さい。【コンシェルジュ】とは、オラクルとヴィクトーリアと同じような【神の遺物】の【自動人形】です。移住計画に関する事情を理解している人手として使って下さい」
「なるほど。何から何まで配慮をしてもらって済まない。感謝する」
シピオーネ・アポカリプトは頭を下げて言いました。
【パノニア王国】のグウィネス女王と、シピオーネ・アポカリプトの弟子のヘックス・スカイ・クラッドも深く礼を執ります。
シピオーネ・アポカリプトの従者である【バステト】のキャス・パリーグは……。
アレは何をしているのでしょうか?
私達の話に飽きたウルスラは、先程から主武装の魔法触媒である【テュルソス】を猫じゃらしのように振って【使い魔】である【チェシャー猫】のトライアンフをじゃらそうとしていましたが……。
トライアンフは泰然自若として床で香箱座りをして微動だにしていません。
しかし何故かトライアンフの代わりに、キャス・パリーグがウルスラにじゃらされています。
確かに【バステト】は猫系の【魔人】ではありますが……。
いや、キャス・パリーグの奇行は飼主であるシピオーネ・アポカリプトが完全に無視しているので、私も見なかった事にしましょう。
・・・
チーフ……再度の経過報告です……【七色星】には【ストーリア】と同様にシンメトリーに配された2つの大陸群があります……片方の大陸群にある中央大陸の中央都市には【転移門部屋】が存在しました……この【転移門】は【ストーリア】における【竜城】と【シエーロ】を結ぶ【転移門】と同じモノであると推定出来ます……また他の大陸の中央都市にも同じような【転移門】がありました……まだ全ての大陸を調べ終えていませんが、おそらく【ストーリア】同様に全大陸の中央都市にも全て、それぞれの【隠しマップ】に通じる【転移門】があると見て間違いないと推定されます。
ミネルヴァは【念話】で報告しました。
なるほど……【ストーリア】と同じ配置で大陸が存在し、大陸には【ストーリア】と同じ配置で初期構造オブジェクトが存在するならば、【ストーリア】と【七色星】とでは同じ法則で世界観が構築されていると見做せるでしょう……つまり、その【転移門】が繋がる先が【パンゲア】である蓋然性が高いとミネルヴァは推定する訳ですね?
私は【念話】で訊ねます。
現段階では、まだ確証はありませんが、【創造主】が【パンゲア】を【テスト・マップ】として特別な位置付けに設定しているなら【七色星】の中央大陸の中央都市の【転移門部屋】と繋がるのは【パンゲア】であっても不思議はないかと推測出来ます…… 【創造主】の行動選択の傾向をアルゴリズムで算出した結果……確率は70%です。
ミネルヴァは【念話】で答えました。
あ、そう……まあ、仮に【七色星】の中央大陸の中央都市に存在する【転移門】が繋がる先が【パンゲア】でなくても、各大陸の【転移門】を順番に調べれば【パンゲア】に繋がる【転移門】は見つかるでしょう……という事は、【七色星】にも各大陸に4つずつの【遺跡】が存在している可能性が高いのでしょうね?
私は【念話】で訊ねます。
はい……既に幾つかの【遺跡】の入口を発見しました……配置は【ストーリア】と同じです……おそらく【ストーリア】同様に【七色星】にも同数・同位置の【遺跡】が存在するものと推定出来ます。
ミネルヴァは【念話】で答えました。
ミネルヴァの計算通り【パンゲア】に繋がるのが中央大陸の中央都市の【転移門部屋】だとすると、正攻法ならば最大20個の【遺跡】全てを攻略しなければ【転移門】を使用しての相互通行は出来ません。
ただし私は既に【パンゲア】いて転移座標を設置しています。
なので【転移門】を通らなくても【パンゲア】と紐付いた【七色星】であれば【転移】で往来可能ですね。
うん、問題ありません。
わかりました……また調査をよろしくお願いします。
私は【念話】で伝えます。
了解です……それから【パンゲア】と【七色星】でのサーベイランス効率を上げたいのでチーフに【キー・ホール】を運んでもらいたいのです……私が遠隔操作で【ストーリア】から【七色星】に【キー・ホール】を飛ばすとなると、宇宙空間を航行させなければならず時間が掛かり過ぎます……お願い出来ますか?
ミネルヴァは【念話】で依頼して来ました。
もちろんです……今夜運んでおきますよ。
私は【念話】で答えます。
マイ・マスター……今夜【パンゲア】に向かう際には私を同行させて下さい。
トリニティが【念話】で伝えて来ました。
わかりました。
私は【念話】でトリニティの申し出に裁可を与えます。
ありがとうございます。
トリニティは気色を含んだ様子で【念話】を伝えて来ました。
【特異点】の仕様が判明し、尚且つ【パンゲア】と【七色星】との相互往来が【転移】によって問題なく行えそうだとわかった現状であれば、トリニティを【パンゲア】に連れて来るリスクは、ほとんどありません。
私ならば現状【ストーリア】と【七色星】を移動する方法には選択肢があります。
危険な【特異点】の【事象の地平面】内を経由しなくても、【パンゲア】の虚無海に飛び込んで【七色星】に向かい、【七色星】の惑星軌道上に飛んで、そこから隣の惑星である【ストーリア】を目視して【短距離転移】すれば、【七色星】と【ストーリア】を安全に往復可能です。
リスクを考慮してトリニティに留守番をさせる理由はなくなりました。
であるならば、トリニティを連れて来た方が私の仕事が楽になりますからね。
いや、待てよ。
【パンゲア】の【マップ】から、ユーザーであるシピオーネ・アポカリプトの退去を促す【排除・プログラム】が発生したプロセスを考慮するなら、認定ユーザーとなったトリニティも同様に【パンゲア】に渡れば【排除・プログラム】が発動するかもしれません。
ミネルヴァに計算させれば結論が出るでしょう。
まあ、どちらにしろ何ら問題はありません。
仮にトリニティが【パンゲア】に来られないなら、私が【パンゲア】にいる間、トリニティには別の仕事を振っておけば良いだけです。
お読み頂き、ありがとうございます。
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・・・
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誤字報告をして下さる皆様、いつもありがとうございます。
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