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第812話。脳筋キャラ。

【ウェーブ・スウィーパー】の第2艦橋(ブリッジ)


 私達はランチを食べながら【パンゲア】の各国元首達の会談を聴いていました。


 私がシピオーネ・アポカリプトや【パンゲア】各国の元首達の過去ログを確認して知り得た【パンゲア】の状況をザックリ整理すると……。


 現代【パンゲア】を論ずる場合、まず【パンゲア】の社会集団として数百年2大勢力を誇って来た【自然(ネイチャー・)同盟(アライアンス)】と【機械化連合(メカニゼーション)】について分析する事は避けて通れないでしょう。


 ザックリと分類するなら、【自然(ネイチャー・)同盟(アライアンス)】とは魔法文明に依拠した繁栄を志向するイデオロギーで、【機械化連合(メカニゼーション)】とは機械文明に依拠した繁栄を志向するイデオロギーのようです。

 しかし各国の状況は指導者や政治体制が変わると同盟相手を変えたり、あるいは領主や党派や政治家や貴族や官僚ごとに国家方針に反して裏では2大勢力の別勢力に(くみ)していたりと存外に複雑です。

 なのでイデオロギーを論拠に分析を試みるのは、結論を誤る可能性が高いでしょう。


 地球の歴史を考えてみても、国際情勢を分析する場合、イデオロギーより地政学や経済合理性や安全保障を判断材料とする方が比較的妥当な結論を得られましたからね。


自然(ネイチャー・)同盟(アライアンス)】は【パンゲア】東方国家【マギーア】を盟主とする軍事同盟で、この数百年【パンゲア】中央国家【パノニア王国】を事実上の従属国として来ました。


機械化連合(メカニゼーション)】は【パンゲア】の西方国家【スキエンティア】を盟主とする安全保障体制で、【パンゲア】南方国家【ヌガ法国】と盟約を結んでいます。


【パンゲア】北方の【ノトリア帝国】は、それら2大勢力から政治的に一定の距離を保ち第三局的な独立勢力となっていました。


 これらの各勢力が情勢に応じて近付いたり遠ざかったり、同盟したり離反したり、味方したり裏切ったり、傍観したり介入したりしながら【パンゲア】は何百年も5大種族による5か国が微妙な均衡状態を保っていたのです。

 しかし均衡と言っても、それは相互共存を目指すような生産的なモノとは程遠く、どちらかと言えば足の引っ張り合い。

 例えば【パンゲア】の1国が何らかの技術革新に至り【パンゲア】全土を統一するような超大国(スーパー・パワー)に成長しそうになると、他全ての国々はイデオロギーをかなぐり捨てて手を結び、伸長する国家を超大国(スーパー・パワー)に成長しきる前に袋叩きにしていました。

 良く言えば、これは各国の独立性と均衡を保つ為の安定化策とも考えられなくもないですが、現実的に言えば酷く不経済で【パンゲア】全体の生産性を下げてしまっています。


 このような状況の【パンゲア】に、先月の初めシピオーネ・アポカリプトという大きな軍事的潜在力(ポテンシャル)を持つ異物(イレギュラー)が出現しました。


 シピオーネ・アポカリプトは【ヌガ法国】法都【ヌガ】で復活したのです。

 なので法都【ヌガ】に、シピオーネ・アポカリプトを退去させる目的の【排除(キック・アウト)プログラム】である【特異(シンギュラー・)(ポイント)】が出現したのでしょう。


 異世界転移してしまったシピオーネ・アポカリプトは生活の基盤を整える為に、当初は【ヌガ法国】で魔物の狩猟を行なったり、魔道具や【魔法装置(マジック・デバイス)】を製造販売したり、都市や街で土木・建築をしたりしながら暮らしていました。

 やがてシピオーネ・アポカリプトの強大な戦闘力は知られるようになり、【ヌガ法国】は彼を登用しようと考えます。


【ヌガ法国】でのシピオーネ・アポカリプトの立場は傭兵でした。

 強力な魔物を次々に討伐するシピオーネ・アポカリプトの【ヌガ法国】内での存在感は増し、丁重な待遇を受けるようになります。


 しかしシピオーネ・アポカリプトは【ヌガ法国】の宗教権威主義的な窮屈な社会や国家体制を嫌いました。

 また【ヌガ法国】国内で主導権争いをして対立する各派閥が、シピオーネ・アポカリプトを陣営に加えようと陰謀を企てたり暗殺を試みたりという事件が起きたのだとか。

 これによってシピオーネ・アポカリプトは【ヌガ法国】に愛想を尽かし隣国の【パノニア王国】へと出奔してしまいます。


【パノニア王国】でも、シピオーネ・アポカリプトは生活の為に狩をしたり生産や建築をしたりして過ごしていました。

 しかし彼のアバターが【ドワーフ】のキャラ・メイクだった為に多少迫害を受けるような状況にも遭っていました。

 シピオーネ・アポカリプトは……【ドワーフ】の見た目が問題ならば……と【ドワーフ】の国【スキエンティア】ならば迫害は受けないだろうと考え再び移住を決意し、西に向かいます。


 シピオーネ・アポカリプトは、こうして【パノニア王国】の西の都市【ロディニア】に到着しました。

 現在【ロディニア】は【パノニア王国】の版図に組み入れられていますが、シピオーネ・アポカリプトが訪れた当時は【ロディニア】領主が、宗主である当時の【パノニア王国】国王から距離を置きたいと考え、半独立勢力となっていたようです。


 シピオーネ・アポカリプトは【スキエンティア】に向かう道すがらの経由地とするつもりで【ロディニア】でしばらく過ごしていました。

 その時に彼は当時の【ロディニア】領主と出会い、能力を買われ短期間のつもりで働く事になったのだとか。


 そして一時的に【ロディニア】領主の食客となったシピオーネ・アポカリプトは、【スキエンティア】軍による【ロディニア】への大規模な侵攻に遭遇しました。


 その【ロディニア】戦役においてシピオーネ・アポカリプトは行きがかり上、止むを得ず【パノニア王国】側として参戦し一軍を率いて勝利に貢献したのです。

 これによりシピオーネ・アポカリプトは一躍【ロディニア】の英雄となりました。


【スキエンティア】軍と戦って撃退し英雄となったシピオーネ・アポカリプトは、【スキエンティア】の敵と見做されるようになり、安住の地として目指した当初の目的地【スキエンティア】に移住する事が不可能になったのです。


 その後のシピオーネ・アポカリプトは【パンゲア】の世界中を敵に回した戦争に次ぐ戦争を繰り返しながら、【ロディニア】による【パノニア王国】の武力統一に成功しました。


【パノニア王国】統一後、当初は防衛戦や伝統的な領土奪還を目指して各地を転戦していたシピオーネ・アポカリプトも、やがて他国に向けての攻勢に転じたのです。

 シピオーネ・アポカリプトは戦争の度に、圧倒的な戦果を上げ、やがて【(ザ・ゴッド・オブ・)(アームド・マイト)】と呼ばれるようになりました。


 何やかんやあって【パノニア王国】のグウィネス王女を女王に即位させ、グウィネス女王と【パノニア王国】の庇護者になっていたシピオーネ・アポカリプトは各国軍を相手に4正面作戦を戦います。

 苦戦する状況もありながら白刃をくぐり抜けたシピオーネ・アポカリプトは次々に【パンゲア】の各国を撃破して、数日前【パンゲア】全土の武力による平定を果たしたのです。


 う〜ん……短期間で【パンゲア】平定を成し遂げた手腕は恐るべき偉業ですが、率直に言って私はシピオーネ・アポカリプトの事績を、あまり高くは評価出来ません。


 彼の手法は単なる武力制圧と占領支配。

 統治や経済という観点が欠落しています。

 それが証拠に【パンゲア】統一を達成しシピオーネ・アポカリプトが庇護する【パノニア王国】でさえ、未だに国情は悪く、民は疲弊し、シピオーネ・アポカリプトが主導した国内産業も軍事偏重で市場経済の拡大や市民生活の向上を企図したモノが、ほとんどありません。

 まあ、少しはありますが……。


 グレモリー・グリモワールなら、こんな無造作なやり方はせず、もっと庇護下勢力の持続的な経済発展を促しながら結果として国力を上げ強国に導いて行く……というような賢い方法で平和構築を試みた筈です。

 また、彼女なら、シピオーネ・アポカリプトがやったような明らかな敵対国の占領支配を企図した侵略戦争は仕掛けなかったでしょう。

 グレモリー・グリモワールは、一見傍若無人で悪逆非道な立ち居振る舞いをするダーク・サイドのロール・プレイヤーではありますが、実は900年前も現在も彼女は【ストーリア】の歴史上稀に見る英明なる名君だと、私とミネルヴァ……そしてグレモリー・グリモワールの事績を正確に知る識者達からは評価されていました。


 それに比べてシピオーネ・アポカリプトのやり方は、いかにも戦闘狂の脳筋馬鹿的な乱暴なモノ。

 平たく言えば蛮族プレイです。


 グレモリー・グリモワールも……従わないモノはかかって来い……という暴力を背景にした政治手法を取りますが、その結果推進される彼女の政策は全て経済的に理に適った妥当なモノでした。

 そしてグレモリー・グリモワールの政策目標には常に……民を豊かにする……という事に主眼が置かれています。


 それに比べて、シピオーネ・アポカリプトが現在行っている政策は全くなっていません。

 私が政治・経済の教授なら、シピオーネ・アポカリプトには及第点以下の成績をつけるでしょう。


 まあ、【ストーリア】の【地上界(テッラ)】には、もっと酷い為政者もいますが、少なくとも私の元同一自我であるシピオーネ・アポカリプトには、それなり以上を期待したいところです。


 まあ、シピオーネ・アポカリプトを、そういう脳筋仕様にキャラ・メイクしたのは私自身ですけれどね。


 それでもシピオーネ・アポカリプトなりの思惑は、一応はあるみたいです。

 シピオーネ・アポカリプトのスローガンは……破壊と(スクラップド・アンド)創造(・ビルド)……なのだとか。


 一度シピオーネ・アポカリプトの武力によって【パンゲア】各国の軍事力をその産業基盤ごと破壊し尽くした後に、選択と集中によって資源(リソース)を非軍事産業に集約的に投入して【パンゲア】の復興を図るというモノ。


 まったく……いかにも脳筋が考えそうな短絡的な方法論ですよ。


 軍事産業であろうと多くの雇用を支えている事には違いないのです。

 国中の工場や鉱山などを無差別に破壊されてしまったら、当然市井には失業者が溢れてしまうでしょう。


 シピオーネ・アポカリプトは、その失業者達をどうやって食べさせるつもりなのでしょうか?

 まさか……敵国の国民生活など知ったこっちゃない……という事ですか?


 グレモリー・グリモワールも【ウトピーア法皇国】との戦争時には軍事基地などと同様に、軍需工場なども破壊目標にしましたが、【ウトピーア法皇国】の産業基盤を無差別爆撃して全て破壊するような暴挙は行いませんでした。

 もちろん【ブリリア王国】と【ウトピーア法皇国】との戦争が短期間で決着した事によって、それをする必要がなかったという理由もあるのでしょうが、私はグレモリー・グリモワールなら敵国の国民であろうと不必要な困窮状態には追い込まなかっただろうと思います。


 私やミネルヴァはもちろん、ソフィアやグレモリー・グリモワールも、シピオーネ・アポカリプトが計画しているような経済市場原理を一顧だにしない独裁による統制経済理論を一笑に付します。


 復興局面などでは独裁体制や統制経済が成果を出す場合もありますが、地球の既存の経済理論の中には他にもっとマシなやり方が幾らでもありますからね。

 市民の権利を侵害する政策は、市民の生命と財産が脅かされるような緊急時に限り、他に取り得る有効な手段が全くない場合に短期間期限付きでのみ許されるべきです。


 まあ、シピオーネ・アポカリプトも私利私欲の為に戦争をした訳ではないようですし、それぞれの戦争も全て最初の一撃を加えて来たのは相手国の側からでした。

 また、シピオーネ・アポカリプトは敵国民であっても抵抗しない一般市民の犠牲を極力少なくするように下達し、もちろん虐殺や略奪などもしない事を自軍に厳命し、違反者は味方であっても容赦なく処罰しています。

 地球の戦時国際法上の解釈から言えば、シピオーネ・アポカリプトの戦い方は正当防衛と言えるでしょう。


 それに私達ゲームマスター本部は今日まで【パンゲア】を放置していた負い目がありますので、シピオーネ・アポカリプトを批判したりする資格はないのかもしれません。


 そもそもシピオーネ・アポカリプトを脳筋キャラとして作成したのは私です。

 キャラというモノは、ゲームであれば……そういうロール・プレイ……という以上の影響はありません。

 ロール・プレイは所詮ゴッコ遊びの演技に過ぎず、結局の所アバターの行動原理を支配するのは、アバターを操作するユーザー達本来の人格でしかないのです。


 しかし、私とグレモリー・グリモワールとノート・エインヘリヤルとシピオーネ・アポカリプトは、異世界転移以来自我が分かれて、それぞれキャラ設定に人格が寄って行き、各自の行動が私が予想しない選択を取る状況も発生していました。

 つまり脳筋キャラに設定されたシピオーネ・アポカリプトは、私が作製したキャラ設定通りに脳筋的な行動選択をするようになっているのでしょう。

 つまりシピオーネ・アポカリプトの至らなさは、彼を脳筋にキャラ設定した私の所為(せい)でもある訳です。


 これは、私がシピオーネ・アポカリプトがやった事に対して文句を言うのはお門違いかもしれませんね。

 ただしシピオーネ・アポカリプトの行動に私は産みの親としての責任を感じなければならないでしょう。


 またソフィアも【パンゲア】の守護竜ではないので……初めからシピオーネ・アポカリプトを批判する気などない……というスタンス。

 ソフィアは【パンゲア】の政治状況に介入する意思がないようです。


 こうして私とソフィアが黙って聴いている中、シピオーネ・アポカリプトと【パンゲア】各国元首による会議は進行して行きました。

お読み頂き、ありがとうございます。

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・・・


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