第811話。惑星発見。
【ウェーブ・スウィーパー】第2艦橋。
私とソフィアとウルスラとトライアンフは、【パンゲア】各国の元首達と会談を行なっていました。
オラクルとヴィクトーリアとディエチは現在【ウェーブ・スウィーパー】の厨房でソフィアが食べる【地竜】の肉を調理していて別行動です。
すると、ミネルヴァから重要な情報がもたらされました。
チーフ……たった今、微弱ながら【魔力探知】が行え【キー・ホール】を発見しました……チーフの予想通りでしたね。
ミネルヴァが【念話】で伝えて来ます。
私も今【共有アクセス権】で確認しました……系内惑星の【七色星】でしたか?……日没して空が暗くなれば【ストーリア】から【七色星】は見えますね……視認可能な範囲なら私の【短距離転移】でカバー出来る距離です……【パノニア王国】民輸送のデス・マーチが楽になりそうなので正直助かりますよ。
私は【念話】で答えました。
引き続き【七色星】の調査を行います。
ミネルヴァは【念話】で言います。
ありがとう……頼みます。
私は【念話】で伝えました。
どうやら朗報がもたらされましたね。
私が【パンゲア】に到着した直後に四方八方へと多数を飛ばした【スパイ・ドローン】の【キー・ホール】の内1機が、虚無海に突入した後【パンゲア】に紐付いた惑星側に移動して、たった今ミネルヴァのサーベイランス能力によって位置が捕捉されたのです。
つまり、当初から予想されていた通り、惑星【ストーリア】と【パンゲア】は同一の時空に並存していました。
【パンゲア】に紐付いた惑星は【七色星】でしたか……。
惑星【七色星】は、惑星【ストーリア】と同じ太陽系に存在する系内惑星。
【七色星】は、太陽を基点にして【ストーリア】より内側の軌道を公転しています。
日本人的な感覚で言うなら、【ストーリア】が地球で【七色星】は金星みたいな感じかもしれません。
地球と金星は公転周期が違うので時期よって最小3950万km〜最大2億5970kmもの距離の差がありました。
一方で【ストーリア】と【七色星】は、公転周期に誤差を生じさせるとゲーム的に描画プログラムの物理演算が面倒っちいので、公転周期が全く同じになるように設定されています。
なので【ストーリア】と【七色星】は【七色星】が先行して太陽周囲を公転していますが、両者の距離は常に一定でした。
つまり【ストーリア】と【パンゲア】(【パンゲア】に紐付いた【七色星】)は、 お隣さんだった訳です。
私は視認範囲なら距離を無視して一瞬で【短距離転移】が出来ました。
天体望遠鏡並の肉眼視力を持つ私なら一瞬で往復可能な近距離ですね。
惑星間などという遠大なスケールを飛べる【転移】が、はたして短距離と呼べるかどうかはさて置き、少なくとも移動時間に関しては0秒なので簡単に移動出来る事には違いありません。
これで仮に【パンゲア】の【特異点】が何らの理由で私やソフィア達を【パンゲア】側に残したまま消滅してしまっても、私達は問題なく【ストーリア】に帰れる事が確定しました。
もちろん、それは【短距離転移】というゲームマスター・チートを持つ私や、私を基点に【共有アクセス権】に無理矢理介入して【短距離転移】が出来るようになったフロネシスであればこそです。
フロネシスとソフィアは共生関係にありますので、フロネシスに可能な事はソフィアにも可能でした。
しかし【ストーリア】と【七色星】の間を【短距離転移】もゲームマスター本部が保有する技術もなく、既存のNPC技術だけで移動しようとするなら宇宙船による惑星間航行をしなければならないので、当然ながら膨大な時間とエネルギー、そして莫大な資金が必要になるでしょう。
いずれにせよ、私は現時点を以って【ストーリア】と【パンゲア】間を短時間で移動する方法を確立しました。
【パンゲア】に紐付いた惑星が【七色星】であった事、また私の【短距離転移】が使える近距離の系内惑星にあった事は僥倖です。
もしも【パンゲア】に紐付いた惑星が、私の天体望遠鏡並の視力でも視認出来ない宇宙の遥か遠方にあった場合、【短距離転移】を何度も何度も繰り返して宇宙空間を移動しなければならない可能性もあり得た訳ですからね。
今後【パノニア王国】民の輸送で私が行わなければならないと想定されるタスク量の違いを考えれば、相当に労力が軽減される事は間違いないので有難い報せです。
「ソフィア。今ミネルヴァのサーベイランスで、【パンゲア】に紐付いた惑星が【七色星】という【ストーリア】と同一の太陽系にある惑星である事が判明しました。これで【特異点】を【転移門】代わりに使わなくても、私達は【ストーリア】と【七色星】とを今後も継続的に往来可能です」
「ほお、【パンゲア】と【マップ】が繋がる惑星は【七色星】であったか。【七色星】は、近年の【ドラゴニーア】宇宙局の観測によって、惑星表面が七色に光るガス状の【流体結界】で覆われておる事が推定されておった。この【流体結界】が強力な【認識阻害】のギミックを持つ為に【七色星】は地表面が外からでは全く観測出来なかったのじゃ。どおりでノヒトやミネルヴァにも【パンゲア】の場所がわからなかった訳じゃな」
ソフィアは納得しました。
「はい。近場で良かったです」
「という事は、【ストーリア】と【パンゲア】はノヒトならば自由に往来出来るようになった訳じゃな?」
「【パンゲア】から【七色星】を経由して【ストーリア】には現時点でも自由に向かえます。しかし【七色星】から【パンゲア】に来られるかは、現時点では、まだわかりません。ミネルヴァが継続調査中です」
「ああ、なるほど。【パンゲア】から【七色星】までは虚無海に堕ちれば抜けられるが、逆に【七色星】から【パンゲア】に向かう方法が今のところないという訳か?」
「そうです。惑星【七色星】と【パンゲア】の関係性は、惑星【ストーリア】と【シエーロ】のような関係性と見做せますが、相互通行の為には【竜城】の【門】のようなギミックがなければ現時点では一方通行です。ただし仮に現時点では【門】のようなギミックがなかったとしても、私が【パンゲア】の虚無海に飛び込んで【七色星】に向かい、現地に転移魔法陣を設置してしまえば、【パンゲア】と【七色星】間も経路が開通しますので、実質的には【ストーリア】から【パンゲア】までの相互通行は可能になったと断言しても差し支えないでしょう」
「うむ。これでシピオーネを【ストーリア】に移動させた後【特異点】がなくなっても、また後日【パンゲア】や【七色星】を訪れて、ゆっくり冒険が出来るのじゃ」
「ええ」
「系内惑星……なるほど。しかし系内惑星とはいえ相当に遠い。運営のノヒト殿や、【ストーリア】で神と呼ばれるソフィア様ならば往来が可能だとしても、私達のような人種にとっては宇宙を飛ぶのは容易ではない。それとも【ストーリア】の人種文明では、高速で安全に宇宙を飛べる宇宙船や航行技術が開発されているのか?」
シピオーネ・アポカリプトは訊ねます。
「宇宙船は必要ありません。私が運営するゲームマスター本部が管理する技術の中には【使い捨て門】や【転送機】というモノがあります。それらを【ストーリア】と【七色星】の軌道上と、【七色星】と【パンゲア】に、それぞれ設置して、軌道上の【使い捨て門】や【転送機】を設置した場所にターミナルを建築し、ターミナルと地上とを往復をする移動手段を用意すれば、双方向の交通と流通のインフラを開通出来ますよ」
「ん?随分と複雑な経路設置が必要なのだな?」
シピオーネ・アポカリプトは訊ねました。
「はい。【ストーリア】と他の惑星では位置座標が別系統になっているので直通という訳にはいきません。最低でも今説明した経由地点は構築する必要があります。しかし、それでもシピオーネが【パンゲア】から退去した後【特異点】が自然消滅して往来が不可能になってしまう状況との比較で考えれば、天と地の開きがある程の前進です」
各惑星は惑星軌道の内側に、それぞれ独立した座標を持ちました。
なので【ストーリア】と【七色星】を【転移】する場合には……【ストーリア】の地表→【ストーリア】の軌道上→宇宙空間→ 【七色星】の軌道上→ 【七色星】の地表……という具合に3回の【転移】が必要となります。
惑星地表と軌道上の往復を【転移】に頼らず飛空船などを使うとしても、最低1回は【転移】をしなければいけません。
しかし逆に言えば、惑星軌道上に経由地点を挟めば【ストーリア】と【七色星】を【転移】で移動する事が出来ます。
さらに先程言ったように【七色星】から【パンゲア】に向かう方法がなければ、【七色星】と【パンゲア】の間にも同様の【転移】インフラを整備しなければいけません。
「そうか……。つまり【特異点】が自然消滅した後も往来が可能になり、【特異点】の【事象の地平面】を突破する際に都度【贖罪の山羊】を発動しなくても良くなり、私や【パノニア王国】の国家丸ごとの【ストーリア】への移住が捗るという事か?」
シピオーネ・アポカリプトは訊ねます。
「それだけではありませんよ。ゲームマスターである私が【ストーリア】から【七色星】を経由して【パンゲア】まで一瞬で往復出来るようになりますので、【パンゲア】の状況を逐一ゲームマスター本部が見張れます。私は宇宙最強の存在ですので、私が暴力装置として睨みを利かせれば、【パンゲア】の各国に無体な振る舞いはさせません。【パンゲア】の国家や人々が、私から見て看過出来ない無法を働くなら一瞬で国ごと滅ぼしますからね」
私は少しだけ【神威】を発動しながら言いました。
「ははは、ノヒト殿は見かけによらず怖いな。ま、運営とは、そういうモノなのだろうが……」
シピオーネ・アポカリプトは言います。
居並ぶ【パンゲア】各国の元首達が……ゴクリ……と生唾を飲み込んだのがわかりました。
とにかく、私は【ストーリア】と【パンゲア】を自由に往復出来るようになったのです。
シピオーネ・アポカリプトが言ったように【贖罪の山羊】を使う必要もありません。
つまりシピオーネ・アポカリプトを【ストーリア】に移動させる際に貴重な【神蜜】を使用しなくても良くなりました。
これで【パンゲア】問題は1つの山場を越えたと見て良いでしょう。
【パンゲア】に紐付く惑星が【七色星】であると判明した事実は、私やソフィアにとって大きな意味を持ちますが、この場に集まる【パンゲア】各国の元首にとっては、あまりピンと来ていない様子ですね。
【パンゲア】の元首達にとっては【ストーリア】などという異界に関する現実感のない話よりも、【パンゲア】情勢の方が差し迫った問題なのです。
とりあえず【七色星】云々の話は脇に置いておいて、彼らは場を仕切り直して【パンゲア】の問題について会議を再開しました。
現代の【パンゲア】について私は未だ多くを知りません。
一応今日会ったシピオーネ・アポカリプトを始めとする【パンゲア】の各国元首と代表者の過去ログは全て記録したので、ザックリとした【パンゲア】の状況は掴んでいます。
それらのザックリ情報は私とミネルヴァとトリニティとの3者間のパスを通じて【共有アクセス権】により統合され、リアルタイムで瞬時に並列処理されていました。
此処にいる【パンゲア】の元首達は、現在の【パンゲア】政治の中枢にいる者達なので、彼らが持つ情報はそれなりに重要です。
しかし、彼らも部下からの報告や前任者からの引き継ぎによって知った情報が多いので、それが【パンゲア】の実像を正確に反映しているかどうかは、まだ私には判断出来ません。
そもそも此処にいる【パンゲア】の元首達というのが、【パンゲア】の政治を動かして来た張本人達と見做しても良いモノかどうかすら疑わしいところ。
何故なら今此処にいる【パンゲア】の各国元首達は、ほぼ全員が少し前までは元首ではなかったからです。
どういう事かと言うと、【パンゲア】各国の元首であった彼らの前任者達は、ほぼ全員シピオーネ・アポカリプトと彼が率いる【パノニア王国】軍と戦って一敗地に塗れ、権力の座から引き摺り下ろされたり、あるいは死んだりしていました。
元の【パンゲア】の元首達は、シピオーネ・アポカリプトの怒りを買い許されず、現在此処に集まる新しいメンバーに全員首を挿げ替えられていたのです。
・・・
オラクルとヴィクトーリアとディエチが戻って来ました。
彼女達は、【パノニア王国】が備蓄する【地竜】を解体・調理してソフィアが食べる分の【地竜】料理を作って来たのです。
こうして昼食会が始まりました。
「グウィネス、ヘックス。其方らの厚意で【地竜】の肉を馳走になるのじゃ。代わりにコレを収めるがよい」
ソフィアは【宝物庫】を差し出して言います。
「この腕輪は?」
【パノニア王国】のグウィネス女王は訊ねました。
「ん?あ〜、其方らは【宝物庫】を知らぬのか?これは大容量の【収納】アイテムじゃ。中身は脱穀前の小麦じゃ。脱穀して製粉すれば1千tばかりの小麦粉にはなるじゃろう。脱穀せずこのまま畑に蒔けば種麦とする事も可能じゃ。毎年餓死者を出すような国の者達から一方的に食料を提供させたとあっては、我も気分良く【地竜】料理を味わえぬ。じゃから、この小麦を我からの返礼の品とする。其方らの民が餓えぬように役立てよ」
ソフィアは言います。
【パンゲア】では【神の遺物】の【自動人形】と同様に【宝物庫】も実装されていません。
「よろしいのですか?」
グウィネス女王は訊ねました。
「我は食べ物の恩を受けたら、礼は必ず返す主義なのじゃ」
「グウィネス。ソフィア様のご高配をありがたく受け取らせて頂こう」
シピオーネ・アポカリプトはグウィネス女王に促します。
「はい。では、ソフィア様、ありがたく頂戴致します。こちらの【収納】アイテムは、中身を私共の【収納】アイテムと食料庫に移し替え後程お返し致します。誠にありがとうございます」
グウィネス女王は深々と頭を下げました。
「ならば遠慮なく【地竜】を馳走になるのじゃ……うむ、美味い」
ソフィアは言います。
こういうところは率直に言ってソフィアの振る舞いは立派だと思いますね。
誰かから厚意を受けたら、必ず厚意を返す。
そして相手側の置かれた状況によっては、ソフィアの方がより多くを返してあげていました。
それも……あくまでも厚意に対する返礼をしただけ……という体裁をソフィアが取る事で、相手に……一方的な施しを受けた……という卑屈な思いをさせない配慮もされています。
ソフィアは美味しそうに【地竜】料理にガッツいていますが、ただ食い意地が張っているだけのチンチクリンではありません。
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・・・
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