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第810話。面積は確率。

駆逐艦(デストロイヤー)】・【ウェーブ・スウィーパー】の第2艦橋(ブリッジ)


 私達は【ウェーブ・スウィーパー】内の見学ツアーを終えてランチ・ミーティングに臨むべく第2艦橋(ブリッジ)に移動して来ました。

 この第2艦橋(ブリッジ)で先程まで【パンゲア】各国元首達による首脳会談が行われていたようです。


「先程説明したように、この艦は狭くて多目的に使えるような余剰のスペースがない。だからVIPを接遇するような部屋もないから、この第2艦橋(ブリッジ)に集まってもらっている。申し訳ないが、そこは了解してもらいたい」

 シピオーネ・アポカリプトは、私とソフィアに言いました。


「わかりました」


「うむ。ないモノは致し方ないのじゃ」

 ソフィアは頷きます。


 オラクルとヴィクトーリアとディエチは、このタイミングで【地竜(アース・ドラゴン)】の解体と調理に向かいました。


「あの側近の方々は、三つ子のご姉妹ですか?」

【マギーア】のフレイヤ女王が訊ねます。


 ん?

 あ〜、フレイヤ女王は【神の遺物(アーティファクト)】の【自動人形(オートマタ)】であるオラクルとヴィクトーリア、それから【神の遺物(アーティファクト)】の【自動人形(オートマタ)】を雛型にして作られた【自動人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディションであるディエチを人だと勘違いしているのですね。

【パンゲア】では【神の遺物(アーティファクト)】の【自動人形(オートマタ)】が実装されておらず、またユーザー達も【自動人形(オートマタ)】に類するアンドロイドを自作したりしていませんでした。


 此処(ここ)にいる【パンゲア】人は【自動人形(オートマタ)】を見た事がなかったのでしょう。


「何じゃ。其方達は【自動人形(オートマタ)】を知らぬのか?」

 ソフィアは言いました。


「【自動人形(オートマタ)】とは?」

 フレイヤ女王が訊ねます。


「【自動人形(オートマタ)】とは、端的に言えば精巧な機械仕掛けの人形じゃ」


「つまり、()()はロボットなのか!?」

【スキエンティア】のウッコ王は驚きます。


「むっ、ウッコとやら、言葉には気を付けよ。オラクルとヴィクトーリアは我の大切な家族で、ディエチも大切な側仕え(ゆえ)、機械(ごと)きと侮って粗略(そりゃく)に扱われたら我は怒るぞ」


「これは失礼を致した。しかし、あの方々が機械仕掛けだとは……。【(ヒューマン)】にしか見えなかった」

 ウッコ王は感嘆しました。


「オラクルとヴィクトーリアは【創造主(クリエイター)】が創った知性と自我と記憶と感情を持ち、【ストーリア】の多数の国家からは人種と同等の人権を認められた特別な【アンドロイド】達で、ディエチはソフィア専属の調理と給仕を行いますが自我と感情を持たず人権も認められていません」

 私は説明します。


「信じられん。【ストーリア】の科学技術は凄まじいモノよ」

 ウッコ王は言います。


「科学技術もだが、それより【アンドロイド】に人権を認めるという社会の成熟度の方が凄い。ノヒト殿、【ストーリア】とは進歩的な文明なのだな?」

 シピオーネ・アポカリプトは言いました。


「ええ。自我を持った人工知能(AI)の存在と、その人工知能(AI)と人種との共生という分野に関しては、ある意味では【ストーリア】は地球(神界)より進歩しているでしょうね」


「なるほど。文明として【ストーリア】は【パンゲア】より確実に先を行っているようだ」

 シピオーネ・アポカリプトは感心します。


「当然じゃ。我が統治する【ドラゴニーア】の艦隊の主要艦なら、この【ウェーブ・スウィーパー】を旗艦とする艦隊程度が相手なら、個艦で沈められるぞ。さらに【ドラゴニーア】軍は、そのクラスの主要艦を数千隻以上を実戦配備しておる。その上【砲艦(ガン・シップ)】も1万隻以上保有するのじゃ。もしも【ドラゴニーア】と【パンゲア】が全面戦争となれば1月と掛からずに【パンゲア】の全航空戦力を我の艦隊は完全に無力化するじゃろう」

 ソフィアは……フンスッ……と胸を張りました。


 ソフィアの言葉に一同は笑います。

 どうやらソフィアの言った事を……大言壮語(たいげんそうご)……だと判断して話半分くらいに聞いているようですね。


 私は【パンゲア】の各国元首が囲むテーブルの上に、魔法で3D映像を投影しました。


「ソフィアの言った事は完全に事実ですよ。これは【ドラゴニーア艦隊】の旗艦(フラッグ・シップ)である【グレート・ディバイン・ドラゴン】です。全長500m級の【超級飛空航空母艦(スーパー・キャリアー)】。飛行速度は超音速。機動力にも優れ小さな旋回半径で宙返りも出来ます。主兵装は弾道ミサイルと巡航ミサイルです。これらのミサイルは通常弾頭の他に成形炸薬弾やクラスター弾にも換装可能で、威力も貫徹力も面制圧力も【ウェーブ・スウィーパー】が使っている両用ミサイルより隔絶して強力です。弾道ミサイルの弾速は超音速で、巡航ミサイルの飛行速度は亜音速。弾道ミサイルは射程数千kmで誤差数十cm以内に着弾します。巡航ミサイルの有効射程は実質無限大で、誤差は弾道ミサイルと同様に数十cm以内。【飛空航空母艦(キャリアー)】としての能力は艦載機である【砲艦(ガン・シップ)】100隻を15分以内で全て離着艦させられます。【ドラゴニーア】は、このクラスの【超級航空母艦(スーパー・キャリアー)】を旗艦(フラッグ・シップ)とする空母打撃群を現在2艦隊実戦配備しており、今年中に、もう1艦隊、今後1年程の期間で更に3艦隊増やし、合計6艦隊体制に増強する計画です。【ドラゴニーア】が、【パンゲア】と戦争になって空母打撃群の内1艦隊だけでも【パンゲア】に派遣すれば、ソフィアが言ったように1月掛からず【パンゲア】の制空権は完全に【ドラゴニーア】が掌握してしまうでしょうね。また先程シピオーネが言ったように艦隊は、艦船の建造それ自体より艦隊クルーの育成の方が大変です。しかし【ドラゴニーア】では艦隊クルーの育成に全く不安がありません。そこから【ドラゴニーア】の国家としての底力が伺い知れるでしょう」

 私は説明します。


【パンゲア】の各国元首は表情を青冷めさせました。


「途轍もないな。1つ訊きたいのだが……巡航ミサイルの射程距離が実質無限大……とは、どういう意味だ?」

 シピオーネ・アポカリプトが訊ねます。


「言葉通りの意味です。【ドラゴニーア艦隊】が装備している巡航ミサイルは【トマト・ホーク】と言います。この【トマト・ホーク】は固体ロケット・ブースターと魔導ジェット・タービン・エンジンを併用して推進します。ロケット・ブースターは固体ロケット燃料を使用しますが、魔導ジェット・タービン・エンジンは燃料を必要としません。【トマト・ホーク】には、魔導ジェット・タービン・エンジンの動力源と航法制御【コア】として【高位魔法石】が搭載されています。ご存知だとは思いますが【高位】以上の【魔法石】は空間から魔力を集めて内部に溜める性質があります。これにより【トマト・ホーク】は燃料の最充填がなくても大気中であれば半永久的に飛行し続ける事が可能なのです。戦闘空域から飛び去った【トマト・ホーク】が民間の航路の安全を脅かしたりしないように、管制誘導圏内から外れた【トマト・ホーク】は、人口密集地を避けて無人地域を目指し、プログラムを自壊させて地面に落下するように安全対策が施されていています」


【ドラゴニーア艦隊】と【グリモワール艦隊】の巡航ミサイルは、双方共に【トマト・ホーク】を採用していました。

 しかし【グリモワール艦隊】では所有者のグレモリー・グリモワールが、あくまでも民間人なので、民間用に多少威力を弱めたブロック(ツー)が使われています。

 対して【ドラゴニーア艦隊】には、より強力な威力の弾頭が搭載可能なブロック(ワン)が使われています。


「凄まじい技術だ……」

 ウッコ王は呟きました。


「いいや。技術もそうだが、貴重な【高位魔法石】をミサイルの【コア】として使い捨てに出来る事の方が脅威的だ。それだけの数量の【高位魔法石】を継続的に入手出来て、尚且つ使い捨てに出来る経済力……。運営のノヒト殿が言うんだから、それは事実なんだろうが、とても真似なんか出来ない。心胆寒からしめるには十分過ぎる話だった。【ストーリア】に移民したら【ドラゴニーア】という国とは友好的にやった方が良さそうだな」

 シピオーネ・アポカリプトは言います。


「うむ。シピオーネが友好を望むならば、我としても友好的な関係を結ぶ用意があるのじゃ」

 ソフィアは頷きました。


「ありがたい。その時には宜しくお願いする」

 シピオーネ・アポカリプトは言います。


 シピオーネ・アポカリプトの艦隊より、【ドラゴニーア艦隊】や【グリモワール艦隊】の方が優れている理由は他にも幾つかありました。

 まずはステルス性能。

 おそらく、【ウェーブ・スウィーパー】に搭載されているレーダーでは【ドラゴニーア艦隊】も【グリモワール艦隊】も小鳥程度にしか映らない筈です。


 また索敵能力……つまりレーダーの性能の方も桁違いに差がありました。


 ミサイルによる遠距離攻撃手段を持つ戦闘艦同士が戦う場合、先に敵を見つけた方が圧倒的に有利です。

 索敵能力に差があれば勝負になりません。


【ウェーブ・スウィーパー】に採用されているレーダー・システムは、指向性超短波レーダー。

【ドラゴニーア艦隊】や【グリモワール艦隊】で採用されているレーダー・システムはアクティブ・魔導・レーダーです。


 シピオーネ・アポカリプトの艦隊の所属艦船が使っているレーダー・システムは、おそらく【ウェーブ・スウィーパー】が使っているモノと同じでしょう。

 もしもシピオーネ・アポカリプトの艦隊が、【ストーリア】を戦場に見立てて【ドラゴニーア艦隊】や【グリモワール艦隊】と戦う想定でシミュレーションするなら勝てっこありません。


【パンゲア】は虚無海に浮かぶ円形の大地ですが、【ストーリア】は惑星なので球体でした。

 球体の惑星では距離が離れれば地平線が生じます。

 レーダー波は基本的に直進しますので、地平線の向こう側にいる敵は捕捉出来ません。


 一方で【ドラゴニーア艦隊】や【グリモワール艦隊】で採用されているアクティブ・魔導・レーダーは、レーダー波ではなく、魔力を投射して索敵を行う方式でした。

 魔力は原則あらゆる物質を透過します。

 なのでアクティブ・魔導・レーダーは地面を貫通して地平線の向こう側にいる敵も難なく見つけられました。


 つまり現行のシピオーネ・アポカリプトの艦隊と同等の艦隊を【ストーリア】で運用すると仮定するならレーダーの改修が必須となります。


 まあ、アクティブ・魔導・レーダーが採用されているのは、【ストーリア】でも【ドラゴニーア艦隊】と【グリモワール艦隊】くらいですので、シピオーネ・アポカリプトは【ドラゴニーア】とグレモリー・グリモワールとは絶対に敵対しなければ良いだけですけれどね。


 ゲームマスター本部?


 もちろん私達ゲームマスター本部は、アクティブ・魔導・レーダーより遥かに高性能な索敵能力を幾つも保有していますよ。

 ゲームマスターは言わば()()()()チーターですから、ユーザーやNPCと比較する事自体が無意味なのです。


「まあ、【パンゲア】の技術が遅れているのは、ある程度は致し方ない。何しろ私が教えるまで【パノニア王国】を始め【パンゲア】には円周率という概念すら失われていたんだからな。現在の【パンゲア】の科学水準は残念ながらそういうレベルだ」

 シピオーネ・アポカリプトは言いました。


「円周率の概念がなくて、【パンゲア】では円の面積などを求める時にどうしていたのじゃ?」

 ソフィアが訊ねます。


「私共は、円の面積を求める時には確率を使っておりました」

 ヘックス・スカイ・クラッドが答えました。


「確率?面積を求める時に、何故確率などが出て来るのじゃ?意味がわからぬ」

 ソフィアは首を捻ります。


 なるほど。

 円の面積を求める時に確率を使う事に気付くとは、円周率の概念が失われていたとはいえ、【パンゲア】のNPC達は存外に馬鹿ではないではないようですね。


「ソフィア。面積と確率は数理モデルにおいては等価交換が可能で完全に同義なのですよ」

 私はソフィアに説明しました。


「何がじゃ?面積と確率が同じである筈がない。訳がわからぬのじゃ」

 ソフィアは眉をひそめます。


「例えば、大きさのわからない円があったとします。その面積を円周率を使わずに求めるには、その円周の直径にピタリと(はま)るサイズの正方形を使います。この正方形は一辺の長さを測れば面積がわかりますね?問題はその正方形の中にピタリと(はま)った円の面積です。この時円の面積を測るには、この正方形の中に均等に(ドット)を打ちます。(ドット)の数を正方形と正方形の中にピタリと(はま)った円内とで対比すれば、その比率が定量化出来ます。既に正方形の面積はわかっているのですから比から円の面積もわかりますよね?この(ドット)を打つ数を限りなく増やしていけば、円の面積も限りなく正確にわかります。この(ドット)を打つ数を増やせば正確性が上がる事も、割り切れない数字である円周率の小数点以下の桁数を増やして行けば正確性が上がる事と類似性が見えますよね?(ドット)が打たれる場所というのは確率で決まる訳ですから、この事から、面積と確率は数理的に同じだと自明になる訳です」


「仰る通りです。私共【パンゲア】人は円の面積を求める場合、今ノヒト様が解説して下さった方法を頭の中で思考します。実際に面積を測る場合には原始的な装置で点を打って対比しておりました。【(ザ・ゴッド・オブ・)(アームド・マイト)】様より円周率の概念を教えて頂いた後は、圧倒的に便利なので円周率を使うようにしておりますが、今でも直感的には確率により円の面積を推し測る方が馴染みが良くてイメージがし易いですね」

 ヘックス・スカイ・クラッドは言いました。


「なるほどの。円周率の概念がなくとも円の面積はわかるのか……勉強になったのじゃ」

 ソフィアは頷きます。

お読み頂き、ありがとうございます。

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・・・


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