第81話。グレモリー・グリモワールの日常…1…異世界転移。
本日2話目の投稿です。
目が覚めた。
いつの間にか、眠っていたらしい。
辺りを見回すと、一面の草原。
何で、こんな場所で、眠っていたのか……思い出せない。
ここは、何処?
記憶が……おぼろげだ。
私は……グレモリー・グリモワール……超絶最高な魔法の天才。
うん、それは、わかる。
うーん、と。
何をしてたんだっけ?
あ、そうそう、昨日、2つ目の別荘である、【ラピュータ宮殿】の、お庭を完成させて、その、お庭の管理者にする、【庭師ゴーレム】を造ろうとして、下界、に素材を取りに来たんだった……。
【庭師ゴーレム】のデザインは、パーティ・メンバーの、ナイアーラトテップさんが図面を引いてくれた。
あの、映画、天空の〇ラピ〇タ、に登場する、園庭のロボットをモチーフにしてある。
ボディに苔を生やし、歩くと、カランコロン、って、例の機械音がする、拘りの逸品。
アニオタにとって、庭師、といえば、アレだ、って、ナイアーラトテップさんが譲らなかった。
で、どうせなら、テクスチャーに拘ろう、って話になって、ウエスト大陸の【竜の湖】の岸で取れる、魔力を流し易い、【魔法粘土】を、採取しに来た訳。
……なんだ、けれど……。
一緒に来たはずの、パーティ・メンバーである、オリジナル6さん、がいない。
携帯型魔法通信機にも応答なし。
あれ、チャット通話で、話しかけても、パーティ・メンバーが誰も反応しない。
故障?
いや、ちゃんと、機能している。
【念話】にも、反応なし。
くっ……ログアウトしやがったな、あいつら……。
寝落ちか?
やろう……こちとら、寝る間を惜しんで、やっとる、というのに。
設計事務所勤務のナイアーラトテップさん、デザイン事務所勤務のピットーレ・アブラメイリンさん、現役女子高生のエタニティー・エトワールさんは、ともかく、オリジナル6さんは、職業、自宅警備員だろうが。
とにかく、オリジナル6さんがいないと、困るんだよ……。
私……魔法の天才だけれど、攻撃系に初期ステータス、満振り、したせいで、非攻撃系は、【高位】までしか使えないから、【超位】の【転移】は、使えないし……。
お家にも、別荘にも、帰れないじゃん。
【マッピング】で、探してみよう。
何処にも、いやしねえし……。
とりあえず、近場の街【イースタリア】に出て、誰か親切な【転移】持ちの人に、運んでもらおう。
私は、【収納】から、【神の遺物】の【魔法のホウキ】を取り出して、跨り、颯爽と飛翔。
あちゃー、【地図】に敵性反応。
げっ、【湖竜】……。
見つかった……ヤバっ!
逃げたれっ……。
追いかけて来る……。
ちょっ、この、しつけ〜。
危なっ!
ブレス、撃って来やがった。
大きめの一撃当てて、その間に逃げたるっ!
「【重力崩壊】」
ズドガーーンッ!
効いた!
今のは、まともに入ったから、結構、削ったろ?
片腕、吹き飛ばしてやったぜ。
ちっ、あれを食らっても、怯まないのかよ。
まだ、やる気か?
また、ブレス、撃って来たっ!
ぎゃっ!
今のは、近かった……。
私のキャラメイク、攻撃力馬鹿だから、防御力、紙なんだよ。
あんなの食らったら、普通に死ぬし……。
何処まで、追って来るんだよ……。
超、しつけ〜……。
いや、もう、ブレスは、わかったから……。
くっそ……ギリギリだよ。
もう、アッタマ来たぞ。
なろーっ!
なら、やってやろうじゃねーか!
こちとら、あの、グレモリー・グリモアール、だぞ。
99階層ダンジョンを、単身攻略した、という、超絶伝説級のユーザーだ、コラ!
元世界ランク1位だぞっ!
私は、地上に降りた。
こーなったら、本気、出しちゃる。
「冥界より来たれり、我が、尖兵達よ〜っ、てね……。ホホイのホ〜イ。そら、行け〜っ!」
私は、切り札を発動した。
・・・
私は、【湖竜】の無惨な屍を【宝物庫】にしまう。
ふっ、馬鹿たれめ、が。
私が、本気出して、真の力を使ったら、オマイら【古代竜】ごときに、遅れを取るか!
やーい、バーカ、バーカ。
ちっ、たく……。
魔力使い過ぎて、飛べなくなったじゃんかよ。
ちょっと、お使い、の、つもりだったから、今、回復アイテム持って来てないし、1人だから【回復】かけてくれる人もいないし。
仕方ない、朝まで、回復待ちだね。
とりあえず、魔力切れを襲われたら、ヤダから……。
私は、【収納】から、【神の遺物】の【避難小屋】を取り出して、設営。
で、中に入る。
【避難小屋】は、中にいれば、あらゆる攻撃から守られるという、超激レアのアイテム。
たぶん、私の手持ちアイテムでは、これが一番、価値がある。
何たって、【神竜】降臨イベントでもらった、他では入手不可能な【神の遺物】だかんね。
ま、あの時、【転移】の魔法を、もらっとけば、お家に帰れたんだけれどさ……。
普通、【収納】系のアイテムの中には、中身が入った【収納】系のアイテムを、重ねてしまえない。
でも、【避難小屋】は例外。
この中に入れてある物は、【避難小屋】ごと、【収納】にしまえる。
さらに、【避難小屋】は、【収納】内に入れておくと、重量判定が、たった1kgしかない……小屋なのに。
外に出すと、相応の重さになるから、風で揺れたりはしない。
不思議アイテムだ。
【避難小屋】の中は、狭いけれど、備品類、資材類が揃っているし、室温は常に一定に保たれているから、快適。
これで、朝まで安全に凌げるね。
私、何か、とてつもなく、大切な記憶が欠落しているような、気がするのだけれど……むー、思い出せぬ。
ま、いっか。
忘れている事なんか、どうせ、大した事ないんだから。
・・・
朝だ。
眠い……。
ヤバイな、暇潰しに色々と作業をしていて、完徹してしまった。
さて、ゲームを辞めて、仕事に行かな……。
ん?
あれ?
あれれれ?
ログアウト出来ん。
てか、私さ、ゲームの中にいないか?
夢……じゃないよね?
はははは……。
早く、気付けって。
私ってば、お馬鹿さん、うふっ。
そーじゃねーよっ!
どーすんだよ。
そだ、GMコールだ……。
もしもーし……無反応……。
出ろよ、運営のボケッ!
何これ?
これって、いわゆる、異世界転移?
どうして、こうなった〜っ!
・・・
私は、すぐに冷静さを取り戻した。
精神耐性最大の効果だと思う。
とにかく、状況が好転するまでは、現状維持をしよう、って、判断をした。
雪山で、遭難したら、無闇に歩き回らないで、その場でビバークする方が生存率が高い、って、何かの本で、読んだし。
で、とんでもない事実に気が付いた。
私、ゲームの外の記憶が、ほとんど、ない。
忘れているとかって、生易しいレベルでなく、断片も思い出せなかった。
現実世界の私って誰?
名前とか、仕事とか、そういう事が、白い靄、が、かかったみたいに茫漠として、取り留めもない。
いや、私が日本人だってのは、わかる。
あと、諸々の一般教養とか知識とか、そういう物も、たぶん全部健在だ……と思う。
でも、私自身が誰で、どんな人間で、家族は、仕事は……とかいう、いわゆる個人情報に関わる記憶が、スッポリ消えている。
どうしよう……。
魔力は、半分くらいは戻った。
【避難小屋】にいれば、安全だし、小屋の中には、最低限必要な備品類は、揃っている。
ここで、待つか?
何を?
誰を?
よく、わからないのだけれど、何かを待っていれば、どうにかなる……ような気がした。
ここは、【湖竜】のスポーンエリアの近くで、物騒。
でも、逆に言えば、ここなら、【湖竜】を怖がって、魔物の数自体は少ない。
【湖竜】のスポーン周期は、満月・新月……。
あちゃー、昨日、新月だったのかよ。
だから、周期で沸いたのか……。
なら、次の湧き周期まで、15日間はある。
うん、安全。
ここを、拠点にしよう。
GMコールにも、携帯型魔法通信機にも、【念話】にも、誰も応答がない。
私は、持ち前の切り替えの早さで、異世界転移、を丸っと飲み込んだ。
異世界転移……ま、大好きなゲームに閉じ込められたんだから、とりあえずは、良いんじゃね?
今後の方針を練る。
これは、無警戒に街なんかに出かけて行って……お前は誰だ、怪しい奴め……なんて、変なフラグは立てない方が良い。
よし、当面、私は……ここをキャンプ地とする……。
これ、オリジナル6さんの口癖……意味は知らない。
オリジナル6さんの口癖は、他にも……鹿でした……とか……パイ食わねえか……とか、色々ある。
ナイアーラトテップさん、オリジナル6さん、ピットーレ・アブラメイリンさん、エタニティー・エトワールさん……誰でも良いから、助けに来てくれよ〜。
心細いよ〜。
・・・
2日目。
状況に変化なし。
食料は、【湖竜】を、掻っ捌いて、その焼肉を食べている。
この解体と調理の作業で、2日目を丸々1日潰してしもうた……。
でも、やる事も、特になかったから、ちょうど良い暇潰しには、なったよ。
ボーッ、としていると、悪いことばかり考えて、不安に押し潰されそうになる。
だから、色々と作業する事にした。
私は、根っからの作業厨。
だから、単純作業は、苦ではない。
【湖竜】、メッチャ、美味い。
頬っぺたが、落ちそうになる。
この肉を焼いて、大量に【宝物庫】にしまってあるから、たぶん年単位で、飢える心配はない。
栄養が偏りそうだけれど……。
・・・
3日目。
拠点に定めた地点の周囲を整地した。
草を刈って、土を均して。
そうしていたら、興が乗って、広大な畑を作ってしまった。
【攪拌】で、土をかき混ぜると、いい感じで耕される、って、私は知っている。
それで、刈り取って積み上げておいた、草原の草を土に混ぜ込んで、【湖竜】の血を撒いて、耕したら……最高の土壌になった。
【避難小屋】の備品類を漁っていたら、脱穀前の米を一袋、発見。
これ、この前、みんなで、田んぼを、こさえた時に苗を育てる為に使った残りだ。
試しに畑に撒いてみた……。
やっぱり、米は、田んぼじゃなきゃダメかな?
農業の知識はあんまりない。
ダメじゃなかった、夕方頃、畑を見回ったら、一面に、小さな芽が出てた。
おー、なんか感動。
さすが、【ポーション】の材料として貴重な【古代竜】の血を肥料にしただけあって、成長がメッチャ早い。
水田に苗を植えなくても、稲って育つんだね。
・・・
4日目。
何か、体長50cmはある、イモ虫系の魔物が、私の可愛い米の苗を狙っていたから、【放電】で、駆除。
面倒だから、壁を造って、守る事にした。
【土魔法】で、壁を造る。
1人では、大変なので、【宝物庫】から援軍を呼んで、手伝ってもらった。
この子達は、働き者。
いや、私が働かせているんだけれども……。
人海戦術で壁を造り、広大な畑の周りを……。
ちょっ、君達、その畑の角っこで曲がってくれなきゃダメじゃんか。
もう、仕方がないな〜。
はい、じゃあ、少しサイズを拡げます。
結局、畑だけでは飽き足らず、総延長4kmの正方形の壁になってしもうた。
表面は、石材を組んで、耐久力向上の【バフ】で強化……魔力消費が、結構キツい。
完成。
高さは、20m。
やり過ぎた……。
まるで城壁。
魔力が、少し回復したので、どうせだから堀も造ってみる。
護岸を石で固めて、湖から、水を引き込んだ。
幅50m、深さ30mの本格的な水堀。
もう、日暮れだよ。
そうしたら、堀に、魔物が進入して来た。
【高位】の【竜魚】。
【轟雷】を連発して撃退した……私の敵じゃない。
【竜魚】は、腹を上にして、プカー、と浮かんで、ピクピク、痙攣していた。
まだ、息がある。
試しに、【調伏】してみた……成功。
ふふ、私は本職の【調伏士】では、ないけれど、超絶強力な【操作・管制】系の魔法持ちだから、【調伏】成功率は、普通の魔法職よりは、ずっと高い。
ふふ、私ってば、やっぱり、魔法の天才。
【竜魚】に、キブリって名前を付けた。
【治癒】と【回復】をかけてやり、【湖竜】の内臓を【収納】から取り出して、投げてやる。
おー、空中でキャッチして、食べた、食べた。
なになに……超、美味しい……それは、良かった。
命を賭けて、私に、仕える……と?
パスが繋がって、キブリの思考がわかるようになった。
よしよし。
私は、キブリに、攻撃力向上と防御力向上、魔法攻撃力向上と魔法防御力向上、の、【バフ】をかけてやった。
うん、名付けのステータス向上と併せて、これで、相当に強くなった。
「キブリ、お前に、堀の警備を命じる。しっかり、守れ」
キブリは、頷いて、ザッパーーンッ、と水飛沫を上げて、潜り、堀を泳ぎ出した。
さて、眠よ……。
・・・
5日目。
私は、朝から、魔法で、せっせと家を建てていた。
夜までかかって、20軒の家が出来る。
ナイアーラトテップさんに設計を習っておいて良かった。
たぶん、【バフ】で耐久力向上をかければ、崩落はしないだろうけれど、豆腐建築は頂けない。
これだけ、派手に工学魔法が使えるのも、【魔法粘土】が魔力に馴染むから。
そうでなければ、いくら、増援を呼んで、人海戦術を駆使しても、4kmの城壁とか、家20軒とか、とても魔力が保たなかっただろう。
よし、完成。
うん、村だ。
村人は、いないけれど……。
キブリに【湖竜】の内臓を投げてやった。
姐さん、この食べ物、最高ですぜ……って、思考が伝わって来る。
うん、味わって、お食べよ。
キブリが、【竜魚】の仲間を連れて来ていた。
仲間というか、キブリがシバき回して子分にしたらしい。
総勢、16匹。
【調伏】は、出来なかったけれど、キブリをボスと認識しているらしく、私の事も、ボスのキブリよりも、偉い人、だと認めてくれた。
キブリを通して、命令も出来る。
【高位】の魔物が、16匹……中々、頼もしい警備隊だ。
水生の魔物だけれど、【竜魚】は、口から、ブレスが吐ける。
だから、【竜魚】と呼ばれていた。
これで、水面から顔を出して、鳥や、飛行する魔物を撃ち落とす。
堀から顔を出して、外敵も、攻撃できるだろう。
16匹にも、【湖竜】の内臓を投げてやった。
おー、喜んでる、喜んでる。
キブリは……なあ、最高に美味いだろ……って、部下達に言っていた。
【竜魚】達は、自分で獲物を捕まえられるから、餌には困らないけれど、【湖竜】の内臓は、超美味しいから、別腹らしい。
まあ、本来なら、キブリ達が、【湖竜】に食べられる側だから、食べた事はないだろうしね。
「キブリ隊、堀を警備せよっ!」
【竜魚】達は、ザッパーーンッ、と水飛沫を上げて、潜り、堀を泳ぎ出した。
・・・
6日目。
村の集会所などの施設を完成させて、一休みしていたら、【地図】に、反応が……。
白いマーカー……敵ではない。
私は、村から出て様子を伺う。
2人の子供が手を繋いで、歩いて来た。
【エルフ】の子供。
NPCだ。
女の子と男の子。
よく似ているから、姉と弟だろうか?
何で、こんな所に?
ここら辺は、【湖竜】の生息地。
狩をするユーザーならともかく、脆弱なNPCで近付く者はない。
「どうしたの?お父さんと、お母さんは?」
私は、声をかけてみた。
相手は子供。
万が一、家族とはぐれて、迷い込んだのだとしたら、保護してやらなければ、簡単に魔物の餌食だ。
【エルフ】の子供達は、首を振る。
どういう事?
子供だけで、こんな所に来るはずがない。
「何処から来たの?お家は?」
私は、訊ねた。
【エルフ】の子供達は、歩いて来た方角を指差した。
おかしい、あの方角は、湖。
集落なんかない。
その時、弟くんの、お腹の虫が鳴った……。
「お腹が空いているの?」
2人は、頷く。
よし、【湖竜】の焼肉をご馳走してあげよう。
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