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第809話。独創的な艦船。

 法都【ヌガ】郊外。


「あのう……会談場所を変えませんか?」

 ヘックス・スカイ・クラッドが……怖ず怖ず……という様子で発言しました。


 ヘックス・スカイ・クラッドは、シピオーネ・アポカリプトの弟子で、現在の公的な役職はシピオーネ・アポカリプトが庇護する【パノニア王国】の国家魔導師なのだそうです。

 その実質的な役割は、グウィネス女王最側近の護衛であり、また首席補佐官なのだとか。


「何じゃ?我の設えたお茶会場が気に入らぬという事か?」

 ソフィアがヘックス・スカイ・クラッドを……ジロッ……と睨みました。


 お茶会場というか屋外の吹きっ晒しの地面にテーブル・セットを置いただけですけれどね。


「いえ、そういう訳では……。ただ、このように【特異(シンギュラー)(・ポイント)】の【事象の地平面(イベント・ホライゾン)】が目前に迫る場所では、何となく気分が落ち着きませんので……。また各国の元首が集まる場所が、このような開けた場所ですと狙撃などの心配もございます。多少なりとも安全な場所に移って頂いては如何(いかが)かと……」

 ヘックス・スカイ・クラッドは遠慮がちに言います。


「ふん。【特異(シンギュラー)(・ポイント)】とは【創造主(クリエイター)】の奴めが構築したギミックじゃからして極めて精密に働き、決して数理的に不可解な挙動はせぬモノじゃ。キチンと計算によって安全だと確認された場所に陣取れば何も恐れる心配はない。そして我とノヒトがいれば、狙撃などで誰も害させるものか。我らの範囲【防御(プロテクション)】なら仮に小惑星が頭上に堕っこちて来ても、ここにおる者達は完全に無傷じゃ。現在【パンゲア】で此処(ここ)より安全な場所などない。それに我は屋外でのお茶会は開放感があって嫌いではないのじゃ」

 ソフィアは言いました。


「そ、そうでございますか……」

 ヘックス・スカイ・クラッドは(うつむ)いてしまいます。


 ヘックス・スカイ・クラッドは、【パンゲア】の各国元首が集まった首脳会議のホスト国【パノニア王国】の実務代表という立場。

 なので彼女は……【ストーリア(異界)】の神々……などという得体の知れない存在である私やソフィアに遠慮して……場所を変えたい……という事を言いたくても言えない【パンゲア】各国元首達の気持ちを代弁したという体裁なでしょう。


 空気を読めばヘックス・スカイ・クラッドの申し出を無碍(むげ)に拒否してしまうのは、【パンゲア】各国元首の考えを忖度(そんたく)して意見を言った彼女が多少気の毒です。

【パノニア王国】の面子を潰してシピオーネ・アポカリプトが主導する和平合意に水を差すような事も避けたい気持ちもありますしね。


 こういうふうに政治というモノは本当に面倒臭いのですが、あえて穏当に進んでいる外交プロセスを混ぜっ返して妨害する必要もありません。


「ソフィア。此方(ここ)は【パンゲア】です。郷に入っては郷に従いましょう」


「ふん。なら、何か【パンゲア】の美味しいモノでも食べさせてくれるというのならヘックスの顔を立てて場所を変えてやっても良いのじゃ」

 ソフィアは言いました。


「ヘックス。少し早いのですが昼食にしたらいかがかしら?」

【パノニア王国】のグウィネス女王が提案します。


「そうでございますね。現在【ウェーブ・スウィーパー】にて食事を準備しております」

 ヘックス・スカイ・クラッドが言いました。


【ウェーブ・スウィーパー】とは近くに係留されているシピオーネ・アポカリプトの艦隊旗艦である【駆逐艦(デストロイヤー)】の艦名のようです。


「そうね。ランチ・ミーティングというのは良い考えだわ」

【マギーア】のフレイヤ女王は同調しました。


 他の国家元首達も口々に同意します。

 つまり、この屋下の吹きっ晒しにテーブルを置いて会談をしている状況は、皆あまり歓迎していなかったのでしょうね。


「ランチ・ミーティング?まあ、良かろう。して、ランチのメニューは何じゃ?」

 ソフィアは訊ねました。


「メインは【地竜(アース・ドラゴン)】でございます」

 ヘックス・スカイ・クラッドは言います。


「なぬっ、【地竜(アース・ドラゴン)】とな?我は【地竜(アース・ドラゴン)】肉が好きじゃ。因みに我は沢山食べるが、【地竜(アース・ドラゴン)】肉の用意は十分か?」


「どのくらいお召し上がりになりますか?」


「あるだけ食べられるが。そうさな〜、最上の部位である尾の付根肉が十頭分も有れば、とりあえずは良かろう。我は舌が肥えておるのじゃ」

 ソフィアは何故か自慢顔で言いました。


 ソフィアは【神格者】なので【魔力】を体内生成して、食料を補給しなくても生命活動を維持出来ます。

 しかし、食べようと思えばソフィアの亜空間胃袋は幾らでも食べ物が消化可能みたいですね。

 ソフィアが食べた食物は消化器官で肉体に吸収され純粋な魔力に還元されます。

 カロリーを摂取した事でソフィアの活動のエネルギー源として余剰となった魔力は何処(どこ)に行くのかと言うと、そのままダダ漏れになって空間に散逸しました。


 ソフィアはザル燃費なのですよ。


「そう致しますと仕込みの量が足りませんね。【地竜(アース・ドラゴン)】自体は食べきれない程の頭数が備蓄されておりますが、大半は未解体の状態なのです」

 ヘックス・スカイ・クラッドは困り顔で言います。


「ならば、船の甲板(デッキ)と厨房を借りるのじゃ。このオラクルとヴィクトーリアとディエチなら解体も調理も完璧じゃ」

 ソフィアは言いました。


「畏まりました。そのように取り計らいます」

 ヘックス・スカイ・クラッドは頷きます。


 ふと、見るとソフィアとグウィネス女王のやり取りを、【ヌガ法国】のヴェリタス法王が、苦々しい顔で見ていました。


 どうやら、ヘックス・スカイ・クラッドが備蓄している……食べきれない程の【地竜(アース・ドラゴン)】……とは、元はと言えば【ヌガ法国】軍最強の陸上戦力であった【地竜(アース・ドラゴン)】軍団を、シピオーネ・アポカリプト率いる【パノニア王国】軍が撃破・殲滅した際に大量に討伐した【地竜(アース・ドラゴン)】だったようです。


 ヴェリタス法王にすれば、自国の最強戦力であった【地竜(アース・ドラゴン)】軍団が今や、【パノニア王国】の食料備蓄に成り果ててしまっている状況なのですから、忸怩(じくじ)たる思いがあるのでしょう。

地竜(アース・ドラゴン)】軍団の全滅によって【ヌガ法国】は継戦能力を喪失し、シピオーネ・アポカリプト達【パノニア王国】に降伏せざるを得なくなったのだそうです。


 私達は、シピオーネ・アポカリプト艦隊旗艦である【駆逐艦(デストロイヤー)】の【ウェーブ・スウィーパー】に移動しました。


 ・・・


 シピオーネ・アポカリプトの艦隊旗艦【ウェーブ・スウィーパー】。


【ウェーブ・スウィーパー】(静波号)とは地球人的にはケルト神話の太陽神ルーの所有する船の名前です。

 このネーミングからも【ウェーブ・スウィーパー】がユーザーであるシピオーネ・アポカリプトが手ずから、この艦の建造を主導したであろう事が伺えました。

 というか、この艦のデザインが、まんまアメリカ海軍が、かつて運用していた……ズムウォルト級ミサイル駆逐艦……のフォルムにそっくりなのです。

 ズムウォルトを知らない筈のNPCが【ウェーブ・スウィーパー】を設計したとは到底考えられません。


 私とソフィアは、シピオーネ・アポカリプトから【ウェーブ・スウィーパー】を旗艦とする艦隊の提督だというザイレム中将と、【ウェーブ・スウィーパー】の艦長ヨーク中佐を紹介されました。


「中佐?【ウェーブ・スウィーパー】は艦隊旗艦なのですよね?地球人的感覚だと、艦隊旗艦の艦長は大佐なのでは?」

 私は素朴な疑問を質問します。


「ああ、実は現在【ウェーブ・スウィーパー】よりデカくて高火力で作戦遂行能力が高い【巡航艦(クルーザー)】と【揚陸艦(ランディング・シップ)】が完成・就役して試験航行中なんだ。両艦が実戦部隊に配備されると、その【巡航艦(クルーザー)】がウチの艦隊旗艦になる。で、こいつらより格上の高級将官や佐官は、今そっちの方に人事異動されているんだ。新造艦の開発は急ピッチで進めているが、人材の育成の方が追い付いていない」

 シピオーネ・アポカリプトが苦笑いしながら説明しました。


「なるほど。艦は開発建造出来ても、人材が育っていなければ艦隊は運用出来ませんからね。私も人材は幾らでも欲しいところです」


「ははは、違いない」

 シピオーネ・アポカリプトは頷きます。


 それにしても【巡航艦(クルーザー)】と【揚陸艦(ランディング・シップ)】ですか?


 シピオーネ・アポカリプトは【駆逐艦(デストロイヤー)】から【巡航艦(クルーザー)】へと着実に艦級を大きくして、行く行くは【戦艦(バトル・シップ)】や【正規空母(フリート・キャリアー)】の配備にまで持って行くつもりなのでしょう。


「新造艦が完成しておるのか?しかし、この船も中々面白い。中を見て回りたいのじゃ」

 ソフィアが【ウェーブ・スウィーパー】に興味を持ったので、急遽シピオーネ・アポカリプトの案内(アテンド)で艦内ツアーが行われる事になったのですが……【パンゲア】各国の元首達も一緒に見学を希望します。


 各国元首の考えは、【パノニア王国】軍に新造艦が実戦配備される直前の現有艦としては、この【ウェーブ・スウィーパー】が【パノニア王国】……いいえ、【パンゲア】で最大・最強の軍艦であるらしく、その技術を見られるモノならば是非見たい、あわよくば技術の一端でも盗めるモノなら盗みたいという事なのでしょう。


 しかし元首達の中では【スキエンティア】のウッコ王以外に機械工学や造船に関する知識を持つ者が誰もいないようです。

 ウッコ王以外の元首達は……技官を連れて来るべきだった……と悔しがっていました。

 まあ、この艦を造ったのはシピオーネ・アポカリプトでしょうから、もちろん【ウェーブ・スウィーパー】の基幹技術は一見しただけでは解析出来ないように防壁(ファイア・ウォール)が組まれブラック・ボックス化が成されていて簡単に盗めるようにはしていないと思います。

 ただし私が技術解析すれば、どんな技術も一瞬で丸裸ですけれどね。


【ウェーブ・スウィーパー】に使われている技術は、【ドラゴニーア艦隊】や【グリモワール艦隊】と比較すれば、率直に言って何世代か前の遅れたレベルという感は否めません。

 しかし幾つかの機構や方式の設計思想は、私が見ても感心するような斬新で他では見た事がない独創的なアイデアもありました。


 この艦はモデルになっているであろうズムウォルト級駆逐艦と同様にミサイル駆逐艦です。


 主兵装は弾道・巡航の両用ミサイルで、発射筒(セル)は電磁式コールド・ローンチ方式で99門。

 火器管制は同時に99の対象を捕捉して自動攻撃が可能。


 哨戒ヘリ代わりに【ドローン】を全方位に飛ばし情報を収集し、リアルタイムで艦隊の他の艦船ともデータ・リンクしてイージス・システムのような広範囲の防空索敵を行なったり、敵射程の遥か遠隔からミサイルを飛ばして一方的にボコ殴りにするスタンド・オフ・ミサイル・システムを運用可能でした。


 諸元を聴いた各国元首達の表情が引き攣っているところを見ると、どうやら現在の【パンゲア】各国には【ウェーブ・スウィーパー】に対抗出来る戦力はないのでしょうね。


 しかし、この辺りの技術は【ドラゴニーア艦隊】や【グリモワール艦隊】では、より先進的なシステムが開発・導入されています。

 むしろ私を驚かせたのは、【ウェーブ・スウィーパー】のミサイル補給体制でした。


「私が【ウェーブ・スウィーパー】を建造していた当初には【パノニア王国】……いや【パンゲア】自体に、高度な精密誘導ミサイルの製造技術自体がなかったんだ。だから【ウェーブ・スウィーパー】のミサイルを補給するには、自前でミサイルを開発して造るしかなかった。でも、当初【パノニア王国】は半端なく弱くってな。地上にミサイル工場を建設しても他国の攻撃や破壊工作から工場を守りきれない。だから、この……【艦内工廠(アーセナル)】システム……を採用せざるを得かった。おかげで【ウェーブ・スウィーパー】の艦内はクッソ狭くて、ミサイルで戦う以外の作戦を柔軟に遂行する為の艦内スペースが全くない」

 シピオーネ・アポカリプトは溜息混じりに説明します。


 工廠(アーセナル)とは軍隊が運営する兵器工場の事。

 つまり【ウェーブ・スウィーパー】は、自艦の中にミサイル工場を丸ごと抱えていたのです。

 正に自給自足。


「ミサイルがなければ造れば良い。ミサイル工場が守れないのなら軍艦の中に工場を設置すれば良い……。単純明解な解決策じゃが面白い。こんな船は見た事がないのじゃ」

 ソフィアは興味深そうに言いました。


 グレモリー・グリモワールも【グリモワール艦隊】が使用している精密誘導ミサイルの補給手段には頭を悩ませていましたからね。

 ユーザー消失以来技術水準が全体的に衰退している【ストーリア】にあって、【グリモワール艦隊】が装備している高性能兵器類を製造可能なのは、個人ではグレモリー・グリモワール自身か私かノート・エインヘリヤル……組織ではゲームマスター本部か【ドラゴニーア】の国営兵器工廠(アーセナル)だけだったのです。

【ドラゴニーア】元老院は……他国籍の民間人であるグレモリー・グリモワールには兵器を販売しない……という方針を決めていましたし、グレモリー・グリモワールも自分でミサイルを1発1発チマチマ造るのは面倒だと思っていました。

 もちろん私も御免です。


 結局グレモリー・グリモワールがミネルヴァと取引をして【グリモワール艦隊】の補給とメンテナンスは、ゲームマスター本部が運営する【シエーロ】の【天使(アンゲロス)】達管轄の工場(プラント)で行われる事になりました。


「ああ、陸の防衛力が弱くても、圧倒的航空優勢があれば、この方式なら兵器工場が守れるし補給にも困らない。だが、現在は【パノニア王国】の地上防衛力が整備されつつあるから主要な工廠は地上に降ろした。【ウェーブ・スウィーパー】は、この【艦内工廠(アーセナル)】システムの所為(せい)で艦内が狭過ぎて艦載機も積めないし陸戦兵員の輸送も出来ない。使い勝手が悪くて仕方がないから【ウェーブ・スウィーパー】級の後継艦は、もう造らない」

 シピオーネ・アポカリプトは言います。


 まあ、特化艦というモノは汎用艦より情勢変化の影響を受け易く相対的に運用寿命が短くなる傾向がありますからね。

お読み頂き、ありがとうございます。

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・・・


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