第807話。キャス・パリーグの誤解。
【パンゲア】南方国家【ヌガ法国】。
法都【ヌガ】の郊外。
オラクルがテーブル・セットを追加して、【パンゲア】各国の元首達に椅子を用意し、彼らに希望を訊いて、紅茶、コーヒー、ジュース、ボトル・ウォーターなどと一緒に、ちょっとしたお茶菓子などを給仕しました。
ヴィクトーリアとディエチも完璧な連携で、それを手伝います。
「儂は、どちらかと言えば酒が良いのだが」
【スキエンティア】のウッコ王が冗談めかして言いました。
この辺りは、お酒大好きな【ドワーフ】のステレオ・タイプ通りのリアクションですね。
「アルコール類も各種取り揃えてあります。何を御所望でしょうか?」
オラクルはドリンクのストック・リストをウッコ王に差し出してオーダーを訊ねます。
「ほ〜う、酒が用意されているとは気が利くではないか。それに酒だけでも、こんなに沢山の中から選べるのか?ふむふむ、この%という表示は酒精強度という意味か?」
ウッコ王は質問しました。
「仰る通りでございます」
オラクルは答えます。
ソフィアは基本的に飲酒はしませんが、ソフィアと同席するゲストがアルコールを飲みたがる場合もあるのでオラクルとヴィクトーリアは、酒類を含むあらゆる飲料をストックしていました。
彼女達がストックする酒類は、全て最高グレードのヴィンテージばかりです。
「ドライ、スイート、シャープ、ビター、サワー、フルーティ、スモーキー……なるほど。同じ酒種でも味わいの違うバリエーションを揃えている、と?これは素晴らしい。では、このスコッチなる蒸留酒のセンチュリオンなる銘柄の5年物なるモノを貰おうか」
ウッコ王は感嘆しながらオーダーしました。
「ストレート、ロック、水割り、ソーダ割り、カクテル……と飲み方をお選び頂けますが?」
ディエチが訊ねます。
「もちろんストレートだ。上等な酒を薄めるのは勿体ない。それは酒への冒涜だ」
ウッコ王は言いました。
まあ、スコッチの飲み方は必ずしもストレートが最高という訳ではなく、銘柄によってはロックにしたり水で割った方がより味わいが良くなるモノもあるそうですけれどね。
「ふっ……。【武神】様や、異界の神々の御前でも酒を飲みたがるとは……。まったく【ドワーフ】とは救い難い野蛮な種族ですね……」
【マギーア】のフレイヤ女王が呆れたように嘲笑します。
異界の神々とは私とソフィアの事でしょうね。
「痩せっぽちの長耳の女王……何か言ったか?」
ウッコ王がドングリ眼を剥いて……ギロリッ……とフレイヤ女王を睨み付けました。
「何処かのチビのムサ髭の老人が、TPOを弁えずに酒を飲むと言うので呆れているだけですわ」
フレイヤ女王が顎を……ツンッ……と上げて、【エルフ】に比べて背が低い【ドワーフ】のウッコ王を見下すように言います。
そう言えば、エリス・ネクロノミコンは……【パンゲア】では【自然同盟】と【機械化連合】という2大勢力が何百年も戦争をしている……と言っていました。
その2大勢力による戦争状態を停戦に導いたのが、シピオーネ・アポカリプトなのだそうです。
【マギーア】のフレイヤ女王は【自然同盟】の盟主。
【スキエンティア】のウッコ王は【機械化連合】の盟主。
つまり2人は、つい最近まで不倶戴天の敵同士だったという訳です。
「何をっ!」
ウッコ王はいきり立ちました。
「やりますかっ!?」
フレイヤ女王も応じます。
「あ〜、喧しいっ!」
ソフィアが反目し合う2人の国家元首を一喝しました。
ドンッ!という空間を押す圧力を感じます。
ソフィアが【神威】と共に魔力を開放したのでしょう。
ソフィアが放った魔力は全く収束されていませんので攻撃威力値は0でしたが、仮に僅かでも収束され【攻撃魔法】に転化されていれば……脆弱で矮小な人種などは、国家丸ごと一瞬で消し飛ばしてしまえる程に強大な魔力でした。
おかげで、また【特異点】の【事象の地平面】が目に見えて……グンッ……と大きくなったようです。
「ともかく、私が【パンゲア】に来た理由を単刀直入に結論から言いましょう。【特異点】を停止・消去する為には、シピオーネ・アポカリプトを【パンゲア】から連れ出して【ストーリア】に連れて行かなければいけません。【特異点】を停止・消去する具体的且つ現実的な方法は、その1つだけです。つまり、【特異点】とは地球人であるシピオーネ・アポカリプトという……異物……が【創造主】が管理を停止した【テスト・マップ】である【パンゲア】に未だ存在しているから出現した【排除・プログラム】なのです。シピオーネが、このまま【パンゲア】に留まり続ければ【特異点】の【事象の地平面】は時間経過で益々膨張し、最終的には【パンゲア】全てを飲み込みます。まあ、それ以前の段階で【特異点】の【事象の地平面】の破壊効果により【パンゲア】は時間の問題で滅ぶでしょうけれどね。【特異点】は、この世界の全てを創った【創造主】が構築した、あらゆる物理法則に優先する強制プログラムですので、シピオーネの退去以外の方法では対応不可能です。シピオーネの退去を速やかに行わなければ、【パンゲア】の滅亡は避けられません。【正規マップ】である【ストーリア】には【排除・プログラム】が存在しません。【ストーリア】に移動後のシピオーネの身の安全と生活の保証は、私がゲームマスターとして約束します。以上の事について、嘘偽りがない事を誓約します……【誓約】」
【神格者】は【誓約】や【契約】を自由に【破棄】出来ますので、ほとんど意味がありません。
ただし今回の場合は、発言の内容の正しさをその場で保証する意味合いであるので、後から【破棄】出来る事には関係なく私が今嘘を付いていない証明にはなります。
「何とっ!」
「まさかっ!」
「【パンゲア】の危機は【武神】様の存在が原因だとっ!」
「馬鹿なっ!」
「あり得ないっ!」
「何かの間違いでは?」
居並ぶ関係者達は驚愕しました。
しかし肝心のシピオーネ・アポカリプトだけは……得心が行った……というような表情をしています。
「ゲーム会社がサービスを停止した【パンゲア】から、ユーザーを強制退去させる目的の【排除・プログラム】か……。確かに、その説明なら辻褄が合う」
シピオーネ・アポカリプトは頷きました。
理解が早くて助かります。
シピオーネ・アポカリプトは私の元同一自我ですから、私自身が納得可能な説明をしてやればシピオーネ・アポカリプトも納得出来る訳ですね。
「はい。なのでシピオーネ。あなたを【ストーリア】に連れて行きます。準備があるでしょうから……今すぐ……とは言いませんが、【特異点】の【事象の地平面】の成長速度を逆算すると1か月経てば【パンゲア】南部全域が滅び、数か月で【パンゲア】それ自体が滅びます。準備出来る期限は、現実的な見積もりで数日程でしょう」
「なるほど。とりあえず、ノヒト殿の説明を前提として、具体的な方法と懸念を共有したい。私が【ストーリア】なる異界に移動する方法を教えてくれ」
シピオーネ・アポカリプトは訊ねます。
「【特異点】の【事象の地平面】の破壊効果は、ここにいるソフィアのような圧倒的強者でも数十秒内部に留まれば危険なレベルです。ソフィアは先程言ったように、シピオーネの10億倍のスペックがあります。つまりシピオーネが【特異点】の【事象の地平面】に入れば通常ならば即死します。エリス・ネクロノミコンに行った方法と同様に、【贖罪の山羊】で即死無効と短時間のダメージ無効のギミックをシピオーネの存在そのものに【効果付与】すれば、シピオーネは無事に【ストーリア】側に排出されますが、【贖罪の山羊】は難易度が高い【儀式魔法】なので失敗する事があり得ます。仮に失敗してしまった場合、その時点で詰み。シピオーネは不死身のユーザーなので【特異点】の【事象の地平面】に入れば即死して、その場で即復活する仕様によって【特異点】の【事象の地平面】の領域内に永久に閉じ込められ、無限に即死と復活が繰り返される事になり、結果的に【パンゲア】は【特異点】の【事象の地平面】に飲み込まれて確実に滅亡します」
「やはりか……。その危険性がある事は私も推定していた。【特異点】の【事象の地平面】内に永久に閉じ込められる危惧が拭いきれなかったから、私は自ら【特異点】の【事象の地平面】に侵入する選択を取れずに、今回の危険な任務をエリスに頼まざるを得なかったんだ」
「それは賢明な判断でしたね」
「しかし、そうなると1つ素朴な疑問がある。【特異点】が、ユーザーである私という異物の退去を目的とした【排除・プログラム】だとするなら、私を死亡・復活の無限ループに陥らせる仕様なのは目的に適わないのではないか?排除対象の私を【特異点】の【事象の地平面】内部に留まらせる無限ループは、【排除】の為には非効率だからな」
シピオーネ・アポカリプトは論理的に妥当な考察をしました。
「それは、ユーザーである、あなたが異世界転移しているという現在の特殊な状況を運営が全く想定していなかったからです。あなたが異世界転移をしておらず、普通に地球から【パンゲア】にログインしている状況であれば、【特異点】の現在の仕様で何ら問題はなかったのです」
「あ〜、なるほど。サービスが停止した【パンゲア】のデータ・サーバーにユーザーがログインする状況というのは、何らかの不正なハッキングに依る。つまり死亡・復活の無限ループになれば、ハッキングで侵入した不正ユーザーはログアウトせざるを得ない。【特異点】の【事象の地平面】から逃げ回ったとしても、【特異点】の【事象の地平面】が成長し続ければ、いずれサーバーごとハッキング・ユーザー側もデータがクラッシュする。つまり、ハッキング・ユーザーを退去させるには、別に退去プログラムを組まなくても、ログアウトせざるを得ない状況に追い込めば目的には適うという訳だな」
「はい。そちらの方がプログラムもシンプルで、複雑で高度なプログラムを構築するより経費や労力も低く済みますからね」
「理解した。話を続けてくれ」
シピオーネ・アポカリプトは促します。
「シピオーネの推定通り、シピオーネ自身が【特異点】の【事象の地平面】に入らず、他の者を【ストーリア】に送り出したのは危機回避的に完全に正しい選択でした。シピオーネを【ストーリア】に送る方法は、そのエリス・ネクロノミコンを【ストーリア】に送り込んだ【儀式魔法】……つまり【贖罪の山羊】です。即死無効と短時間のダメージ無効のギミックをシピオーネの存在そのものに【効果付与】すれば、シピオーネは無事に【ストーリア】側に排出されます。その時に【儀式魔法】が失敗しないように私が手を貸します。なので魔法の失敗による事故は起き得ません」
「どうやるんだ?」
「これを使って下さい」
私は【超位魔法石】を取り出して、その場で【贖罪の山羊】の【積層型魔法陣】を構築しました。
「凄まじい【工学魔法】だが、構築されたギミックは【贖罪の山羊】だな?」
シピオーネ・アポカリプトは訊ねます。
「はい。私が【積層型魔法陣】を組んだ【贖罪の山羊】の【魔法石】によって【儀式魔法】を起動すれば絶対に魔法を失敗しません。もちろん実際に【贖罪の山羊】を発動するには、相応の能力を有した術者が魔法制御を行う必要はありますが、【贖罪の山羊】の発動自体は【魔法石】に肩代わりさせられるので、術者の位階は詠唱による【贖罪の山羊】の発動より幾らか低くても問題ありません。私はゲームマスターですから魔法を失敗する事がない……いいえ、私の存在そのものが魔法物理と同義なので、私は魔法を失敗する事が物理的に不可能なのですよ」
「それは何というか……運営チートか?」
「そういう仕様なのです。余談ですが、私はゲームマスターの矜恃として、術者となった【パンゲア】側の誰かを【贖罪の山羊】の反作用で死なせる事を是認しません。【贖罪の山羊】を発動する術者には【贖罪の山羊】発動後に、この【神蜜】を摂取させ生き返らせて下さい」
「術者の蘇生の用意まで……何から何まで助かる。実はエリスを【特異点】の【事象の地平面】内に送り込んだ時に【贖罪の山羊】の起動で犠牲になった【大魔導師】は老齢で寿命が尽きかけていたので、自ら名乗り出てくれたのだ。もう一度【贖罪の山羊】を発動する場合、もう【パンゲア】には、私か、このキャスか、ヘックスくらいしか【贖罪の山羊】を起動出来る者がいなかった。私を【ストーリア】に送り出す目的では、私自身が【贖罪の山羊】を発動する訳にはいかない。つまり、キャスかヘックスを死なせなければならなかった。だが、私には2人を死なせる選択肢などはない」
「キャス・パリーグは、シピオーネの従者ですね?ヘックスさんは、【パノニア王国】の国家魔導師と紹介してもらいましたが?シピオーネとの関係性は?」
「私の立場は【パンゲア】中央国家【パノニア王国】の庇護者で、ヘックスは私の弟子だ。【パンゲア】の東に勢力を有する【自然同盟】と、【パンゲア】の西に勢力を有する【機械化連合】の間に位置する【パノニア王国】を私が庇護したからこそ、【自然同盟】と【機械化連合】の戦争に、私が地政学的に割り込んで停戦に導けた訳だな」
シピオーネ・アポカリプトは言いました。
あ、そう。
「気持ちは良くわかります。私も、例え世界を救う為であっても、自分の身内に死を命じる事なんか出来そうもありませんからね」
「ああ。そんな究極の選択を迫られなくて良かったよ。で、懸念なんだが、大きな問題提起が2つある。まず1つ目は今も話題に上がった私の身内の扱いについてだ。私が【ストーリア】なる【正規マップ】に移動する際に、このキャスやヘックスは連れて行けるのか?もう1つは現在【パンゲア】は私が武力を背景にして暴力装置として調停役になっている事で停戦に漕ぎ着け和平を保っている。だが私が【パンゲア】を離れた後、停戦合意の柱石となっている私が居なくなって【パンゲア】が再び戦渦に見舞わられないか心配だ。その安全保障をどうする?それらが懸念事項だ」
なるほど。
私がシピオーネ・アポカリプトの立場でも全く同じ懸念を持ったでしょう。
もちろん私とシピオーネ・アポカリプトは元同一自我なので当然ですけれどね。
「【パンゲア】の安全保障は、私がゲームマスター権限で各国首脳に相互不可侵や和平条約などを【契約】させれば短期的には平和が維持出来るでしょう。しかし長期的には【契約】を結んだ対象となる各国の国体が変更されてしまったり、将来【契約】に縛られない勢力が現れ、軍事的に台頭するなどすれば条約が形骸化します。まあ、それを防ぐ為にゲームマスター本部から【パンゲア】にリソースを移転するなどの方策も取れますが、それでも完全ではありませんね。【特異点】は【パンゲア】を滅亡させるギミックであると同時に、【ストーリア】と【パンゲア】を結ぶ現在唯一の通行手段でもあります。【特異点】はシピオーネの存在が、【ストーリア】側に移動した時点で自然消滅しますので、以後はシピオーネはもちろん、私も含めて誰も【ストーリア】と【パンゲア】を往来不可能になります。つまり極論するなら、私達とシピオーネが去った後の【パンゲア】の安全保障がどうなるかは現時点では何も確たる事は言えません」
「つまり【パンゲア】の将来は五里霧中か……。因みに、そのノヒト殿が移転してくれるというリソースとは?」
「例えば、私の従魔である強力な【古代竜】の群である【神の軍団】というモノがありますが、その内の1個師団400頭くらいなら、【パンゲア】に連れて来て【パンゲア】各国が停戦合意を履行するように見張らせて……何処かの国が条約違反をしたら攻撃しろ……というように【命令強要】をしておく事は可能ですが……。シピオーネが【ストーリア】に移った後、【特異点】が自然消滅すれば、【ストーリア】と【パンゲア】は往来不可能になり、私と【神の軍団】の間に構築されているパスも途絶えます。そうなると【神の軍団】は私の支配下から完全に離れた状態になりますから、状況に応じて適宜指示を変更するなどの柔軟な対応が取れませんし、不測の事態が起きた時にも手の打ちようがありません。そして長命で強力な【古代竜】とはいえ、いつかは寿命で死にますから、そもそも永遠に【パンゲア】の安全保障を担保出来る訳ではありません」
「【古代竜】の群が400頭だって?それがコントロールを外れた状態になるというのは怖いな。とりあえず相互不可侵と和平条約の【契約】だけ、お願いしておこう。後の事は、ここに集まっている【パンゲア】の為政者達が馬鹿ではない事を期待するしかない。言葉を飾らずに言えば、まだ凝りもせずに、これ以上戦争を続けてで国力を疲弊させ文明を退化させるなら、コイツらはその程度の救いようのない愚かな連中だったという事だろう。で、私の仲間達を【ストーリア】に一緒に運ぶ事は可能だろうか?」
「シピオーネ様、こいつらは信用出来ないのニャっ!きっと上手い事を言ってシピオーネ様を騙す気なのニャっ!」
突然シピオーネ・アポカリプトの従者であるキャス・パリーグが言いました。
「フシャーーッ!」
ウルスラの【使い魔】のトライアンフがキャス・パリーグを威嚇します。
キャス・パリーグの種族は猫系【魔人】の【バステト】。
トライアンフの種族は猫形態の【精霊】の【チェシャー猫】
猫系同士にしかわからない何かがトライアンフを刺激したのかもしれません。
「キャス。落ち着け。私が聴く限り、ノヒト殿の話は全て妥当で蓋然性が高い。そもそもノヒト殿には私達を騙す必要も意味もない」
シピオーネ・アポカリプトは言いました。
「い〜や、きっとコイツらはシピオーネ様を【ストーリア】とか言う遠くの異界に連れ去って……他の者は誰も連れて行けない……とか言うつもりなのニャっ!アタシは、そんな見え透いた嘘には引っかからないのニャっ!」
キャス・パリーグは毛を逆立て興奮して捲し立てます。
なるほど。
そういう解釈をしているのですね。
確かにキャス・パリーグの言い分も理屈から言えば致し方ない誤解です。
何故なら、シピオーネ・アポカリプトを【ストーリア】に送るには、【贖罪の山羊】を起動しなければいけません。
シピオーネ・アポカリプトの説明によると、現在【パンゲア】側の人材で【贖罪の山羊】を起動させられるのは、キャス・パリーグと、ヘックス・スカイ・クラッドの2人だけ。
まあ、私が【積層型魔法陣】を組んだ【魔法石】を使用すれば、ある程度の魔法制御を行えれる者なら【贖罪の山羊】を起動出来ますので、術者の選定の幅は大きく広がりますけれどね。
しかし、キャス・パリーグの誤解に基づく前提条件であれば、キャス・パリーグかヘックス・スカイ・クラッドが【贖罪の山羊】を起動しなければいけません。
そしてシピオーネ・アポカリプトが【ストーリア】側に移動してしまった後には、【パンゲア】と【ストーリア】を結ぶ【特異点】は自然消滅してしまいます。
という事は、ここまでの情報だけから類推すると、キャス・パリーグとヘックス・スカイ・クラッドのどちらか、あるいは2人共は【パンゲア】に取り残されざるを得なくなりました。
簡単な引き算の問題です。
キャス・パリーグは、シピオーネ・アポカリプトの従者……つまり【調伏】された【魔人】でした。
【調伏】された従者は【主人】に絶対服従し、同時に【主人】を守る事を【存在意義】とします。
なので【調伏】された従者は【主人】から引き離される事を何より忌避しますからね。
私の従者であるトリニティも同じ状況なら、きっと忌避感を顕にするでしょう。
ただし、それはキャス・パリーグの完全な誤解です。
「シピオーネが【ストーリア】側に移動するまでであれば、事前に何人でも【ストーリア】に送れますよ。もちろんキャス・パリーグが望むなら、あなたも【ストーリア】に移動出来ます」
「ほえ?アタシも行けるの?シピオーネ様と一緒に?」
キャス・パリーグは……キョトンッ……とした表情をして言いました。
余程驚いたと見えて、キャス・パリーグはキャラ付けの為の猫語尾も忘れる程……。
「可能です。厳密にはシピオーネと一緒ではなく、シピオーネに先んじて【ストーリア】に移動する事になります。要するにシピオーネが【ストーリア】に移動する以前であれば【特異点】は消えませんので、【特異点】の【転移門】として働くギミックを利用すれば何人でも【パンゲア】から【ストーリア】に送れます」
「本当か?そんなに大量の【神蜜】があるのか?いや、ノヒト殿は運営だから、【神蜜】が無限に生み出せる、とか?」
シピオーネ・アポカリプトは訊ねます。
「いいえ。【神蜜】は私にとっても希少なモノなので、今回提供するのはシピオーネの分1本だけです。【ストーリア】に人を送る方法は、単純に私が【贖罪の山羊】を何度も起動して、複数人を【ストーリア】に送るだけです。その後に私とソフィア達が【ストーリア】に向かい、誰かにシピオーネを守る【贖罪の山羊】のギミックを【効果付与】させた上で【ストーリア】に送らせて、最後に術者を【神蜜】で蘇生させれば任務完了です。因みに私の【贖罪の山羊】の【魔法石】を使えば、ギミック起動に【超位超絶級】の術者は必要ありません。【高位級】程度の魔法制御が行えれば【贖罪の山羊】が起動出来ます」
「ん?私が【ストーリア】側に移動する前に、ノヒト殿が何人でも【贖罪の山羊】を起動させる?【神蜜】は希少なのだろう?」
「あ〜、私は……当たり判定なし・ダメージ不透過・魔力無限……の絶対無敵の存在なので、【贖罪の山羊】を何回でも発動可能ですし、【贖罪の山羊】の反作用で死ぬ事もありません。というか私は自殺しても死ねません」
「運営チートだな……」
シピオーネ・アポカリプトは呆れたような声を出しました。
「ニャ〜んだ。ならノヒト殿を信じるのニャ。さっきは嘘吐き扱いして、ごめんなさいなのニャ。この通りなのニャ」
キャス・パリーグは素早く土下座します。
「ノヒトよ。我は、このキャスなる者の現金な性格が……ちょっとだけ苦手なのじゃ」
ソフィアが呆れたように言いました。
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