第80話。いざ、サウス大陸へ!
サウス大陸の地理。
中央国家【パラディーゾ】…滅亡し【大密林】に飲まれる。
東の国【ティオピーア】…首都だけ奪還。
西の国【オフィール】…首都だけ奪還。
南の国【ムームー】…滅亡し状況わからず。
北の国【アトランティーデ海洋国】…存続。
北東の遺跡…ダンジョン・ボス【ラドーン】。管理下。
北西の遺跡…ダンジョン・ボス【ピュトン】。管理下。
南東の遺跡…ダンジョン・ボス【オピオン】。スタンピード継続中。
南西の遺跡…ダンジョン・ボス【アペプ】。スタンピード継続中。
竜城、大広間。
私達は、昼食を摂っています。
私、ソフィア、アルフォンシーナさん、エズメラルダさん、そしてファミリアーレのメンバー。
アルフォンシーナさんの傍には、秘書官さん、ソフィアの背後にはディエチが控えています。
ロルフとリスベットには、彼らのパートナーである【自動人形】・シグニチャー・エディションのオットとノーヴェを与え、マスター登録も済ませてありました。
これで、ロルフとリスベットの護衛も万全。
ファミリアーレが竜都の中で行動する限り、私の造ったシグニチャー・エディションと行動を共にしていれば、まず安全でしょう。
「ソフィア様、ノヒト先生、サウス大陸では頑張って下さい」
グロリアが言いました。
それを合図に、ファミリアーレの一同が声を揃えて、頑張って下さい、と言います。
どうやら、リハーサルしていましたね。
「うむ、任せるのじゃ」
「ありがとう」
何と言いうか、少し、泣きそうになってしまいました。
異世界転移以来、私は、精神耐性最大の効果なのか、感情の起伏が少ないのですが、ファミリアーレからの激励の言葉は、素直に嬉しく思います。
まだ、出会って日が浅いのですが、私は、ソフィアと弟子達を、実の子供のように感じていました。
この子達の為に頑張ろう、という気がして来ます。
私は、日本では未婚でしたが、子供を持つ親の気持ちとは、こんな感じなのかもしれないですね。
「ところで、アルフォンシーナ、【ゴブリン自治領】の連中は、どうなったのじゃ?」
ソフィアが訊ねます。
「【昏睡】で眠らせ、魔法の鎖でグルグル巻きにして、【アガルータ】の大使に引き渡しました。【アガルータ】を経由して【ザナドゥ】に移送した後、処罰が行われますが、【ザナドゥ】の刑罰は苛烈ですし、国家的恥を晒した訳ですので、おそらく処刑でしょう。今後、【ゴブリン自治領】の者には、入国禁止を申し渡し、セントラル大陸で見つけた場合は、拘束して、都度、【アガルータ】の責任において賠償金を支払わせます。この度の仕儀についても、【アガルータ】の責任において、【ザナドゥ】と【ゴブリン自治領】に公式な謝罪と賠償を求めます。もし従わない場合は、【アガルータ】が【ザナドゥ】に宣戦布告をして、攻め滅ぼすという約束です。以上を【アガルータ】の大使に【契約】させました」
アルフォンシーナさんは、ニッコリと笑いながら、凄く怖い事を言いました。
【アガルータ】が【ザナドゥ】と【ゴブリン自治領】の処罰を確約したので、ソフィアが出動を命じた艦隊は引き返して来たそうです。
何でも、艦隊の兵士は、出撃に歓喜していたので、出撃中止を聞いて、ガッカリしているのだ、とか。
【ドラゴニーア】軍は、戦場が大好きですからね。
ただし、彼らが出撃を望むのは、戦争が好き、という訳ではなく、作戦行動中は、異常な過酷さの訓練を免除されるからです。
「うむ、意図的に規範を破る者には、毅然と対応せねばならん。無法を許せば、次も、次も、と段々エスカレートするのじゃ」
ソフィアは、憤懣やるかたないという口調で言います。
「ソフィア、セントラル大陸には【ゴブリン】は住んでいるの?」
「うむ。5万人ほどはおるかの。【グリフォニーア】と【パダーナ】に多いのじゃ」
「彼らは、問題を起こさないのかな?」
「みな、温厚で勤勉じゃ」
ソフィアは、当然という口調で言いました。
「セントラル大陸に暮らす【ゴブリン】は、秩序と協調性を持っております。畜産、特に家禽類の飼育が得意な者が多く、【ゴブリン】の生産する鶏肉や卵の品質は高く、国に貢献してくれておりますよ」
アルフォンシーナさんが補足してくれます。
「卵は我の好物なのじゃ。じゃから、セントラル大陸の【ゴブリン】は、皆、善い【ゴブリン】なのじゃ」
あ、そう。
「では、何故、イースト大陸の【ゴブリン】達は、そんな無法な振る舞いを?」
私は訊ねました。
「教育じゃ。子供の内から、社会へ誠実に尽くし、規則や約束を守って、勤勉で真摯に働けば、国家から庇護され、共同体から信頼され、社会の一員として尊重される、と教えてやれば、【ゴブリン】だろうが、【オーガ】だろうが、善良な隣人となり得るのじゃ。【ゴブリン自治領】の【ゴブリン】達は、盗んで騙して奪い取れ、と親や教育機関が、子供達に教えておる。そんな教育を受けて育った者を、大人になってから人格矯正するのは難しい。子供の教育という物は、斯くも重要なのじゃ」
ソフィアが言います。
なるほど。
・・・
昼食後。
私は、サウス大陸に行く準備をしていました。
とはいえ、必要な物資は、ほとんど【収納】に揃っていますし、足りなければ【アトランティーデ海洋国】でも補給できます。
準備は、弟子達への引き継ぎが主でした。
私は、弟子達の指導を行えない間の、諸々の決まりや、申し送りを済ませます。
そして、【収納】から、【魔法装置】を取り出しました。
これは、内職で造ったドローンです。
「あなた達が倒した【地竜】のコアを材料にして造りました。色々と悩みましたが、結局、ファミリアーレ全員で利用出来る物を、と考えてドローンにしました」
「ドローンて、何ですか?」
ハリエットが訊ねました。
「うーん、つまり小型の【偵察機】です。自立飛行して、【マッピング】や、アイリスの【索敵】の範囲外までを広域に偵察出来ます。機動力と防御力は高いですが、攻撃手段は持っていません」
外見は、単なる球体の【魔法石】にオリハルコンとアダマンタイトの複合材で装甲を被せただけのシンプル過ぎる形状。
飛行速度と防御性能は過剰なほど高いですが、攻撃手段はなし。
リアルタイムで、ファミリアーレのスマホに刻々と情報を送り、受信側のスマホには、カラー映像、赤外線暗視映像、三次元地形情報、魔力反応が表示されます。
この【偵察機】は、ファミリアーレのリーダーであるグロリアが【宝物庫】で管理する事になりました。
「名前はどうしようか?」
ハリエットがファミリアーレのメンバーに訊ねました。
「名前が必要かしら?【偵察機】で良いのでは?」
リスベットが言います。
「だってさ、ノヒト先生が造ってくれたんだよ。名前を付けて、大切にしたいじゃん」
ハリエットは、言いました。
「なるほど。そうね」
リスベットは、納得したようです。
弟子達が意見を出し合ったもののまとまらず、結局、私がが命名する事に……。
「サン・マルコ1号です」
一同は、ポカーンとしています。
まあ、元ネタがわからなければ、そんなリアクションになりますよね。
とにかく、決定ですよ。
「基本的に、外出する時は、上空に飛ばしておけば良いでしょう」
ファミリアーレは、返事をします。
「ノヒト先生。サン・マルコ1号に顔を描いて」
ハリエットが依頼しました。
顔?
まあ、良いでしょう。
私は、【偵察機】の表面を【加工】で成形し、ニッコリ笑った顔を描きました。
目と口しかないシンプルな線画です。
「サン・マルコ1号、可愛い」
ハリエットが喜びます。
それから、ファミリアーレの女子チームはひとしきり、可愛い、可愛いの大合唱。
男子チームは、苦笑い。
・・・
午後は、自由時間。
ファミリアーレと一緒に買い物をしたり、買い食いをしたり、雑談したりして過ごしました。
サウス大陸が片付くまで、しばらく、こんな時間も取れないでしょうからね。
夕方に、早めのディナーを竜城で食べて、そろそろ約束の時間です。
その時、私のスマホが鳴りました。
剣聖です。
来ましたね。
「ノヒト様、どうぞ、お越し下さいませ」
剣聖が、端的に言いました。
「わかりました。今から、向かいます」
私は通話を終了します。
「いよいよじゃな?」
「うん、まあ、すぐに戦闘にはならないと思うよ。色々と打ち合わせもあるだろうしね」
「うむ」
私とソフィアは、ファミリアーレ、アルフォンシーナさん達【女神官】、レオナルドさん達【竜騎士団】に見送られています。
「ソフィア様、ノヒト様、ご武運をお祈り申し上げております」
アルフォンシーナさんが言いました。
「うむ、暴れてくるのじゃ」
「ありがとうございます。しばらくの間は、【アトランティーデ海洋国】王城で宿泊しますが、向こうが落ち着いたら、毎日、夕食時には、こちらに帰って来ますので」
「はい。いってらっしゃいませ」
アルフォンシーナさんが礼を執ると、居並ぶ【女神官】の、みなさんが、全員跪いて祈りを捧げ始めます。
「捧げーーっ、槍っ!」
レオナルドさんが号令をかけて、【竜騎士】が全員で儀仗しました。
竜城に侍る、【竜騎士】は、竜騎士団でも屈指の精鋭揃い。
儀仗も決まっています。
「ソフィア……」
私はソフィアから少し離れました。
「うむ……」
ソフィアは頷きます。
ソフィアは、【神竜】形態に現身しました。
事前の申し合わせで、【アトランティーデ海洋国】に来る際には、【神竜】形態で、とゴトフリード王から依頼されていたのです。
理由は、わかりません。
別に構わないと、了解しましたが……。
「失敗したのだ」
ソフィアがビリビリに破れた、神官服を見て言いました。
「問題ありません。行きましょう」
私は、ソフィアの手を握り、はるか彼方、サウス大陸の【アトランティーデ海洋国】に【転移】しました。
・・・
サウス大陸、【アトランティーデ海洋国】王城。
【転移】した先は、どうやら王城の玉座の間。
それも、王が座る高台の玉座のある位置でした。
うん?
状況がわかりません。
私は、一瞬混乱しました。
見下ろすと、玉座の間には、ゴトフリード・アトランティーデ王を先頭に驚くほど大勢の者達がいます。
【人】と【獣人】が多いですが、【エルフ】や【ドワーフ】や【オーガ】……など多様な種族がいるようでした。
その者達が全員、片膝をついて頭を垂れています。
「至高の叡智を持つ、天空の支配者にして、セントラル大陸守護竜、【ドラゴニーア】の元首、【神竜】、ソフィア様。【創造主】の御使にして、【調停者】、ノヒト・ナカ様。ようこそ、【アトランティーデ海洋国】にお越し下さいました。謹んで、お迎え申し上げます」
ゴトフリード王は、朗々と発声しました。
その、至高の叡智、うんたらかんたら、っていう前口上は、ソフィアの正式な敬称になったのですか?
それに私のもあるのですね?
何だか、長ったらしくて、面倒臭いです。
「「「「「謹んで、お迎え申し上げます」」」」」
謁見の間にいる全員が片膝ついた格好のまま唱和しました。
は?
これは、何?
「迎え大儀である。起立を許す」
ソフィアは、威厳のある態度で言いました。
なるほど、そう言えば良い訳ですね。
玉座の間の全員は立ち上がりました。
全員、【トーガ】に似た服装をしています。
どうやら、これが【アトランティーデ海洋国】の正装みたいですね。
「ソフィア様、ノヒト様。この度は、サウス大陸奪還に、ご助力頂きます事、サウス大陸の全ての臣民になり変わりまして、心より御礼申し上げます」
ゴトフリード王が恭しく言いました。
「うむ。【ドラゴニーア】と【アトランティーデ海洋国】は、永き友邦である。此度は、サウス大陸の民の為、我が力を振るうぞ」
ソフィアが言います。
「ありがとうございます」
ゴトフリード王は、言いました。
「「「「「ありがとうございます」」」」」
玉座の間の全員が唱和します。
玉座の間を沈黙が支配しました。
ん?
もしかして、私も何か言うべきなの?
何も考えてないよ。
どうしよう……。
まあ、適当で良いか。
ノヒトよ、威勢の良い、皆の士気を高めるような気の利いた事を言うのじゃ。
ソフィアが【念話】で伝えてきました。
自分は挨拶が終わったからって、無茶振りするなよ……スピーチとか苦手なのに……。
私は【念話】で愚痴ります。
士気を高める?
まあ、【能力】の力を借りれば、何とかなるでしょう。
私は【鼓舞】やら、【勇敢】やら、【威風】やら、【天意】やら、【煽動】をフルパワーで発動しました。
それから、隠し味で【神威】も少しだけ発動。
【神威】は、神への畏怖を強制的に引き起こさせる【常時発動能力】なので強過ぎると、人種は、強烈な畏れで脳の中枢が破壊されて、廃人になってしまいますので……。
「私とソフィアは、これから、魔物を打ち払います。あなた達は、後方支援。戦場に、あなた達の役割はありません。しかし、あなた達には、使命があります。戦いが終わった後、サウス大陸を復興するという使命です。民の為、国の為、王の為、家族の為、あなた達自身の為、そして子や孫の為に、あなた達の懸命な働きが必要なのです。復興の為に、力ある者は力を使い、知恵ある者は知恵を使い、資産ある者は資産を使い、時ある者は時を使って下さい。あなた達が使命を果たした時、ここにいる一人一人の名は、復興を成し遂げた英雄として、永久に、歴史に記されるでしょう」
なんてね。
シーン……。
うわー、外したか?
刹那、玉座の間に地響きのような歓声が起きました。
皆、口々に、叫び始めます。
【アトランティーデ海洋国】に発展あれ!
サウス大陸に復興あれ!
【ドラゴニーア】に繁栄あれ!
ゴトフリード王陛下に武名あれ!
【神竜】ソフィア様に栄光あれ!
【調停者】ノヒト様に雷名あれ!
どうやら、士気を高めるのは、成功したようですね。
私とソフィアは、ゴトフリード王に促されて、玉座の間を後にしました。
・・・
ソフィアは、人化して、神官服を着ます。
それから私とソフィアは、ゴトフリード王から簡単な饗応を受けました。
ソフィアの人化は、基本的に、ゴトフリード王と、王家と、側近だけに伝える事にしてあるので、大袈裟な晩餐会などではなく、少人数での食事会。
しかし、ゴトフリード王の細やかな配慮が行き届いた、精一杯のおもてなしです。
参加者には、一応、【契約】で、ソフィアの正体は、秘匿させました。
公にしても、危機管理上の問題などは発生しません。
ソフィアを暗殺出来る存在などいるはずもありませんので。
あくまでも、ソフィアの正体が拡まると、気軽にファストフード店などで買い食い出来なくなるからです。
サウス大陸奪還作戦の具体的な話は、明日の朝議から行う、との事。
ソフィアは、一刻も早く、暴れたい様子でしたが、とりあえず、ゴトフリード王の流儀に従いましょう。
兎にも角にも、私とソフィアは、サウス大陸で行動を開始したのです。
お読み頂き、ありがとうございます。
ご感想、ご評価、レビュー、ブックマークを、お願い致します。