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第79話。嵐の前の静けさ。

ブートキャンプ後。


名前…リスベット

種族…【ダーク・エルフ】

性別…女性

年齢…15歳

職種…【化学者(ケミスト)

魔法…【低位魔法】、【闘気】、【収納(ストレージ)】、【鑑定(アプライザル)】、【マッピング】、【攻撃魔法】、【防御魔法】

特性…【才能(タレント)…防御魔法】

レベル…18

 竜城の園庭。


 朝食後、私は、公務から解放されたソフィアと共に、お茶を飲みながら、園庭を眺めていました。

 ソフィアの背後には、先ほど、ソフィアをマスターとして登録した【自動人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディションのディエチが佇んでいます。

 ディエチは、お茶の給仕などをしてくれていました。


 ここは、竜城が建つ浮遊島の表層部にある、ソフィアの私的エリア。

 竜城内には、こうしたソフィアの専用の場所や施設が数多くあります。


 しかし、おかしいですね。


 私がソフィアを復活させ、現世に存在を固定する以前は、基本的に、ソフィアは亜空間に休眠した状態でした。

 大神官が自分の生命を触媒にして【儀式魔法】を行えば、ソフィアは9日間だけ、現世に顕現出来ますが、そんな緊急事態は、数百年に一度あるかどうか、という頻度だそうですし、この900年に限っては一度もありません。


 つまり、ソフィア専用の園庭や大浴場は、必要なのでしょうか?


 まあ、【創造主(クリエイター)の魔法】で創られた、建造物やオブジェクトは、NPCの都合には関係なくゲーム会社が勝手に創った物ですので、そんな疑問自体が無意味なのですが……。


創造主(クリエイター)の魔法】による被造物は、まだ理解出来ます。

 単なる、ゲームの設定や世界観作りの為に、勝手に創られただけなのですから……。


 しかし、【ドラゴニーア】には、【創造主(クリエイター)】の手によらないソフィアの専用物も、たくさんあるのです。

 例えば、竜都の都市城壁の外側南方にある広大な農場は、ソフィア専用の農場という建前でした。

 このソフィア農場で採れる農作物や、飼育されている家畜は、竜城や神殿や孤児院や国立病院で消費されていて、余った分は、市場で売却。

 つまり、ソフィアの為と言いながら、ソフィアが復活する以前は、ソフィアの口には入らず、実際には、竜城で働く【女神官(プリーステス)】や【竜騎士(ドラゴン・ライダー)】……神殿や病院や孤児院に勤務する【女神官(プリーステス)】や【修道女(ナン)】……病院の患者、孤児達が、食べていた訳です。


「ソフィア農場を作った意図は何?」

 私は、ソフィアに訊ねました。


「あーっ!ノヒトが、急に話しかけるから、間違えてしまったのじゃ。もー、やり直しなのじゃ」

 ソフィアは、抗議します。


 ソフィアは、屋外テーブルに向かって、先ほどから、熱心に書き物をしていました。


 意外、と言ったら失礼かもしれませんが、ソフィアは、案外、字が綺麗ですね。

 幼女に人化した姿では、手が小さいので、少し丸っこい文字でしたが、それも、また味でしょう。


 ソフィアの背後から、【自動人形(オートマタ)】のディエチが、サッと新しい便箋を差し出します。


「ごめんよ。邪魔してしまったね」


「別に良いのじゃ。で、何と言ったのじゃ?」


「ああ、ソフィア農場を作った意図さ」


「そんな物、病院や孤児院の為に、決まっておろう」

 ソフィアは、さも当然という口調で言いました。


「なら、初めから、そう言えば良いじゃない?ソフィアの専用農場だ、なんて目的意図と違うんだから」


「うむ。元老院で、予算承認が下りなかったのじゃ。じゃから、方便を使ったのじゃ。我に捧げる供物を生産する為じゃ、と言い張れば、誰も文句は言えぬ(ゆえ)、神託を出したのじゃ。毎年毎年、まだ足りぬ、もっと寄越せ、と神託を出し続けてやったのじゃ。とはいえ、供物は実際には、我が食べる訳ではない。我は亜空間に休眠しておる(ゆえ)な。せっかく生産した作物や家畜を腐らせてしまうのは、もったいない。ならば、竜城、神殿、病院、孤児院で、消費してやろう。そうすれば無駄がない、という訳じゃ。こうでもせねば、元老院は弱き者に金を出し惜しむ。この900年、我と大神官で協力して、【ドラゴニーア】の政治家や役人や民らを粘り強く教育してやったのじゃ。今は、ようやく、福祉が形になって来た。まだ足りぬがな」

 ソフィアは、書き物をしながら、言います。


「ソフィア……あなたは、やはり神様なんですね。立派ですよ」


「今頃、気付いたのか?我は、至高の叡智を持つのじゃ」

 ソフィアは、フンスッと胸を、張ります。


「はいはい。心から尊敬しますよ」


「当然じゃ。あー、また、書き損じたのじゃ〜……」

 ソフィアは、言いました。


 うん、外見は、幼稚園児にしか見えませんが、ソフィアはセントラル大陸に君臨する偉大な守護竜なのですよね。


 ソフィア農場の生産物は、ソフィアの供物、という建前で作られている為、当然、品質や安全性には細心の注意が払われていました。

 なので、孤児や病人に、予算をケチって、質の悪い食料を食べさせるような心配もない訳です。


 良く考えられていますね。


 ・・・


 園庭の木をリスが走り、小鳥が芝生の上をついばみ、池で小魚が群舞していました。

 時々、ソフィアが食べこぼす、お菓子のクズを目当てに、リスや小鳥が、触れられるほど近くまで寄って来ます。

 小鳥がソフィアの肩に止まりましたが、ソフィアは無視。

 それを良い事に、小鳥やリスが段々と大胆になって来ます。

 まあ、世界最強の【神竜(ソフィア)】にとって、小鳥など人畜無害な塵芥(ちりあくた)のような存在で、眼中にないのかもしれませんが……。


 ソフィアが、リスを3匹頭に乗せた姿は、中々に微笑ましい様子でした。


 平和ですね〜。


 もうすぐ、ハルマゲドン級の戦闘をしなければならないと言うのに、何だか、妙に気持ちが落ち着いています。

 まあ、ゲームマスターの業務として行った戦闘の前に、あれこれ悩んだような記憶は一度もありませんけれどね。

 私は、いわば生物兵器のような存在ですから……。


「ノヒトよ、手が疲れたのじゃ。【回復(リカバリー)】をかけて欲しいのじゃ」


 あー、はいはい。


 私は、ソフィアに【回復(リカバリー)】をかけてやりました。


 ソフィアは、ソフィア財団へ寄付を行ってくれた方々に、直筆の礼状を書いています。


「もー、面倒なのじゃ。いっその事、寄付金1万金貨以下の者への令状は、印刷にしてしまえば良いのじゃ?」


「ソフィア、これを読んでご覧……」

 私は、ソフィアに手紙を渡しました。


 これは、サボり癖のあるソフィアの為に、ソフィア財団事務局から私が預かっている寄付者からの手紙です。


 いだいなるソフィアさまへ。

 わたしのおこづかいをあげます。

 こまっているひとのためにつかってください。


 金額12銅貨……【ドラゴニーア】南街在住……ベニアミーナ……7歳。


「ぬぐっ……さっき言った事はなし、なのじゃ」

 ソフィアは、ベニアミーナちゃんの手紙を大切そうに【収納(ストレージ)】にしまうと、魔法ペンを握って、再び礼状を書き始めました。


 ソフィア財団では、全ての寄付に返礼をしていますが、ソフィアの手書き礼状は、同一の、個人、団体、組織……などにつき最初の一口のみとしていました。

 1人1通、1団体1通だとはいえ、寄付への礼状は膨大な数があります。

 しばらくは、ソフィアに礼状書きを頑張ってもらうしかありませんね。


 2回目以降の寄付は、印刷物の礼状と、ソフィアグッズが贈られます。

 グッズは、金額に応じて、ステッカー、ノート、タオル、キーホルダー、Tシャツ、ソフィアを模ったヌイグルミ、関節可動式フィギュア、ソフィア型ペンダント……などなどがあります。

 このデザインは、季節ごとに新しくされるのだとか。

 全種類コンプリートを目指す者が多くいて、何度も寄付をする事になる、と。

 これは、ソフィア財団の策略担当(アドバイザー)をボランティアでしてくれている、エズメラルダさんとビルテさんが考えた、詐欺手口(アイデア)でした。

 さらに、1000金貨以上の大口寄付者には、竜城でのソフィアとのお食事会なる企画もあるのだとか……。

 さすが、腹黒シスターズは、商魂たくましいですね。


「マイ・ミストレス。チェレステ様が、お目通りを願っております」

自動人形(オートマタ)】のディエチが伝えました。


「うむ、通せ」

 ソフィアは、言います。


 ディエチは、ソフィアの執事という役割を担わせる事になりました。

 ディエチを始めとするシグニチャー・エディションには、体内にスマホ機能が付加されています。

 なので、プライベート・エリアにいるソフィアに用がある場合は、執事のディエチにスマホでアポを取る事が必要でした。


 ソフィアもスマホを持っていますが、こちらは、あくまでもプライベートの個人用。

【高位】の【魔法使い(マジック・キャスター)】は、【念話(テレパシー)】が使えますが、儀礼上、ソフィアに【念話(テレパシー)】を送れるのは、アルフォンシーナさんとエズメラルダさんだけ。

 それ以外の者は、恐れ多いのと、そもそもソフィアがブロックしているので、繋がりません。

 それに、いくら、ソフィアが国家元首であり、守護竜であるとしても、全くプライバシーがないのでは気の毒ですからね。


 ただし、緊急の場合は、その限りではありません。


 ・・・


 チェレステさんが、やって来ました。

 チェレステさん、とは、アルフォンシーナさんの筆頭秘書官の名前です。

 竜城のみんなが秘書官とか、秘書官様とか呼ぶので、私も、基本的に、秘書官さん、と呼んでいました。


「ソフィア様、【アルカディーア】のドローレス王女殿下が来月1日に参ります。謁見は、どういたしますか?」


「返事を急ぐのじゃな?」


「はい、申し訳ございません」


「構わぬ。して、アルフォンシーナは、何と申しておるのじゃ?」


「人質とはいえ、【アルカディーア】の王位継承順位第一位の、お方ですので……出来得れば、到着日に謁見にて、お目通り頂くのが良い、と……」


「なるほど。ならば会ってやるのじゃ」


「畏まりました。では、そのように、お伝え致します」


 イースト大陸には、中央国家【アガルータ】、東の【タカマガハラ皇国】、西の【アルカディーア】、南の【イスタール帝国】、北の【ザナドゥ】という国家があります。


【アルカディーア】は、かつて、【ドラゴニーア】の同盟国である【グリフォニーア】に戦争を仕掛け、コテンパンに返り討ちに遭い、現在、【ドラゴニーア】と【グリフォニーア】連合軍の占領統治を受けていました。

 このほど、【タカマガハラ皇国】と【イスタール帝国】と【ドラゴニーア】とで、平和協定が調印される事になったのですが、【アルカディーア】もそれに加わる事を希望したのです。


 数日前、ソフィアが各国の賓客の前で【神竜の咆哮(ディバイン・ブレス)】25連発という規格外の戦闘力を見せつけた為に、【アルカディーア】は、明確に【ドラゴニーア】に屈しました。


 今までは、隙あらば、もう一度反乱を起こそう、という思惑も持っていたようですが、完全に方針転換したのです。

 ソフィアの武威を目にして、完璧に心が折られ、敵対などしていたら、国が消滅させられる……と危惧したのでしょうね。


 しかし、【アルカディーア】は、元【ドラゴニーア】の敵国であり、現在、占領統治下にあって主権がありません。

 そこで、ソフィアと、アルフォンシーナさんは、【アルカディーア】に条件を出しました。

 次期王位継承者を人質として【ドラゴニーア】に差し出し、【ドラゴニーア】で教育を受けさせよ。そうすれば主権を回復し、平和協定への参加を許す……という内容。

【アルカディーア】は、これに従った訳です。


 次期王位継承者を【ドラゴニーア】で教育すれば、その王位継承者が、王となった時に、叛意を向けては来ないでしょう。

 この約束は、【アルカディーア】の王家が存続する限り永久に続ける事が【契約(コントラクト)】されています。


「チェレステ。アルフォンシーナは、何故、自ら伝えぬのじゃ?プライベート中は、【念話(テレパシー)】を禁じたが、この話は、公務に関わる急ぎの用。その場合は、公務優先と申し合わせたはずじゃが?」


「大変、申し訳ございません」


「責めてはおらぬ。何かあったか?」


「はい。実は、【ザナドゥ】の【ゴブリン自治領】の者達が突然アポイントもなく、やって参りまして、ソフィア様への謁見を願い出ております」


「【ゴブリン自治領】?国交のない【ザナドゥ】の、しかも、その属国じゃな。会う道理が全くないの」


「はい。ですので、拒否致しましたが、会うまで一歩も動かないと言っておりまして、飛空船の港では、少々騒ぎになっております。衛士が向かいましたが、近寄ると毒を飲んで死ぬ、と言っておりまして、対応に苦慮しております。民や旅行者に万が一があるといけませんので、念の為、アルフォンシーナ様は、戦闘指揮所に入られました」


「逮捕して檻に入れて、本国に強制送還するじゃ。毒を飲んで死ぬなら、勝手に死なせてしまえ。もしも、我が民や旅行者に危害を加えるような素ぶりを少しでも見せたら、躊躇なく矢弾や魔法を撃ち込んで皆殺しにしてしまえ」


「実は、【ゴブリン自治領】の領主一族の者達なのですが……よろしいので?」


「構わぬ。その上で、【アガルータ】の大使を呼び出し、厳重に抗議せよ。イースト大陸は、【ドラゴニーア】に宣戦布告をするのか、と問い質し、その問いに明確に答えぬ場合、または、無法な【ゴブリン自治領】及び【ザナドゥ】への対応を厳しくせぬ場合は、すぐに艦隊を【アガルータ】に差し向けると脅せ」


「畏まりました」


「所詮は脅しと、舐められるといかん。【神竜】として命ずる、現時点をもって、可及的速やかに、全艦隊を【アガルータ】に向けて出撃させよ」

 ソフィアは、神託を出して、正式に命令しました。


【ゴブリン自治領】は、イースト大陸の中央国家【アガルータ】と東の【タカマガハラ皇国】と北の【ザナドゥ】に囲まれた位置にあるそうです。


 私は、知りませんでした。

 つまり、この900年の間に出来た自治領なのでしょう。


 国ではなく、自治領。

【ゴブリン自治領】は、()()は、イースト大陸の北の国【ザナドゥ】の属国でした。

【ドラゴニーア】と、その同盟・友好国には、【ザナドゥ】との国交はありません。

 当然、その属国の【ゴブリン自治領】とは全く交流はないのです。


 突然、アポもなく押しかけて来られても、ソフィアは、もちろん、アルフォンシーナさんも会うはずがありません。

 せいぜい外務省の担当役人が応対して終わり、お茶の一杯くらいは出すでしょうが、それだけです。


 もし、ソフィアに会いたいのであれば、まず宗主国の【ザナドゥ】の皇帝を通して、【ドラゴニーア】と国交を持つ、イースト大陸の中央国家【アガルータ】を通して、【ドラゴニーア】に謁見の希望を伝えて、【ドラゴニーア】の許可を受けた上でなければ、いけません。

 この世界(ゲーム)の外交ルールとして、【ゴブリン自治領】の振る舞いは、大変失礼極まりない行為なのだそうです。


 この【ゴブリン自治領】は、とにかく、無節操で素行が悪いのだ、とか。

 周辺国に迷惑をかけ、いつも、トラブルを起こしているそうです。

 国として自立する力がないので、必ず隣接する、中央国家【アガルータ】、東の【タカマガハラ皇国】、北の【ザナドゥ】の、どこかの国の属国となるのですが、すぐ、宗主国を裏切って、他の国に寝返るのだ、とか。

 だいたい、情勢を見極めて、その時々で、最も強い国の下に叩頭くのですが、寝返ると、必ず元の宗主国を恨んで無法を働くそうです。


 何と言うか、支離滅裂な人達ですね。

 自分で服属を願って、あまつさえ自分で裏切っておきながら……逆恨みも良いところ。


 世界では、【ゴブリン自治領】とは関わらない、という外交方針が、常識となっているそうです。


「まったく、()れ者が。きっと、【ドラゴニーア】に朝貢して、庇護を受け、今度もまた【ザナドゥ】を裏切ろうという狙いじゃろうが、あ奴らに関わるとロクな事にはならんのじゃ」

 ソフィアは、プリプリと怒りながら言いました。


 ソフィアの武威の噂が、【ゴブリン自治領】に伝わって、また寝返り癖が出たのでしょう。

 そんな、コロコロ寝返るような者を、誰も信用するはずがありません。


 政治は面倒だ、という事が良くわかります。

お読み頂き、ありがとうございます。


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