表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/1238

第75話。アーティファクトの剣。

ブートキャンプ後。


名前…モルガーナ

種族…【ドラゴニュート】

性別…女性

年齢…15歳

職種…【騎士見習い(スクワイア)

魔法…【闘気】、【収納(ストレージ)】、【鑑定(アプライザル)】、【マッピング】

特性…飛行、【才能(タレント)鼓舞(インスパイア)

レベル…22

 夕方。


 私は、【ラウレンティア魔法学院】を後にして、【ドラゴニーア】の竜城に戻りました。

 学生達と、少し話し込み過ぎて、予定が押しています。

 頭の中では、【リマインダー】が煩いくらいにアラームを鳴らしていました。


 はいはい、わかりましたよ。


 上着を【ゲームマスターのローブ】に替えて、私室から出ました。

 竜城の礼拝堂に出ると、アルフォンシーナさんの秘書官さんが、やきもきした様子で待っています。


「遅くなりました。すみません」


「決勝戦は、もう終了しています。少し、お急ぎ下さいませ」

 秘書官さんが言いました。


 私は、【飛行(フライ)】で加速します。


 おっと、秘書官さんがついてこれない……。


 私は、秘書官さんを抱えて飛び、ショートカットの為に、竜城の外から回り道をしました。

 外から回り込めば、扉やエレベーターや隔壁に妨げられないので、結果、こちらからの方が早いのです。


 ・・・


 闘技場(コロッセオ)


 間に合いました。


 ちょうど今、ペネロペさんが、【神竜(ディバイン・ドラゴン)】形態に現身(げんしん)したソフィアから、優勝トロフィー代わりの【神の遺物(アーティファクト)】の武器を、渡されているところでした。

魔法剣士(マジック・セイバー)】のペネロペさんに合わせて、【ショートソード】の【クラウ・ソラス】です。


 ペネロペさんが優勝したのですね。

 それは、良かった。


 ペネロペさんは、【クラウ・ソラス】を観客にアピールするように、掲げます。


 実は、この【クラウ・ソラス】は、私の【収納(ストレージ)】に入っていた武器でした。


 今回の武道大会は、【神竜(ソフィア)】の復活を祝う記念大会。

 観客席には、世界各国から招かれた国賓や要人や有力者が数多く列席しています。

 なので賞品も相当、気合いが入った物が準備されていました。

【ドラゴニーア】の用意した賞品が、ショボい、などと言われない為、そして、【ドラゴニーア】の国力をアピールする意図もあるのでしょう。


 優勝者が誰になるかわからなかったので、複数の優勝賞品が用意されています。

 例えば、【剣士(ソードマン)】に槍を渡しても、何だかなぁ、という感じでしょうし、【槍士(ランサー)】に剣を渡しても、同様でしょう。

 なので、誰が優勝しても喜ばれるように、複数の賞品が準備されていました。

 全て、国宝級の【神の遺物(アーティファクト)】ばかり。


 しかし、当初、【剣士(ソードマン)】や【剣士(セイバー)】の為に用意されていた【神の遺物(アーティファクト)】は、魔剣【ティルフィング】でした。


 それに、ソフィアから待ったが、かかったのです。


【ティルフィング】は、強力な性能を持つ剣ですが、問題がありました。


 この剣は……持ち主の悪しき願いを三度叶える代わりに、持ち主に災いをもたらす……という伝説を持つ剣なのです。


 より厳密に言えば、【超位】までの相手に、【ティルフィング】の呪いを解放した状態で傷をつけると、その傷は瞬時に腐り、また、患部には【治癒(ヒール)】が不可能になる、というギミックでした。

 そして、この呪いの剣撃を三度使うと、持ち主は死ぬのです。


 そんな物騒な物を賞品にするとか……。

 いいえ、これは、仕方のない事なのです。


 アルフォンシーナさんを始め、竜城の人達は、そのギミックを知りませんでした。

 長年、竜城の宝物庫で、大切に保管してあったので、さぞかし素晴らしい剣に違いない、と考え、賞品に選んだのだそうです。

 NPCの【鑑定(アプライザル)】では、対象が【神の遺物(アーティファクト)】である事はわかっても、その性能や設定までは、わかりません。


 また、三度呪いの剣撃を使うと、持ち主が死ぬギミックは、ユーザーにとっては、相応の代償として受け入れられるレベルの事なのです。

 何故なら、ユーザーは、死亡しても、レベル半減・所持金半減のペナルティーを支払えば、何度でも復活可能。

【超位】の魔物で、生命を対価にしてでも、どうしても深傷(ふかで)を与えたい敵がいる場合、それは、十分使うに値する選択肢なのです。

 ダンジョンボスなどが、その代表的な例でしょう。


 ダンジョンボス級の魔物の場合、【ティルフィング】の三回の斬撃では、致命傷にはならないでしょうが、生命をかけてダンジョンボスの身体に三カ所の深傷(ふかで)を負わせ、後は、パーティ・メンバーに、その傷を攻撃させる訳です。

【超位】の魔物、特にダンジョンボス級ともなると、自然治癒能力や、自然回復能力も、桁違いに高い為、ただの斬撃では、腕や脚や尻尾を斬り飛ばしても、戦闘中にみるみる回復してしまうでしょう。

 そういう、強敵に【ティルフィング】の呪いの斬撃は、極めて効果がありました。


 因みに、【神格者】や【神位】の魔物には、【ティルフィング】の呪いは無効となります。


 閑話休題。

【ティルフィング】の呪いのギミックに最初に気が付いたのは、ソフィアでした。

 チュートリアルを経験したソフィアの【鑑定(アプライザル)】は、ユーザー仕様に変わっており、【ティルフィング】のギミックを正確に解読出来た訳です。

 それがわかったのは、数日前の事。

 急遽の事で、【ティルフィング】に変わる【神の遺物(アーティファクト)】の剣が準備出来ず、アルフォンシーナさん達が困っている様子だったので、私が【クラウ・ソラス】と交換という形で、【ティルフィング】を引き取ったのです。


 優勝したペネロペさんだけでなく、ベスト8以上の選手にも【神の遺物(アーティファクト)】の武器やアイテムが授与されていました。

 大奮発です。


 まあ、【神竜(ソフィア)】復活の記念大会は、歴史上、最初で最後でしょうから、このくらい賑々しくやっても良いのでしょうね。


 ・・・


 表彰式は、終了。


 さてと、いよいよ剣聖との模範試合です。


 当代随一の剣の達人と、(いにしえ)に数々の伝説を持つ【調停者】が戦うという事で、観客のボルテージは、最高潮。


調停者(ゲームマスター)】の伝説とやらは、全て私一人が行った事、という訳ではありません。

 ゲームマスター(GM)は、たくさんいますので。

 しかし、派手なやつ、は、ほとんど私のした事らしいですね。

 ハッキングソフトを使って、不正に蓄財していたユーザー・サークルの根城だった要塞を、【最後(ラスト・)の審判(ジャッジメント)】で更地に戻したり……不正ツールで構築された、ユーザーの兵器プラントを【最後(ラスト・)の審判(ジャッジメント)】で灰塵に帰したり……禁止されている核爆弾を製造していたユーザー・サークルを核爆弾ごと、【対消滅(アナイアレイション)】で消滅させたり……。


 私の他のゲームマスターは、対人レベルでは、無敵の強者でしたが、広域火力はさほどでもありませんでした。

 対する、私は、戦略殺戮兵器レベルの火力がありました。

 私は、ゲーム会社が指定した、公式ゲームマスター。

 理不尽なチートを持たされていましたのでね。


 ただし、このような【調停者】の伝説は、半ば、尾ひれが付いて誇張された物なのではないか、と訝しむ声もあるようです。

 先日、私の魔法を実際に生で見た人達は、私が絶対的強者である事を知っていました。

 しかし、魔法を封印された、剣術試合ならば、やはり剣聖が上だろう、という評価が大勢を占めるようです。


 私と剣聖は、色とりどりの照明や、爆発などの派手な演出で迎えられ、闘技場(コロッセオ)の真ん中に、お互い歩み寄りました。


 まずは、握手。


「クイン伯。魔法禁止という事ですが、能力(スキル)は、どうしますか?私は、スキルを使えば、光速より速く機動出来るのですが?」


「何?聞いてないぞ」

 剣聖は、目を剥きます。


「聞かれませんでしたので、言っていません」


「くっ……なら、スキルも禁止にしてもらっても良いだろうか?」

 剣聖は、遠慮がちに言いました。


「わかりました。では、魔法とスキルは、使いません。武器も、私が持つ最強の武器を使うと、全ての物を両断してしまいますので、私の剣撃を、クイン伯は剣で受け止められません。これも使いません。よろしいですか?」


「す、すまんな……」

 剣聖は、苦笑して言います。


 私は、帯剣していた【神剣】を【収納(ストレージ)】にしまい、代わりに【アルタ・キアラ】を取り出しました。

 剣聖は、【アロンダイト】を抜きます。


【アルタ・キアラ】vs【アロンダイト】。


【アルタ・キアラ】と【アロンダイト】は、外見上も性能も良く似た剣でした。

 カタログスペックでは【アロンダイト】がやや優位。

 しかし、【アルタ・キアラ】には、魔力を流すと、その魔力量に応じて性能が向上する、というギミックがあります。


 実は、【アルタ・キアラ】と【アロンダイト】は、兄弟剣とも呼ばれる4本の【神の遺物(アーティファクト)】剣のシリーズでした。

 その4本の内、【アルタ・キアラ】と【アロンダイト】の2本が、数多(あまた)ある剣の中で、最強はどちらか、と云われている2振りなのです。


「【調停者】ノヒト・ナカ様と、剣聖クインシー・クイン伯爵の模範試合を開始致します。準備はよろしいですか?では……始めて下さい」

 大神官のアルフォンシーナさんが、開始の合図をしました。


 剣聖が、間合いを詰めて来ます。

 右手上方からの袈裟斬りの一閃。

 ヘッドスピードは、超音速。

 ありったけの魔力を込めた、剣聖、渾身の一撃です。


 ほう、NPCにしては中々やりますね。


 私は、【アルタ・キアラ】で受け止めました。


 2振りの剣が交差し、魔力が弾けます。


 続けて、剣聖は、左下方からの斬り上げ。

 私は迅歩で躱しました。

 剣聖の剣撃が旋風を巻いて、観客席を保護する【不滅の結界(バリア)】にぶつかり、凄まじい轟音をあげています。


 続けて、剣聖の右側方からの水平斬り。


 私も剣聖の水平斬りに合わせて【アルタ・キアラ】を振り抜きます。


 ガキーーンッ!

 スパーーッ!


「なんだと?」

 剣聖は、意味がわからない、という表情を浮かべながら、呟きました。


 ボトリッ。


 剣聖の首が、地面に落ちました。

 剣聖の身体が掻き消えて、闘技場(コロッセオ)の復活ゾーンから、出現します。


 観客は、水を打ったように静まり返っていました。


「勝者、【調停者】ノヒト・ナカ様!」

 アルフォンシーナさんが告げます。


 すると、張り詰めていた緊張感が解けたのか、観客が一斉に歓声を上げました。


 私は、【神竜(ディバイン・ドラゴン)】形態のソフィアが鎮座する、高台の御座に向かって一礼して、退場します。


 私の最後の一閃は、剣聖の水平斬りを、剣撃で打ち返し、返す剣で剣聖の首を斬り飛ばしただけの、何の変哲も外連味(けれんみ)もない、単なる二段斬り。

 剣術の基礎のような、技とも呼べないような、動作でした。


 しかし、ごく普通の剣の扱い方である為、余計に、力の差が際立ったと思います。

 観客にどのくらい伝わったのかは、わかりません。

 速すぎて、目で追えなかった人達が、ほとんどでしょうからね。


 しかし、対峙していた剣聖には、十分に理解出来たはず。

 私は、偶然でもマグレでもなく、剣聖を剣術で圧倒したのです。


 ・・・


 ペネロペさん達、月虹(ムーンボー)のみなさんが、私達がいる控え室にやって来ました。

 私が、スマホで連絡しての合流です。


 ペネロペさんに、【クラウ・ソラス】の扱い方を教える為でした。


「ペネロペさん、【クラウ・ソラス】に魔力を流して下さい」


「お、わかった」

 ペネロペさんが、【クラウ・ソラス】に魔力を流すと、剣身が(ほの)かに発光します。


「もう少しですね」


「こうか……お、軽くなった」

 ペネロペさんが言いました。


「はい。手を離してみて下さい。他の皆さんは、少し、離れて」


 ペネロペさんが手を離すと、【クラウ・ソラス】は、空中に浮かびました。


「凄い、何か、この剣の意思を感じるみたいだ」

 ペネロペさんが驚嘆します。


「はい、ペネロペさんと【クラウ・ソラス】は、パスが繋がった状態です。ペネロペさん、頭の中で【クラウ・ソラス】に、守れ、と命じてみて下さい」


「わかった……」


 すると、【クラウ・ソラス】が分裂し、9本の【クラウ・ソラス】が、ペネロペさんの周りを高速周回し始めました。


 私が、【短刀】をペネロペさんに向けて投げます。


 キーーンッ!


 ペネロペさんの周囲を回る【クラウ・ソラス】が【短刀】を弾き飛ばします。


「【中位】までの攻撃なら、【クラウ・ソラス】が自動的に迎撃します。魔法も防ぎますよ。【高位】以上となると、ペネロペさんの魔力次第ですが、【神の遺物(アーティファクト)の鎧】より、【クラウ・ソラス】の方が防御力は高いです」


「凄い……」

 ペネロペさんは言いました。


「この部屋の壁は、【不滅の大理石】ですね。よし、では、この壁に向かって、【クラウ・ソラス】を飛ばして、攻撃してみて下さい。跳弾が怖いので、他の皆さんは、私が【防御(プロテクション)】を張っておきました。ペネロペさん、どうぞ」

 私は、部屋の壁に魔法で円形の的を描きます。


「よし。【クラウ・ソラス】、行けーーっ!」

 ペネロペさんは、目標に指定した、壁の的に向かって指を指しながら言いました。


 別に、言葉にしなくても、【クラウ・ソラス】を操る事は出来るのですが、こういうのは、雰囲気ですからね。

 まあ、良いんじゃないでしょうか……。


 ガキ、ガキ、ガキ、ガキ、ガキ、ガキーーンッ!


 壁に浮かび上がった的に、【クラウ・ソラス】が次々に命中し、【不滅の大理石】なので、跳ね返されて、ペネロペさんの周りに戻りました。


「あっはっはっはーーっ!圧倒的ではないか、我が攻撃はーー……」

 ペネロペさんは、高笑いします。


「攻撃力は……今のペネロペさんの能力から推定すると、分身剣では、【中位】の魔物を【防御(プロテクション)】ごと貫きます。急所に当たれば、一撃で殺せますよ。【高位】以上は、分身剣では難しいかもしれませんが、遠距離から数を打てば、【防御(プロテクション)】をジワジワ削れるでしょう。手持ちで、魔力を流しながら突けば、【高位】の魔物の【防御(プロテクション)】を貫通出来るか、どうか、というところでしょうかね。どうですか、中々、使える武器でしょう?」


「ノヒト様、凄い武器だよ。ありがとう……」

 ペネロペさんが、【クラウ・ソラス】を高速周回させたまま、私に近づいて来ました。


 ちょっ、危なっ!


「ペネロペっ!危ないっ!」

 月虹(ムーンボー)のサブ・リーダーであるルフィナさんが、声を上げました。


「おっと、ごめん」

 ペネロペさんは、飛び退いて、私から離れます。


 まあ、私は、当たり判定なし・ダメージ不透過ですから、怪我をする事はありませんが……。


「頭の中で命じれば、【クラウ・ソラス】の周回を止める事も出来ますよ」


「どれどれ……お、止まった」


【クラウ・ソラス】は、切っ先を下に向けた状態で、ペネロペさんの背後やや上方で、横一列に並び静止しました。


「基本的に、パスが繋がった状態なら、思い通りに動きます。パスが繋がる距離は、数百mですが、使用者の魔力により、最大1kmまで飛ばせます。有効射程も、魔力次第で、最大1km。ただし、距離が離れると、攻撃力がやや減衰しますので、その点は注意して下さい」


「わかった」

 ペネロペさんは、頷きました。


英雄(ユーザー)の【クラウ・ソラス】運用法は、【クラウ・ソラス】に防御を担わせて、使用者は、別の手持ち武器で敵に切り込むか、あるいは、パーティの陣形の真ん中に使用者が立って、【クラウ・ソラス】でパーティ全体を防衛するか、遠隔攻撃に使用するか、という感じでしたね。後は、ペネロペさんが使用しながら、工夫してみて下さい。戻れ、と命じれば、手元に戻ります」


「わかった。戻れ……」


【クラウ・ソラス】は、再び、1本に合一し、ペネロペさんの手に収まりました。


 私の収蔵していた武器が渡る相手が、ペネロペさんなら、何か犯罪に利用されたりだとかいう可能性は低いでしょうから、安心です。

お読み頂き、ありがとうございます。


ご感想、ご評価、レビュー、ブックマークを、お願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ