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第71話。マジック・フォーミュラ(魔法公式)。

ブートキャンプ後。


名前…グロリア

種族…【狼人(ライカンスロープ)

性別…女性

年齢…16歳

職種…【武道(マーシャル・)(アーティスト)

魔法…【闘気】、【収納(ストレージ)】、【鑑定(アプライザル)】、【マッピング】、【回復(リカバリー)治癒(ヒール)

特性…獣化、【才能(タレント)回復(リカバリー)治癒(ヒール)魔法】

レベル…22

 食後。


 弟子達は、各自の部屋に戻りました。

 私は、【自動人形(オートマタ)】・オーセンティック・エディションに指示して、ソフィアを入浴させます。

 お風呂から上がったソフィアは、腰に手を当てて瓶入り牛乳を一気飲み。


「ぷは〜っ!この一本の為に働いているのじゃ」

 ソフィアは、言いました。


 風呂上がりにビールを飲む親父か?


 そもそも、ソフィアって働いているのでしょうか?


 確かにソフィアは公務をこなしていますし、【ドラゴニーア】の全域に【神竜(ソフィア)】の【神位結界(バリア)】が常時張られています。

 そういう意味でソフィアは、この上なく働いていますが……。

 まあ、如何(どう)でも良い話です。


 ソフィアは、【自動人形(オートマタ)】に抱えられてベッドに上がり布団に潜り込みました。

 直ぐに寝息が聞こえて来ます。


 さてと、内職をしましょうか。

【マリオネッタ工房】は新工場用を開設する運びになりましたので、私は【プロトコル】を追加で造らなくてはいけません。

 今日は、本気で【工学魔法】を使います。


 すると、部屋をノックする音がしました。


 扉の外には、ロルフとリスベットの光点(マーカー)反応があります。

 2人は、私が今晩【プロトコル】をプログラムすると聞いて……見学したい……と言うので、許可しました。


「ソフィアは、もう寝ているので静かにしてあげて下さい」

 私は、扉を開け小声で伝えました。


 ロルフとリスベットは、黙って頷きます。


【プロトコル】は既に同じモノをプログラムした経験があるので今回は試行錯誤する必要はありません。

 私は、市販最高品質の【魔法石】に【積層型魔方陣】を一気に構築してしまいました。

 1つ1つやっていたら朝が来てしまうので、120個同時コピーです。


 ロルフとリスベットは、気絶しそうなくらいに驚いていましたが、ソフィアを起こさないように必死に口を押さえていました。


 完了。

 私が本気を出せば、【超位魔法】を瞬時に120回行使する事など造作もありません。


如何(どう)やったら、こんな凄まじい魔法制御が出来るのですか?」

 リスベットが訊ねました。


「訓練あるのみです」


「一体どんな訓練をしたら良いのでしょうか?想像も出来ません」

 リスベットは、言います。


「そもそも、僕達は、まだ【魔法(マジック・)公式(フォーミュラ)】を組めないしね」

 ロルフが言いました。


「では、私なりの【魔法(マジック・)公式(フォーミュラ)】の組み方の()()を教えましょう。私のやり方は、現在の魔法学の常識から言えば少し特殊に思えるかもしれませんが、これが最も効率が良い方法だと思います」

 私は、【収納(ストレージ)】から透明な強化石英のコップを取り出します。


 コップとしては大きめで、取っ手のないジョッキのような形でした。


 私は、コップの中に魔法で水を注ぎます。

 そして、水の中に小さな氷を作ります。

 その氷で文字や記号を書いたり、立体を作りました。

 それを、どんどん小さく精密に行えるように……。


「2人もやってみて下さい」

 私は、2人を促します。


 15分ほど悪戦苦闘して、ロルフとリスベットは、不恰好な氷のアルファベットをコップの水の中に1つ作りました。


「私の物と比較してみて下さい」


「全然ダメです。ノヒト先生のアルファベットは印刷されたみたいに綺麗だもの……」

 ロルフが言います。


「ロルフ。ちょっと、よく見て……」

 リスベットが言いました。


 リスベットは、如何(どう)やら気が付いたようですね。


 私がコップの中に描いたアルファベットは、良く見るとアルファベットの表面にもビッシリとアルファベットが刻んであり、そのアルファベットの表面にもアルファベットが……。


如何(どう)やったら、こんな事が?」

 リスベットは、呟きました。


「訓練です」


「はあ〜……。最近僕は魔法の上達が速くて……天才かもしれない……なんて勘違いしていたけど、ノヒト先生の技を見ると、僕なんか全くお話にならないんだって思います。もっと、練習を頑張らなくちゃ」

 ロルフが嘆息します。


「次は、【魔法(マジック・)公式(フォーミュラ)】を書いてみましょう」


魔法(マジック・)公式(フォーミュラ)】とは、魔法で発生させる物理現象を方程式で表した物。

 この世界(ゲーム)では、それが即ち【ルーン】のような魔法文字として働く設定なのです。


 私が用意した【魔法(マジック・)公式(フォーミュラ)】は……水の分子を振動させ、加熱する……という物。


 ロルフとリスベットは、見様見真似でコップの中に氷の数式を作り出しました。


「では、その【魔法(マジック・)公式(フォーミュラ)】に魔力を帯びさせて下さい」

 私は、促します。


 ロルフとリスベットが言われた通りにすると……。


「熱い……」

 リスベットは、成功します。


 リスベットの書いた【魔法(マジック・)公式(フォーミュラ)】は、コップの水がお湯になって溶けて消えてしまいました。


「僕は、ダメだ……」

 ロルフは、落胆します。


「ロルフ。ここの式を間違えているわ」

 リスベットがロルフの間違いを指摘しました。


 ロルフが方程式を訂正して再挑戦すると……。


「熱い!やった、出来た!」

 ロルフは、思わず大きな声を出しました。


「しーーっ!」

 リスベットが口に人差し指を当てます。


 ソフィアは、布団の中でモゾモゾと動きましたが眠ったままでした。


「次は、実際に【魔法石】でやってみましょう」

 私は、【収納(ストレージ)】から【魔法石】を取り出して、ロルフとリスベットに手渡します。


 手持ちに捨てても良いような(クズ)の【魔法石】がないので、【竜都】の魔道具屋街で大人買いしておいた市販最高品質【魔法石】の1ランク下の【魔法石】を用意しました。

 これだけで1個10金貨(100万円相当)。


 まあ、良いでしょう。


 私は、まず見本として魔力を流すと光を発するだけの【魔法(マジック・)公式(フォーミュラ)】を刻んで見せました。

 これは、成功していれば【魔法石】が光るので、わかりやすいのです。


 100万円のランプですね。


 2人は、何度か失敗しながら、やがて正しい【魔法(マジック・)公式(フォーミュラ)】を刻んで【魔法石】を光らせました。

 失敗しても、私なら【魔法石】の状態を何度でも元に戻せるので無駄にはなりません。


「このように物理法則を方程式で表す事が、全ての魔法の原理です。詠唱魔法は、(あらかじ)め【創造主(クリエイター)】が【魔法(マジック・)公式(フォーミュラ)】を組んで登録してある魔法を、詠唱者が適切な魔力制御と適切な魔法詠唱によって発動させる訳です。つまり、【スマホ】の短縮ボタンのような物です。何桁もある【スマホ】のアドレスを事前に登録しておいて、短縮ボタン1つで呼び出す機能と同じと考えて差し支えありません」


「つまり、【魔法(マジック・)公式(フォーミュラ)】が基本で、詠唱はその省略形なのですね?」

 リスベットが訊ねました。


「そういう事です」


「私は、詠唱が先ずあり、【魔法(マジック・)公式(フォーミュラ)】は、その応用だと教わりました。つまり、解釈としては正反対なのですね?」

 リスベットは、重ねて訊ねます。


「その通りです。詠唱魔法の方が簡単ですから、感覚的に、そのように誤解してしまうのでしょうね。しかし、簡単なのは、【創造主(クリエイター)】が難解で複雑な【魔法(マジック・)公式(フォーミュラ)】を組む作業を、私達に代わって(あらかじ)めやってくれているからなのです。あくまでも、基本は【魔法(マジック・)公式(フォーミュラ)】です。そして、その大元には……物理学……がある訳です」


「ノヒト先生が以前に教えてくれた、【調合(プレパレーション)】は、如何(どう)してそうなるかわからないけれど、詠唱者の求めるような調合結果が得られる。【理力魔法(サイコキネシス)】で物質を調合する場合は、理論に基づいて自分で物質を操作して行う。これと同じ意味なのですね?」

 リスベットは、質問しました。


「その通りです」


「こういう根本的な事を理解していないから、英雄大消失以降魔法が衰退してしまったのでしょうか?」

 リスベットが訊ねます。


 リスベットは、理論派ですね。

 ロルフは、実践派……理論の話には、余り興味がないような様子でした。


 理学と工学、あるいは研究職と生産職の違いでしょうか?


 どちらが良いとは一概には言えませんが、理論を理解していた方がトライ・アンド・エラーは少なくて済みます。


「【魔法ギルド】の統計データによると、英雄が消失した900年前に比べて、詠唱魔法を使う【魔法使い(マジック・キャスター)】の登録人数は半減という程度ですが、【魔法(マジック・)公式(フォーミュラ)】を駆使出来る【魔法使い(マジック・キャスター)】は、10万分の1にまで減少しているそうです。リスベットの推測同様、私も魔法が衰退してしまった理由は、ユーザーか消失した後の魔法学が知識の追求と技術の錬磨のベクトルを間違っているからだと考えています」


「「なるほど」」

 ロルフとリスベットが頷きました。


 ・・・


 ロルフとリスベットが……【自動人形(オートマタ)】の製作を手伝いたい……と言うので、私は部材を全て用意した状態で最終組み立て作業を2人にやらせました。

 まあ、プラモデルみたいなモノですので、難しい事はありません。


 ロルフとリスベットに組み立てさせる【自動人形(オートマタ)】は、イアンのアイデアで生産が決まった【エルフ】と【ドワーフ】型の【自動人形(オートマタ)】・オーセンティック・エディションのプロトタイプです。


 リスベットが【理力魔法(サイコキネシス)】で部材を組み立て、ロルフが【加工(プロセッシング)】で接合。

 どんどん組み上がって行きます。


 2人の作業を眺めていると、ふとリスベットに【低位攻撃魔法】のステータスが生えている事に気が付きました。

 リスベットは、研究職を志望しています。

 彼女に攻撃魔法を教えるべきでしょうか?

 悩ましいところですね……。


「出来た……」

 リスベットが言いました。


「肩関節がちょっと変な風になっちゃった」

 ロルフは、出来栄えに不満な様子。


「多少接合部が盛り上がりましたが、性能上は問題ありません。折角2人が組み立てた初号機ですから、記念として、そのままにしておきましょう」


 私は、ロルフとリスベットに、もう1体の【自動人形(オートマタ)】・オーセンティック・エディションを組み立てさせました。


「出来たね」

 リスベットが言います。


「今度のは、膝が……」

 ロルフは、またも不満足。


 ロルフは、完璧主義なのですね。

 今回も機能的には全く問題ありません。

 度を越した完璧主義は、夢想家と批判されるべきですが、生産職は多少クオリティの追求に拘りがあるくらいの方が良いでしょう。


「その2体の【自動人形(オートマタ)】・オーセンティック・エディションは、2人にあげます。約束している【自動人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディションを中々造ってあげられなくてすみません」


 現在【超位魔法石】のストックが切れているので、【自動人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディション用の【コア】がありません。


「やった」

 ロルフは、無邪気に喜びました。


「良いのですか?」

 リスベットは、言います。


「もちろんです。さあ、起動させますよ」


 私は、2体を起動させて、マスター権限をロルフとリスベットに移譲しました。


【エルフ】型と【ドワーフ】型。

 ロルフとリスベットは、どちらを選ぶかと相談していましたが、結局自分の種族と同じ外見の【自動人形(オートマタ)】・オーセンティック・エディションを選んだようです。


「ノヒト先生。【自動人形(オートマタ)】・オーセンティック・エディションは、【自動人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディションと比べて、どの程度なのですか?」


「全く別次元です。【自動人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディションは【高位】の魔物と渡り合えるスペックがあります。一方で【自動人形(オートマタ)】・オーセンティック・エディションは、フル・パワーなら瞬間的に【オーガ】並の【膂力(パワー)】を出せますが、あくまでも緊急時のプログラムで、フル・パワーで継続稼働させると【自動修復(オート・リペア)】の限界を超えて壊れます」


「それでも、【オーガ】並か……。サイラスは、僕の100kgのミスリル鋼材で筋トレしていました。【闘気】(魔力)を全く身体に(まと)わずにです。つまり、【自動人形(オートマタ)】・オーセンティック・エディションでも、サイラス並の【膂力(パワー)】があるのですね?」

 ロルフが言いました。


「今のサイラスは【チュートリアル】と新兵訓練(ブートキャンプ)を経て、平均的な大人の【オーガ】の2倍以上の【膂力(パワー)】になっていますよ。この【自動人形(オートマタ)】は、平均的な成人【オーガ】並という事です。なので、基本的には戦闘支援や戦闘訓練の相手には、しないようにして下さいね」


「「わかりました」」


「ところで、リスベット。あなたに【攻撃魔法】のステータスが発現しました。知識を覚えれば【攻撃魔法】を行使出来るようになりますが、如何(どう)しますか?」


「【攻撃魔法】ですか?どの系統でしょうか?」


 ああ、そういう認識なのですね。

 これも誤った現代魔法学による弊害でしょうか?


 魔法は、本来系統に囚われず習得が可能なのです。

 もちろん、系統ごとに別々の【熟練値】が設定されているので、使用頻度が高い魔法系統は使った分だけ熟達して行きます。

 しかし、だからと言って……特定の魔法系統だけに適性があり、別の魔法系統には適性がない……などという事は基本的にありません。


 種族や【職種(ジョブ)】によって特定の魔法系統に【上方補正(ビーフ・アップ)】や【下方補正(ナーフ)】が掛かる場合はありますが、【魔法使い(マジック・キャスター)】は、あらゆる魔法を習得出来るのです。


「リスベットは、地水火風の【四大元素魔法】を全てと、雷は火の系統ですから、当然雷も覚えられます。それから、光も闇もですし、【回復(リカバリー)治癒(ヒール)】もです。努力次第で、あらゆる魔法を覚えられますよ」


「そんなに沢山ですか?ノヒト先生、もしかして……魔法適性者が生まれ付き得意な系統を持っていて、逆に使えない系統の魔法がある……という常識も誤った魔法学の教えなのですか?」

 リスベットは、訊ねました。


「その通りです」


「え?なら、僕も生産系の魔法以外も覚えられるのですか?【攻撃魔法】とか【防御魔法】とか【治癒(ヒール)】とか?」

 ロルフが質問します。


「可能です。ロルフは、生産系の魔法しか使えないのではなく、生産系の魔法が得意な【才能(タレント)】を持っているのです。つまり、その他の魔法系統も習得出来ます。その証拠に2人は、【理力魔法(サイコキネシス)】を使い熟しているではありませんか?」


「「確かに……」」


「ロルフもいずれ色々な魔法が覚えられるようになります。つまり、全ての魔法の種子は、魔法詠唱者の中に生まれ付き備わっているのです。しかし、現状ロルフは、その芽が出ていない状態。リスベットは、【攻撃魔法】の種子が芽吹いたばかりの状態なのです」


「ノヒト先生。私は、【攻撃魔法】を学びたいです」

 リスベットが決心したように言いました。


「わかりました。では、明日から少しずつ教えましょう」


 ロルフとリスベットは、自分達で組み立てた【自動人形(オートマタ)】・オーセンティック・エディションと一緒に自室へ戻りました。

お読み頂き、ありがとうございます。


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