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第70話。【ソフィア財団】。

セントラル大陸の詳細…その2


東の国【グリフォニーア】

首都【グリフォニーア】

技術立国。


西の国【リーシア大公国】

大公都【モンティチェーロ】

農業・畜産国。セントラル大陸唯一の立憲君主制国家。


南の国【パダーナ】

首都【ナープレ】

穀倉地帯。海運交易。


北の国【スヴェティア】

魔法都市【エピカント】

魔法学・魔法工学。


セントラル大陸の遺跡ダンジョン

北東…ダンジョン・ボス【グローツラング】

北西…ダンジョン・ボス【ウロボロス】

南東…ダンジョン・ボス【テュポーン】

南西…ダンジョン・ボス【ティアマト】

【ホテル・ラウレンティア】。


 私達は、ルーム・サービスで夕食を食べています。

 割高になりますし給仕もしてもらえませんが、何だかレストランよりルームサービスの方が堅苦しくないので気楽なのですよね。

 ウルフィを置いて行かなくても良いので、そういう意味でも気兼ねがありません。


 ウルフィは、テーブルの下に潜ってジェシカの足に(じゃ)れ付いていました。

 ウルフィは、ジェシカが命じているのでホテルの調度に噛り付いて傷付けたり、粗相をして部屋を汚したりはしません。

 生後間もないのに、トイレも直ぐに覚えたウルフィは、【ガルム】としても、かなり賢い個体です。


 ウルフィは、パスが繋がっている主人のジェシカはもちろん、ウルフィを特に可愛がっているグロリアとハリエット……それから、もはやウルフィ専属飼育員と化した2体の【自動人形(オートマタ)】・オーセンティック・エディションの言葉も完全に理解しているようでした。


調伏(テイム)】した際に、私が目一杯魔力を譲渡した所為(せい)で、ステータスの上昇率が高いのかもしれません。

 ステータスには、当然知性も含まれます。

 如何(どう)やら、その可能性が高いような気がしますね。


「今日で一応【静かの森】での訓練は終わりです。明日は、午前中【ラウレンティア】の【闘技場(コロッセオ)】で軽く訓練をしてから【竜都】に帰還します。明日の午後には、【宿屋パデッラ】の部屋が空きますので、各自引っ越しなどをして下さい。ついでに孤児院の仲間の荷物を運んであげたりすれば良いでしょう」

 私は、言いました。


【ファミリアーレ】は、内部【収納(ストレージ)】に加えて【宝物庫(トレジャー・ハウス)】も持っているので、引っ越しの手伝いに役に立つ筈です。


「孤児院の卒業生は荷物がありません。精々が事前に各自が自己負担で買い揃えていた着替えが一揃えとか、個人用の生活用品とか、鞄1つ分程度です。孤児院の予算で買った物は、原則何も持ち出せません」

 グロリアが言いました。


「アタシは、歯ブラシ1本だけ持ち出せたよ。使用済みの歯ブラシは、さすがに他の子におさがりで使わせられないからって……」

 ハリエットが言います。


 え?

 そうなのですか?

 卒院祝いとか餞別とか、そういう考えはないのでしょうか?


 話を聞くと、孤児院の卒院者や退所者は、使い古しの衣類はもちろん、使用済みの生活用品や、書き込んであるノートに至るまで、そっくりそのまま孤児院に置いていかなくてはならないのだとか。

 もしも、ノートの内容が必要なら、ノートの分のお金を払って買い取るか、自腹で買った別のノートに改めて書き写すのだそうです。


「数年間の研修期間中にもらった賃金を貯めておいて、当座の生活費を全て自分で賄うんです。孤児院の備品類・消耗品類は、全て税金で買っているので基本的に院に置いて行く決まりなのです」

 リスベットが言いました。


 なるほど……。

 しかし、そのルールは厳し過ぎやしませんかね?


「ノヒト先生が宿泊先の費用を一年分払って下さっているので、私達は恵まれています。1年間は食費も水道光熱費も無料ですしね」

 ティベリオが言います。


「退所したら大体は、先に独立した先輩の住居に居候させてもらったりとかして、最初の1年くらいは自活するのが本当に大変だって聞くもんね。僕達は、恵まれているよね」

 ロルフが言いました。


 これが孤児院の現実ですか……。


「住居の確保は1年間だけではありませんよ。【宿屋パデッラ】は、孤児院を卒業したばかりの子達を1年間看護する……言わば、3食賄い付きの下宿という位置付けです。【宿屋パデッラ】のオーナーご夫妻と相談して、来期以降は宿屋丸ごと【マリオネッタ工房】の専用社員寮とするつもりです。1年間【宿屋パデッラ】に住んで、2年目は新しい孤児院卒院生に【宿屋パデッラ】の部屋を明け渡しますが、2年目以降の従業員の為には、別途社員寮を確保します。中心街にあるホテルを買収しました。ホテルは来年の3月まで営業を続けながら【マリオネッタ工房】の社員も宿泊させますが、住宅用に改装して9月以降は全施設を【マリオネッタ工房】の社員寮とします。食費・光熱費の類は自己負担ですが、家賃は1月1銀貨と格安ですよ」

 私は、言いました。


 ファミリアーレは、驚いています。


 いやいや、現状でも【マリオネッタ工房】は、そのくらい余裕で稼いでいますからね。


【マリオネッタ工房】は、【スマホ】の予約販売で既に軍や公官庁やギルドや大企業から大量の注文が引きも切らずにあります。

 私は……予約販売……というアイデアを思い付きませんでした。

 ハロルド達経営陣は有能です。

 資金的余裕が出来たので【マリオネッタ工房】で働く従業員の住む場所を継続的に確保する事が出来ました。


 当然ながら予約販売の収益は、私の個人収入ではありません。

 既に【マリオネッタ工房】の法人口座はイヴェットが管理していますし、外部の会計監査員も付いていますので、オーナーの私でも会社の資産を好きには出来ないのです。

 ともかく、スマホの予約販売によって【マリオネッタ工房】は、資本が潤沢になっていました。


 ハロルドとイヴェットとイアンの3人は、既に【スマホ】専用工場の物件を【竜都】の工場地帯に確保して製造ラインを建て込み中。


 仕事が速くて頼もしいですね。


【スマホ】生産は、部材製造工程が(ほとん)どないので、工作機械の類は簡素な物で済みます。

 もしかしたら、第1工場よりも早く操業が開始出来るかもしれません。

 その【スマホ】工場では、日産で1千台の球体【スマホ】を生産するのだとか。


【ドラゴニーア】政府からは、材料の【魔法石】を先方に用意してもらう代わりに1台100金貨(1千万円相当)で製造を受注しています。

 私が設定した民間用の販売価格は、1台1千金貨(1億円相当)。


 わかりやすくする為に、取り敢えず【ドラゴニーア】政府からの受注方式を無視して、全て1台1千金貨(1億円相当)で売ると仮定して単純計算をするなら……。

 日商は、100万金貨(1千億円相当)。

 年商は、3億6500万金貨(36兆5000億円相当)。

 原価は、大体50%ですので……。

 年間の粗利は、何と1億8250万金貨(18兆2500億円相当)になる訳です。


 900年前には、ありふれていた既存技術の焼き直しで、年間に18兆円も利益を出すなんて、さすがにボリ過ぎですよね……。


 ビビった私は、経営陣に……値下げすべきか?……と意見を聞きましたが、彼らの答えは……イケイケ、ドンドン……でした。


「完全受注生産で、この価格で納得して買ってくれているのですから売るべきです。私達が想定したより、潜在需要が巨大だったという事でしょう」

 ハロルドの意見。


「【竜城】、【銀行ギルド】、【冒険者ギルド】などからの大量注文があった事は、他のギルドや企業に情報が流れています。特に信用が高い政府や主要ギルドから注文を受けている事で、私達の企業としての信用の裏書きとなりました」

 イヴェットの意見。


「製品の信用もありますよ。良く分からない謎の新技術ではなく、【神話の時代(ミソロジカル・エイジ)】に普及していた既知の技術だった事が大きいのでしょう。それに独占技術ですから価格競争はありません。顧客は言い値で買うと言って来ていますよ」

 イアンの意見。


「買うと言うならドンドン売ってやれば良いのじゃ」

 ソフィアの意見。


 私の方針として【マリオネッタ工房】の本業は、あくまでも【自動人形(オートマタ)】製造と考えていました。

 この技術は、おそらく数百年単位で競合他社には再現不可能だと思われます。

 なので、この事業を孤児院出身者支援の中核に据えていました。


 対してスマホは、おそらく製造自体は数十年の内に再現が可能だと思われます。

 製造ラインで大量生産するには、私が造った製造ライン制御の【プロトコル】が必要ですので、数百年は【マリオネッタ工房】のシェアは揺るがないでしょうが……。

 なので、粗悪な模倣品が市場に出回って来る前に売れるだけ売ってしまおうという訳でした。


 また、通信インフラは不滅の【初期構造オブジェクト】として、既存の物が世界中に張り巡らされています。

 つまり、【マリオネッタ工房】は、インフラへの投資をする必要が全くありません。

 生産すればしただけ、幾らでも売れる素地があるのだから売らなければ損……という考えが、私を除いた経営陣の共通認識でした。


 わかりました。


 取り敢えず、通話、メール、チャット通話、チャットメールが行えるフルスペック版は、現行価格で販売を継続する事にしましょう。

 軍用については、これが今後も標準スペックとなります。

 軍は、司令官と複数の現場指揮官が、チャット機能で、同時に繋がれる機能が重要なのだとか。


 民間用には、現行フルスペック版とは別に、【魔法石】の品質を下げ、1対1の通話限定の廉価版として、1台500金貨(5千万円相当)の商品を新たに販売する事にしました。

 現在は、この廉価版の専用工場を【ドラゴニーア】の北方都市【ルガーニ】で確保。

【竜都】は不動産価格が高い為、廉価版は利幅が小さくなるからだそうです。


 更に、第2【自動人形(オートマタ)】工場も物件の購入契約が最終段階に入っていました。

 第2工場は、【自動人形(オートマタ)】・レプリカ・エディションの専用製造工場です。

 どうやら、【ラウレンティア】で大規模な工場を居抜きで買い取る予定なのだとか。


【ラウレンティア】は、精密機器や楽器製造などが盛んです。

 そういった関係の工場でしょうか?

 居抜きで稼働中の工場が手に入る為、こちらは買取契約が完了後1週間程で操業が開始出来るとの事。

 こちらも利幅が薄くなる事を嫌って、不動産価格が高い【竜都】を避けたのだそうです。


 ビジネス方面は、ビジネス・エリートのハロルド、イヴェット、イアンに任せておけば良いでしょう。

 如何(どう)やら【マリオネッタ工房】は、良い意味で私の手を離れましたね。

 もちろん、製造ラインの基幹装置として私が【プロトコル】を製造しなければいけませんが、現状私でなければ出来ない仕事はそれだけです。


 順風満帆ですね。


 ・・・


 実は、私の手を離れた事がもう1つあります。

 孤児院出身者の支援そのものです。


 私は、【マリオネッタ工房】の法人とは別に、ソフィアを代表にして、孤児院出身者、及び生活困窮者、及び退役軍人……などなどの支援財団を設立しました。


 これは、【神竜神殿】の神官長エズメラルダさんと、【銀行ギルド】の頭取ビルテさんがアイデアを出してくれたのです。

 あの2人は、中々の腹黒……いいえ、知恵者でした。


 財団の名称は、【ソフィア財団】。


【ソフィア財団】は、公人【神竜(ソフィア)】ではなく、私人ソフィアが率いる民間財団ですが、如何(どう)いう訳か寄付金が物凄い勢いで集まっています。

 エズメラルダさんとビルテさんの策略……いいえ、計算通りになりました。


 もちろん、財団への寄付金も私とソフィアの個人の財布には、ビタ1銅貨も入って来ません。

 私とソフィアが選定した会計士事務所と弁護士事務所が厳格に口座を管理していますので。


 寄付してくれる人達には……【ソフィア財団】に寄付しても、公人【神竜(ソフィア)】からは絶対に便宜供与などは受けられません。それでも良いですね?……と、念押ししているのですが、次から次へと寄付が押し寄せて来るような状態でした。


 まあ、相手が存在しない見返りを勝手に期待して寄付するのを、私もソフィアも止められません。


 あ〜……寄付者に全く見返りがない訳でもありませんね。


 ソフィアが寄付者に手書きでお礼状を書いています。

【竜城】の紋章が入った便箋に……〇〇殿。我の財団に幾らの寄付をしてくれてありがとう。ソフィア……と書いてあるだけの簡単な物でした。

 ただし、本物である事を魔法的に証明してあるのです。

 この施策が当たりました。


 これもエズメラルダさんとビルテさんのアイデアでしたが、かなり喜ばれているようですね。

 寄付者と寄付金の増加に拍車をかけています。


 神様から直接お手紙が来て、名指しでお礼を言われる訳ですからね。


 お礼状を貰った個人・企業・商店などは、額装して目立つ場所に掲示したりしているようです。

 それが他の人達の目にも止まり、僕も私も弊社も……という連鎖が生まれていました。


 今まで【ドラゴニーア】では、あまり寄付という文化は浸透していなかったらしいのですが、莫大な金額が【ソフィア財団】に集まっているようです。


 ソフィアは、あまりの寄付件数に、お礼状を書く事を安請け合いしてしまった事を今更ながら後悔していました。

 ソフィアは、【神竜】復活の式典と祝賀が済めば、公務からは解放される予定だったのですが、今後も毎日2時間程度は机に向かって、お礼状を書く日々が続くでしょう。


 という訳で、今後は【ソフィア財団】が孤児院出身者や生活困窮者を支援する体制が構築されています。


 最初からエズメラルダさんとビルテさんに相談しておけば良かったですね……。

 こういう……お金を他所(よそ)から引っ張って来る知恵……は、私のような素人ではなくプロに任せるべきだったのです。


 現状【ソフィア財団】は、支援を希望する世帯を訪問して面談をし、資産状況を調べて、必要ならば寄付金で得た現金を、そのまま給付する……という活動を始めていました。

 しかし、やがては寄付金を直接恵まれない人達に配るのではなく、寄付金を投資や資産運用して運用益で財団の支出を回せればと考えています。


 セントラル大陸では、寄付金にもシッカリ所得税が掛かりますし、支援金の給付にもガッツリ贈与税が掛かりますので……寄付金を集めて、そのまま給付する方式では経済的に非効率でした。

 そういう法律なので仕方ありませんが……。


 しかし、財団が独自に資産運用をして支援希望者に何か事業を起こさせ、そこに融資する、という形なら非課税です。

 これもエズメラルダさんとビルテさんのアイデアでした。


 なるほど。

 これが、お金持ちの回す世界のルール……国際金融資本による支配……陰謀なのか?


 ビルテさんから……いいえ、常識ですよ……と言われてしまいました。


 現在、私とソフィアの個人の銀行口座と、【マリオネッタ工房】の法人口座と、【ソフィア財団】の法人口座は、完全に切り離されています。


 おかげで少し前までの金策に頭を悩ませる状況が、嘘のようになくなりました。

 つまり、私の個人口座は、全額可処分所得という事です。


 これで今後は、浪費も出来ますね。

 資金管理なんかやった事がなかったので、そういう生臭い雑事が私の手を離れて心底ホッとしています。


 という訳で、孤児院出身者の支援事業、【マリオネッタ工房】従業員の福利厚生、私とソフィアの個人的財布は別会計。

 私の現預金残高は、3万金貨と端数。

 まあ、遊んで暮らせる程ではないでしょうが、何とかなるでしょう。


 いや待てよ……。


 3万金貨は、日本円で30億円相当です。

 一瞬30億円相当を……少ない……なんて考えてしまいました。

 私は、どうやら少し金銭感覚がおかしくなっていますね……。

 う〜む……まあ良いか。

お読み頂き、ありがとうございます。


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