第69話。【ファミリアーレ】vs【アース・ドラゴン】。
セントラル大陸の詳細…その1。
中央国家【ドラゴニーア】
竜都【ドラゴニーア】
東の都市【センチュリオン】
西の都市【ラウレンティア】
南の都市【アルバロンガ】
北の都市【ルガーニ】
スポーン・エリア
【センチュリオン】の東、【青の淵】
エリア・ボス…【青竜】
【ラウレンティア】の西、【静かの森】(軍事演習場)
エリア・ボス…【翠竜】
【アルバロンガ】の南、【サルバトーレ火山】
エリア・ボス…【炎竜】
【ルガーニ】の北、【ピアルス山脈】
エリア・ボス…【氷竜】
【静かの森】深部、西側領域。
私達は、隊列を組んで行軍していました。
私は黙っていますが、先程から数km前方に敵性反応があります。
複数の【中位】の魔物を追って、【高位】の魔物がこちらに移動して来ていました。
【地竜】ですね。
「前方1km、敵性反応3……いや、4。こちらに来る」
アイリスの【索敵】も敵性反応を感知したようです。
「ウーノ、ドゥーエ。前方に進出して敵を捕捉しろ!」
ティベリオが指示しました。
【敵性個体】が【中位】なら、その指示で間違いはありませんが……。
「ウーノ・ドゥーエ、戻れ。全【自動人形】は、前方を固めて備えろ」
私は、【自動人形】・シグニチャー・エディション7体を、全て50m前方に横一列で展開させ密集横陣を構築しました。
即座にティベリオは、私が口を出す以上、それが必要な措置であると理解します。
私は、ティベリオから指揮権限を受け取りました。
「距離500m。接近速い。敵性反応3……いや、2に減少」
アイリスが報告します。
【地竜】は、獲物の【中位】の魔物を次々に襲っていました。
「敵性反応1に減少。距離400。巨大な魔力反応だ」
アイリスが少し上擦った声で報告します。
パーティに緊張が走りました。
「見えたっ!大きな四足竜。【地竜】だっ!」
上空のモルガーナがオープン・チャット状態に固定された【スマホ】で伝えて来ます。
「モルガーナ。100m以上の高度を取って、私より後ろを飛べ迂闊に近付くな」
私は【スマホ】で伝えました。
「了解!」
モルガーナが応えます。
バキバキと樹木を薙ぎ倒して【地竜】が姿を現しました。
10mの巨体。
【スポーン】して間もないからでしょう、【地竜】は警戒心もなく無造作に突進して来ます。
ドカーーンッ!
7体の【自動人形】・シグニチャー・エディションが組んだ密集横陣に、【地竜】が激突しました。
【自動人形】・シグニチャー・エディションが構えた【大盾】に受け止められ、【地竜】は突進を止められています。
【自動人形】・シグニチャー・エディション達は地面に足をめり込ませましたが、その華奢な外見からは想像も出来ない【膂力】と【馬力】で【地竜】の突進に対して1歩も退かず完全に抗してみせました。
私が造った傑作達ですから、この位は出来て当然です。
「グラァァァーーッ!」
【地竜】は、低木のように当たれば圧し折れ吹き飛ぶ障害物としてしか見做していなかった、小さな【自動人形】・シグニチャー・エディション達に突進を止められて、苛立たしげな咆哮を上げました。
ふん、トカゲが……。
身の程をわからせてあげましょう。
【地竜】は、前脚を振り上げて【自動人形】・シグニチャー・エディションを踏み潰しに掛かりました。
しかし。【自動人形】・シグニチャー・エディションは、【高位】の【防御】で難なく防ぎます
私は、【収納】から【神剣】を取り出し、【飛行】を詠唱し、【地竜】に高速接近しました。
【地竜】は、私に気付きましたが時既に遅く、私は擦れ違い様の刹那、【地竜】の牙と顎の腱を切断します。
同時に魔力散乱の【魔法陣】を【地竜】の頭部に刻み付けました。
生まれて初めて感じる痛みだったのでしょう。
【地竜】は、痛声を上げて暴れました。
私は、そのまま飛行し【地竜】の尻尾も付け根から斬り飛ばします。
【地竜】は、戦慄の悲鳴を上げました。
もしも、この【地竜】が経験を積んだ個体だったなら、私の【魔法陣】構築を絶対に防ごうと【抵抗】を試みた筈です。
しかし、この個体は【スポーン】したばかりで、そのような場数は踏んでいませんでした。
この魔力散乱の【魔法陣】により、【地竜】は【防御】をする事が出来なくなり丸裸です。
更に、【ブレス】を吐く為に魔力を収束させる事も出来なくなりました。
また、牙と顎の腱と尻尾を切断された事で、噛み付き攻撃も尻尾による打撃も脅威ではなくなります。
これで【地竜】は、巨大な肉の塊に変わりました。
10mの巨体ですので、その質量自体は未だ脅威ですが、今の弟子達なら何とか対抗出来るでしょう。
私は、【ファミリアーレ】の上空に戻ります。
「攻撃準備!」
私は、指示しました。
【ファミリアーレ】は、武器に魔力を流します。
「初撃。てーーっ!」
私の合図で、アイリス、ジェシカ、モルガーナが各自の飛び道具で攻撃しました。
これだけ至近距離に引き付ければ、外す事はありません。
【地竜】は、本能で危険を察知し、【防御】の強度を高めようとしますが、既に魔力散乱の【魔法陣】で、その行為は目的を果たせなくなっています。
モルガーナの【スピア】が【地竜】の前胸部に突き刺さりました。
この場所は、【竜】で言えば……逆鱗……がある部位であり、【地竜】にとって急所の1つです。
アイリスとジェシカが放った飛び道具は、【地竜】の両眼を潰しました。
「突撃!」
私が指示すると同時に【ファミリアーレ】の近接戦組が地面を蹴り突撃します。
対大型魔物用として、何度もリハーサルした段取りでした。
「そいやーーっ!」
「うおぉーーっ!」
ハリエットとサイラスが、それぞれ【地竜】の両前脚を斬り付けます。
切断には至りませんでしたが、【地竜】は前脚で体を支える事が出来なくなり、前傾してつんのめり地面に膝を突きました。
ロルフが【理力魔法】で100kgのミスリル鋼材を飛ばし、真上から【地竜】の背中に叩き付けます。
他の動物同様に脊椎も急所でした。
そして、ロルフは【加工】により先端を鋭利に成型しておくという芸の細かさ。
ミスリルの杭と化した鋼材は、【地竜】の背中に突き刺さりました。
「はあぁーーっ!」
グロリアが、リスベットに【防御】を張ってもらい、獣化して【地竜】の間合いに飛び込んで行きます。
グロリアは、【地竜】の前胸に突き刺さったままの、モルガーナの【スピア】の穂先とは反対側……つまり石突きの底を渾身の拳撃で打ち付けました。
【スピア】は、【地竜】の胸に深々と突き刺さります。
同時にグロリアの練り上げられた魔力が槍を伝わって、【地竜】の体内で炸裂しました。
【地竜】は、大量に吐血。
頭部を地面に叩き付けるようにして倒れます。
「そーーいっ!」
「うおぉーーっ!」
「でやぁーーっ!」
ハリエットとサイラスが両側から【地竜】の首に剣を振り下ろし……伏した【地竜】の眉間にティベリオが剣を突き立てました。
【地竜】は、脆弱な筈の人種から良いように翻弄され、あまつさえ致命傷を受けた事に驚愕して大きく目を見開いています。
そして、【地竜】の瞳から急激に生命の光が失せて行き、やがて絶命しました。
「よっしゃーーっ!倒したっ!」
ハリエットが気勢を挙げます。
「「「「「やったーーっ!」」」」」
【ファミリアーレ】の一同も喜びました。
「良くやりました。私がお膳立てをしたとはいえ、【高位】の魔物である【地竜】を相手に一切反撃を許さずに一方的に倒しきったのですから大したものです」
私は、【ファミリアーレ】を称賛します。
「私達……【地竜】を討伐してしまいました……」
獣化が解けて身体が萎んだグロリアが感慨深げに言いました。
【地竜】は、【高位】の魔物ではありますが、種族的に【竜】とは違う魔物です。
従って、【地竜】の討伐実績によって【ドラゴン・スレイヤー】の称号は授与されません。
しかし、この世界で間違いなく強力な魔物として認知されている【地竜】の討伐を成し遂げたのですから、弟子達も特別な気持ちなのでしょう。
【地竜】の死体をロルフが【宝物庫】に回収して、【ファミリアーレ】は休憩を摂りました。
・・・
【ファミリアーレ】は、【地竜】を仕留めた対戦を振り返っています。
どうやら、接敵直後に私が行った下拵えを思い出して話しているようでした。
「あれは、【地竜】の魔力を封じたのですね?」
リスベットが私に質問します。
「魔力を散乱させる【魔法陣】です。【超位】に類するモノなので、今のあなた達には、まだ真似出来ませんよ」
「そうですか……」
「理屈は簡単なので後は訓練あるのみです」
「はい。頑張ります」
「牙を斬ったり尻尾を斬ったりは、敵の攻撃手段を奪う目的だとわかりますが、顔の側面を斬っていたのは?」
グロリアが訊ねました。
「あれは、【地竜】の下顎を動かす腱を切断しました。あそこを斬られると動物は口を閉じられません。つまり嚙み付けなくなります」
「なるほど……」
「ですが、今回の【地竜】は、【スポーン】したばかりで経験が足りなかったですね。経験を積んだ個体なら、あんなに無防備にやらせてはくれませんよ。【地竜】に経験があれば、おそらく接敵する時には、初めから最大出力で【防御】や【魔法障壁】を展開していた筈です。その場合には、初手で【魔法中断】を発動して、【防御】と【魔法障壁】を剥がす必要があります」
「他者に【魔法中断】の効果を与えるには、【超位】の魔法難易度ですよね?」
リスベットが質問します。
「一般的にはそうですね。しかし、対象の個体差も関係します。相手の魔力が弱ければ【超位】でなくとも効果を得られますし、逆に相手の魔力が強大なら【超位】の【魔法中断】でも、【抵抗】される場合もあり得ます。その証拠に、私やソフィアに【魔法中断】は効果を及ぼせませんよ」
「なるほど」
リスベットは、頷きました。
弟子達は、私に注目して興味深そうに聴いています。
「【防御】が剥がれていたのに、【地竜】は硬かったよ。【魔鋼の太刀】が刃毀れしちゃった。ノヒト先生、直して下さい」
ハリエットが【魔鋼の太刀】を差し出して言いました。
「ロルフ。やってあげなさい。もう出来るでしょう?」
私は、ロルフに指示します。
「わかりました」
ロルフは、【加工】でハリエットを始めパーティ・メンバーの武器を修理して行きました。
ロルフは、まだ【修復】は使えません。
しかし、【ファミリアーレ】は、もう私が鍛えた【魔鋼の武器】が刃毀れするレベルの敵と対峙するようになりましたか……。
これは、そろそろ次のステップに進む良いタイミングかもしれませんね。
【ファミリアーレ】は、その後何頭かの【中位】の魔物を危なげなく倒して、今日の訓練は終了しました。
・・・
私達は、【竜都】の【銀行ギルド】に【転移】します。
ビルテさんと挨拶して、私は【ファミリアーレ】を先に【冒険者ギルド】に向かわせました。
私とビルテさんは、頭取の執務室に向かいます。
「例の件は、その後如何ですか?」
私は【ブリリア王国】で発見されたグレモリー・グリモワールの動向を訊ねました。
「副頭取のピオが現地に到着し、早速情報収集を開始しました。ピオの聞き取りによると、グレモリー・グリモワール様は、如何やら【召喚士】であるようです。村の整備や建築などの作業に、多くの【人】や【エルフ】や【ドワーフ】の姿をした者達を使役しているようです。しかし、その者達は、いつも何処からともなく現れて、去る時も忽然と姿を消すのだそうです。ピオの分析によれば……【召喚士】が【エルフ】などの姿に受肉した【妖精】を使役しているのではないか……との推定です」
ビルテさんは、言います。
いいえ、あいつは【召喚士】ではありません。
現在では、あの系統の魔法が廃れている為に、ビルテさんとピオさんは、それがわからないのでしょう。
「何かトラブルを起こしたりしている様子は?」
「現状悪い評判は何もありません。現地の住民からは、相当信奉されているようです」
確か……湖畔の聖女……などと呼ばれているのでしたよね?
あいつが聖女?
意味がわかりませんね……。
たぶん、他人の成り済ましか、さもなければ何らかの【バグ】が発生しているのだと思うのですが……。
成り済ましだとすると……誰が何の為に?
一体如何やって?
それが問題です。
グレモリー・グリモワールを騙る人物が何を考えているのかがわからないと対策の取りようがありません。
いずれ私が会いに行ってグレモリー・グリモワールをかたる偽物を倒す必要があるのだとは思いますが……。
スケジュールが立て込んでいて私は動けませんからね。
「そうですか……わかりました。今後も、それとなく監視しておいて下さい。それと、くれぐれも敵対しないように」
「畏まりました」
私は、ビルテさんと別れ【冒険者ギルド】に向かいます。
・・・
【冒険者ギルド】では、【ファミリアーレ】が既に買取査定の手続きを済ませていました。
ギルド・マスターのエミリアーノさんと、副ギルド・マスターのヴィルジニアさんが、【ファミリアーレ】と談笑しています。
私は、彼らに近付きエミリアーノさんとヴィルジニアさんに挨拶しました。
「いやぁ、彼女達が【地竜】を倒した話を聞いていたのです。驚きました。私は、ノヒト様が倒したのだとばかり……」
「違うよ。あたし達でやっつけたんだよ」
ハリエットが少し不服そうに言います。
「ノヒト先生に大分手伝ってもらいましたが……」
グロリアが言いました。
「いいえ。私がしたのは、支援魔法と牙と尻尾を斬り落とした程度。後は、全て彼女達が倒しきりましたよ」
「では、本当なのですね?」
ヴィルジニアさんが訊ねます。
「はい。誓って間違いありませんよ」
私は、保証しました。
「そうですか。ハリエット、疑ったりしてごめんよ。大した戦果だ。素晴らしい」
エミリアーノさんは、言います。
「だから言ったでしょう。私達、ノヒト先生の指導でメッチャ強くなっているんだからね」
ハリエットが自分の長い耳を後ろに撫で付け、フンスッと胸を張りました。
その仕草がおかしくて、私は、つい笑ってしまいます。
【ファミリアーレ】のメンバーも、エミリアーノさん達も笑いました。
ハリエットは……何がおかしいのか?……という様子。
いや、だって、如何にも何処ぞの気位の高いご令嬢などがしそうな仕草だったので……。
髪の毛を手ぐしで掻き上げた訳ではなく、ウサ耳でしたが……。
こんな事を言うと失礼かもしれませんが、ハリエットには全然似合わない仕草でした。
買取査定の結果は、明日の朝にはわかるそうです。
・・・
私達は、【竜城】でソフィアと合流しました。
アルフォンシーナさんが公式晩餐会に出席中の為、エズメラルダさんがソフィアに付き添っています。
航空パレードは、つつがなく終了したのだとか。
ソフィアは、【竜都】をくまなく【マッピング】し終えたのだそうです。
【マッピング】中にソフィアは、かなりの数のスパイや工作員を発見したのだとか。
【マップ】の光点反応で赤く表示された人物がいた為、衛士機構に通報し逮捕したところ、それがわかったそうです。
なるほど。
【ドラゴニーア】に潜伏するスパイは、全員ソフィアに敵意や害意を持つ者という判定になるのですね。
考えてみれば、ソフィアは【ドラゴニーア】の庇護者であり国家元首でした。
【ドラゴニーア】=ソフィア……という構図が成立してもおかしくはありません。
ソフィアが【チュートリアル】を経てユーザーと同じ強力で正確な【マッピング】能力を持った所為で、今後他国のスパイ達は【竜都】で行動し難くなるでしょう。
「さてと、夕食を食べに行きましょう」
私達は、【ホテル・ラウレンティア】に【転移】しました。
お読み頂き、ありがとうございます。
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