第67話。【アトランティーデ海洋国】のゴトフリード王。
名前…ティアナ
種族…【人】
性別…女性
年齢…29
職種…【守衛士】
魔法…【闘気】、【防御魔法】
特性…【才能…防御魔法】
レベル…39
異世界転移14日目。
こちらに来て、もう2週間経ったという気もしますし、まだ2週間しか経っていないという気もします。
それ以外の感慨は特にありません。
【ホテル・ラウレンティア】で朝食を食べて、全員で【竜城】に【転移】しました。
ジェシカの従魔であるウルフィは、今日も2体の【自動人形】・オーセンティック・エディションに世話を任せます。
アルフォンシーナさんに、ソフィアを引き渡しました。
今日ソフィアは、大々的な航空パレードで【竜都】上空を1日中飛び回る予定なのだとか。
ソフィアを先頭にして、竜騎士団と【翼竜】航空騎兵隊や【グリフォン】騎兵隊、そして【ドラゴニーア】艦隊が陣形を組んで飛び、空を埋め尽くすのだそうです……。
圧倒的世界最強の打撃力。
更に後方支援として世界最強の兵站と、大神官のアルフォンシーナさん率いる【女神官】達による世界最強のダメージ・コントロール能力を持っている訳ですから、【ドラゴニーア】の軍事力は継戦能力という意味でも世界最強なのです。
「我が民を空の上から、しかと見て来るのじゃ」
ソフィアは、ウキウキとした様子で言いました。
ソフィアにとって【ドラゴニーア】は、自分の国であり、国民は自分の国民ですからね。
「ソフィアの姿を皆に良く見せてあげて下さい。色々な意味でデモンストレーションになりますからね」
私は、言います。
ソフィアこそが【ドラゴニーア】の強さを象徴する存在でした。
【神竜】は、9柱居る守護竜の中で最強を誇る……守護竜の中の守護竜……で、【神竜】以外の守護竜の10倍のスペックを持ちます。
つまり、【神竜】以外の8柱の守護竜が束になっても【神竜】1柱に勝てません。
もちろん、それは単純な数値比較の話ですので、実際に戦えば様々な要素によって結果は変わりますけれどね。
【ドラゴニーア】には【神竜】が居る……という事実が、【ドラゴニーア】の国民と同盟国には安心感を持たせ、敵国に【ドラゴニーア】へ攻め込ませない抑止力になりました。
「うむ。我の姿が見やすいように少し低く飛んでみようかの」
「ソフィア様。【神竜】の御姿で低空飛行はいけません」
アルフォンシーナさんが、やんわりと釘を刺しました。
ソフィアが【神竜】形態で低空を飛べば、風圧や衝撃波で地上の物が色々と壊れそうですからね。
【竜都】の北にある軍の大演習場で行われていたリハーサルでは、竜騎士団の騎竜や、軍の【翼竜】や【グリフォン】が、【神竜】形態に現身したソフィアを見て、恐慌状態となり大変だったそうです。
しかし今は、【竜】達は、ソフィアを群のボスと認識したらしく従順そのもの。
嬉々としてソフィアの後を追い、ソフィアが命じれば、全体が1つの意思であるかのように一糸乱れず動くようになっているのだとか。
中々どうして、彼奴らも触れ合ってみると可愛い者達なのじゃ……とは、ソフィアの感想。
セントラル大陸に生きる全ての人種の神として、【創造主】によって生み出された【神竜】にとって、人種を襲う魔物である【竜】などは、本来なら【敵性個体】でした。
しかし、同時に【神竜】は、全ての【竜】族の頂点に君臨する存在でもあります。
懐かれても、おかしくはありません。
私と弟子達は、【竜城】を後にしました。
ソフィアとは、今日も夕食時に合流です。
今夜は、各国の首脳や要人が列席する公式晩餐会が行われる予定。
ギリギリまで、【ドラゴニーア】の国家元首たる【神竜】を晩餐会の主座として出席させるか如何かという議論が最高評議会で行われたそうです。
結局は、アルフォンシーナさんが【神竜】の名代を務める事で話は落ち着いたのだとか。
ソフィアを出席させない……という判断は正解だと思います。
晩餐会が行われる【竜城】の大広間に魔力を垂れ流しにしながら鎮座する50mの巨竜……。
そんな場所では、きっと誰も食事なんか喉を通らなくなるでしょう。
午前中、弟子達は自由時間。
今日もお小遣いを渡して送り出しました。
図書館に行ったり、孤児院に行ったり、ペネロペさんが出場する武道大会の準決勝を観戦したりして過ごすそうです。
ロルフとリスベットは、私に同行。
【マリオネッタ工房】の工場を管理運営する人材の採用面接に同席してもらいます。
【商業ギルド】が太鼓判を押す人材なので能力は間違いないと思いますが、良さそうな人物ならば即契約する予定。
どんな人物なのか会うのが楽しみです。
・・・
【マリオネッタ工房】のオフィス。
オフィスでは、ハロルドが孤児院出身の事務方社員を指揮して、オフィスの備品や消耗品を備え付けていました。
「おはようございます」
「おはようございます」
ハロルドが挨拶して、社員達も挨拶します。
「どんな具合ですか?」
「何も問題はありません。一から会社を起こしているという実感があって中々高揚感があります」
ハロルドが言いました。
「それは良かった。イヴェットと他のメンバーは?」
「スマホ事業部と工場で作業をしています」
スマホ事業部とは、南中央通りに面した方のオフィスの呼称です。
「技術部門の担当責任者候補と9時30分から面接の予定なのですが如何しましょうか……」
「会議室は作業が終わっています。そちらで面接しましょう。イヴェットも、もう間もなく此方に戻るでしょうから……」
「おはようございます。オーナー」
イヴェットが2体の【自動人形】を引き連れてオフィスに入って来ました。
「作業の進捗は如何ですか?」
「問題ありません。工場の方もタイム・スケジュール通りです」
イヴェットは、言います。
「そうですか、それは何よりです」
・・・
約束の時間の10分前。
【マリオネッタ工房】技術部門の責任者候補は、オフィスに現れました。
「イアン・ファブリツィアーノです。宜しくお願いします」
イアンは、【ドワーフ】です。
家名持ち……つまり、それなりの身分だという事。
家名は、【ドワーフ】の国【ニダヴェリール】風ではなく【ドラゴニーア】風。
家名について訊ねると、父方の祖父が【人】の【ドラゴニーア】国民で、国家研究員として相応の地位にあった人物なのだそうです。
なるほど。
国から家名を与えられるという事は、それなりなのでしょう。
イアンの血筋は、祖父が【人】で、他の祖父母達は【ドワーフ】ですが、彼はクォーターではありません。
この世界には、ハーフはいますがクォーターはいないのです。
これは、混血の種族が子供を作ると、両親どちらかの種族で遺伝的に濃い方の種族の方に100%統合されるという、この世界独特の設定でした。
ん?
イアンとは、何処かで会った気が……。
ああ、ソフィアと一緒に家具を注文に職人街へ行った時、都市内巡回飛空船に乗り合わせた若者ですね。
こんな所で再会するとは、案外世間は狭いようです。
彼は、その事に気が付いていないようですが、いずれソフィアと会えば思い出すかもしれません。
「採用します。イヴェット、諸々の契約はお願いしますね」
私は、即決しました。
「畏まりました」
イヴェットが書類を取り出して、その場で契約完了。
【鑑定】するとイアンは、【加工】(未習得)持ち。
このようなアピール・ポイントが履歴書に未記載である事から、どうやらイアン自身は自分の潜在能力に気が付いていないようです。
得難い人材ですね。
私が指導すれば能力が開花するでしょう。
「これらがマリオネッタ工房の主力製品です」
私は、市販用の球体【スマホ】を取り出して言いました。
「これら?」
「ああ、この4体の【自動人形】もそうです」
「【自動人形】!」
どうやらイアンは、【自動人形】を【人】と思っていたようです。
「こちらが【自動人形】・オーセンティック・エディション。こちらが【自動人形】・レプリカ・エディションです」
「ロスト・テクノロジーの【自動人形】とは凄い。どうりで良く似ている方々だと思いました。私は、姉妹なのかと……」
イアンが笑って頭を掻きました。
私は、【収納】からイアン用の【自動人形】・オーセンティック・エディションと、【自動人形】・レプリカ・エディションを取り出して起動し、イアンにマスター権限を移譲します。
「素材と製品の品質管理……在庫量と生産量の管理……それから、従業員の指導と工場の運営が、あなたの仕事ですが……特に、従業員の安全確保には、最大限注意を払って下さい。事故がない事……これが第一優先です。安全な労働環境の構築の為には、私は幾らでも予算と労力をかけるつもりですので、あなたは現場監督、または専門家の立場から遠慮なく安全の為の提案をして下さい」
「わかりました」
イアンは、力強く頷きました。
工場の製造工程では、毒劇物や危険物の類は取り扱いませんが、工作機械などは取り扱い上それなりに危険も伴います。
仮に大怪我をしても、私なら即死を免れれば、どんな酷い状態の負傷でも治せますが、だからと言って危険で劣悪な労働環境で従業員を働かせるつもりはありません。
「オーナー。この【自動人形】ですが、例えば【ドワーフ】や【エルフ】や【ドラゴニュート】の外見などバリエーションは造れないでしょうか?おそらく需要があると思います」
イアンが提案しました。
なるほど。
私が造った製造品の【自動人形】は、雛形とした【神の遺物】の【自動人形】が【人】の女性の外見をしていたので【人】の外見をしていますが、言われてみれば、そういう着眼点は的を射ています。
外装は、比較的自由に出来ますので問題はありません。
問題は、効率とコストですが……。
「可能です。生産効率とコストが問題となりますが、オーダー・メイドの【自動人形】・オーセンティック・エディションならば、外見もカスタマイズの一環として請け負う事も出来るでしょうね。では、その方向性で進めて下さい」
私は、ハロルドに指示しました。
「「わかりました」」
ハロルドとイヴェットが言います。
ロルフとリスベット、そしてイアンも頷きました。
・・・
イアンは、優秀ですね。
2時間ばかりの間に有意義な提案が幾つも示されました。
即断即決で導入が決まった物が殆どです。
「では、イアン。これから宜しくお願いします」
「はい。頑張ります」
イアンは、溌剌とした表情で言いました。
私とロルフとリスベットは、【マリオネッタ工房】本社オフィスを後にします。
・・・
私は、ロルフとリスベットを他の【ファミリアーレ】のメンバーが集まる【闘技場】に送り届けました。
今日【ファミリアーレ】は、自分達で昼食を食べてもらわなくてはいけません。
私は、これから【アトランティーデ海洋国】のゴトフリード・アトランティーデ王と昼食会の予定でした。
昼休憩の為に一時航空パレードから【竜城】に【転移】で戻って来るソフィアとアルフォンシーナさんも同席します。
ゴトフリード王側は【剣聖】一行が同席するとの事。
私は、【竜城】に【転移】します。
既に、ソフィアとアルフォンシーナさんが【竜城】に帰還していました。
さてと、ゴトフリード王に会いに行きましょうか。
・・・
「ゴトフリード・アトランティーデ王陛下でございます」
この場の仲介者という立場のアルフォンシーナさんが、まず名目上の下位者であるゴトフリード王を紹介しました。
「ゴトフリード・アトランティーデでございます」
ゴトフリード王は、作法に則りソフィアと私に礼を執ります。
「ゴトフリード王陛下。こちらが【神竜】ソフィア様でございます」
アルフォンシーナさんがソフィアを紹介しました。
「ソフィアじゃ。ゴトフリードよ、謁見の時に会ったが、この姿では初めてじゃな」
ソフィアが言います。
「ゴトフリード王陛下。こちらが【調停者】ノヒト・ナカ様でございます」
アルフォンシーナさんが私を紹介しました。
「ノヒトです。如何ぞ宜しく」
公式昼食会という扱いである為、多少面倒な外交儀礼などもありましたが、基本的に簡略化されたマナーで問題ないとの事。
ゴトフリード王は、開明的で合理主義者である為、余程無礼な扱いをされなければ、虚礼の類は如何でも良いそうです。
私と気が合いそうですね。
私は、【収納】から【剣聖】にも振る舞った、900年物の高級ワインを取り出して食前酒としました。
「サウス大陸の奪還に乾杯」
私は言います。
一同がダイアモンド・グラスを掲げました。
「それと、【ドラゴニーア】と【アトランティーデ海洋国】の友好にも乾杯じゃ」
ソフィアが言いました。
再びの乾杯です。
・・・
食事中は、当たり障りのない話題を選んで話していましたが、デザートが供される頃になって、いよいよ本題に入りました。
「私とソフィアは、明後日サウス大陸に出発します。ゴトフリード陛下には、私とソフィアが戦っている間の戦場の無人化、それから事後処理にご協力を頂きたいのです」
私は、正直に望みを伝えました。
率直に勝る交渉なし……です。
「クインシーから話は聞いております。私に出来る限りの協力をさせて頂きます」
ゴトフリード王は、快諾してくれました。
これで後方の憂いはなくなりましたね。
後は、前線で暴れるだけです。
「ありがとうございます」
「それで戦後処理は、私とクインシーに一任して頂けるという事ですが、宜しいので?」
「はい。サウス大陸の守護竜である【ファヴニール】を復活させます。【ファヴニール】と相談して、全て決めて下さって結構です。【神竜】は、セントラル大陸の守護竜ですので、サウス大陸の事には口出ししませんし、ゲームマスターは【世界の理】に違反しなければ政治には介入しません。【ファヴニール】の裁可さえ得られれば、後は陛下と【剣聖】の好きなようにして下さい」
「これは大変な役目を仰せつかってしまいましたね」
ゴトフリード王は、苦笑気味に言いました。
「だから言ったろう。話がデカ過ぎて、俺1人の裁量では、如何にもならん」
【剣聖】が溜息混じりに言います。
「クインシー。お前……責任を背負いきれない……とみて、私を巻き込んだな」
「そうだ」
ゴトフリード王と【剣聖】は、お互いに笑いました。
「う〜む……。【パラディーゾ】については【ファヴニール】様の使徒たる聖職者達と、旧【パラディーゾ】国民の子孫、そして新しい入植者達による付託を受けた民主議会による統治……つまり、【ドラゴニーア】の統治様式を模倣しようと思うが如何か?」
「【パラディーゾ】の王家は絶えている。それで良いんじゃないか?」
ゴトフリード王と【剣聖】は、私達の前で戦後統治の話を始めました。
これは、おそらく私達に公明正大な姿勢を示す意図でしょう。
私は、基本的に政治には介入しません。
なので、ゴトフリード王がサウス大陸の中央国家である【パラディーゾ】と、南端の【ムームー】の王も兼ねて絶対王政を敷いたとしても別に構わないのです。
しかし、そうしないという事が、ゴトフリード王の明君たる所以。
【剣聖】クインシー・クインが……自分の剣を預けるに足る人物だ……という事の証明なのでしょうね。
「うむ。【ムームー】は如何すべきか?」
「あそこは、大昔部族制だったらしいな?」
「そうだ。歴史書に拠ればな……」
「部族代表による合議制でしたよ。実り豊かな土地で、争いもなく収穫した作物を分け合って暮らしているような、平和で素朴で牧歌的な良い国でした」
私は、900年前の事実を教えました。
「しかし、復興となると求心力がいる。クインシー、お前が【ムームー】の王となって治めてみては如何か?」
「俺が王?馬鹿馬鹿しい。そんな窮屈な立場は御免被る」
「それが一番収まりが良いと思うが」
「ゴトフリード。お前の子供達の誰かにやらせれば良いだろ?俺は権力なんてモノは、今の立場でもう沢山だ」
サウス大陸の統治はゴトフリード王と【剣聖】に任せるとして、取り敢えず私は……サウス大陸奪還作戦……の布石を置き終えたのです。
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