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第64話。湖畔の聖女グレモリー・グリモワール。

名前…ペネロペ

種族…【(ヒューマン)

性別…女性

年齢…30

職種…【魔法剣士(マジック・セーバー)

魔法…【闘気】、【攻撃魔法】

特性…【才能(タレント)鼓舞(インスパイア)

レベル…50

 異世界転移13日目。


 今日は午前中を自由時間にしたので、朝はゆっくりです。

 時間があるので、【ホテル・ラウレンティア】の朝食のコースを味わいました。


 これは美味い。

 さすがは、美食に拘る【ラウレンティア】の朝食です。


 準備をしてから【竜都】の【銀行ギルド】に【転移(テレポート)】しました。

 いつも通り、頭取のビルテさんと挨拶をします。


「おはようございます」


「ノヒト様。大変な事が……」

 ビルテさんが真面目な顔で言いました。


如何(どう)しました?」


「あの、これは、ノヒト様以外の方にはお話し出来ません。【銀行ギルド】の守秘義務に抵触する事柄ですので……」

 ビルテさんは、【ファミリアーレ】のメンバーを見回します。


 つまり、ゲームマスターの業務に関わる事態ですね。

 理解しました。


「【冒険者ギルド】のラウンジで待っていて下さい」

 私は、【ファミリアーレ】に言います。


 弟子達は、頷きました。


「ビルテよ。我にも言えぬ事か?」

 ソフィアが訊ねます。


「はい。申し訳ありません。現時点では【調停者】様にしか、お話し出来ません」

 ビルテさんが言いました。


「なるほど。わかったのじゃ」

 ソフィアは、頷きます。


 ソフィアと弟子達は、【冒険者ギルド】に移動して行きました。


 私は、ビルテさんと頭取の執務室で話します。

 ここは、最大限の情報セキュリティが施された部屋でした。


「結論から申します。実は昨日、900年ぶりに【()()】の存在が確認されました」

 ビルテさんが言います。


 何ですって!


【英雄】とは、ユーザーです。

 つまり……私の他にも地球人が異世界転移している……という事てすか?

 それは、大事件です。


「場所は、何処(どこ)ですか?」


「ウエスト大陸西方【ブリリア王国】の【イースタリア】です。【イースタリア】の【銀行ギルド】において、【英雄】名義口座から出金されました。【ギルド・カード】の照合は、間違いなく本人。【英雄】に間違いありません」


 私は、直ぐにでも、その人物に会いに行きたいと思いました。


「その方の名前は?」


「グレモリー・グリモワール様という方です」

 ビルテさんは、言います。


 私は、その瞬間頭の中が真っ白になりました。


 意味がわからない。

 如何(どう)いう事だ?

 何が起きている?


「個人情報に関わりますが、これは魔法通信を用いた幹部会議にて、取り急ぎ【調停者】のノヒト様だけにはお伝えしようという決定が採択されました」

 ビルテさんは、言います。


 落ち着け。

 つまり、()()グレモリー・グリモワールが、ウエスト大陸の【ブリリア王国】に居るという事。

 如何(どう)して?

 あ、いや、確か……。


如何(どう)やら彼女は、【イースタリア】郊外の湖畔で村を作り暮しておられるようです。また、村に治療院を開業される予定だとか。その開業資金という名目での出金でございました」


 村?

 治療院?

 確かに、()()グレモリー・グリモワールが、本当に()()グレモリー・グリモワールだとするなら、系統に囚われない広範な魔法が、いずれも高いレベルで扱えました。

 治癒魔法も高度な技術を誇ります。


 しかし、グレモリー・グリモワールは、本来攻撃系の魔法職。

 攻撃系の魔法ならば【超位】クラスを駆使し、その強大な戦闘力は、全ユーザーの中でも上位1%に入ります。

 彼女は、最高位の【魔法使い(マジック・キャスター)】である【(グランド)魔導(・ウィザード・)(ミストレス)】でした。


 そのグレモリー・グリモワールが治療院?

 突然の事に、とても混乱しています。

 直ぐに確認に行きたいですが……サウス大陸の問題もありますし……。


「現地の【銀行ギルド】からの情報によると、グレモリー・グリモワール様は富裕な人々には高額な治療費を請求しますが、貧困層には無償で治癒を行い……湖畔の聖女……と崇められているのだとか」


 湖畔の聖女?

 ()()グレモリー・グリモワールが?

 何だかイメージが違う感じです。


「それだけではありません。【イースタリア】の湖周辺は魔物の巣窟だったのです。その湖畔の魔物を、たった1人で駆逐し、原野を切り開き、農地を開墾して、集落を作り上げ、堅牢な壁や堀で集落を守り、村から【イースタリア】までの街道を整備し、貧しい人々に家や畑を与えたりしているそうです。正に聖女の名に相応しい女性だと、【イースタリア】の【銀行ギルド】の職員達は口を揃えて言っています」


 はぁ〜。

 何だか気が抜けました。

 取り敢えず、グレモリー・グリモワールらしき人物は、悪事を働いている様子はないようですね。

 だとするなら、現時点では静観しても良いでしょうか……。


 状況がわからないので判断のしようがありませんが、緊急性は低いと見做しておきましょう。


「わかりました。今後も、それとなく監視しておいて下さると助かります」


「はい。ピオを現地に派遣しました。もしも必要なら口座凍結などの手段も取れますが?」

 ビルテさんは、訊ねました。


 でも、悪さをしている訳ではないようですし……。

 ()()グレモリー・グリモワールが、人様の役に立っているのなら、当面放置しておいても構わない……という気持ちもあります。

 如何(どう)いう事なのかは、今の所全く理解出来ませんが……。


「いいえ。貧しい人々を助けているという事なら、しばらくは、そっとしておきましょう。くれぐれも敵意を向けられるような行為は自重して下さい。グレモリー・グリモワールは、強大な魔法を使います。その気になれば、【古代(エンシェント)(・ドラゴン)】も殺せます。事を構えれば、例え【ドラゴニーア】の竜騎士団だとしても、容易な相手ではありませんからね」


「か、畏まりました」

 ビルテさんは、青()めた顔で言いました。


 兎に角、サウス大陸の問題が片付き次第、ウエスト大陸に行がなければならないでしょうね。

 ウエスト大陸では、【リントヴルム】の件、それから【ウトピーア法皇国】の件など、ゲームマスターが対応しなければならない問題がありました。

 その問題の解決ついでに、いずれグレモリー・グリモワールらしき人物にも会いに行きましょう。


 そして、如何(どう)いう事なのかキッチリ説明してもらわなければいけませんね。


 ・・・


 私は、酷く混乱しながら【銀行ギルド】を後にして、【冒険者ギルド】に向かいました。


「ノヒトよ。大丈夫か?怖い顔をしておるのじゃ」

 ソフィアが言います。


「ええ、まあ、取り敢えずは大丈夫です」

 私は、言いました。


「何があったのじゃ?」


「すみません。ビルテさんから個人情報に関わる事として口外無用を要請されました。現時点では、ソフィアにも話せません」


「そうか……危機か?」


「今のところは大丈夫そうです。でも、何らかの危機になりそうなら、私が行って如何(どう)にかします」


「ふむ。セントラル大陸の危機になるような事なら、我も情報を知っておきたいのじゃが」


 私は、他の者に聞かせないように自分とソフィアの周りに【防音(サウンドプルーフ)】を張りました。


「ウエスト大陸の【ブリリア王国】にユーザーが現れた」


「なぬっ!【英雄(ユーザー)】じゃと?」


「はい。そのユーザーは要注意人物で強大な魔法を使うけれど、【神竜(ソフィア)】の敵ではありません。ソフィアが戦えば秒殺出来る程度の相手です。そして、現時点では、そのユーザーが何か危険な行動をしている様子もありません。今は、それしか言えませんね」


「そうか。我の敵ではないのなら、少し安心出来るのじゃ。しかし、【英雄】(ユーザー)がのう……。ま、ノヒトが復活した訳じゃから、【英雄】(ユーザー)も復活しても、おかしくはないのじゃが……」


「う〜ん……」


如何(どう)したのじゃ?」


「今は状況を見守る事しか出来ないね……」


 サウス大陸とウエスト大陸の問題がなければ、直ぐにでも現地に飛びたいところですが、これは個人的な事……ゲームマスターの業務が優先なのは致し方ありません。


【冒険者ギルド】で買取査定金額を確認します。

 査定額は、概ね私の【鑑定(アプライザル)】の結果と同じでした。

 前回より獲物の状態も良く、査定結果は、まずまずです。

【ファミリアーレ】は、そのまま買取をお願いして、各自入金手続きをしてもらいました。


「何だか物凄い勢いでお金が貯まって行くのですが……」

 グロリアが困惑気味に言います。


「アタシ達、全然自分のお金使わないしね」

 ハリエットが言いました。


「将来の為に貯めておけば良いのです。もしも、如何(どう)しても使いたければ銀行ギルドで投資信託でも買っておきなさい」

 私は、弟子達に言います。


 ・・・


 全員で【冒険者ギルド】から【マリオネッタ工房】のオフィスに移動しました。

 現在8時45分。

 エレベーターに分乗してオフィスがあるフロアに降りると、(くだん)の2人が既にオフィスの前で待っていました。

 2人は、多少の緊張感を見せています。


(ヒューマン)】の男女でした。


「おはようございます」

 私は、挨拶します。


「「おはようございます」」

 2人は、言いました。


「今開けます。【解錠(アン・ロック)】。まだ何もありませんが如何(どう)ぞ入って下さい」

 私は、2人と順番に握手して、オフィスの中に入室を促します。


【ファミリアーレ】と2人は、オフィスに入りました。


「ノヒト・ナカです。如何(どう)ぞ宜しく。この娘がソフィア。私とソフィアが、あなた達の雇主であり、【マリオネッタ工房】のオーナーです」


「うむ。ソフィアなのじゃ」


「ハロルドです」

 男性が名乗ります。


「イヴェットです」

 女性が名乗りました。


 私は、【ファミリアーレ】を順番に紹介します。


「ロルフとリスベットは、【マリオネッタ工房】に籍を置きます。将来的には、この2人を私とソフィアの後継者に考えています。なので、そのつもりで接して下さい。ゴマをする必要はありません。2人は経営者としての知識も経験もないので、将来の事を見据えて指導して下さい」

 私は、ハロルドとイヴェットにお願いしました。


 この事は既に【商業ギルド】を通じて、2人には伝えてもらっています。

 また……そういう指導が出来る人材を……というのが、私から【商業ギルド】に対する希望でもありました。


 将来ロルフとリスベットが【マリオネッタ工房】の経営者となった時に、ハロルドとイヴェットには……本人達が望むような処遇を……と考えています。

【マリオネッタ工房】に残るのか、あるいは退職金を受け取って辞めるのか……。


 希望的観測を言えば……【マリオネッタ工房】が将来的に巨大企業に成長していて、ハロルドとイヴェットの肩書きは変わらないとしても、報酬は現在よりも莫大になっていて、2人が会社に残る事を望んでくれれば……と考えています。


「ロルフとリスベット以外のメンバーは、私とソフィアの身内として顔と名前くらいは認識しておいて下さい」


 ハロルドとイヴェットは、【ファミリアーレ】を見回して頷きました。


 私が【商業ギルド】に要望した募集要項の条件の1つが……種族差別をしない事……です。

 この点に関しては、2人は既にクリアしていました。


 ハロルドの奥さんは、【犬人(コボルト)】。

 イヴェットの旦那さんは、【ドワーフ】。

 2人には、それぞれのパートナーとの間に子供も居ました。


 肝心の業務に関わる事ですが……。

 ハロルドは、経営と法務が行えます。

 私は、彼を社長に指名しました。


 イヴェットは、会計と労務管理が行えます。

 私は、彼女を副社長に指名しました。


 2人には、2つのオフィスの鍵と工場の鍵、そして【スマホ】を渡します。


「これは、【マリオネッタ工房】の法人口座です。管理は、イヴェットに任せます。もちろん、私とソフィアとハロルドが決済します。この中には、25万金貨の現金が入っています。これが【マリオネッタ工房】の当座資金の全てと考えて下さい。今の所私は、【銀行ギルド】などからの融資は考えていません。つまり、25万金貨で当初事業の全てを行ない、その後は、事業の純利益から事業予算を捻出する。実にシンプルで、わかり易いでしょう。【マリオネッタ工房】の目的が……孤児院出身者の支援……だという事は、周知の通りです。その為に重要な事は、安定した事業の継続と社会から支持される事。それを踏まえて経営を行なって下さい」

 私は、【マリオネッタ工房】の法人名義の【銀行ギルド】口座の【ギルド・カード】をイヴェットに手渡しました。


 ハロルドとイヴェットは、頷きます。


「オフィスは、現在ここと、南中央通りにもあります。そちらは、ここより2回り程広いです。どのように使い分けるか、また不便であれば賃貸物件として誰かに貸しても構いません。2人で相談して、その案を私に持って来て下さい」


 現在私達がいるオフィスは、中心街の中の中心街。

【竜城】直下にある巨大なランド・スケープである通称【セントラル・サークル】に面したメイン・ストリートの1本裏通りにありました。

 この【セントラル・サークル】周囲に、あらゆるギルドが建ち並んでいます。

 そして、もう1つのオフィスは、南に向かって伸びたメイン・ストリートに面したビルに入っていました。


「社員10人と工員20人は、明日全員ここに出勤して来ます。彼らは、【冒険者ギルド】の裏にある【宿屋パデッラ】の部屋が空き次第、順次そちらに入居します。【宿屋パデッラ】を社員寮の代わりとして押さえました。近い内に2人も挨拶に行っておいて下さい。工場は、現在工作機械の建て込み中です。完成次第、操業開始です。売るのは、【自動人形(オートマタ)】です」

 私は、【収納(ストレージ)】から【自動人形(オートマタ)】・オーセンティック・エディション2体と、プロトタイプとして2体だけ手作りした【自動人形(オートマタ)】・レプリカ・エディションを取り出しました。


 ハロルドとイヴェットは、驚きます。


「これが【自動人形(オートマタ)】・オーセンティック・エディション。こっちが【自動人形(オートマタ)】・レプリカ・エディションです」

 私は、4体に魔力を流し起動させました。


「「「「マイ・マスター。命令(コマンド)如何(どう)ぞ」」」」


 ハロルドとイヴェットは、目を剥きます。


「製造者コマンド発動。プログラムを実行せよ」


「「「「了解」」」」


「ハロルド、イヴェット。2人には、【自動人形(オートマタ)】・オーセンティック・エディションと【自動人形(オートマタ)】・レプリカ・エディションを1体ずつ与えます。秘書代わりに使って下さい。また、商品のテストや営業にも役立つでしょうから、常に連れて歩いて下さい。ハロルドは、こちらの2体……イヴェットは、こちらの2体の手を握って下さい。はい、そのまま……」


 ハロルドとイヴェットは、恐る恐る両手を伸ばし、【自動人形(オートマタ)】の手を握ります。



「【自動人形(オートマタ)】・オーセンティック・エディション・ワン、及び【自動人形(オートマタ)】・レプリカ・エディション・アン……ハロルドにマスター権限を移譲する」


「「了解。マスター・ハロルド。宜しくお願い致します」」


「【自動人形(オートマタ)・オーセンティック・エディション・ツー、及び【自動人形(オートマタ)】・レプリカ・エディション・ドゥ……イヴェットにマスター権限を移譲する」


「「了解。()()()()()・イヴェット。宜しくお願い致します」」

 2体の【自動人形(オートマタ)】は、魔力反応からイヴェットを女性と認識して正しい敬称を選択しました。


【ファミリアーレ】のメンバーから……女性に対してマスターは如何(いかが)なモノか……という疑問が呈されたので、プログラムを改良した結果です。

 既存の【自動人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディションにも同様のプログラム変更をしました。


「さてと、ハロルド、イヴェット。この【自動人形(オートマタ)】達の売り方を考えましょう」


 私は、【ファミリアーレ】に3銀貨ずつ与えて、正午までの自由時間に送り出しました。

 その時、弟子達の内7人が【収納(ストレージ)】から【自由人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディションを取り出したのを見て、ハロルドとイヴェットは、三度(みたび)驚きます。

 ソフィアとロルフとリスベットは、本人達の希望で【マリオネッタ工房】の経営者会議に残りました。

お読み頂き、ありがとうございます。


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