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第63話。【ミネルヴァの写本機】。

名前…クサンドラ

種族…【(ヒューマン)

性別…女性

年齢…38

職種…【剣達人(ソード・アデプト)

魔法…【闘気】

特性…【才能(タレント)…剣技】

レベル…58

 私とソフィアは、【ホテル・【ラウレンティア】】に【転移(テレポート)】しました。


 約束の時間には早いのですが、【ファミリアーレ】の女子チームは全員グロリア達の部屋に集まっています。

 ロルフ、サイラス、ティベリオは、【マッピング】によると、如何(どう)やら数ブロック先の劇場に居る様子でした。

【ラウレンティア】は、文化都市ですからね。

 観劇するのも良いでしょう。


 私は、グロリア達の部屋をノックしました。

 扉が開かれ入室します。


 女子チームは、ウルフィを中心に車座になっていました。

 おそらく【ラウレンティア】の街中で買って来たのでしょう……ウルフィ用の色々なペット・グッズが部屋に置いてあります。


【ホテル・ラウレンティア】では、客室にペットを連れて入る事は基本的には禁止されていました。

 ペットが部屋の内装や家具や調度を噛んだり引っ掻いたり、排泄物で粗相をするかもしれません。

 あるいは、動物の毛や寄生虫や細菌など、衛生面の懸念もあるのでしょう。


 しかし、動物をホテルに入る事が一律で禁止されている訳ではありません。

 例えば、盲導犬や聴導犬や介護犬などの同伴は認められていました。


 なので、ウルフィを入室させる事も絶対に無理という訳ではありません。

 少なくとも法律で禁止されている訳ではないので、ペットの入室の可否はホテル側の都合です。


 なので私は、世の中で最も一般的で平和的な問題の解決方法を用いました。

 つまり、お金です。


 私が通常より沢山料金を支払う事で、ホテル側はウルフィを部屋に連れて入る事を快く認めてくれました。

 地獄の沙汰も金次第ですよ。


 ウルフィは、ハリエットが握る骨の形をした玩具を咥えて引っ張り合いっこをしていました。


 元気そうです。


「ハリエット。【剣聖】と会ってハリエットに稽古を付けてもらえるように頼んでおきました」


「【剣聖】!あの【剣宗(ソード・マスター)】の?」

 ハリエットは目を輝かせて言いました。


「はい」


「す、凄い。当代最強の剣士から直々に稽古を付けてもらえるなんて……」


【剣聖】クインシー・クインが当代最強……。

 つまり、それだけ現代の剣士は、レベルが低いという事ですね。


「ここだけの話ですが、【剣聖】はモフ太郎氏より弱いですよ」


 モフ太郎氏は、少数のパーティで【超位】の魔物である【古代(エンシェント)(・ドラゴン)】の討伐を達成しています。

 対する【剣聖】は、【超位】の魔物3体に挑み10万人の味方を全滅させられました。


 モフ太郎氏のパーティは、全員レベル・カンストのユーザーで、【神の遺物(アーティファクト)】のフル装備に身を包み、大量の課金アイテムを持ち込んだ上に、仮に負けても所持金半減とレベル半減のペナルティーを支払えば何度でもコンティニュー可能です。

 それと比較されると、【剣聖】が気の毒だとは思いますが……。


 そもそも単純比較で、NPCはレベル99にカンストしても、レベル50のユーザーには勝てません。

 これは、NPCが【チュートリアル】を受けていないからです。


【チュートリアル】を受けると基本ステータスが2倍になりました。

 つまり、【チュートリアル】を経たユーザーのレベル50は、【チュートリアル】を受けていないNPCのレベル100に相当します。


 何となく、ステータスが2倍なら大した事がないように錯覚しますが、とんでもない。

 1対1で戦う場合に、自分より相手の方が2倍肉体が頑丈で、2倍のパワーがあり、2倍のスピードで動いて、2倍のスタミナがあり、2倍の技術があり、動体視力や情報処理速度や演算能力も全て2倍ならば、近接格闘では絶対に勝てません。


「やっぱり、モフ太郎様は凄いんですね?私も剣の道に打ち込んで、モフ太郎様のようになります!」

 ハリエットは、力強く言いました。


「ハリエット。様々な知識を身に付ける事も必要ですよ」


「必要ありませんよ。私は剣さえあれば……」


「ハリエット。実は、モフ太郎氏の本業は大学の先生なんですよ。確か計算機(コンピューター・)科学(サイエンス)博士(ドクター)でした」


 モフ太郎氏は、その緻密な統計データの利用と、ゲーム・バトルのアルゴリズム解析という独自の戦闘理論で一大センセーションを巻き起こした、このゲームのスター・プレーヤーでした。

 彼の理論を分析し、またモフ太郎氏本人からもアドバイスをもらった事で、私達ゲーム開発チームはゲームの戦闘について劇的な改良が行えたのです。


 戦闘時のパターンの完全ランダム化を実装し、各種のハメ技や安易な攻略法、または不正ツールなどの排除に成功しました。

 モフ太郎氏が圧倒的に強かったのは、脳筋ではなかったからなのです。


「え!【剣宗(ソード・マスター)】が副業なんですか?」


「【剣宗(ソード・マスター)】は副()というか、趣味でしょうね」


「しゅ、趣味ぃ!?」


「はい。ただし、趣味の【剣宗(ソード・マスター)】の方も熱心にやっていたのは確かですよ。寝る時間がない……と言っていましたからね」


「眠らないで修行を……」


「ハリエットは、きちんと睡眠時間を確保しなくてはいけませんよ。睡眠不足はパフォーマンスを低下させるので、結果的には非効率なのです」


「わ、わかりました」


「つまり、1つの事だけではなく、色々と見識を広げる事が大切だという事です。本を読んだり、誰かに会いに行って話を聞いたり、大学で勉強したり、時には芝居や舞踏を観たって構いません。そういう枠に囚われない経験が懐の深さや引き出しの多さになり、いざという時に案外ブレイク・スルーの切っ掛けとして役に立つ事は多いのです」


「なるほど……」


 私自身は、チートによって努力もせずに強力な戦闘力を持たされていますが……それは、それ。

 世の中に完全無欠の人は居ません。

 なので、他人を指導する場合、誰でも自分の欠点は棚に上げなければ、やっていられないのです。


 ・・・


 程なくして、男子チームがホテルに戻って来ました。

 彼らは……折角、芸術都市【ラウレンティア】に来ているのだから……と、劇場を数軒梯子(はしご)して来たそうです。

 これも、枠に囚われない経験の一種ですね。


 私達は、一旦全員で【竜都】に【転移(テレポート)】しました。

 今日の狩の成果を買取してもらわなくてはいけません。


【ラウレンティア】の【冒険者ギルド】は、昨日の段階で【商業ギルド】に冷蔵倉庫を間借りするほど手一杯でした。

 これ以上、獲物を持ち込んでも手が回らないでしょう。


 私達は【銀行ギルド】から、【冒険者ギルド】に向かいました。


「いらっしゃいませ、ソフィア様、ノヒト様、門人の皆様」

 エミリアーノさんが挨拶します。


「ギルマス。買取査定をして下さい……」

 グロリアが言いました。


 私は、【ファミリアーレ】の手続きなどは、なるべく弟子達にやらせるつもりです。


「わかりました。え〜と、38個体だね?では、明日の朝までに査定をしておくよ」

 エミリアーノさんは、グロリアに微笑みました。


「ギルマス。アタシ達【ファミリアーレ】って、パーティ・ネームになったんだよ」

 ハリエットが言います。


「はい。聞いています。ノヒト様の言う事を良く聞いて、将来【ファミリアーレ】の威名が世界中に轟くように期待しています」

 エミリアーノさんが言いました。


「うん。頑張るよ」

 ハリエットは、拳を握ります。


 エミリアーノさんは、【ファミリアーレ】のメンバーを微笑ましく見つめていました。


 ・・・


 私達は、【冒険者ギルド】から出て、【銀行ギルド】の裏手にある【マリオネッタ工房】本社事務所に向かいます。

 明日の朝、私が雇った【マリオネッタ工房】の経営陣と顔合わせをする予定でした。

 その前に一度、物件を覗いておこうという考えです。


 事務所の中は……。


 ふむふむ、悪くないですね。


 ロルフとリスベットは、今は【ファミリアーレ】のメンバーになっていますが、本来は【マリオネッタ工房】の所属。

 ここは、ロルフとリスベットの職場でもあります。


 事務所の中は、机や椅子や棚などの最低限の調度類は備え付けでしたが、今後経営陣に必要な物を買い揃えてもらわなければいけません。

 支出が(かさ)むますね。

 こればっかりは止むを得ませんが……。


 私達は、【マリオネッタ工房】本社事務所から【ホテル・ラウレンティア】に【転移(テレポート)】しました。


 ・・・


【ホテル・ラウレンティア】の、私とソフィアの部屋。


「みんなに渡したい物があります」

 私は、言いました。


 一同、返事をします。


 私は、【収納(ストレージ)】から大量の書物と1つの【魔法装置(マジック・デバイス)】を取り出しました。

 私が弟子達に読む事を推奨した……魔法、戦闘技能、戦術、技術、学術……などの書物と【神の遺物(アーティファクト)】の【魔法装置(マジック・デバイス)】……【ミネルヴァの写本機】です。


「ノヒト先生。これは?」

 グロリアが訊ねました。


「あなた達が図書館で見付けられなかったり、禁書扱いになっていた本です。これは原書なので、これから写本を複製して渡します」


「ノヒト先生が持ってたんですか?なら、最初から貸してくれれば良かったのに」

 ハリエットが言います。


「自分で調べるという行動を習慣付けて欲しかったのですよ。初めから、私が貸し与えてしまっては、自分で図書館を訪れ知らない本に出会う機会がなくなるでしょう?」


「確かに、グレモリー・グリモワールの魔導書を手に取る切っ掛けもなかったですわ」

 リスベットが言いました。


「因みに、グレモリー・グリモワールの魔導書は全巻揃っています」


「本当ですか?やった」

 リスベットは、喜びます。


 私は、【ミネルヴァの写本機】を起動させました。

 大きさは家庭用のプリンターほど。

 私は、【ミネルヴァの写本機】の上方カバーを開け、そこに禁書となっていて閲覧が出来なかった……魔道大全……をセットします。

 次に側面側にある差込口から、全ページが白紙の本をセット。


 これで良し。


 私は……複製……と表示されたパネルに魔力を流しました。


「著作権確認……期限切れ。法規確認……禁書。この書物は複製出来ません……」

【ミネルヴァの写本機】が機械音声で言います。


「ゲームマスター権限において複製を許可する」

 私は、【ミネルヴァの写本機】に向かって言いました。


「魔力パターン照合……ゲームマスターと確認……複製を実行します」

【ミネルヴァの写本機】は、複製作業を開始します。


 弟子達は、固唾を飲んで見守っていました。


 そんなに大した機械ではありません。

 (ただ)のコピー機ですから。

 ただし、ページを(めく)らなくても本1冊丸ごとコピー出来る便利な機械ですが……。


 セントラル大陸では印刷技術は、それなりに発達しています。

 輪転機やコピー機に類する物もあり、機械化も進んでいました。


 ただし、他の大陸の状況は様々。

 イースト大陸では、南の【イスタール帝国】と、東の【タカマガハラ皇国】は先進国と見なして差し支えなく、技術力はセントラル大陸と比較すれば、やや劣るという程度。

 他は活版印刷レベルですが、西の【アルカディーア】は、近年徐々に【ドラゴニーア】や【グリフォニーア】から先進技術を導入中。


 ウエスト大陸は、北の【ウトピーア法皇国】は技術力が高いらしいですが、他の国は活版印刷レベル。


 サウス大陸は、【アトランティーデ海洋国】は先進国。

 東西の【オフィール】と【ティオピーア】は、発展途上の戦時体制国家。

【パラディーゾ】と【ムームー】は文明が滅んだ魔物の支配領域。


 ノース大陸は多少状況が特殊で、先進的な印刷技術もある一方、未だに手書き写本の習慣も残っていました。

 どうやら、ノース大陸に多く暮らす【エルフ】族には……文字には神聖な力が宿る……という思想や文化があり、魔法書、歴史書、公文書、契約書類などの類は、原則手書きでなければならないようです。

 使用される文字は世界共通文字でしたが、文字には装飾が施され美しい紋様のようでした。

 なので、ノース大陸で売られている書籍の中には驚く程高価なモノがあります。


 ノース大陸でも、例外的に外交や国際交易に関わる文書には印刷物の使用も認めていました。

 酷く非効率なような気もしますが、ノース大陸の人々にとっては大切にして来た伝統文化なのでしょうから、他国がとやかく言うような事ではありません。


【ミネルヴァの写本機】から禁書の魔道大全が次々に複製されて出てきました。


「魔法詠唱を行わない者も、全員分写本を渡しますので読んで下さいね」


 ハリエットは……え〜……という表情をします。


「ハリエット。先程何と言いましたか?モフ太郎氏は大学の先生なのですよ」


「はいぃ……勉強します……」

 ハリエットは、ガックリと肩を落としました。


 ・・・


 こうして、私が持つ書物の写本が大量に出来上がりました。


「これらの書物は厳重に管理して下さいね。禁書扱いの物も多数含まれています。盗難の恐れもありますので、内部【収納(ストレージ)】に保管しておいた方が良いでしょう」


 まあ、900年前は普通に市販されていた書籍ですから、仮に盗まれても私にとっては大した問題ではありませんが……。


 一同は、返事をしました。


 弟子達は、早速複製された書物を読み始めます。


 グロリアは医学、ハリエットは剣術指南、アイリスは情報分析、ジェシカは魔物の生態、モルガーナは軍事教則、サイラスは肉体鍛錬、ロルフは鉱物学、リスベットはグレモリー・グリモワール著……ゾンビも納得錬金術。


「さてと、食事にしましょう。今日はレストランではなく、この部屋でルーム・サービスを頼みます」


 ウルフィが居ますので、レストランには行けません。


 私達は食事を楽しみ、やがて各自の部屋に戻って行きました。


 ・・・


 食後、ソフィアは直ぐにベッドで熟睡。

【竜城】では……歯を磨いて下さい……とか……入浴して下さい……などと、色々と注意されているソフィアですが、私は余り(うるさ)い事は言いません。

 ソフィアは、神様です。

 そのくらいの判断は、自分で出来る筈。


 さてと、内職をしましょう。


 まずは【自動人形(オートマタ)】・オーセンティック・エディションの製造。

 シグニチャー・エディションより性能が劣るのに、製造行程が変わらないので同じ労力がかかります。

 何となく損をした気分ですが、致し方ありません。


 そういえば、【ファミリアーレ】が新兵訓練(ブートキャンプ)をしている間、ウルフィを如何(どう)しましょうか?


 既に完成している【自動人形(オートマタ)】オーセンティック・エディションを、何体かウルフィの世話係としてホテルの部屋に置いておけば良いでしょう。

 さすがに、ウルフィを連れて魔物とは戦えません。


 私は、順調に【自動人形(オートマタ)】・オーセンティック・エディションを仕上げて行きました。

 もう、慣れたものですね。

 既に完成している【自動人形(オートマタ)】・オーセンティック・エディションに作業を手伝わせている事もあって製造ペースが上がっています。


 明日の予定は、早朝【竜都】の【冒険者ギルド】に【ファミリアーレ】を連れて行き、買取結果を確認しなければいけません。

 それから明日に関しては、午前中を【ファミリアーレ】の自由時間とします。

 私は、午前9時にオフィスで【マリオネッタ工房】の経営をさせる人物2人と面談。

 午後からは【静かの森】で新兵訓練(ブートキャンプ)


 明日も出来る事を1つ1つやっつけて行きましょう。

 う〜ん、誰かマネジメントをやってくれる優秀な人材が欲しいですね。

お読み頂き、ありがとうございます。


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