第62話。創造主。
名前…フランシスクス
種族…【人】
性別…男性
年齢…45
職種…【戦略家】
魔法…なし
特性…【才能…洞察力】
レベル…50
【闘技場】。
私は、【超神位魔法】で宇宙を消滅させられる威力の【無限核融合】を見せました。
ゲームマスター・チートである【超神位魔法】においては、自然界の物理法則を無視して水素が無限に供給され続けるので、あり得ない核融合反応が永久に続きます。
観客席に居る攻撃威力を感知出来る人達には、私の潜在能力が十全に証明出来たでしょうね。
さてと、【無限核融合】の【不滅の結界】の処理をしなくてはいけません。
これも大変なんですよ。
何故なら【無限核融合】は、魔法として発動した初期状態では既にありませんので、【魔法中断】で魔法効果を消去出来ません。
更に、この【不滅の結界】自体も難物なのです。
不滅だからこその【不滅の結界】ですので、原則として発動後に何らかの干渉をして消去してしまう事が出来ません。
まあ、このまま【ドラゴニーア】の【闘技場】の名物オブジェクトとして永久に残しておいても良いのですが……。
どう考えても、邪魔ですよね。
なので、消滅させてしまいましょう。
「【超神位魔法……対消滅】。これで良しと」
刹那、無限大の攻撃威力値を永久に叩き出し続けている【無限核融合】が【不滅の結界】ごと忽然と消滅しました。
【超神位魔法……対消滅】は実数世界……つまりは現実空間に存在する実在の物事に対して、虚数世界……つまりは亜空間に存在する反物質をぶつけて相殺・消滅・虚無化するというチート魔法。
いわゆる【デリート・コマンド】ですね。
当然ながら、これもゲームマスターである私にしか使えないチートの1つです。
消滅させられるのなら【不滅の結界】は不滅ではないのでは?
そう言いたい気持ちは良くわかります。
しかし、そういう仕様ですので。
ここは仕様という身も蓋もない説明で、サラッと流して行きますよ。
原則という場合、必ず例外があるのです。
こうして私は、【無限核融合】を起こし続けていた宇宙を破壊する事が可能な魔法を、【不滅の結界】ごと呆気なく消滅させました。
【対消滅】は実質最強なのじゃないか?
いやいや、何でも消滅させられる訳ではありません。
それに【敵性個体】を殺すだけなら、ゲームマスターである私には必殺の魔法が他に幾らでもあるのです。
私的には、こういう存在を消滅させてしまう系の魔法より、死体が綺麗に残る系の魔法の方が、より強い気がしますね。
死体が残れば【冒険者ギルド】で素材として買取してもらえますので。
1つのシンプルな疑問として、ゲーム発売当初から存在する【不滅の大理石】や【闘技場】の観客席に張られた【不滅の結界】を、【対消滅】で消滅させられるのか……という問題が提起されますよね?
【不滅の大理石】や【闘技場】の観客席に張られた【不滅の結界】などの【初期構造オブジェクト】は、【創造主の魔法】という、ゲームマスター以上にチートなプログラムによって創造されています。
なので、ゲームマスターの私にも、【創造主の魔法】で創られたモノは破壊出来ません。
【創造主】とは、つまり、この世界のチーフ・プロデューサーの事です。
チーフ・プロデューサーのフジサカさんは、元気でしょうか?
相変わらず、持病のヘルニアに苦しんでいるのでしょうか?
可愛い女の子を紹介してくれる……という約束をしましたが、あれは未だに有効なのでしょうか?
はっ、いけない、いけない……。
話を戻しましょう。
ゲーム発売時点から存在する何かしらには、ゲーム・マスターの私であっても介入出来ないという基本原理がありました。
何故?
何故なのかは、それを可能にした場合に起こり得る問題を想像すればわかり易いでしょう。
もしも、ゲームマスターの私が世界の基幹デザインに介入、または破壊が可能な能力を付与されていたとします。
私は、一介のゲーム会社のサラリーマンでした。
例えば、うちのゲーム会社のオーナーで、この世界の生みの親であるチーフ・プロデューサーのフジサカさんや、ゲーム・ディレクター、上級管理職……など、私より偉い立場の人達と喧嘩をしたり、意地悪をされたり、パワハラをされたり、叱られたり……などが、あったとします。
もしも、私がそれを恨みに思い、その上役を困らせてやろうとしてゲームをメチャクチャに壊してしまおうと思えば?
もちろん、私はそんな事をするつもりは全くありませんよ。
そんな事をしても意味がありませんからね。
そして、何よりゲームしか能がなかった私を会社に誘ってくれて、仕事のやり方を教えてくれて、目を掛けてくれた、フジサカさんが心血を注いで創った世界を壊すなんて事は絶対に出来ません。
私に、この世界の基幹デザインを破壊する能力があり、もしも仮の話として実際にそれを行なってしまえば、莫大な被害が発生するでしょう。
この世界のログイン・ユーザー数は、平均日毎カウントで全世界に数百万人も居ました。
単純なゲーム購入者数は、さらに膨大です。
千万単位の顧客に甚大な損害を与えれば、下手をすれば会社は倒産ですよ。
【創造主の魔法】で創造されたモノを破壊可能という事は、そういう危険を野放しにするという事なのです。
そんなリスクを孕んだ爆弾のスイッチを経営者でもない、只の一社員である私に管理させるでしょうか?
真面な会社なら、そんな事は絶対にしません。
株主総会で吊るし上げられてしまいますので。
そんなリスク管理の甘い会社は、東証一部上場企業になっていないのです。
なので、ゲームマスターの私であっても、ゲーム発売時点から存在するゲームの基幹デザインには介入不可能なように何重ものセキュリティが施されていました。
まあ、厳密に言えば、この世界の基幹デザインすら変更可能な緊急避難的プログラムとして……管理規定……というモノが存在するのですけれどね。
あれは、チーフ・ゲームマスターの私を含めて複数の権限保持者が承認しないと起動しないプログラムなので、存在はしても運用は不可能なのです。
・・・
私は、ソフィアと共に、アルフォンシーナさん、秘書官さん、【剣聖】クインシー・クイン、フランシスクスさん、クサンドラさんが待つ【闘技場】の貴賓席に向かいました。
「ノヒトよ。また武道大会が只の賭けの対象でしかなくなってしまったようじゃ」
ソフィアが貴賓席から観客席を見下ろしながら言います。
見ると、トーナメントが再開された【闘技場】は、何だか白け気味。
観客は、明らかにトーナメント参加者の試合に興味を失っている様子。
まあ、ソフィアと私が力を見せ付けた後で、このレベルの試合を観て盛り上がれという方が酷でしょう。
まあ、ボクシングの階級制のように、武道大会もフェア級とチート級に分ければ良いのですよ。
「クイン伯。如何ですか?私とソフィアの力に不足があると思いますか?」
私は、訊ねました。
「それは、思う訳ないだろう……」
【剣聖】は、溜息混じりに言います。
「クインシーよ。ならば、サウス大陸での事前の根回しと段取りと事後の始末と再建……そういう面倒事の一切合切は其方に任せても良いのじゃな?我もノヒトも、色々と忙しいのじゃ」
ソフィアが言いました。
「わかった……いや、わかりました。サウス大陸を……いえ、俺達の世界の事を如何か頼みます」
【剣聖】は、深々と頭を下げて言います。
「うむ」
ソフィアは、頷きました。
「こちらこそ、諸々の差配をお願いします」
私も【剣聖】に頭を下げて依頼します。
私は、その場で【剣聖】や、その頭脳である【戦略家】のフランシスクスさん、【剣聖】の直弟子であり右腕のクサンドラさんと……サウス大陸奪還作戦……の基本戦略を話し合いました。
【ドラゴニーア】所属の冒険者パーティである【月虹】から話を聞いた時にも問題視されていましたが、やはりサウス大陸の国家間での思惑の違いから来る足並みの乱れは深刻なのだとか。
政治は面倒なので、【剣聖】に丸投げします。
その為に私とソフィアは、【剣聖】を……サウス大陸奪還作戦……の当事者に巻き込んだのですから。
私は、使えるものは何でも使い、使い倒していくスタイルなのです。
「ゴトフリードにも話を通しておけば良い」
【剣聖】が言いました。
「どなたですか?」
「ゴトフリード・アトランティーデ。【アトランティーデ海洋国】の王で、一応俺が剣を預けている奴だ。奴は、王にしては話がわかる。協力を仰げば快く引き受けてくれる筈だ」
【剣聖】は、言います。
「わかりました。2日後にお会いする予定なので、その時にお願いしてみます」
「うむ。当代の【アトランティーデ海洋国】王は、中々の人物じゃと聞き及んでおる」
ソフィアが言いました。
「クイン伯。サウス大陸の事が片付いたら、1つお願いがあるのですが」
私は、【剣聖】に言います。
「ノヒト様からのお願い?無理難題でなければ……」
【剣聖】は、明らかに顔を引き攣らせながら言いました。
「私は最近9人の弟子を取ったのですが、その中に【剣宗】になりたいという者がいます。私は、戦闘時に剣も使いますが、体系的な剣術を学んだ経験がありません。彼女に稽古を付けてやって欲しいのですが」
「ああ、そんな事ならお安い御用だ」
【剣聖】は、わかり易く安堵しながら言います。
私、【剣聖】が警戒する程の無茶振りをしましたか?
しましたね。
サウス大陸奪還作戦に関する煩雑な調整関係を全部を丸投げしています。
「ところで、ノヒトよ。あの魔法……何という名じゃ?」
ソフィアは、ホット・ドッグを嚙りながら訊ねました。
「どの魔法ですか?」
「あれじゃ。四角い光がビカーーッとなったヤツじゃ。何じゃ、あのデタラメな威力は?あんな物を見せられたら、誰が強いだとか弱いだとか、そんな事は、もはや何もかもが馬鹿馬鹿しくなるのじゃ。あんな魔法を持っているのでは、我はノヒトには勝てぬのじゃ。悔しいが、それを認めざるを得ぬ」
ソフィアが言います。
ソフィアは、あれが使えない見世物魔法だという事を知りません。
後でコッソリと教えてあげましょう。
ソフィア以外の人達には、抑止力的な意味で……私は、こんな凄い攻撃手段を持っていますよ。もしも、何かチョッカイを出して来たら、わかっていますよね?……という脅迫に使えますので、あれが実用不可能な魔法だという事は秘匿しておいた方が良いですからね。
確かに、あの【無限核融合】は計測威力無限大……つまり数値上は最強かもしれませんが、使えば自分も含めて何もかも滅びてしまいました。
そんな物騒で制御出来ない魔法を実際に使用するシチュエーションは永久にありません。
【無限核融合】は、発動した個別の魔法自体は、それぞれ攻撃判定のないモノばかりです。
あれは、攻撃魔法の行使ではなく、単なる現象と反応。
私の手持ち魔法には、単発でソフィアの【神竜の咆哮】を上回る威力のモノはありません。
ソフィアに訊ねられましたが、あの【無限核融合】は魔法名ではありません。
「名前はありません。実際に行った詠唱自体は、【超神位魔法……不滅結界】と、【転送……水素】と、【超神位魔法……複製転写……水素……数量……無限大】です」
「長ったらしいのじゃ。覚えきれないから、もう一度教えるのじゃ」
「覚えても使えませんよ」
「何故じゃ?」
「【超神位魔法】は、ゲームマスターにしか使えないからです」
「やってみなければ、わからないのじゃ。覚えて試してみるのじゃ」
私は、ソフィアに懇切丁寧に魔法詠唱と魔力の扱いを教えました。
・・・
「ぬぐぐ、出来ぬ……」
「だから言ったでしょう。【超神位魔法】は、ゲームマスターにしか使えないのですよ」
「ぐぬぬ……【調停者】は狡いのじゃ」
【調停者】が狡いと、ソフィアは以前にも言っていましたよね?
初めて、ソフィアと試合をした時に……。
私は、ソフィアの口ぶりに多少の違和感を覚えました。
何だか、私以外のゲームマスターを知っているような……。
確かに、ゲーム・マスターは私以外にも沢山居ましたが、【神竜】が君臨するセントラル大陸は私の管轄で、特に【神竜】の本拠地である【竜城】は、私の私室が置かれている私の主要な職場です。
私以外のゲームマスターとソフィアが出会う機会は殆どないと思うのですが……。
「ソフィアは、私以外のゲームマスターを知っているのですか?」
「知っているのじゃ。あれは900年前の事じゃった。亜空間におった我に話し掛けて来た【調停者】がおったのじゃ。其奴は、我と戦ってみたいと言ったのじゃ。我は、彼奴の挑戦を受けてやったのじゃ。すると、彼奴は、我を亜空間から何処か異界に連れて行ったのじゃ。そこで戦ったのじゃが、彼奴は理不尽に強かった。我の攻撃は何も効かず、彼奴のデコピン一発で、我は頭を粉々に吹き飛ばされたのじゃ……。それ以来、我は彼奴めに一矢報いる為に、数々の必殺技を編み出しておるのじゃ」
頭を……って、エグいですね。
しかし、魔法などを使わず身体能力だけで【神竜】を瞬殺したのですか?
何それ?ヤバくない?
そんな馬鹿みたいに強いゲームマスターなんか居ましたかね?
私は全てのゲームマスターを統括するチーフ・ゲームマスターですが、そんな脳筋ゲームマスターの事は聞いた事がありません。
私は、全ゲームマスターの中でブッチギリに最強だった筈ですが……少なくとも、私は【神竜】の頭をデコピン一発で吹き飛ばすなんて不可能です。
「そのゲームマスターの名前は?」
名前を聞けば、誰かはわかります。
「忘れもせぬのじゃ。彼奴の名前は……ヘルニアおじさん……と言ったのじゃ」
あ……。
「ソフィア。その人はゲームマスターじゃありません」
「なぬーっ!彼奴め、この我を謀りおったなーーっ!おのれ」
「その人は【創造主】ですよ」
ヘルニアおじさん……は、チーフ・プロデューサーのフジサカさんのハンドルネームです。
戯れに【神竜】と戦うとか、あの人は何をしているんだか?
仕事して下さいよ。
「なぬーっ!我は【創造主】と戦ったのか?」
「そうですね」
「知らなかったのじゃ……。ノヒトなら【創造主】に勝てるのか?」
「ははは、絶対に無理ですね。【創造主】は、この世界を創った人です。あの人が指先を、こうカチッと動かせば、私なんか一瞬で消滅して終わりです」
「なぬ?ノヒトほどの強者をしても指先一本か?」
「はい。それに、【創造主】は私の上司で、私は地球では、あの人から給料を貰って働いていたので、立場も弱いですしね。逆らえません」
「ふむふむ。なるほど」
私とソフィアの会話に、【剣聖】達は終始ドン引きでした。
お読み頂き、ありがとうございます。
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