第61話。本物のチートって、こういうヤツですので。
名前…クインシー・クイン
種族…【ハイ・ヒューマン】
性別…男性
年齢…333歳
職種…【剣宗】
魔法…【闘気】
特性…【才能…剣技、風格、威圧】
レベル…83
世界冒険者ギルド、グランド・ギルド・マスター
【アトランティーデ海洋国】伯爵。
【竜城】の会見場。
昼食会談のテーブルには、デザートと食後酒、紅茶などが運ばれて来ます。
私とソフィアは、魔物に支配されているサウス大陸を人種の手に奪還する作戦に際して、【剣聖】クインシー・クインに協力を依頼しました。
私とソフィアの圧倒的な戦闘力でサウス大陸を覆った無数の魔物を殲滅する間、その戦場に誰も近付けないようにして無為な犠牲を防ぐ為です。
【剣聖】は【世界冒険者ギルド】のトップであるグランド・ギルド・マスターでした。
彼が号令すれば、世界中の冒険者が動きます。
また、【剣聖】は、サウス大陸の北方国家【アトランティーデ海洋国】の伯爵位を持つ貴族でもありました。
つまり、私とソフィアの2人がサウス大陸で暴れている間、【剣聖】には、その絶大な影響力を使って、味方に犠牲を出さないように取り計らってもらいたいという戦略意図なのです。
「納得は行かないが……。ソフィア様とノヒト様が本当にデタラメに強いってんなら、それが道理なのは理解した。犠牲を出来るだけ少なくしたいのは、俺も同意見だ。しかし、だとするなら、この300年の苦労は何だったんだ?ソフィア様とノヒト様は、今まで何をしていた?俺達が仲間の屍を踏み越えて、身内の血が混ざった泥水を啜っていた時、あんたらは何処で何をしていたんだ?」
【剣聖】は、厳しい口調で言いました。
「クイン伯爵。あなたも【神竜】様が現世に顕現するには、制約がある事はご存知の筈です。その制約を取り払って【神竜】様を御復活させて下さったのが、ノヒト様です。ノヒト様も、ご自身の意思とは無関係に、900年間ずっと眠らされていたのです。それを非難するのは筋違いです。過去を悔み、誰かの所為にしたい気持ちは理解出来ない訳ではありません。あなたは300年余り苦しんで来たのでしょうが、私も800年この世界の苦しみを見続けて来たのですから……」
アルフォンシーナさんが静かに言います。
「勝てるんだな?それさえ担保してくれるなら、俺は、この【アロンダイト】に賭けて、あんたの言う策に協力してやる。力を証明して見せてくれ」
【剣聖】は、異論を許さない口調で言いました。
【任意発動能力】の【威圧】を発動していますね。
耐性の低い秘書官さんが震えています。
まあ、良いでしょう。
「クインシーよ。3日後の15日、武道大会の決勝の後、其方とノヒトで模範試合をすれば良いのじゃ。それで、ノヒトの力を確認しろ」
ソフィアが言いました。
「ははは……ソフィア様、あんたは何もわかっちゃいないな?仮にノヒト様の強さが本物だったとして、俺に勝ったとしよう。だから何だ?サウス大陸の現状は、そんな生易しいもんじゃないんだよ。俺が10万の精鋭を掻き集めて【大密林】に攻め込んだ時、何が起きたと思う?15分だ。たった15分で、俺とクサンドラ以外の仲間達は全滅だ。敵は【超位】の魔物が3頭。たった3頭に10万の精鋭が15分で全滅させられたのに、サウス大陸には、それこそ百万・千万の単位で強力な魔物が蠢いていやがるんだぜ。【神格者】だろうが何だろうが、あの魔物の大群相手には敵わないんだよ」
【剣聖】は、言います。
「ふん、下らん。其方らが全滅したのは弱いからじゃ。我やノヒトに八つ当たりするでない、この小僧めがっ!見たいと言うのなら見せてやるのじゃ。アルフォンシーナよ、今すぐ闘技場を空けさせよ」
ソフィアは、言いました。
「ですが、今は武道大会の本戦が始まっております。各国の要人も観戦しており、予選会の時のようには……」
アルフォンシーナさんは、困惑気味に言います。
予選会の時?
あ〜、私が頼んだ件ですね。
あれは、やっぱり、それなりに問題だったのでしょうか?
そんな口ぶりでしたよね……。
何か、すみません。
「アルフォンシーナよ。これは【神竜】としての命令じゃ」
ソフィアは、反論を許さない口調で言いました。
「畏まりました」
アルフォンシーナさんは、直ちに退室して行きます。
「ノヒトよ。この弱虫の小僧に、【神竜】と【調停者】の真の力というモノを見せてやるのじゃ」
ソフィアは、言いました。
・・・
【闘技場】。
つい今し方まで白熱した試合が繰り広げられていた【闘技場】の真ん中に、【神竜】形態に現身したソフィアが立っています。
その荘厳な【神威】を帯びた50mの巨体を目にした観客は、言葉を発さず固唾を飲んで見守っていました。
これから、ソフィアが守護竜としての力を見せるという余興。
観客席には、世界各国の要人達がいました。
【神竜】の力は、当然世界各国に伝わる事になります。
【神竜】の本気を見れば、同盟国や友好国は【ドラゴニーア】を裏切ろうなどとは考えなくなるでしょうし、友好的でない国は【ドラゴニーア】と敵対した時の本当の恐さを知るでしょう。
【剣聖】とフランシスクスさんとクサンドラさんは、貴賓席から厳しい表情で【闘技場】を見つめていました。
「さて、見せてやる。これが我の真の力ぞ。【神竜の咆哮】、【神竜の咆哮】、【神竜の咆哮】、【神竜の咆哮】、【神竜の咆哮】、【神竜の咆哮】、【神竜の咆哮】、【神竜の咆哮】、【神竜の咆哮】、【神竜の咆哮】、【神竜の咆哮】、【神竜の咆哮】、【神竜の咆哮】、【神竜の咆哮】、【神竜の咆哮】、【神竜の咆哮】、【神竜の咆哮】、【神竜の咆哮】、【神竜の咆哮】、【神竜の咆哮】、【神竜の咆哮】、【神竜の咆哮】、【神竜の咆哮】、【神竜の咆哮】、【神竜の咆哮】……ゲッホ、ゲッホ、ゲッホ……煙い……まあ、大体こんなモノか」
ソフィアは、ゲーム公式の最強攻撃を連発しました。
威力を調節したモノではなく、正真正銘本気の【神竜の咆哮】。
【剣聖】達は、顎が外れるほど驚愕しています。
【高位】以上の能力者は、魔法や攻撃を見れば、その凡その威力を推し量る事が可能でした。
【剣聖】程の実力者なら、ソフィアの【神竜の咆哮】が如何程の威力なのか相当程度正確に理解出来た筈です。
因みに、あの本気の【神竜の咆哮】25連発でなら、大陸の4分の1程を文字通り跡形もなく消し去る事が可能でした。
もちろん、ゲーム開発時点から存在している【初期オブジェクト】の類は不滅のまま残存していますが、土台の大陸が丸っと消滅するのです。
【神竜】形態のソフィアの姿が【闘技場】から掻き消えました。
【転移】したのです。
ソフィアは、予め【転移座標】を設置しておいた【闘技場】の入場ゲート奥に現れました。
私は、ソフィアが【神官服】を着るのを手伝ってやります。
「さあ、次はノヒトの番じゃ。とびっきり派手なヤツをブチかまして、あの弱虫な【剣聖】共に見せ付けてやるのじゃ」
ソフィアは、そう言うと【闘技場】から出て一目散に売店に向かい、ホット・ドッグを大量買いし始めました。
私は、ソフィアと交代で【闘技場】に足を踏み入れます。
さてと……とびっきり派手なヤツを……と言われましたが、既に【神位魔法】は【ドラゴニーア】の公職者の前で何度か見せてしまったので、目新しくもありません。
ならば先ずは小手調べから……。
「【天変地異】、【大洪水】、【煉獄】、【神風】、【雷霆】、【光子爆裂】、【重力特異点】……」
私は、【神位魔法】を片端から並べて詠唱し、発動を保留します。
これら【神位魔法】の【神の怒り】の発動キーは……。
「【最後の審判】」
私は、7発溜めた【神の怒り】の発動キーを詠唱しました。
詠唱の完了と共に【闘技場】の中を、人種には行使不可能な【神位魔法】7発分の超威力の魔法が猛り狂います。
【神位魔法】を7種類同時に発動させた、幕の内弁当的な、お子様ランチ的な、魔法。
厳密に言えば、その発動効果を打ち消しあったりして効率が悪いのですが……。
取り敢えず、見た目に派手さはあるでしょう。
【剣聖】達の様子を見ると、再び驚愕の表情ですが、ソフィアの【神竜の咆哮】25連発の後ですから、相当見劣りしますね。
【最後の審判】は、軽く【竜都】を壊滅させられる威力なのですが、全力全開の【神竜の咆哮】たった1発の7割の威力しかありません。
【神竜の咆哮】は【神位魔法】10発分の威力ですからね。
つくづく【神竜】の存在はバランス・ブレイカーなのです。
次の魔法は……。
「【超神位魔法……不滅結界】……」
私は、【闘技場】の観客席に張られた【不滅の結界】と、ほぼ同じモノを創り出しました。
私の目の前に、空中に制止した一辺が10cmの立方体の【結界】が存在します。
その【結界】は、その内外を完全に隔絶する不滅の箱でした。
こんなモノが創れるなら何でもありじゃね?
いや、そうでもないのです。
これの大きさは一辺が10cmの立方体で固定。
その上、発動後には全く動かせません。
使い勝手が悪過ぎるのです。
これは、ゲームマスターの私以外には誰にも真似出来ません。
ゲーム運営者権限という、所謂チートですので。
しかし、観客席の反応はイマイチでした。
【結界】は、見た目上透明で何も見えませんし、ましてゲーム運営者権限の行使による効果は魔力反応を伴いませんので、何も起きていないようにしか見えないのです。
いやいや、お楽しみはこれからですよ。
私は、全てのモノを完全に遮断する【結界】の中に物質を転送し始めました。
「【転送……水素】……」
私は、一辺10cmの立方体の【不滅の結界】の中に水素を満たしました。
だから何?
はい、そういう感じでしょうね。
まだまだ、これから……。
「【転送……水素】。【転送……水素】。【転送……水素】。【転送……水素】。【転送……水素】……」
【不滅の結界】の中は、もう水素でパンパンの状態です。
ですが、まだまだ……。
「【転送……水素】。【転送……水素】……」
ああ、もう面倒臭い……。
「【超神位魔法……複製転写……水素……数量……無限大】」
私は、一辺10cmの立方体の【不滅の結界】の中に水素を無限コピペして出現させました。
すると何が起きるか?
水素が無限に重複して存在する訳ですので、原子核融合反応が起きます。
はい、水爆……水素核爆発……純粋核融合反応でした。
これは、太陽の熱核融合反応と同じ現象。
いいえ、燃料である水素が無限に重複しているので、太陽どころの騒ぎではありませんね。
宇宙全部を丸ごとブッ壊すだけの威力があります。
正にチート。
この【無限核融合】に比べたら、【神竜の咆哮】ですら、全く存在しない位の微細な威力しかありません。
何せ【無限核融合】は……攻撃威力値無限大……などという、もはや訳のわからない数値が計測されているのですから……。
でも、この魔法の実用性は0。
何故なら、【無限核融合】は宇宙を消滅させてしまいます。
空間も時間も物質もエネルギーも概念すらも……ありとあらゆるモノを完全に消滅させてしまいました。
私は不死身で無敵ですが、空間も時間も物質もエネルギーも概念すらも……何もない、ひたすらの虚無空間にいて、その状態の私は生きている、あるいは存在していると言えるのでしょうか?
なら、無限大でなくて100倍とか100万倍とかにしたら?
そうですね。
初期反応の威力を調節する事は可能です。
しかし、この純粋核融合というヤツは曲者でして……。
私は、全く制御出来ないんですよね〜。
ははは……。
水素同士が融合して核反応を起こしたらヘリウムになるのですが、そのヘリウムも核融合してリチウムに……と、【無限核融合】は繰り返し反応して行きます。
その時に周りの物質も巻き込みながら、どんどん雪だるま式に反応を繰り返して行って、どっちにしろ収拾が付かなくなってしまうのですよ。
太陽の場合は、太陽自体の膨大な質量や物質流体摩擦によって発生する超強力な重力や電磁場で熱核融合反応が絶妙な具合に制御されているのです。
しかし、私が魔法で不自然な形で人為的に、また強制的に引き起こした平場の核融合反応には、重力や電磁場などによる反応調節機能が全くありません。
なので、簡単に制御不可能状態になりました。
そして、無限に核融合を繰り返したモノは、最終的に無限の質量を持つブラック・ホール以上のエネルギーを持つ訳がわからない謎の天体に成り、それが宇宙を空間ごと全て吸い尽くしてしまいます。
そう考えると、太陽などの自然の摂理は、本当に上手く出来ているモノですよね。
感心します。
つまり、危なっかしくて、とても使えたモノではありません。
これは、私の【超神位魔法】によって創り出された【不滅の結界】の中だけでしか発動させられない、全く実用性のない……言わば見世物魔法。
完全無欠な無用の長物でした。
とはいえ、見世物としてのインパクトは凄まじいのです。
何故なら宇宙を簡単に消滅させる威力なのですから。
観客席を見回すと……。
威力感知が出来ない人達は何が起きているかわからずにポカ〜ンという表情をしていました。
しかし、【剣聖】を始めとする攻撃威力値を感知出来る人達は、殆ど石像のように凍り付いています。
ソフィアでさえ、私の【不滅の結界】の中身を凝視してドン引きしていました。
如何ですか、お客さん。
今皆さんが見ている光は、この宇宙に存在するモノの中で一番明るいモノなのです。
本来ならば見た瞬間に網膜が焼失して失明確実な光を、本日は私が作り出した【不滅の結界】と、【闘技場】の観客席に張られた全ダメージ不透過の【不滅の結界】があるおかげで直視出来るのですから貴重な経験なのですよ。
まあ、厳密に言えば網膜に映った光というのは、視神経から脳に伝わる時に光速よりは遥かに遅い速度で伝わります。
その時点では、もう既に網膜は破壊されてしまっていて何かを見ている状態とは言えず、光を見た記憶を認識しているに過ぎない訳ですが……。
とにかく、私が【剣聖】に見せてあげたかった……真の力……とやらは、こんな感じです。
本物のチートって、こういうヤツですので。
お読み頂き、ありがとうございます。
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