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第60話。【剣聖】クインシー・クイン。

チュートリアル後。


名前…リスベット

種族…【ダーク・エルフ】

性別…女性

年齢…15歳

職種…【化学者(ケミスト)

魔法…【低位魔法】(未習得)、【闘気】、【収納(ストレージ)】、【鑑定(アプライザル)】、【マッピング】、【防御魔法】(未習得)

特性…【才能(タレント)…防御魔法】

レベル…8

【竜都】に帰還しました。


 私は、最近いつも着ている目立たない地味な【濃紺色のローブ】ではなく、目の覚めるような純白の【ゲームマスターのローブ】に着替え、腰に【神剣】を帯びます。

 ゲームマスターの正装(スーパー・フォーマル)でした。


 宝飾品代わりに、【神の遺物(アーティファクト)】のアイテムなども身に付けています。

 アイテムには、【耐久力(エンデュアランス)】最大向上、【防御力(ディフェンス)】最大向上、【魔法(マジック)防御力(・ディフェンス)】最大向上、【精神(メンタル)耐性(・レジスタンス)】最大向上……などなど、一般の人々から見れば素晴らしい【効果付与(エンチャント)】が施されていますが、元来ゲームマスターの私は……当たり判定なし・ダメージ不透過……の無敵体質なので、虚仮威(こけおど)し以上には何の意味もないガラクタの(たぐい)でした。


 これから私は、【剣聖】クインシー・クイン伯爵と昼食会を兼ねた会談に臨まなければなりません。

 相手は、この世界(ゲーム)の要人でした。

 おそらくクイン伯は、この世界の住人(NPC)としては最強クラスの【剣宗(ソード・マスター)】で、高位の爵位持ちですので、それなりに緊張感はあります。


 まあ、私は普段、この世界(ゲーム)の圧倒的最強個体であり、最高権威者であり、現世最高神である【神竜(ソフィア)】と一緒に居ますが、()()は見た目がチンチクリンの幼稚園児ですから緊張などはしません。


 まあ、ジタバタしたところで、なるようにしかなりませんしね。

 考えても解決出来ない問題というのは、考える意味自体が存在し得ないのです。


 ・・・


 私は、会見場近くの控え室で待たされていました。

 どうやら、今日の()()は……公式の会談……という扱いになっているらしく、何かと儀礼格式の(たぐい)(うるさい)そうで、格式上位者である私が後から会談場に入る決まり事があるのだとか。

 面倒です。


「はあ〜……面倒臭いですね。私がルールだと宣言して、やりたいようにやったらダメなのでしょうか?」

 私は、思わず呟きました。


「【調停者】様たるノヒト様が、そう仰れば私達下々の者は誰も異は唱えられません」

 アルフォンシーナさんが言います。


 つい、心の声が口から漏れていましたね。


「ははは……そうしたい気分です」


 本当に面倒で仕方がありません。

 ただし、私が儀礼格式を無視すれば、【ドラゴニーア】が不名誉な嘲りを受ける事になるでしょう。

 この会談をセッティングしたのは、【ドラゴニーア】の大神官たるアルフォンシーナさんなのですから。


「どうぞ、お望みのままになさって下さい」

 アルフォンシーナさんは微笑みました。


 アルフォンシーナさんには日頃お世話になっているので、なるべく迷惑を掛けたくはありません。


 ・・・


 会見場の重厚な扉が開かれ、アルフォンシーナさんが私を先導して入室して行きました。


 私は待機。


 しばらくして後。


「【調停者】ノヒト・ナカ様」

 衛兵役の竜騎士団の【ドラゴニュート】が私の名前を呼びました。


 私は、どんな感じで歩くべきか逡巡(しゅんじゅん)します。


 ゆっくりと(おごそ)かに歩くべきか?

 偉そうにするべきか?


 歩幅は?

 腕は振るのか?


 そんな事を考えていたら、普段如何(どう)やって歩いていたのか、わからなくなって来ました。


 もう、適当で良いや。

 ゲーム会社のサラリーマン時代を思い出して、私の立場が【剣聖】より上位だというのなら、相手を会社の部下や後輩として扱えば良いのです。

 そうしましょう。


 私は、会議に遅れて来たというような早足で、恐縮気味に会見場に入りました。

 偉くもないのに偉ぶっても仕方がありません。


 すると、アルフォンシーナさん、秘書官さん、竜騎士団8人の他に、男性が2人と女性1人が、全員起立して待っていました。


 真ん中にいるの男性が【剣聖】。

鑑定(アプライザル)】で見ていますが、彼だけ明らかに魔力値が異常です。


 まあ、アルフォンシーナさんの方が魔力値は高いのですが、剣聖の魔力は、何というか……寄らば斬る……というような禍々しい程の殺気を帯びていました。

 正に人間凶器。


 あとの2人は、【戦略家(スキーマー)】の男性と、【剣達人(ソード・アデプト)】の女性。

 2人も上位職ですね。


兵法家(ストラテジスト)】、【戦術家(タクティシャン)】と来て、次が【戦略家(スキーマー)】。

 この上に最高位で【軍師(ウォー・ロード)】という職種もありますが、【軍師(ウォー・ロード)】は、全ユーザーの統計データを自由に見る事が出来た私でも、数十人しか実在を知りません。

兵法家(ストラテジスト)】系は、とにかく育成が困難な為、最高位まで育てるのは至難の技なのです。


剣士(ソード・マン)】、【剣豪(ソード・エキスパート)】と来て、次が【剣達人(ソード・アデプト)】。

 この上には、もちろん最高位の【剣宗(ソード・マスター)】があります。


【剣聖】の見た目は、30代前半程の男性でした。

 しかし、彼は1000年以上の寿命がある【聖格者】なので、見た目上の老若は余り意味がありません。


 名前…クインシー・クイン

 種族…【ハイ・ヒューマン】

 性別…男性

 年齢…333歳

 職種…【剣宗(ソード・マスター)

 魔法…【闘気】

 特性…【才能(タレント)…剣技、風格、威圧】

 レベル…83


 う〜む、ステータスは、私が知る限りの最強の【剣宗(ソード・マスター)】だった、モフ太郎氏よりも全体的に低いですね。

精神力(メンタル)】系のステータスだけは、モフ太郎氏より僅かに高いでしょうか……。


 しかし、NPCは【経験値】のレベル換算率が、ユーザーと比べてクッソ低いのです。

 にも拘らず、NPCの戦闘職でレベル83なんて、どれだけの数の魔物を倒して来たのかという話。

 ちょっと、常軌を逸しているレベルです。


 まあ、ゲーム会社が初期配置したNPCならば、最初からレベル99カンストのプレイヤーも沢山居ましたが、【剣聖】はレベル1からレベル・アップしたのですからね。


【剣聖】が帯剣するのは、【神の遺物(アーティファクト)】の【アロンダイト】。


 ほほう。


【アロンダイト】は、この世界(ゲーム)トップ・クラスの一振りです。

 しかし、私の愛剣【アルタ・キアラ】のコピーと言われている剣でした。


 いや、どちらがオリジナルで、どちらがコピーなのかは、ユーザーの間でも意見は分かれるところなのですが……。

 私は【アルタ・キアラ】がオリジナルだという意見を支持していました。

 好みの問題です。


【アルタ・キアラ】と【アロンダイト】は、同じ形状で同じような性能です。

【アロンダイト】は……初心者(ヌーブ)最強の剣……と呼ばれ、【アルタ・キアラ】は……ガチ勢最強の剣……と呼ばれていました。


【アロンダイト】は高性能で不変。

 使い手を選ばず、誰が扱っても強力な性能に余り違いは出ません。


 一方で【アルタ・キアラ】は、カタログ・スペックでは【アロンダイト】に劣りますが、【闘気】(魔力)を込めれば、その魔力量に応じて性能が変化するという物。

 つまり、魔力無限の私が使えば、【アルタ・キアラ】は最強無比の剣なのです。


 まあ、私は、【神剣】というブッ壊れ性能のチート剣を持っていますので、あくまでも……世界(ゲーム)に実装されていた剣の中では……という比較ですが……。


「ゲーム・マスターのノヒト・ナカです」

 開口一番、私は名乗りました。


「クインシー・ク……」

 私と同時に名乗り掛けていた【剣聖】は、口籠(くちごも)ります。


 アルフォンシーナさんは控え目な苦笑いをしました。

 秘書官さんは……あっ……という顔をしています。


 ん?

 私は何かミスったのでしょうか?


 下位の者から名乗るのが、()()儀礼上の決まりでございます。


 アルフォンシーナさんが【念話(テレパシー)】で、()()()()()教えてくれました。


 そうでしたか……。

 いや、もう今更取り繕っても仕方がありません。


「【剣聖】クインシー・クイン伯。それから、【戦略家(スキーマー)】のフランシスクスさんも、【剣達人(ソード・アデプト)】のクサンドラさんも、如何(どう)ぞ座って下さい」

 私は、【鑑定(アプライザル)】で知った情報を加味して各自に着席を促しました。


 一瞬【剣聖】達3人は、驚いたような表情をします。

 3人の【職種(ジョブ)】ステータスは、公開情報ではなかったのかもしれません。


 私は【収納(ストレージ)】から、ダイヤモンド製のワイン・グラスと、最高級の(スーペル・)ワイン(ラウレンティア)を取り出します。

 それを注ぎ各自に振る舞いました。


「これは?」

【剣聖】が訊ねます。


「食前酒に如何(どう)ぞ。900年物の【ラウレンティア】ワインです。ずっと【収納(ストレージ)】に入っていたので熟成度合いは、まだまだ甘いでしょうが……希少価値を味わってみて下さい」


「ほう……では、何に乾杯しますか?」

 剣聖が訊ねました。


「もちろん……サウス大陸の奪還……です」

 私は、宣言しました。


 ・・・


 会見場には前菜(オードブル)が運ばれて来ます。


 その時、会談場の外がバタバタと騒がしくなりました。


「お待ち下さいませ。今は公式の会談の席でございます。後程、私からお時間を頂けるよう、お願いしてみますので、今しばらくお待ちを……」

 竜騎士団長のレオナルドさんの声です。


「まずは、ノヒト様に下交渉をして頂いた上になさって下さいませ。今主上(しゅじょう)が入って行かれてはブチ壊しに……いえ、交渉に差し支えが生じますので何卒……」

 今度は、エズメラルダさんの声でした。


(やかま)しい。公式の席に我が行って、何の差し支えがあるのじゃ。我こそが【ドラゴニーア】の()()その物じゃろうが?ええい、退()かぬか!」

 良く知っているチンチクリンの声が聞こえて来ます。


「まあ、入ってもらえば良いのでは?」

 私は、許可しました。


 扉が開かれると。


「はぎゃっ……」


 ドタッ、ゴロゴロゴロ……。


 ソフィアが、勢い良く会談場に転がり込んで来ました。

 文字通り、ゴロゴロと……。


其方(そちら)の姫君は、何方(どなた)様で?」

【剣聖】が怪訝な表情で訊ねます。


「【ドラゴニーア】の国家元首にして、セントラル大陸の守護竜。至高の叡智を持つ天空の支配者……【神竜(ディバイン・ドラゴン)】の、ソフィアです」

 私は、ソフィアを紹介しました。


「なのじゃ」

 ソフィアは、ピョーンッと起き上がって、フンスッと胸を張ります。


「【神竜】……様……」

【剣聖】は、口をあんぐりと開けて固まってしまいました。


「何じゃ。こやつ(こやつ)が【剣聖】か?噂に聞くよりも随分と優男(やさおとこ)に見えるのじゃ」

 ソフィアが【剣聖】の顔を、ジーッと凝視します。


「ソフィア。取り敢えず座りなさい。これから大事な話をします。なので、(しばら)くの間これでも食べて大人しくしていて下さい」

 私は、ソフィアの前に(かご)いっぱいに盛られた茹で玉子の山を出しました。


「玉子か。うむ、わかったのじゃ。アルフォンシーナよ、殻を剥いて欲しいのじゃ〜」

 ソフィアは、甘えた声を出します。


「はいはい、致しますよ〜。ですから、静かにしましょうね〜」

 アルフォンシーナさんは、ソフィアを(たしな)めました。


 ・・・


 会見場には、魚料理が運ばれて来ます。


「仕切り直しましょう。私とソフィアは、ソフィアの復活を祝う式典と祝賀が終わり次第、2人でサウス大陸に乗り込みます。目的はサウス大陸における、人種文明の生存圏を魔物から奪還する為です。その為にクイン伯には協力をお願いしたいのです」

 私は、言いました。


「いや、ちょっと待て……待って下さい。理解が追い付かない。この、チンチクリンの嬢ちゃん……いや、姫君が【神竜】様で……。それで、あんた……いや【調停者】様と2人でサウス大陸を魔物から取り返す?そう言ったのか……いや、そう仰ったのでございますか?」

【剣聖】は、目をグルグルと動かしながら訊ねます。


「その通りです。クイン伯、言葉使いは畏まらなくて結構です。話が先に進みませんので」


「わかった。本気なんだな?勝算は?」


「勝利条件によります。サウス大陸で起きている【スタンピード】を止めて地上に溢れた魔物を殲滅し、安定した状態に戻す……という勝利条件なら、私とソフィアでやるなら100%勝ちます」

 私は、断言しました。


(にわか)には信じ(がた)いが……」

【剣聖】は、胡乱げな表情で私とソフィアを交互に見ています。


ほやふは、ふぁふぁ(こやつは、馬鹿)ふぁふぉふぁ(なのか)?」

 ソフィアが茹で玉子の欠片を口から飛ばしながら言いました。


「あ〜、もう。茹で玉子を、そんなにいっぺんに頬張ったら、口の中の水分を全部持って行かれるのは、当たり前じゃないですか?ソフィア、これを飲みなさい」

 私は、【収納(ストレージ)】からジュースを取り出してソフィアに飲ませます。


「ゴキュ、ゴキュ、ゴキュ、ぷはぁ〜っ!此奴(こやつ)は馬鹿なのか?我とノヒトの2人掛かりなら、サウス大陸の魔物を皆殺しにするなど朝飯前なのじゃ。やれというのなら大陸ごと消滅させる事も出来るのじゃ」

 ソフィアは断言しました。


「サウス大陸は消滅させないで下さい。ソフィアが本気を出したら、洒落では済みません」


 ・・・


 会見場には、メインの肉料理が運ばれて来ます。


「つまり、【神竜】の嬢ちゃんと、ノヒト様の2人でなら、魔物の殲滅は出来るんだな?その前提で話を聞くが?勝利条件とやらが、他にあるのか?何だか魔物の殲滅は本意じゃないというふうに聞こえるが?」

【剣聖】は、言いました。


「魔物を殺すだけなら幾らでも殺せます。ただし、私とソフィアは殺すだけです。つまり、その他あらゆる雑事に、私とソフィアを(わずら)わせないでもらいたいので、諸々の段取りを【剣聖】、あなたにやって欲しいのです。この会談の主旨は、そういう話です」


【剣聖】は、腕組して沈思黙考(ちんしもっこう)します。


「わかった。つまり、あんた達が切り開いた血路を俺達が維持しろって事だろう?兵站なら、このフランシスクスが専門家だ。良いだろう。俺の生命は、この戦で使ってやる。人種文明の生存圏の奪還……武人の端くれとしちゃ、これほど派手な死に場所はないぜ」

【剣聖】は言いました。


 ん?

 何か話が噛み合っていない気がしますね。


「そうではありません。私とソフィアの邪魔をしない。誰にも邪魔をさせない。それが、あなた達の役目です」


「ん?どういう意味だ?良くわからないんだが?」

【剣聖】は、眉間にシワを寄せました。


「おい。そっちの生っ白い顔をした【戦略家(スキーマー)】よ。この馬鹿に説明してやれ。我とノヒトは、この【剣聖】とやらなら、100億人同時に相手をしても楽勝じゃ。その戦力分析を元にサウス大陸の奪還の為に最も効率の良い作戦を立ててみよ。【戦略家(スキーマー)】は、それが仕事じゃろうが?」

 ソフィアは、(いら)付きながら言います。


「因みに、勝利条件は……味方の()()()()……でお願いします」

 私は、条件を付け加えました。


「では……もしも、本当に【神竜】様と【調停者】様の戦力がクインシーの100億人分以上だと仮定するなら、【神竜】様と【調停者】様にとって友軍の存在は()()でしかありません。勝利条件は、味方の最小犠牲。つまり、なまじ援護などと言って、軍隊や冒険者などが、戦場にしゃしゃり出て来る方が迷惑。なので、【神竜】様と【調停者】様が戦っている間、その戦場には味方勢は誰も近付けさせない。そして、犠牲を限りなく(ゼロ)にする。クインシーは、その影響力と職務上の権限を用いて、戦場に誰も近付けないように差配すべし。これが、最適な戦略かと……」

戦略家(スキーマー)】の、フランシスクスさんは言います。


 さすが、【戦略家(スキーマー)】。

 完璧な戦略です。


「その通り。私がクイン伯に依頼したい仕事は、私とソフィアがサウス大陸で戦っている間、関係ない者達を1人も死なせない事です。生命を賭けるなら、その目的の為にして下さい」

 私は、きっぱりと言いました。

お読み頂き、ありがとうございます。


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