第57話。冒険者パーティ【ファミリアーレ】。
本日、10話目の投稿です。
本日、10話連続投稿を致しました。
異世界転移、12日目。
早朝。
【ホテル・ラウレンティア】。
私達は、朝食を昨日と同様に裏通りにある、ファスト・フード店横丁で済ませるつもりです。
【ホテル・ラウレンティア】は、トップ・グレードの高級ホテルなので、朝食からコース料理が饗され時間が掛かり過ぎました。
時間に余裕があれば、ゆっくり朝食を摂っても構いませんが、私が切ったスケジュール的に朝食で2時間以上も費やす事は出来ません。
ですが、先ずは【冒険者ギルド】で用事を済ませてしまいましょう。
昨日、弟子達が倒した獲物の買取査定結果を聞きに行きます。
【冒険者ギルド】に入ると、【ラウレンティア】支部のギルド・マスターであるアレッシオさんが待ち構えていました。
「ノヒト様。おはようございます。査定は終了しております」
アレッシオさんが言います。
今回の獲物は、全て【中位】の魔物。
竜騎士団に肉を寄付する必要はありませんし、【コア】も品質が高くないので私は要りません。
なので、全てを丸っと買取してもらいました。
買取査定の結果。
合計……2500金貨(2億5千万円相当)。
ふむふむ、私の【鑑定】の結果と大差ありません。
【冒険者ギルド】は、決して買取査定をチョロまかしたりしません。
本当に立派な組織です。
きっと、グランド・ギルド・マスターの【剣聖】クインシー・クイン伯爵の指導が良いのでしょうね。
昨日狩った獲物は、全て【中位】の魔物。
相場で言えば……。
【王ムカデ】1匹と【ホーラブル・ベア】1頭が、それぞれ500金貨(5千万円相当)。
【牙鼠】1頭、【猛毒ムカデ】1頭、【角狼】20頭、【闇狼】7頭が、それぞれ100金貨(1千万円相当)。
相場換算で満額査定での合計額……3900金貨(3億9千万円相当)。
……となりますが……。
全ての獲物で毛皮がズタボロだったり、体がバラバラだったり、焼け焦げていたり……と、マイナス査定要素があり大幅に減額されています。
まあ、想定の範囲内ですね。
「それで、結構です」
私は、買取をお願いしました。
「では、入金いたします。皆様の【ギルド・カード】を、お願い致します」
アレッシオさんが弟子達に言います。
私は、ソフィアを含む全員に【ギルド・カード】を提出させました。
「如何いう事でしょうか?」
グロリアが訊ねます。
「あなた達が討伐した獲物の買取報酬は、あなた達の物です」
「宜しいのでしょうか?」
「もちろんです」
「ありがとうございます」
「我も貰えるのか?」
ソフィアが訊ねました。
「はい。ソフィアもパーティ・メンバーですからね。因みに私は、あなた達の狩った獲物に関して取り分を要求しません。なので、報酬は私以外の10人で等分にして下さい」
ソフィアと弟子達は、喜んでいます。
自分達で討伐した獲物から得る報酬。
感慨一入という様子です。
「買取手数料5%を頂きますので、お支払いは2375金貨です。お1人様当たり、237金貨と5銀貨という事でごさいます。ノヒト様、【神の遺物】の【収納】アイテムは、お返し致しますね。大変役に立ちました。ありがとうございます」
アレッシオさんが、私に【宝物庫】を手渡しながら言いました。
パーティ・メンバーの一同で【ギルド・カード】の入金を確認します。
お金に関する事は、例え銅貨1枚であっても家族など身内の間でのやり取りでも、毎回キッチリしなければいけません。
「【宝物庫】は、返して頂いて宜しいのでしょうか?獲物の保管が大変では?」
私は、アレッシオさんに訊ねました。
私は、【宝物庫】を、しばらく預けていても構わないと思っていたのです。
【冒険者ギルド】が冒険者から預かった私物を盗んだ……などという話は聞いた事がないので、基本的に私は【冒険者ギルド】を信用していました。
「問題ありません。【商業ギルド】に依頼して、幾つかの【収納】アイテムと、冷蔵倉庫のスペースを融通して貰いましたので」
アレッシオさんは苦笑します。
あ、そう。
ならば、良いでしょう。
私は、返却された【宝物庫】をロルフに渡しました。
今後、この【宝物庫】の管理は、ロルフに任せるつもりです。
ロルフの職種は【鍛治士】。
行く行くは、嵩張る鋼材などを保管する必要も出て来るでしょうから。
そうすると、狩の獲物は別の【宝物庫】があった方が良いですね。
「グロリア、あなたにも【宝物庫】を渡しておきます」
「こんな、高価なアイテムをですか?」
グロリアは恐縮します。
「大丈夫です」
私は、【収納】の中に大量の【宝物庫】を保有していました。
【宝物庫】は、何かと便利ですからね。
これは【秘跡】や【遺跡】など正規の方法で入手した訳ではなく、ゲーム会社の端末を操作して大量にコピーしただけなので、入手にはコストも労力も掛かっていません。
ユーザーの皆さんからしたら……ふざけんなよ……と、言われそうですが……。
その気持ちは、良くわかりますよ。
斯く言う私自身、プライベート・キャラの時に【宝物庫】を5つ入手するのに、どれだけの苦労をした事か……。
もう一度やれ……と言われたら絶対泣くと思います。
・・・
おや?
弟子達が何事か相談を始めました。
聞くと……パーティ予算を積み立てよう……との事。
「ペネロペさん達は、一律報酬の1割をパーティ予算としているんだよ」
ハリエットが言いました。
「それでね、パーティのメンバーの治療費とか、装備品の修理とかの時に、その予算から経費を払うの」
ジェシカが言います。
「良い考えです。私は賛成です」
モルガーナが言いました。
他のメンバーも賛同します。
なるほど、パーティの予算ですか弟子達も色々考えているのですね。
感心です。
「予算徴収は、私達も1割で良いですか?」
グロリアが提案しました。
一同は同意します。
「なら、パーティの口座を作らなくてはいけませんが……。ノヒト先生、私達のパーティの名称は如何しましょう?」
グロリアが訊ねました。
あ〜、確かにパーティの共有口座を開設するならパーティの名称が必要ですね。
ペネロペさん達のパーティ名……【月虹】……みたいな奴です。
う〜む……如何しましょうか?
「【ファミリアーレ】というのは如何じゃ?」
ソフィアが提案しました。
「【ファミリアーレ】。家族の、家庭の……という意味ですね。意味合いも語感も悪くないネーミングだと思います」
弟子達も、この名称を気に入った様子。
こうして、弟子達のパーティ・ネームは【ファミリアーレ】と決定。
一応、しばらくの間は私とソフィアも【ファミリアーレ】に入る事にします。
その場で【冒険者ギルド】に【ファミリアーレ】というパーティ・ネームを正式に登録しました。
パーティ共有口座の開設は、別途【銀行ギルド】での手続きが必要です。
【ラウレンティア】の【銀行ギルド】で手続きをしても良かったのですが、税法上冒険者パーティの共有口座はパーティが本拠地を置く【銀行ギルド】で行う慣例があるとの事。
これは、法規ではなく、あくまでも慣例だそうなので、本拠地と口座開設地は別でも構わないのだとか。
しかし、折角ですから【竜都】で口座を開設しましょう。
・・・
私達は、一旦【ホテル・ラウレンティア】に戻り、私とソフィアの部屋からパーティ・メンバー全員で、【転移】して、【竜都】の【銀行ギルド】に向かい、チャチャッと手続きを完了させてしまいました。
その時に……パーティのリーダーとサブ・リーダーの登録が必要だ……というので検討会議。
「私とソフィアは、リーダーにもサブ・リーダーにもなりません。今後あなた達が一人前になった時には、あなた達自身にパーティの運営を任せるつもりだからです。あなた達で相談して決めて下さい」
弟子達は、色々な事を考慮した結果……。
リーダーはグロリア、サブ・リーダーはハリエットに決まりました。
選考基準は、将来竜騎士団と騎兵隊への所属を目指しているモルガーナとティベリオは、パーティを離れる事になるので除外。
ロルフとリスベットも、将来それぞれ技術者と研究者の道を歩んで行きたいとの要望で除外。
サイラスは、自分にはリーダーなんか務まらないからと辞退。
アイリスも、自分はハリエットに従う事が使命であると固辞。
ジェシカは、保護観察処分期間中なので公的な立場に就く事が出来ず。
……という消去法での決定です。
まあ、粗忽者のハリエットがサブ・リーダーとなる事はともかく、リーダーの人選がグロリアという事においては、全員が一致した意見でした。
何はともあれ、グロリアとハリエットは頑張って下さい。
私もソフィアも、応援していますからね。
・・・
私達は、再び【ホテル・ラウレンティア】に【転移】で戻りました。
さて、朝ご飯にしましょう。
先程から、ソフィアのお腹の虫がキュ〜キュ〜鳴いて煩いですからね。
私達は昨日と同様、【ラウレンティア】の裏通りにあるファスト・フード店が林立する場所に向かいました。
「では、今日も予算50銅貨を支給します。時間は30分。この場所に集合して下さいね」
弟子達……【ファミリアーレ】のメンバーは、それぞれ目当ての店に入って行きました。
「ソフィア。何を食べますか?」
「我は、今日は何だか卵料理を食べたい気分なのじゃ」
ソフィアは、真剣な表情で言います。
あなた、毎回それですね。
素で言っている様子なので驚きます。
コレステロール値とか大丈夫なのでしょうか?
まあ、卵は存外ヘルシーな食品だという学説もあるそうです。
そもそも、【神格者】は病気にはなりませんしね。
しかし、卵料理……何か目新しい物があれば良いですが……。
お、あれは良いですね。
「ソフィア。ラーメンは如何ですか?」
「ふむ、ラーメンとな?」
「煮卵トッピングですよ」
「煮卵とな?」
「はい。中々、味わい深い物ですよ」
「うむ。我は煮卵を食べてみたいのじゃ」
「では、そうしましょう」
朝っぱらからラーメンか……という気持ちもありますが、私は異世界転移して以来、朝から重たい食事をしても胸焼けなどを起こさなくなりました。
これも、ゲームマスターの無敵設定の一部なのでしょうか?
不思議現象です。
私とソフィアは、ラーメン屋に入りました。
ロルフとサイラスとティベリオがいます。
何を注文したのですか?
ロルフは、焦がし醤油……渋いチョイスですね。
サイラスは、豚骨……うん、イメージ通りな感じです。
ティベリオは、トマト・スープ……そんな変化球があるのですか?
なるほど。
私は、さっぱり塩にしましょう。
トッピングで、梅干を追加。
ふふ、梅は塩ラーメンと相性抜群なのです。
ソフィアは、ジャンボ味噌ラーメンの全部乗せに、煮卵20個プラス。
はいはい、気の済むようにして下さい。
私の塩ラーメンが出来上がりました。
ソフィアは、カウンター厨房の中で着々と積み上げられて行く自分のジャンボ味噌ラーメンを凝視しています。
「ソフィア。先に頂きますね」
「うむ……」
ソフィアは、煮卵が盛られて行くジャンボ味噌ラーメンから視線を外さず答えました。
では、と。
まずは、スープから……お〜、美味い。
出汁は鶏ガラと鰹節でしょうか……いや、風味が違います。
鰹より旨味が軽く上品でした。
何の出汁でしょうね?
「とても美味しいです。この出汁は秘伝ですか?」
「ああ、いや、大したもんじゃありませんよ。塩ラーメンは鶏ガラと、ウチでは鯛節を使っています」
ラーメン屋のご主人は、呆気なくスープの内容を教えてくれました。
鯛ですか?
なるほど。
簡単に出汁を教えてくれましたが、きっと工夫が凝らされていて……真似出来るもんなら、やってみろ……という事なのでしょうね。
お主出来るな。
麺は上品なスープの持ち上げを良くするように、極細の縮れ麺。
ラーメンの種類ごとに麺を変えている?
職人の拘りですね。
そういう姿勢は嫌いでありません。
ソフィアのジャンボ味噌ラーメンが出来上がりました。
大きなタライみたいな器ですね。
え!?
これ、麺だけで10kgあるのですか?
最後の仕上げに熱した油を掛けて……。
ジャーッ、プシュプシュプシュ……。
おお、これは食欲をそそる演出ですね。
「頂きますのじゃ。ズゾゾゾーーッ!……モッシャモッシャ……ズゾゾゾーーッ!……モッシャモッシャ、バクバクバク……ゴキュゴキュゴキュ……ぷは〜。美味しかったのじゃ」
秒殺。
ソフィア、あなたの口の中は如何なっているのですか?
火傷とか……。
沸騰した油を掛けてあるのですから、熱いとかいうレベルじゃない筈ですよ。
まあ、私もダメージ不透過なので、火傷などはしませんが……。
私とソフィアは、その後ファスト・フードのテイク・アウトを梯子しました。
・・・
時間となり【ファミリアーレ】が集合します。
一旦ホテルに戻り、部屋から全員で【静かの森】の拠点に【転移】しました。
「では、其方達。今日も頑張って狩に精を出すのじゃぞ」
ソフィアは言います。
一同は、元気良く返事をしました。
私は、ソフィアを連れて【竜都】の【竜城】に【転移】します。
アルフォンシーナさんに、ソフィアの身柄を引き渡しました。
今日から4日間は、ソフィアは式典と祝賀で朝から夕刻まで公式行事に引き摺り回される事になります。
大変ですね……。
ソフィアは、権威の上での立場とはいえ、【ドラゴニーア】の国家元首でした。
私だったら、そんな面倒な役割は、とてもではありませんが務まりませんよ。
「では、ソフィア。夕食の時にまた……」
「わかったのじゃ」
私は、弟子達が待つ【静かの森】に【転移】しました。
【ファミリアーレ】は、フル装備に身を包んで準備万端です。
【自動人形】・シグニチャー・エディション達も、【大盾】と【オリハルコンの杖】で臨戦態勢でした。
今日も張り切って行きましょう。
お読み頂き、ありがとうございます。
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