第56話。ジャパニーズDOGEZA。
本日、9話目の投稿です。
【ラウレンティア】中央広場。
私は、グロリアの【ビーコン】から発報された緊急信号を受信して、直ちに【ビーコン】を【転移目標】にして【転移】しました。
「で、これは、どういう状況ですか?」
私は、弟子達に訊ねます。
弟子達は、困惑顔で立ち尽くしていました。
彼女達が集まって取り囲んでいる先には、身形の良い3人の男性が白眼を剥いて気絶しています。
ともかく弟子達の方は、無事な様子ですが……。
これは、どういう状況でしょうか?
グロリアが気絶している3人に【治癒】を掛けています。
「あのう……実は、この方達が……」
グロリアは、怖ず怖ずと報告しました。
グロリアの話を纏めると……。
弟子達が洋服屋さんや雑貨屋さんを見て回っていたところ、気絶している3人組が声を掛けて来ました。
それは……彼女達、もし良かったら僕達とお茶しない……という内容。
つまり、ナンパですね。
それを、少し離れた所で見たハリエットとアイリスが……グロリア達が男に絡まれている……と勘違いして、問答無用で制圧してしまい、現在に至るという訳です。
「ハリエット、アイリス。理由もわからず、いきなり実力行使に踏み切るというのは頂けませんよ。実際の危機であった場合もあるので実力行使が全てダメだなどとは言いませんが……」
私は、ハリエットとアイリスに説諭しました。
本当に危機であった場合に悠長な事をしていると間に合わない可能性もありますので、実力行使は全て禁止などと制限するつもりはありませんが、彼女達には……実力行使に及んで相手に怪我をさせ多額の賠償金を抱えてしまった……という同じような失敗の前歴がありますからね。
まあ、あれは相手側が、獣人娘達に借金を負わせ如何わしいお店で働かせようと卑劣な罠を仕組んでいたのが原因で、相手側が悪いのはもちろんですが、その罠に簡単に引っ掛かって、まんまと相手側の思惑通りの行動を取ってしまった獣人娘達も迂闊でした。
あの場合は、自分達で直接実力行使をするのではなく、獣人娘達を保護していた孤児院の運営母体である【神竜神殿】の権力を頼るのが最適解だったのです。
私は、【治癒】と【回復】を掛け3人の男性を覚醒させました。
「ここは何処?」
「何が起きたんだ?」
「ウサギと猫の姿をした夜叉が……」
3人は多少混乱しているようですが、後遺症などはありません。
「申し訳ありません」
私は、弟子達に代わって謝罪しました。
ジャパニーズ・スタイルの様式美。
つまり、土下座です。
意識に多少混乱があるものの、3人の男性は苦笑気味に弟子達の不手際を許してくれました。
「いや、もう大丈夫ですから……どうか頭を上げて下さい」
「僕らも突然声を掛けて、こちらのお嬢様達を怖がらせてしまったようですので……」
「むしろ、僕らの方が不躾でした」
3人は、私の謝罪を快く受け入れてくれました。
いや〜、話のわかる好青年達で良かったですね。
下手をしたら軽く事件でした。
3人は、【ラウレンティア魔法学院】に通う学生達です。
ふむふむ、エリートではないですか……。
名前は、バルトロメーオ君、チプリアーノ君、デルフィーノ君。
年齢は、3人とも18歳。
「私の弟子達が、とんだ無体を働きまして誠に申し訳ありません。弟子の不手際は師匠の責任。不明を恥じ入るばかりです」
私は、立ち上がっていましたが謝罪を続けました。
「いや、もう十分に誠意は伝わりましたので……」
「こちらこそ、ごめんなさい……」
「却って……何だか、すみません……」
かつて、取引先のアメリカ企業のエンジニアが……ジャパニーズ・サラリーマンの謝罪は殆ど暴力だ……と言っていました。
日本人サラリーマンの謝罪スキルは、世界最強。
日本人から謝られて許さないと、逆に怒っている方が周囲から顰蹙を買い品性が疑われる。だから不本意でも許さざるを得ない……と、そのアメリカ企業のエンジニアは言っていましたからね。
何はともあれ、許してもらえて幸いでした。
・・・
私達は、公務を終えたソフィアと共に【ホテル・ラウレンティア】のレストランで夕食を食べています。
例の【ラウレンティア魔法学院】の学生さん達3人も一緒でした。
迷惑を掛けた、せめてものお詫びという訳です。
豪華な料理で懐柔してやろうという、打算的な買収工作の意味合いもありますが……。
「ほう、【白魔法使い】とは、若いが其方達は中々に優秀なのじゃな?」
ソフィアは料理を頬張りながら3人組に言いました。
「いやはや、お恥ずかしい。こちらのお2人には何もさせてもらえず制圧されましたけれどね……」
バルトロメーオ君が自嘲気味に言います。
「本当にお強いですね?僕達は、これでも学院ではそこそこの腕前なのですが……」
チプリアーノ君が言いました。
「うん。一体何をされたのかわからないくらい素早かった……」
デルフィーノ君が言います。
ハリエットとアイリスは、3人組の頚椎に手刀を当てて気絶させたとの事。
ハリエット、アイリス、それは力加減を誤ると身体不随などの後遺症を残す可能性もありますので注意して下さいね。
「あったり前だよ。あたし達はノヒト先生の弟子なんだからね」
ハリエットがフンスッと胸を張りました。
アイリスは黙って頷きます。
あなた達は、反省という言葉を覚えなさい。
「ところで、皆さんはノヒトさんの門人との事ですが、流派は何ですか?」
バルトロメーオ君が訊ねました。
「流派はありません。武器戦闘も魔法戦闘も何でもありです」
「へえ、魔法はどちらの学派ですか?」
チプリアーノ君が訊ねます。
「特にはありません。強いて言うなら【森羅万象】の系譜でしょうか」
【森羅万象】とは?
全宇宙のあらゆる万物は、全て共通の理によって支配されており、それを解き明かす事が出来れば、全宇宙のあらゆる存在・事象を、たった1つの理で全て説明出来る筈だ……という思想。
魔法学においては全ての魔法体系を包括し得る、たった1つの理があり、それを解明すれば全ての魔法を使いこなせる筈だ……という理論の事を言います。
私は、この世界の設定上この思想や理論が最も正解に近いと考えていました。
そもそも【森羅万象】理論は、この世界の住人が使用されている言葉で、ユーザー的には……魔法物理学……という言葉で定義されています。
私は、NPCに伝わり易いと考え【森羅万象】の語句を使用しました。
「それは、凄い。なあ、チプリアーノ」
バルトロメーオ君が言います。
「うん。実は僕の卒論のテーマが正に【森羅万象】理論についてなのです。ノヒトさん、是非僕の論文を読んでご意見を聞かせてくれませんか?」
チプリアーノ君が言いました。
まあ、ゲームマスターの遵守条項に違反しない範囲でなら、意見を言うくらい問題はありません。
別に減るモノではありませんし……。
「構いませんよ。私なんかの知識でよろしければ」
ハリエットとアイリスの不手際の借りもありますし、これは受けておくべきでしょうね。
夕食後、【ラウレンティア魔法学院】の学生さん達3人組を見送ります。
私は、近い内に3人組の寮を訪れる事を約束しました。
・・・
今日は、解散。
私達は、それぞれの部屋に分かれました。
ソフィアは、すぐにベッドで熟睡。
私は、今晩も内職を始めます。
さてと、【自動人形】・シグニチャー・エディションは、材料が補充出来るまでは当面の間製造を一時中断。
なので私は、現状間に合わせの材料で出来る下位互換の【自動人形】を造る事にしました。
こちらは場合によっては販売する事も視野に入れたモデル。
名称は、そうですね……【自動人形】・オーセンティック・エディション……とでも呼んでおきますか。
オーセンティックとは、真正品とでも訳せば良いですかね。
つまり、シグニチャー・エディションには性能的に劣るものの、コピー品などではなく十分に高品質なスペックを担保した製品というような意味です。
戦闘技能や魔法の行使は想定していませんが、王侯貴族や富裕層向けの商品ラインナップ。
用途に応じてプログラムをカスタマイズ出来る半オーダー・メイドを企図しています。
オーセンティック・エディションは、然程の出力を要求しませんので、【コア】は、より小さい市販されている最高品質のレベルであれば問題なし。
なので、シグニチャー・エディションのように胸部を膨らませる必要もありません。
なので、より中性的な外見とします。
うん、悪くない。
後は、シグニチャー・エディションと同じ基本構造。
材料は間に合わせですが、十分実用に耐えます。
【コア】となる【魔法石】は、【スマホ】に使用したサイズの物。
【魔法公式】を組んで刻み胸部に装填。
こちらは、カスタマイズを前提としているので、プログラムの書き換えが行えるように胸部に前開きの蓋を取り付けてあります。
最後に耐久力向上、防御力向上、魔法防御力向上……などの【永続バフ】をかけて完成。
攻撃系の【効果付与】は必要ないので行いません。
これで良し。
このオーセンティック・エディションは、オークションに出品して購買動向と価格帯の検討を行いましょう。
その時には、【商業ギルド】を通じて採用した経営陣の意見も参考にしたいですね。
私は、シグニチャー・エディションとオーセンティック・エディションの他に【マリオネッタ工房】での大量生産を想定したレプリカ・エディションというラインナップも準備していました。
レプリカ……つまり複製品です。
こちらは、場合によっては【ダビンチ・メッカニカ】などの企業と提携して、ライセンス生産をさせても良いでしょう。
さてと、レプリカ・エディションは1体1体私が手造りする訳ではありません。
この生産には、あるシステムを用います。
それは【プロトコル】……つまり【自動人形】・レプリカ・エディションを実際に造る工作機械を管理する為の工場の生産ライン制御システム。
【魔法石】にプログラムを刻み生産ラインを動かす訳です。
私は、市販最高品質の【魔法石】を20個ほど【収納】から取り出して、1つ1つに必要なプログラムを組み上げて行きました。
プログラムが終わると、それをカバーする球体のカバーを被せます。
これは技術漏洩を防ぐ為の措置……言わばブラック・ボックス化でした。
このカバーを取り外そうとすると、【魔法石】に刻まれた【魔法公式】や【積層型魔法陣】が自壊して情報が読み取れなくなる仕組みです。
将来的には、ロルフやリスベットが、これを再現して構築出来るようになるレベルになってくれれば理想的ですが……そこまで成長出来るでしょうか?
本人達が自力で高度な【魔法公式】を組めるようになり【複合魔法陣】の構築まで成功した段で、私は【積層型魔法陣】の構造を教えるつもりですが……相当に難易度が高いハードルでしょうね。
さてと今晩の作業は、こんなところでしょうかね。
・・・
私は、リマインダーを確認しました。
明日から、いよいよ【神竜】の復活を祝う式典と祝賀が始まります。
期間は12日〜15日まで。
なので、ソフィアは明日から1日中拘束されます。
ソフィアは【ドラゴニーア】の国家元首であり、セントラル大陸全土の守護竜……つまり神様でもあります。
大変な職責ですが仕方がありません。
私は、特に公式行事には参加しませんが、明日は午後から【剣聖】クインシー・クイン伯爵と会談する予定となっていました。
クイン伯とはサウス大陸の現状を話し合い、私とソフィアがサウス大陸の守護竜である【ファヴニール】を復活させ、【スタンピード】を起こしているサウス大陸の南東と南西の【遺跡】を攻略するつもりである事を伝え協力を仰ぐ必要があります。
場合によってはクイン伯の指揮の下、冒険者達にも何らかの協力をお願いする必要があるかもしれません。
いずれにせよ、一度クイン伯とはキチンと会って相談する必要があります。
クイン伯は、その戦闘力はもちろん、人格・見識においても尊敬を集める人物だという評判ですので、きっと有益な会談となるでしょう。
そうそう、サウス大陸といえば【アトランティーデ海洋国】の王様も明日から【竜都】に来るそうです。
【アトランティーデ海洋国】はサウス大陸の北にある国で【ドラゴニーア】の友好国。
明文化された外交文書にこそ調印していないものの【ドラゴニーア】と【アトランティーデ海洋国】は、半ば同盟関係にある国家同士でした。
900年前の……英雄大消失……の時から続く確固たる信頼関係にある友邦との事。
こちらもアルフォンシーナさんに頼んで会談をセッティングしてもらっていますが、多少気が重いのです。
会談の予定は14日。
私がサウス大陸で暴れても【アトランティーデ海洋国】の権益を侵害する訳ではないので、特に会って了解を得る必要もありませんが、そこはそれ、私は大人ですから一応こちらの目的と計画は伝えておいた方が良いですよね。
王様ですか……当然国家元首です。
そういう血筋で国家元首に選ばれる人達って、本人達はどう考えているのでしょうか?
会ってみたいような会ってみたくないような……。
私は、そういう格式張った場所の振る舞い方は不勉強ですし、第一面倒臭いので出来れば避けて通りたいのですが……。
避けられないのでしょうね。
ここは諦めて、しっかりと大人の対応をしましょう。
ふと見ると、ソフィアが盛大にヨダレを垂らしながら爆睡している姿が目に入ります。
同じ国家元首でもこちらは……。
いや、言うまい。
こう見えてもソフィアは、国民から敬愛されている国家元首であり神様なのですから。
お読み頂き、ありがとうございます。
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