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第55話。ティベリオ、男を見せる。

本日、8話目の投稿です。

【静かの森】深部。


 私達は【闇狼(ダーク・ウルフ)】の小さな群に付け狙われていました。


 20頭の【角狼(ホーン・ウルフ)】の時と違い、今回はおそらく追跡する【闇狼(ダーク・ウルフ)】の方が数が少ない為いきなり襲っては来ないのでしょう。


 ティベリオの指示でモルガーナと【自動人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディション1体が上空高く飛翔して戦場を離脱しました。


 次にティベリオは、アイリスとジェシカに【潜伏(ハイディング)】と【潜入(スニーキング)】を発動させて左右に分けてパーティから遠避けます。

 ティベリオは、アイリスとジェシカには護衛として、それぞれ【自動人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディションを2体ずつ付けました。


 残ったのは【前衛(フォワード)】のハリエット、グロリア、サイラス。

(ミドル・)(ライン・バック)】のティベリオ。

後衛(バックス)】のロルフ、リスベット。


「この辺りで良いでしょう。回頭して下さい」

 ティベリオは追跡して来る【闇狼(ダーク・ウルフ)】の群に正対するように陣形を動かしました。


 更にティベリオは、左翼にハリエットとサイラスを張り出させ2人の護衛に【自動人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディションを1体付けます。

 そして右翼にグロリアとロルフとリスベットを張り出させ3人の護衛に【自動人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディションの最後の1体を付けました。


 ティベリオは、たった1人追撃者を迎え討ちます。


 私とソフィアは両翼に展開。

 万が一の時には救出が出来る体勢をとります。


 ・・・


闇狼(ダーク・ウルフ)】はティベリオが1人になったのに気付いたのか急激に距離を詰めて来ました。


 ティベリオの正面に7頭の【闇狼(ダーク・ウルフ)】が姿を現します。


 ティベリオは、突如【闇狼(ダーク・ウルフ)】に背中を向けて全速力で走って逃げ出します。


闇狼(ダーク・ウルフ)】は一塊になって追い掛けました。


「今っ!」

 ティベリオが【スマホ】で合図を出します。


 左翼からハリエットとサイラスと【自動人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディション1体が、右翼からグロリアとロルフとリスベットと【自動人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディション1体が飛び出しました。


闇狼(ダーク・ウルフ)】は反撃を受ける事は想定していなかったのか隊列を乱します。

 そこに伏兵となっていたアイリスとジェシカが【自動人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディションと共に【闇狼(ダーク・ウルフ)】の背後両翼から襲いかかりました。


 ティベリオも反転して【闇狼(ダーク・ウルフ)】の群に突撃。


 釣り野伏せ。

 薩摩の戦国大名島津家が得意とした包囲殲滅戦術ですが……。


闇狼(ダーク・ウルフ)】は瞬間的にパニック状態となりましたが、すぐ最適解を見つけました。

 一番手薄な正面のティベリオを殺して包囲を抜ければ良いだけだと。


闇狼(ダーク・ウルフ)】が一斉にティベリオに襲い掛かろうとした、刹那。

 上空からモルガーナと【自動人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディション1体が急降下して、群の先頭を走る2頭の【闇狼(ダーク・ウルフ)】を【スピア】と【光線(レーザー)】で串刺しにします。

 偶然かもしれませんが、この2頭の内の1頭が【闇狼(ダーク・ウルフ)】の群のアルファ個体(ボス)でした。


 リーダーを失った【闇狼(ダーク・ウルフ)】の群は激しく動揺し、抗する事叶わず包囲されてボッコボコに殲滅されたのです。


 ・・・


「戦術としては穴だらけです。まあ、何はともあれ味方に損害なく敵を殲滅した訳ですから、みんな良くやりました。ティベリオ、頑張りましたね。ただし散兵戦術は今回だけです。次からは密集防御陣形を崩さないように。良いですね?」

 私はティベリオを褒めつつ釘を刺しました。


 一同は頷きます。


「そうじゃな。【自動人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディションを2体ほど敵の背後に回り込ませて敵後方を圧迫させ挟撃するのが一番効率が良かったのじゃが、兎にも角にも勝ったのじゃから良しとするのじゃ」

 ソフィアが言いました。


 私は、あくまでも弟子達が死なない、そして怪我をしないという事を最優先に考え戦術を組み立てています。

 なので、可能な限り陣形を組み守りを固めていて欲しいのですよ。


 敵が範囲魔法を撃ち込んで来るなどする場合に密集防御陣形は弱いのですが、私とソフィアがいれば強力な【魔法障壁(マジック・シールド)】が張れますので問題はありません。


 そういう意味で言えば、今回は完全な落第点。

 戦力を分散させると戦闘局面が増え、私とソフィアという2枚しかないジョーカーが危機の時に現場に間に合わないという可能性が発生しますので。


 実は【闇狼(ダーク・ウルフ)】は3頭が迂回行動をとって弟子達の後方に回り込む素振りを見せていました。

 それを私とソフィアが【闇狼(ダーク・ウルフ)】の群に【精神攻撃】を行い混乱させ、一(まと)まりに行動させていたのです。


 これは特別サービス。


 失敗を取り返そうとして張り切るティベリオに花を持たせるように誘導したという訳です。

 何よりティベリオが、自分の頭で一生懸命に考えて工夫をしてみたという姿勢が評価に値すると思いました。

 率直に言って好ましい傾向です。


 ・・・


 私達は【ホテル・ラウレンティア】の【転移座標】に帰還しました。

 ホテルから出て程近い場所にある【ラウレンティア】の【冒険者ギルド】に向かいます。


「いらっしゃいませ」

 買取カウンターに座る【冒険者ギルド】の職員が挨拶をしました。


「買取査定をお願いします」


 私はロルフを促して弟子達が倒した獲物が入った【宝物庫(トレジャー・ハウス)】を提出させました。


「もしや、ノヒト様でいらっしゃいますか?」

【冒険者ギルド】の職員が訊ねます。


「あ、はい。そうです」

 私は【ギルド・カード】を提示しました。


「失礼致しました。ギルマスを呼んで参ります」

【冒険者ギルド】の職員が奥に向かいます。


 すぐに【ラウレンティア】の【冒険者ギルド】のギルド・マスターがやって来ました。


「【冒険者ギルド】の【ラウレンティア】支部ギルド・マスター……アレッシオと申します」

 ギルド・マスターのアレッシオさんが名乗ります。


「ノヒト・ナカです」


「ようこそ、当支部にお越し下さいました。ささ、奥へどうぞ……」

 アレッシオさんが言いました。


「いえ、今日は買取査定をお願いしに来ただけですので、こちらで結構です。ご配慮頂きありがとうございます」

 私は丁重にお断りします。


「わかりました。買取査定ですね?ほう、【神の遺物(アーティファクト)】の【収納(ストレージ)】アイテムですか……。さすがはノヒト様ですね。では、お預かり致します」


「査定結果は、いつ頃わかりますか?」


「え〜と……合計31個体でよろしいですか?」

 アレッシオさんが【宝物庫(トレジャー・ハウス)】の中身を確認して言いました。


「はい」


「明日の朝一番……午前5時以降でしたら査定が終わっております」


「わかりました。では、明日午前5時以降に来ます」


「はい、お待ちしております」

 アレッシオさんが素敵な営業スマイルで言います。


 私達は【冒険者ギルド】を後にしました。


 ・・・


 これから早めの昼食を摂ります。

【ラウレンティア】と【竜都】とは時差があるので、うかうかしているとソフィアの午後からの公務に間に合わなくなってしまいますので。


「何を食べたいですか?」

 私は一応訊ねました。


 事前のリサーチで……【ラウレンティア】では【キッシュ・アンド・タルト】という店が有名……という事がわかっているのですが、日本人的に食事としてのキッシュとタルトって何だかピンと来ませんね。

 私は、そのような小洒落た料理よりも、どちらかと言えば鯖の塩焼きとか、豚の生姜焼きとか、そういうわかりやすい料理が好みです。


「【ジャガイモ亭】が良いのじゃ」

 ソフィアが言いました。


 そうですね。

転移(テレポート)】で行き来が出来るのですから、何もピンと来ない料理を無理に食べる必要はないのです。


「なら、【ジャガイモ亭】にしましょう」

 私は、即断しました。


 ・・・


 ダメでした。

 私が1人で【転移(テレポート)】して【ジャガイモ亭】の様子を見に行くと、混んでいて全く入れません。

 おそらく【神竜(ソフィア)】の復活を祝う式典や祝賀が終わるまでは【竜都】では何処(どこ)の店も混雑が続くのでしょう。

 観光客が大挙して流入している現在、【竜都】で食事時に暇な料理屋は、きっと不味いに違いありません。


 時間もあまりありませんし……。

 如何(どう)しましょうか?


「【ラウレンティア】では【キッシュ・アンド・タルト】という店が有名らしいのですけれどね」

 私は呟きました。


「なぬ!そういう耳寄り情報は早く言うのじゃ」

 ソフィアが、それに食いつきます。


「なら、そこに行ってみましょう」


 ・・・


【キッシュ・アンド・タルト】は人気店ですので、店内は満席。

 しかし、デリのコーナーで持ち帰りが可能でした。

 沢山の種類から選んで各自が好きな物を買います。


 多過ぎるような気もしますが【収納(ストレージ)】に入れておけば腐りませんし、ずっと出来立てのままですからね。

 便利機能です。


 私達はホテルでキッシュとタルトを食べました。


 うおっ……美味い!

 何だ、これ?

 キッシュやタルトって、こんなに美味い物なのですか?


 ピンと来ないとか思って、ごめんなさい。

 私が間違っていました。


 いや、これなら初めから素直に【キッシュ・アンド・タルト】に直行しておけば良かった。

 巷の評判という物は馬鹿に出来ませんね。


「ノヒトよ。もっと食べたいのじゃ」

 自分が選んで買った分を既に食べ終えたソフィアが言います。


「なら、私の分をあげます。これ最後の1つですよ」

 私は持ち帰り用にするつもりだった木苺のタルトなる物をソフィアに渡しました。


「ありがとうなのじゃ。ぱくっ……もしゃもしゃ……ゴクンッ。美味しかったのじゃ」

 ソフィアは1ホールのタルトを一口で食べてしまいます。


【キッシュ・アンド・タルト】。

 お土産に買って帰ろうっと。


 リマインダーのアラームが鳴りました。


「ソフィア。時間です。【竜城】に行きますよ。みんなは午後は自由時間です。夕食の時間までにはホテルに戻る事」


 私は弟子達に【センチュリオン】の時と同じく3銀貨(3万円相当)ずつのお小遣いを渡します。

 そして女子チーム、男子チームで一塊になって行動し、必ず【自動人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディションを護衛に付けておく事などなど、注意点を言い含めました。

 しつこいようですが、私は大切な事は何度も繰り返し言って聴かせる性分なのです。


 ・・・


 私とソフィアは【竜城】に【転移(テレポート)】。

 ソフィアはアルフォンシーナさんに連行されて行きました。


 ソフィアは、夕刻に私の部屋の【転移座標】に【転移(テレポート)】して来る予定です。

 今度約束を(たが)えて何処(どこ)かに1人でお散歩に行ってしまったら……と釘を刺してありました。

 それでも約束を破るなら、私にも考えがあります。


 さてと、内職をしましょう。


【竜城】の私室と【ホテル・ラウレンティア】の部屋と、どちらで作業をしましょうか?

 時間が来たら作業を途中で切り上げて材料を広げたままにしておけるので、私室が良いですね。


 私は、私室に入り【自動人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディションの製造を始めました。

 とりあえずシグニチャー・エディションは10体まで製造する予定。

 ロルフとリスベット、そしてソフィアの分です。

 ソフィアには、【竜都】の魔道具屋街で手に入れた壊れた【神の遺物(アーティファクト)】の【自動人形(オートマタ)】を修理してプレゼントする予定ですが、きっと何だかんだと言って私が製造した【自動人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディションの方も欲しがるような気がしますしね。


 その後に関しては資材の備蓄状況から現状では最高性能の【自動人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディションは厳しい感じです。

 オリハルコンが少なくなって来ているのとミスリル合金の添加物となる純銀の備蓄量が心許なくなっていました。

 オリハルコンの方は高額ながらお金さえ払えば購入は可能ですが、銀はこの世界(ゲーム)においては通貨に使用されている金属である為に管理が厳格で街中でホイホイとは買えないのです。

 政府の専売局に申請を出し審査を経て、【商業ギルド】や【鍛治・鉱業ギルド】などから買わなくてはいけません。

 とりあえず、近い内に申請を出しておきましょう。


 ミスリルは面白い素材で、単体ではガラスなどと同様に非晶質(アモルファス)の特徴を持つ脆い鉱物なのですが、純銀との合金にする事で、しなやかで魔力を通し易いという大変有用な金属素材に変質しました。


 私は、このミスリル合金を【魔法装置(マジック・デバイス)】の回路などに好んで用いています。

 通常は、より安価な魔鋼や加工が楽な【荷電魔法触媒】を利用する事が一般的でしたが、私はミスリル合金派です。

 魔鋼は強度の観点から回路の破断などの心配がありますし、【荷電魔法触媒】は外部からの干渉を受け易いという弱点があるからでした。


 家電の扱いである【魔法装置(マジック・デバイス)】なら強度は特に必要がありませんので、魔鋼で問題はありません。

 しかし、戦闘を行う可能性を考えれば強度は重要。

 また魔法を行使する他者からの干渉を許し易い【荷電魔法触媒】の使用は【自動人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディションの場合、制御を()()()()()()恐れがあり、余り使いたくないのです。


 ・・・


 ふう……出来た。


 根を詰めて作業して3体の【自動人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディションを、後は【メイン・コア】を装填するだけの半完成状態にまで仕上げました。


 ロルフとリスベットにあげる【自動人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディションには生産・開発系の関連技能をトレースしてあります。

 この2体は、ロルフとリスベットの教師役であり、また彼らが一人前の技術者や研究者となったあかつきには優秀な助手の役目を果たしてくれるでしょう。


 ソフィアの【自動人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディションには他の【自動人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディション達へのマスター権限と管制機能、そして修理・整備機能を付加しました。

 これは、もしも私が、この世界(ゲーム)から消えてしまった場合にも他の【自動人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディション達をメンテナンス出来るようにという想定がされているのです。


 ・・・


【スマホ】が震えました。

【ドラゴニーア】の【冒険者ギルド】のギルド・マスターであるエミリアーノさんです。

 昨晩【静かの森】で狩った魔物の買取査定が出たのでしょうね。


「はい、ノヒトです」


「エミリアーノです」


「査定結果ですね?」


「はい」


「では、そちらに伺いますので少し待って下さい」


 私は【竜都】の【銀行ギルド】本店に【転移(テレポート)】してから、【冒険者ギルド】に向かいました。


 ・・・


 エミリアーノさんと挨拶もそこそこに、すぐ本題へ……。


 査定結果は【高位】の魔物235個体で……【コア】は私が引き取り、肉は竜騎士団へ贈与、それ以外の部位の買取で6万7千金貨(67億円相当)。


 概ね私の【鑑定(アプライザル)】の結果と同じです。

 まあ今回は【光線(レーザー)】で結構焼いちゃいましたからね……その分の減額査定は致し方ないでしょう。


「結構です。買取をお願いします。今回も肉は【宝物庫(トレジャー・ハウス)】ごと竜騎士団に渡して下さい。竜騎士団には話が通っていますので、連絡をして頂ければ竜騎士団の担当者が受け取りに来ます。これは決裁書類です」

 私はギルド・カードとアルフォンシーナさんからもらった書類をエミリアーノさんに渡しました。


「わかりました。そのように手配致します」

 エミリアーノさんは言います。


 入金手続きが終わり、私は【ギルド・カード】を確認をします。


 現金保有残高……28万金貨(280億円相当)と端数。


「ありがとうございました。では私はこれで……」

 私はエミリアーノさんに礼をしました。


「はい。いつも、ありがとうございます」

 エミリアーノさんも礼を返します。


 その時緊急信号を受信しました。


 !


 これは弟子達に渡してある【ビーコン】の発報。

 発信元は、グロリアからでした。

 同時に、ハリエットのスマホからも通話が入って来ています。


 これは一大事。

 私は【スマホ】に出るよりも【ビーコン】を目掛けて【転移(テレポート)】して、弟子達の元に駆け付ける事を優先しました。

 何が起きているにせよ間に合ってくれ。

お読み頂き、ありがとうございます。


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