第53話。西の都市ラウレンティア。
本日、6話目の投稿です。
異世界転移11日目。
早朝。
私は【静かの森】に建造した拠点から【竜都】の【銀行ギルド】に【転移】しました。
【銀行ギルド】の夜間警備員の方達に挨拶。
事前に申し入れをして了解を得ていたので、問題なく迎えてもらえました。
さすがに、この時間では頭取のビルテさんも副頭取ピオさんも出勤してはいません。
私は【銀行ギルド】から【冒険者ギルド】に移動しました。
【冒険者ギルド】のエミリアーノさんも、まだ出勤していない様子。
宿直のギルド職員の方に挨拶します。
「いらっしゃいませ、ノヒト様。【竜都】支部副ギルド・マスターのヴィルジニアでございます」
ヴィルジニアさんは【人】の女性。
事務方の叩き上げで戦闘職ではないそうです。
そう言えば、何度かカウンターに座っているのを見掛けた記憶がありますね。
この人が副ギルマスだったのですか。
役職の割には、とても若いですね。
ステータスを見ると寿命が長い【ハイ・ヒューマン】という訳ではありません。
えっ?
ヴィルジニアさんの年齢は、45歳……。
若く見えて、結構いってらっしゃるのですね?
あぶな〜。
若いですね……とか年齢の話題に触れなくて良かった。
「こんな朝早くにすみません」
「いいえ。【冒険者ギルド】は24時間営業ですから、いつお越し頂いても大丈夫ですよ」
ヴィルジニアさんは笑顔で言いました。
「査定は終わっていますか?」
「はい。【古代竜】の【青竜】が7頭で、いずれも【コア】はなし。肉はノヒト様が引き取られますので、買取はその他の部位で20万金貨という査定となりました。品質の面で1万金貨分を差し引かせて頂きました。理由は骨格と内臓の破損です」
骨格と内臓の破損……。
ソフィアは【青竜】の尻尾を掴んで武器代わりに振り回して戦ったらしいですからね。
内部が傷んでしまったのは仕方ないでしょう。
「わかりました。それで結構です。買取精算をお願いします」
私は【ギルド・カード】をヴィルジニアさんに渡しました。
「買取手数料で5%を頂きますので、お支払いは19万金貨でございます」
ヴィルジニアさんは精算処理を行います。
ヴィルジニアさんから【ギルド・カード】を受け取り入金を確認。
現在の保有現金は、これで21万3千金貨と端数。
日本円換算で213億円ほど。
今後【マリオネッタ工房】の社員と従業員に支払う給与や仕入れや公共料金や税金などで支出が多いですからお金は必要です。
【マリオネッタ工房】で製造する【自動人形】が全く売れないという事はないでしょうが、どの程度需要があるのか……。
もしかしたら、しばらくは赤字経営になる可能性も十分にあり得ます。
「肉は竜騎士団の騎竜繁用施設に寄付しますので、解体が終わったら竜騎士団に連絡してもらえますか。竜騎士団の方が受け取りに来るそうですので、お預けしてある【宝物庫】ごと渡して頂けば結構です。これは、その書類です」
私は、アルフォンシーナさんの決裁文書をヴィルジニアさんに渡しました。
「確かに。では解体が終わり次第、そのように手配致しますね」
「で……また買取査定を、お願いしたいのですが」
私は6個の【宝物庫】を買取カウンターに並べます。
「今回は6つ……ですか……」
ヴィルジニアさんが顔を引きつらせました。
「全て【高位】の魔物で235個体です。一応大体の種類ごとに分類してあります。今回も【コア】は私が引き取り、肉は竜騎士団の繁用施設へ贈与、その他の部位を買取って頂きたいのです」
「畏まりました。査定結果は本日中に【竜城】にご連絡差し上げます」
ヴィルジニアさんは言います。
「そうですか。では、こちらに連絡を下さい」
私は自分の【スマホ】のアドレスを教えました。
「畏まりました。本日エミリアーノから、こちらにご連絡致します」
「宜しくお願いします」
私は【冒険者ギルド】の奥から孤児院に【転移】しました。
・・・
孤児院組の5人をピック・アップして【竜城】に【転移】します。
リマインダーのアラームが再び鳴りました。
おっと急がなくては。
【竜城】でソフィアと獣人娘達と合流。
全員集合です。
「忘れ物はありませんね?」
一同は頷きました。
私達は【転移】します。
転移先は【グレート・ディバイン・ドラゴン】。
【グレート・ディバイン・ドラゴン】は、現在【ドラゴニーア】の西の都市【ラウレンティア】に停泊中。
私達が【転移座標】が設置されたキャビンから出ると、昨夜と同じく将校が通路で待機していました。
私達は第2艦橋に案内されます。
「おはようございます、ソフィア様、ノヒト様、門人の皆さま」
フィオレンティーナさんが敬礼しました。
「おはようなのじゃ」
「おはようございます」
ソフィアと私に続いて弟子達が声を揃えて挨拶をします。
「すぐ、お発ちになりますか?」
フィオレンティーナさんが訊ねました。
「はい。慌ただしくて、すみません」
「いいえ、お忙しいのでしょう。【センチュリオン】での、お2人のご活躍は報告を受けております。艦隊一同ただただ敬服致しております」
「我に掛かれば、あの程度の事は造作もないのじゃ」
ソフィアが、フンスッとばかりに平らな胸を張ります。
ソフィア……あの事件の元凶は、あなただったのですからね。
もう、責任云々を問わないという約束ですから、お説教はしませんが……。
「では、私達は離艦します」
私は言います。
「お気を付けて。私達は、これより【竜都】に帰還致します」
フィオレンティーナさんは言いました。
「ありがとうございました」
「いいえ。何程の事もありません」
フィオレンティーナさんは敬礼します。
・・・
私達は【グレート・ディバイン・ドラゴン】の飛行甲板で兵士の皆さんに見送られ離艦しました。
私がロルフを抱え、ソフィアがリスベットを抱え、モルガーナは自分の翼で、他のメンバーは各自の【自動人形】に抱えられてという、いつもの形で【飛行】。
地上に着陸しました。
【ラウレンティア】の港で入街手続きをします。
【センチュリオン】同様に顔パスでした。
さてと、まずはホテルにチェックインをしましょう。
弟子達の新兵訓練は【静かの森】で行いますが、森で野営をするつもりなんかありません。
今回こそは、ホテルのディナーを食べホテルのベッドで弟子達をゆっくり休ませます。
ソフィア……あなた、わかっているでしょうね?
私は、本来アウト・ドアは大嫌いなのです。
キャンプなどありえません。
しかし、その内弟子達の訓練の一環として野営訓練やサバイバル訓練などをする必要があるのでしょうね……。
あ〜、嫌だ嫌だ……。
港は【ラウレンティア】の中心街にあるのでホテルはすぐ近くです。
【ラウレンティア】は【竜都】に次ぐ【ドラゴニーア】第2の都市です。
主要産業は観光、精密機器、林業、青果物と果物を中心とした農業、ワインの生産、畜産業、楽器などの工芸品など。
特にラウレンティア・ワインはウエスト大陸の東の国【ガレリア共和国】産のワインと並んで世界最高峰だと云われていました。
【ラウレンティア】の街並みはエレガントで、その気風もエレガント。
文化都市として有名で多くの楽団や劇団や舞踏団があり、中心街には有名な劇場が軒を連ね、多くの芸術家達が暮らしています。
また、【ラウレンティア】は美食の街としても大変に有名。
今夜のディナーは楽しみです。
・・・
【ホテル・ラウレンティア】。
今回も街の名を冠したホテルを予約しました。
伝統と格式があり格付けも最高評価。
私は食べ物と宿泊場所には出費を惜しまない性質なのです。
ホテルの豪華なエントランスを入りました。
「ノヒト・ナカです」
「お待ちしておりました。ノヒト様。長旅お疲れ様でございます」
フロント・クラークが恭しく言います。
全員でチェック・インの手続きをしました。
地球では朝5時過ぎにホテルのチェック・インなんか出来ないと思います。
しかし、こちらでは大きな宿泊施設では大抵24時間チェック・インとチェック・アウトが可能でした。
便利です。
部屋割は前回の【センチュリオン】と同じ。
私とソフィア、グロリアとジェシカとリスベット、ハリエットとアイリスとモルガーナ、サイラスとティベリオとロルフに別れます。
部屋に入って【転移座標】を設置。
それから、すぐにロビーへ集合しました。
これから朝食を食べに行きます。
ホテルの朝食でも良かったのですが【ホテル・ラウレンティア】では朝食から本格的なコース料理が供されるのだとか。
時間的に朝は慌ただしいので、朝食は外で食べる事にしました。
私は貧乏性なのか、朝ご飯にゆっくり2時間も掛けていられません。
「美食の街【ラウレンティア】まで来てガッカリかもしれませんが、朝食はファスト・フードです」
私は、みんなに言いました。
一同は別に気にしていない様子。
「ソフィア。ハンバーガーと牛丼と何方にしますか?」
「むむ〜、両方はダメか?」
ソフィアは言います。
「牛丼屋で食べて、ハンバーガーは持ち帰りにしたらどうですか?」
「そうするのじゃ」
私達はファスト・フード店を探しましたが……ないですね。
街角にいた警ら中の衛士に訊ねる事にしました。
ふむふむ、なるほど。
わかりました。
どうもありがとう。
どうやら、ファスト・フード店はエレガントな街並みの景観に配慮して裏通りに押し込められているそうです。
裏通りに入ると、まるでフード・コートのようにファスト・フード店が軒を連ねていました。
ソフィアが目を輝かせています。
「ノヒトよ。まずは、これを食べてみたいのじゃ。次は、あれで……あっちのも、そそられるのじゃ」
ソフィアはキョロキョロと落ち着きません。
あ〜、これは長く時間が掛かるやつですね……。
「集合。50銅貨ずつ支給します。好きな店で好きな物を食べて30分後にここに集合して下さい。良いですね?」
私は言いました。
大丈夫だとは思いますが、弟子達と別行動をする時は警戒しておかなければなりません。
【センチュリオン】で渡した緊急用の【ビーコン】。
もし何かあれば、それをポチッて下さいね。
弟子達は男子チームと女子チームに分かれて、好きな店に入って行きました。
その場には私とソフィアが残ります。
「ソフィア。迷っている時間はありません。制限時間は30分ですよ」
「う〜む、なら、まずは、この親子丼なる物から食べてみるのじゃ」
・・・
ソフィアは、まず丼物専門店で、親子丼と牛丼(玉子5個トッピング)を食べました。
次に立ち食い蕎麦で月見蕎麦と生卵を落としたカレーうどんを食べます。
「ノヒト。急ぐのじゃ。時間がないのじゃ」
「うどんを3秒で食べるとか、正常な人間には無理ですよ」
結局私と行動を共にしたので、ソフィアの食べ物屋のハシゴは2軒で終了。
「ノヒトの所為で2つしか回れなかったのじゃ」
「早食い大会ではありません。あくまでも朝ご飯ですよ」
ソフィアがゴネるので、仕方なくハンバーガー屋で月見バーガーを買い込んで、ベーカリー系の店でタマゴサンドを買い込みました。
予算の50銅貨を大きく超過していますが、ソフィアに関しては仕方ありません。
さてと、そろそろ【静かの森】に向かいましょう。
私達は路地の人目がないところから、【静かの森】の拠点に【転移】しました。
・・・
【静かの森】の拠点。
現在時刻……朝6時30分。
「はい、注目」
私は【収納】からホワイト・ボードを取り出しました。
一同がホワイト・ボードの前に並びます。
「これから森の深部に入り、【遭遇】した魔物と戦います。【静かの森】は、それなりに危険ですが、昨晩私が【高位】の魔物は粗方狩っておきました。なので森の中は【中位】以下の魔物ばかりです。しかし侮れませんよ。【角狼】や【闇狼】などは群を形成して攻撃して来ます。囲まれて襲われたら【神の遺物】のフル装備でも、今のあなた達のレベルでは簡単にやられます。なので、こちらも陣形を組んでガッチリ守りを固めながら進みます。良いですね」
一同は返事をしました。
陣形はというと……。
【アダマンタイトの大盾】と【オリハルコンの杖】を装備した【自動人形】を前方に3体、両翼にそれぞれ2体ずつ配置。
その内側に弟子達が陣形を組みます。
前衛は左からハリエット、ティベリオ、サイラス。
中衛はハリエットの後方にアイリス、ティベリオの後方にグロリア、サイラスの後方にジェシカ。
後衛は左にロルフ、右にリスベット。
上空からモルガーナが近接航空支援。
私とソフィアは後方を固めます。
基本的に索敵はアイリスとジェシカとモルガーナで行い。
ティベリオが戦闘指揮。
リスベットが【防御】を掛け、グロリアが【回復・治癒】。
これと言って役割のないロルフには【宝物庫】を装備させ倒した魔物の死体を回収する任務を与えました。
あとは臨機応変に……。
「今回のテーマは……絶対に死なない……です。良いですね」
一同は元気良く返事をしました。
さてと新兵訓練に出陣です。
お読み頂き、ありがとうございます。
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