第52話。狩場の地均し。
本日、5話目の投稿です。
【竜城】。
ロルフとリスベットは【竜城】に入った事が初めてだったので、見る物全てが物珍しい様子。
リスベットは壮麗な建築様式に感心しきりで首が痛くなるんじゃないかというくらい【竜城】の大天井を見上げていますし、ロルフの方は緊張で歩き方が少々おかしくなってしまっています。
礼拝堂で待っていると、ソフィアが慌てて衣服を着ながら、こちらに向かって来ていました。
後ろから【女神官】達がソフィアの靴を持って追い掛けています。
アルフォンシーナさんは苦笑い。
今日は公式謁見の最後の1組が【銀行ギルド】で、頭取のビルテさんと副頭取のピオさんと幹部数人だったのだとか。
どうやら、ソフィアは……いつも会っているのだから良いだろう……と早々に切り上げてしまったそうです。
「大丈夫ですか?」
「【ドラゴニーア】と【銀行ギルド】とは良好な関係ですので問題はないでしょう。後で私の方からもフォローはしておきますので」
アルフォンシーナさんは苦笑しながら言いました。
何か、すみません。
・・・
さてと、夕食は何を食べますかね。
特に外食の予定ではなかったのですが……。
「何を食べますか?」
「野菜!」
ハリエットが言いました。
「魚」
アイリスが言います。
「私は肉が……あ、でも、みんなの食べたいモノで……」
グロリアが言います。
「私は、うんと、うんと、美味しい物」
ジェシカが言いました。
「我は今日は何だか卵が食べたい気分なのじゃ」
ソフィアが言います。
ソフィアは毎日そんな気分でしょうが……。
「ロルフとリスベットは?」
「僕は何でも大丈夫です」
ロルフは言いました。
「図書館に行く時に見か掛けたのですが串揚げ屋という所に行ってみたいです」
リスベットが具体的な希望を言います。
「場所はどこですか?」
「図書館の専用飛空船乗り場の近くです」
浮遊島にある図書館と地上を結ぶ為に小型の飛空船が垂直方向に往復運行しています。
ケーブルカーやエレベーター代わりですね。
その地上側の発着場は広場になっており、広場に面して飲食店が林立していました。
昼間はカフェや軽食を食べさせせる店として営業し夕刻からは酒場として営業します。
「では、そこにしましょう」
私は、まず1人で串揚げ屋に行きました。
混雑状況を確認。
人数分の予約をして【竜城】に戻ります。
そして、ロルフを私がリスベットをソフィアが、獣人娘達を【自動人形】がそれぞれ抱えて【飛空】。
串揚げ屋に到着。
獣人娘達は自分のパートナーである【自動人形】を【収納】に仕舞いました。
「私は3人を迎えに行って来ます。適当に注文しておいて下さい。注文委員長はリスベットを任命します」
私は、串揚げ屋を希望したリスベットにオーダーを任せます。
私は物陰から孤児院に転移してモルガーナ、サイラス、ティベリオをピックアップしました。
孤児院から【銀行ギルド】に【転移】して、そこからはサイラスとティベリオは【自動人形】に抱えられて【飛行】し、私とモルガーナは自力で飛びます。
串揚げ屋にパーティ・メンバーが揃いました。
・・・
3人を連れてテーブルに着くと……。
何ですか?
このカオスは……。
「ノヒト先生。すみません。私、注文委員長の使命を果たせませんでした……」
リスベットはガックリと肩を落とします。
見ると、ソフィアの前にはウズラの卵の串揚げと出汁巻き玉子が大量に積み上げられ卵かけご飯が何杯も並べられていました。
ハリエットはアスパラガス、ナス、カボチャ……などなどの串揚げと数種類の大盛りサラダ……。
グロリアとジェシカが牛肉、豚肉、鶏肉の串揚げを大量注文。
ロルフは何故かピラフ、チャーハン、焼きおにぎり、お茶漬け……と、ご飯物尽くし。
普段冷静沈着なアイリスまでもが魚介のフライ祭りを開催中。
「まあ、良いでしょう。リスベットも好きなモノを頼みなさい」
「わかりました……」
「いらっしゃいませ。お飲み物はどうしますか?」
店員さんが元気良く注文を取りに来ました。
「生と……食べ物の注文も一緒で良いですか?」
「はい、もちろんです」
「なら、串揚げは牛ヒレと、プチトマトのベーコン巻きと、マッシュルームと、アスパラガス……あと、ポテトサラダとお新香。取り敢えずは、それで良いです」
「はい、喜んで!」
リスベット、モルガーナ、サイラス、ティベリオも各々が好きな物を注文します。
・・・
ゴキュ、ゴキュ、ゴキュ……ぷはぁ〜。
私はジョッキを傾け一気に冷えた生ビールを飲み干しました。
気分的なものでしかありませんが、やはり串揚げにはビールでしょう。
う〜む……アルコール問題。
異世界転移以来、私は全く酒に酔わなくなりました。
以前ピッツェリアでワインを飲んでみたり、【竜城】でも食事の時にアルコール類が出るのですが……。
全く酔いません。
どうやら、アルコールは毒として認識され……当たり判定なし・ダメージ不透過……のゲームマスターの体質によって脳に影響を及ぼさなくなっているようです。
串揚げは美味い。
うん、カラッとしていて粒の細かいパン粉がサックサクの正統派串揚げです。
プチトマトのベーコン巻きと、マッシュルームが気に入りました。
あ、ハリエット……ソースの二度漬けはダメですよ。
ソフィア……ソースを一気飲みするんじゃない。
「あのう、明日は新兵訓練だとか?どのような事をするのですか?」
グロリアが訊ねました。
本来は、万が一死亡しても復活するギミックがある【闘技場】が利用出来れば良かったのですが、【ドラゴニーア】では武道大会が開催中です。
【センチュリオン】の【闘技場】も、明日以降は退かせない予定が入っているとの事でした。
今日は、たまたまキャンセル待ちが取れた感じだったのです。
私がゲームマスターの威光を振りかざせば無理矢理割り込む事は簡単ですが、職務上必要な場合を除いてゲームマスターの強制力を行使するつもりはありません。
「明日は【ラウレンティア】に行きます。【ラウレンティア】の西に向かい【神竜】の【都市結界】の外側に出て軍が管理している森林演習場に行きます。森で【マッピング】を頼りに索敵して実際に狩もしますよ」
「森林演習場ですか?」
グロリアが訊ねました。
「【静かの森】……ですね?」
モルガーナが答えます。
「モルガーナが言う通り、【静かの森】は【ドラゴニーア】軍の演習地です。軍の管理地だから安全だなどと高を括っていると大怪我では済まないですよ。あそこは条件が揃えば【超位】の魔物とだって遭遇しますからね」
【ドラゴニーア】の国土最西にある【静かの森】は、【ドラゴニーア】と【リーシア大公国】との国境に横たわる深い森でした。
【竜都】を中心に見て東の【青の淵】と対になるような位置関係にあり、こちらも【青の淵】同様に【古代竜】の生息地でもあります。
ただし、【静かの森】は軍が演習場としている為に厳重に管理されているので、【青の淵】に比較して魔物による都市への脅威度は低めでした。
また、竜騎士団が騎竜とする【竜】を捕獲している場所でもあります。
竜騎士団の騎竜は繁用されている【竜】が産んだ卵を孵化させ、人の手で育てられ養育・馴致されていました。
しかし、繁用されている【竜】だけで繁殖を繰り返していると、当然近血による弊害が引き起こされます。
その為定期的に新しい血を入れて、遺伝的健全性を担保していました。
つまり【静かの森】は、竜騎士団の牧場の意味合いもある訳です。
【静かの森】には【青の淵】と同様に【スポーン・エリア】がありました。
【スポーン・エリア】は、当然軍によって立ち入り禁止区域になっています。
・・・
串揚げ祭りは、8時前にはお開きとなりました。
私は孤児院組を送り届け【竜城】に戻ります。
明日も出発が早いので、ソフィアと獣人娘達は既に寝室に向かっていました。
さてと、今晩は内職はなし。
他に、やるべき事があります。
私は【スマホ】を取り出しました。
「フィオレンティーナさん。そちらは、どうですか?」
「ノヒト様。予定通りです」
フィオレンティーナさんが答えます。
あ、そう。
ならば良し。
私は【ドラゴニーア】艦隊旗艦【グレート・ディバイン・ドラゴン】に設置した転移座標に【転移】しました。
私専用となっている【転移座標】が置かれたキャビンから通路に出ると、将校が兵士2人と共に待機しています。
「ご案内致します」
将校が敬礼しました。
「ありがとうございます」
将校に案内され第2艦橋に向かいます。
フィオレンティーナさん以下艦隊幹部に迎えられました。
「ようこそ、ノヒト様」
フィオレンティーナさんが敬礼すると、幹部達も敬礼します。
「お世話になります。で、どの辺りですか?」
「【静かの森】東側、ご指定の領域上空です」
フィオレンティーナさんが言いました。
「ありがとうございます。では、ここで結構です」
「あのう、本当に随行は必要ありませんか?【静かの森】は管理されているとはいえ、夜はそれなりに危険ですよ。まあ、ノヒト様ですから、いざとなれば広域残滅魔法で一撃でしょうが……」
「いいえ。軍の管理する森を焦土にするつもりはありませんよ。では、私は降りますね」
「私達は午前0時までは、この空域におりますので、何かあればご連絡を。明日午前5時に【ラウレンティア】寄港。その後【竜都】に帰投します」
「【ラウレンティア】に午前5時ですね。では、その時にまた」
「お気をつけて、行ってらっしゃいませ」
フィオレンティーナさんが敬礼し、幹部達も敬礼します。
私は第2艦橋から移動し、飛行甲板から真っ暗な【静かの森】に飛び降りました。
【グレート・ディバイン・ドラゴン】は明後日の12日から始まる式典と祝賀に【ドラゴニーア】艦隊旗艦として参加します。
その間【竜都】に張り付かなくてはならない必要から、現在最後の巡回哨戒任務に当たっています。
各地で強力な魔物の発生などに異変がないか確認している訳ですね。
今日は、たまたま【静かの森】の哨戒中だという事を知り、私の【転移目標】として使わせてもらいました。
・・・
【静かの森】に着地。
真っ暗ですね。
私は無敵ですが、夜の森というのは何だか根源的な恐怖心を呼び起こすような気がします。
「【光源】」
私は【低位】の光魔法【光源】で灯りを確保しました。
本来は光に集まる習性がある夜行性の魔物もいるので灯りを取るのも良し悪しなのですが、まあ問題ないでしょう。
私は【収納】から【神剣】を取り出し周囲の巨木をスッパスッパと斬り払い、それを【収納】にしまいます。
数分で半径100mほどの円形に切り開かれた広場が出来ました。
切り株が邪魔ですね。
「【攪拌】」
私が土を攪拌するとモコモコと巨木の根っこが地表に浮いてきます。
私は、それを全て【収納】にしまいました。
今度は土が耕されてフカフカですね。
作物が良く育ちそうです。
しかし、畑を作っている訳ではないので地盤を固めましょう。
「【圧縮】」
今度は地面が圧し固められます。
「【白熱】」
私は火魔法の【高位】に相当する【白熱】で土を焼きました。
最後に【神位】の【バフ】を掛けて、これで良し。
土が冷めるまで待てば陶磁器のように地面が焼き固められ、レンガを敷き詰めたような仕上がりになる筈です。
この場所を拠点として明日から弟子達の新兵訓練を行います。
さてと地面が冷めるまで、しばらく他の作業をしましょう。
現在地に【転移座標】を設置して飛び上がりました。
・・・
私は【飛行】で森の低空を高速で飛びながら、【マッピング】を利用して森の中の魔物を狩りまくっています。
【高位】の光魔法【光線】を使って魔物を攻撃。
【中位】以下の魔物は無視。
【高位】以上の魔物を森の広範囲にわたって狩り尽くしました。
・・・
午前2時。
ふう。
一仕事終えた感がありますね。
魔物を倒すより死体の回収の方が手間取りました。
猟果はというと……。
【魔狼】……48頭。
【地竜】……30頭。
【翼竜】……24頭。
【矮竜】……21頭。
【ワーム】……20頭。
……などなど。
何だか久しぶりにガッツリと狩をした気がします。
ゲームマスターの業務としては【神位魔法】や【超位魔法】で圧倒するようなインスタントな戦闘ばかりでしたからね。
周辺の環境に影響を及ぼさない程度の火力でとなると……あまり記憶にありません。
【静かの森】は、さすがに軍が管理しているだけあって【高位】以上の魔物は薄いです。
それでも【静かの森】は恐ろしく広大ですから、200個体以上は【高位】の魔物が狩れました。
獲物の【コア】は私が確保して、肉はまた竜騎士団に寄付しましょう。
【コア】と肉以外の部位を売っただけでも、概算で5万金貨(50億円相当)にはなりますね。
結構儲かりました。
私は【収納】から狩った獲物を取り出し、【神の遺物】の【宝物庫】に移し替えます。
こうしておかないと【冒険者ギルド】に売却出来ませんので。
おお、【宝物庫】で5個分……大量です。
そうだ種類ごとに分類しておけば親切ですね。
分類したら、結局【宝物庫】6個になってしまいました。
中身が入っている【収納】アイテムは、別の【収納】には重ねて仕舞えない仕様です。
私は【収納】機能のない普通の鞄を取り出して6個の【宝物庫】を入れました。
ガシャガシャと嵩張りますね。
さてと、そろそろ拠点の地面は冷めた頃でしょうか。
私は最初に造成した場所へ【転移】して戻りました。
・・・
うん、良い具合です。
地面は完璧に舗装されました。
私は【収納】から、事前に準備しておいた大量の鉄骨と分厚い鋼板を取り出しました。
まずは鉄骨を地面に突き刺し【加工】で長さを継ぎ足しながら数百本を地中に埋設。
次に【理力魔法】で鋼板を持ち上げ、【加工】で接合しながら巨大な構造物を組み上げます。
構造物を鉄骨の土台に【加工】で接合。
仕上げに耐久力向上、防御力向上、腐食防止……などなど各種【永続バフ】を最大限にかけて……。
良し、完成。
航空機の格納庫的な無骨で巨大な建造物ですが、まあ良いでしょう。
ここは私の弟子達の新兵訓練の拠点代わりとして使用し、それが終わった後は軍に譲渡して、この【静かの森】演習場の宿営地や資材倉庫などとして活用してもらう事になっています。
私が【静かの森】の魔物を乱獲してしまう事の見返りという訳ですね。
私が保有していた鋼鉄は全て放出してしまいました。
【ドラゴニーア】に戻ったら補給しなくてはいけませんね。
【転移座標】の上に建物を造ってしまったので、一応確認すると問題なく転移座標は機能していました。
改めて【転移座標】を設置し直さなくて大丈夫でしょう。
その時、私のリマインダーがアラームを鳴らします。
時間ですね……あ〜、忙しい。
お読み頂き、ありがとうございます。
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