第50話。冒険者パーティのムーンボー(月虹)。
本日、3話目の投稿です。
【冒険者ギルド】のラウンジ。
「私は【竜城】の依頼で孤児院出身者を雇用し、生活の支援をする事業を行っております。この子達に目を掛けて下さっている事、大変感謝いたします。皆さんが手を差し伸べて下さっていなければ、この子達は今頃如何なっていたか……。今後とも、どうぞ宜しくお願いします」
私は女性だけの冒険者パーティ【月虹】の面々に、お礼を言いました。
【冒険者ギルド】の【竜都】支部ギルマスであるエミリアーノさん曰く……【月虹は【竜都】支部に本拠を置く冒険者パーティとしてはクラス・実績共にエース・パーティと呼ばれている歴戦の勇士……なのだとか。
確かに、全員が上位職で【オリハルコン・クラス】が2人と【アダマンタイト・クラス】が3人。
彼女達を女性だけのパーティなどと侮る者は誰もいないでしょう。
そして、彼女達が獣人娘達に古い装備品を無償で譲渡してくれたり、荷物持ちとして雇い【竜都】の外に連れて行ってくれ冒険者稼業のイロハを教えてくれていた先輩冒険者達なのです。
「ふ〜ん、多少はキチンとした奴みたいだな……」
【月虹】のリーダーであるペネロペさんは言いました。
「こら、ペネロペ。ごめんなさい、ノヒトさん。ペネロペは【オリハルコン・クラス】になっても一向に行儀が身に付かなくって……」
【月虹】のサブリーダーであるルフィナさんが謝罪します。
いえいえ、何処かの誰かさんのように行儀が身に付かない神様もいるので、そんな些末事を私は全く気にしませんよ。
私は【月虹】と情報交換をしました。
彼女達はサウス大陸に遠征していて、昨日【竜都】に戻ったのだとか。
ペネロペさんが、【神竜】の復活を祝う武道大会の招待選手に選ばれたので、【竜都】に帰還。
大会が終わったら、またサウス大陸に向かうそうです。
「サウス大陸の様子は如何ですか?」
私は訊ねました。
「【アトランティーデ海洋国】は安定している。けど、東の【ティオピーア】と西の【オフィール】の様子は良くない。都市城壁外は、【高位】以上の魔物が我が物顔で跳梁跋扈しているよ。少し城壁の外に出て稼ごうかなんて思ったけど、あれじゃ危な過ぎて、とても無理だね。アタシらは【アトランティーデ海洋国】の対魔物防衛の最前線である【千年要塞】の戦闘を少し手伝ってたんだ」
ペネロペさんが言います。
【千年要塞】とは、900年前に【ドラゴニーア】の支援で建築された対魔物用の前線基地。
初めは、単に要塞と呼ばれていましたが、900年間【アトランティーデ海洋国】を魔物の襲撃から守り続けた事から、誰からともなく【千年要塞】という名前で呼ばれ始めたのだそうです。
【月虹】は【千年要塞】に群がって来ている魔物の群を、他の冒険者達と協力して2つ程潰して来たとの事。
しかし、魔物の濃さから言って、間引き程度の意味しかないという事です。
「なるほど……。とすると、やはり、サウス大陸全土に魔物を吐き出している大陸南方2つの【遺跡】を何とかしなければいけませんね」
「おい、まさか、あんた【大密林】に行く気か?正気の沙汰じゃねえぞ。そんな自殺行為に、この子達を巻き込むつもりか?」
ペネロペさんが食って掛って来ました。
「いいえ。もちろん、その時この子達は【竜都】で留守番ですよ」
「【大密林】には行かれるつもりなのですね?お止めになった方が……。あの【剣聖】が率いたレイド・パーティでさえ【大密林】の最浅部ですら満足に進めなかったのですから、自殺行為ですわ」
ルフィナさんが言います。
「ノヒト様。もし宜しければ、私の部屋でお話をされては?ペネロペ達【月虹】は、信用出来る者達です。ご素性を明かされても大丈夫だと思いますよ」
エミリアーノさんが言いました。
エミリアーノさんが、そう言うのならば、そうしましょうか。
・・・
【冒険者ギルド】・【竜都】支部。
ギルド・マスターの執務室。
私は冒険者パーティ【月虹】に、ゲームマスターである事、また【神竜】と行動を共にしている事を伝えました。
エミリアーノさんは、【月虹】に、私が昨夜【センチュリオン】で【竜】を8頭、【翼竜】を60頭討伐した話や、ソフィアが【古代竜】を20頭以上倒したという話を聞かせます。
「凄〜っ!ノヒトさん……あ、いや、ノヒト様は【ドラゴン・スレイヤー】なのか……」
ペネロペさんは口を開けて驚愕しました。
「単身で【古代竜】を20頭以上ですか……。さすが【神竜】様としか申し上げようのない桁違いの戦果ですわね……」
ルフィナさんも理解が追いつかないという表情をします。
「【神竜】復活の式典と祝賀が終わり次第、私とソフィアはサウス大陸に渡って【パラディーゾ】でサウス大陸の守護竜【ファヴニール】を復活させ、その後南方の【遺跡】2つを攻略するつもりなのです」
「そっか。それはサウス大陸の連中には朗報だな……あ、いや、ですね」
ペネロペさんは言いました。
「20頭以上の【古代竜】ですら歯牙にも掛けない【神竜】様が御出陣なさるなら、それも可能な事なのでしょうね」
ルフィナさんが言います。
・・・
私は【月虹】からサウス大陸の様子を更に詳しく聴きました。
「……なるほど。やはり長く伸びた防衛線が維持出来ていないのですね?」
「ああ……いえ、はい。東と西は主要都市だけがポツンとあって都市城壁の外は全部魔物の領域だな……あ、いや、です」
ペネロペさんが言います。
「言葉使いは普段通りで結構ですよ」
「そっか、助かるよ。何せ、アタシの育ちの悪さは筋金入りだかんな。あははは〜」
ペネロペさんは、あっけらかんと笑いました。
「もう、そんな事を自慢して如何するのよ」
ルフィナさんが呆れたように言います。
ペネロペさん達の説明によると。
【航路ギルド】の定期飛空船が【アトランティーデ海洋国】から乗り入れている為、東の【ティオピーア】と西の【オフィール】の主要都市は兵站が維持され、何とか都市城壁の中は魔物に対抗しているものの、都市城壁の外は魔物に占領された状態で、実質【アトランティーデ海洋国】の国境までが人種生存圏として領域確保されているに過ぎない状況なのだとか。
一攫千金を夢見て世界中から集まって来る冒険者達は【アトランティーデ海洋国】を拠点にして【ティオピーア】と【オフィール】の領土内に向かい魔物を狩って、【アトランティーデ海洋国】に戻るという行動を取っているようです。
「それでも西の【オフィール】は、まだマシかなあ。都市内に魔物を侵入させないように諸兵科を組織的に運用した合理的な防衛体制が保たれている。それに比べて東の【ティオピーア】は収拾が付かない状態だよ。毎日都市城壁の中に魔物が入り込んで、あちこちで市街戦をやっている有様だな。1か月以内に【ティオピーア】は堕ちるかもしれない」
ペネロペさんは言いました。
「東は魔物が濃いのですか?それとも【ティオピーア】の戦力に問題が?」
「う〜ん、難しい事は良くわかんないけど、政治絡みらしいよ」
ペネロペさんは言います。
「【オフィール】の王家は【アトランティーデ海洋国】に避難して命脈を保っていたのですよ。その、おかげで旧国民の子孫達には【オフィール】の国民意識というか帰属意識があり、王家の旗印の下に辛うじて意思統一が出来たのです。しかし【ティオピーア】は王家が絶えています。その為に国民意識や帰属意識が希薄でバラバラなのです。私達【冒険者ギルド】も頭が痛いところですね」
エミリアーノさんが説明しました。
【ティオピーア】では旧国民の子孫達と新たな入植者達が暮らしていますが、この人々が、それぞれ思惑を異にする派閥として対立し問題を複雑にしているのだとか。
そういう生臭い話は、ゲームマスターの業務や職責には全く関係がありません。
関わり合いにはならないでおきましょう。
「サウス大陸に行くなら、アタシも今年中は【アトランティーデ海洋国】をウロウロするつもりだから、現地で何か協力出来る事があったら言ってくれよ。【ドラゴン・スレイヤー】の役には立たないかもしれないけどさ」
ペネロペさんがニカッと笑って言いました。
「何かありましたら、お願いをするかもしれません。その時は宜しくお願いします」
私はペネロペさん達【月虹】のメンバーに頭を下げます。
私は【月虹】に【スマホ】を一台渡しました。
何かあれば、これで連絡を……という訳です。
・・・
私と獣人娘達と【自動人形】達は【冒険者ギルド】を後にしました。
「私は【商業ギルド】に用事があるのですが、あなた達はどうしますか?」
「私達は、図書館に行くつもりです」
グロリアが言います。
「ノヒト先生から教えてもらった本を探してみます」
ジェシカが言いました。
ハリエットとアイリスも頷きます。
私は弟子達に魔法、戦闘技術、戦術論、戦略論、魔物の生態……などなどの、おすすめ書籍を教えていました。
これらは900年前の書籍なので現存しているのかわかりませんが、なければ私の【収納】に収蔵されている原書を貸し出しても良いでしょう。
直ぐに手を差し伸べたりはしません。
こういう事は自分で調べる、あるいは知りたい事を調べる為には如何したら良いかを覚える事も含めて学習なのですから。
「なら、午後5時になったら図書館に迎えに行きます。何かあれば【スマホ】で連絡して下さい」
「「「「わかりました」」」」
獣人娘達と【自動人形】は図書館の方向に向かいます。
私は【商業ギルド】に向かいました。
・・・
【商業ギルド】に入るとギルド職員が私を応接室に案内してくれます。
程なくして【商業ギルド】会頭のニルスさんが、やって来ました。
「ノヒト様。お待ちしておりました」
ニルスさんは言います。
早速【商業ギルド】が募集してくれた【マリオネッタ工房】が雇用する責任者候補の履歴書を確認しました。
経営と法務が出来る人材、会計と労務管理が出来る人材の2人ですか……。
セカンド・ベストとして経営、会計、法務、労務管理で別々の人材を雇う案も提示されていますが、【商業ギルド】としては最初の2人が最良の人材と考えているとの事。
「結構です。この2人と契約します」
私は契約書を発行しました。
「畏まりました。2人に採用決定の通知を行い契約書を送付致します。契約日時はいつからに致しましょうか?」
「直近では、いつからが可能ですか?」
「手続き上3日後……9月13日からですね」
「なら9月13日付けで契約採用として下さい。出来れば、その日の朝9時にはオフィスに出勤してもらいたいですね」
「畏まりました。工場の運営管理を行う人材1名は4日後までに選定致します」
「わかりました」
「次はオフィスですが、この2か所のどちらかを選んで下さい。いずれも予算内では最高の物件です」
「う〜ん、こちらの方が広く。こちらの方が立地が良い訳ですね。では両方買います」
当初はオフィスを1つ購入する予定でしたが、この際もう1つも確保しておく事にしました。
今後【マリオネッタ工房】は、どんどん事業規模が拡大していくでしょう。
【ドラゴニーア】は慢性的な不動産不足。
出物があった時は確保しておいた方が良いという判断です。
私は【ギルド・カード】で2つ目のオフィスの購入代金500金貨(5千万円相当)を新たに支払いました。
「本社登記は、どちらのオフィスで致しましょうか?」
「この【銀行ギルド】の裏手の物件を本社事務所とします。こちらを本社登記しておいて下さい」
私は立地が良い物件の方を本社に指定します。
「畏まりました。次は工場の物件ですが見つかったのは、この一件だけでした。ですが、広さもアクセスも最高だと思います」
ニルスさんは物件の情報が書かれた用紙を出しました。
なるほど、広さ、天井の高さ、倉庫の容量、そして都市内巡回飛空船の駅前。
確かに工場地帯では最高と言える物件です。
「契約します」
「畏まりました。明日の朝から工作機械の組み立てを開始致します。こちらは2週間後に、お引き渡しが出来ると思います」
「早いですね」
「ノヒト様からご依頼されて購入した工作機械なのですが、一時保管先として、この物件に搬入しておいたのです。なので後は、その場で組み立て、設置、動作確認とスムーズに事が進みます」
「なるほど、それは助かります」
「ところで材料の確保は、どのようなご計画なのでしょう?全くご依頼がないので……。もしも2週間後から、すぐ操業を開始なさるなら、もう材料の発注をしませんと間に合いませんが?」
「当面材料は私が備蓄している物で間に合います。その後の分に関しては、これから雇う工場の運営管理を行う人材に仕入れを任せるつもりです」
「そうでしたか。畏まりました」
私は、ニルスさんに見送られて【商業ギルド】を後にしました。
さてと、お次は【ニュートン・エンジニアリング】に向かいましょう。
お読み頂き、ありがとうございます。
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