第49話。クラスアップ。
本日、2話目の投稿です。
正午前。
訓練を終えた私達は、ホテルに戻りシャワーで汗を流し【ホテル・センチュリオン】をチェック・アウトしました。
【センチュリオン】の目抜き通りを歩き【冒険者ギルド】に向かいます。
買取を依頼していた【竜】と【翼竜】の査定金額が出ていました。
買取査定金額……2万5千金貨(25億円相当)。
内訳は……。
【竜】8頭の【コア】と肉以外の部位……1万金貨(10億円相当)。
【翼竜】60頭の【コア】と肉以外の部位……1万5千金貨(15億円相当)。
「全て最高品質という査定です」
【冒険者ギルド】の【センチュリオン】支部ギルマスのウィルバーさんが言いました。
「そうですか。ありがとうございます」
魔物の買取金額は、大体【コア】が価値の半分を占め、肉が4分の1、その他が4分の1という計算になります。
まあ、妥当な査定金額というところでしょうか。
「解体手数料は掛かりませんが、買取手数料として5%を頂戴致しております。なのでお支払いは2万3750金貨です。解体後の【コア】と肉のお引き渡しに関しては、全て解体し終えるまでは1ヶ月程、お時間を下さい。解体完了しましたら【竜城】にご連絡を差し上げます。何分と数が数ですので……」
「わかりました。それでお願いします」
私は【ギルド・カード】を預け手続きを済ませ入金を確認します。
「しかし……全て頸部を一刀のもとに切り取った見事な切断面でした。それ以外には全く損傷はありません。一体如何やったら、あんなふうに切れるのですか?」
ウィルバーさんが訊ねました。
「武器の性能ですよ」
私は事実を述べます。
「ご謙遜を。確かに武器の性能も素晴らしいのでしょうが、技術がなければ、ああいう切り口にはなりません。全て同じ椎骨の継ぎ目を完璧に捉えていました。ましてや【竜】相手に一撃必殺……聞きしに勝る恐るべき技の冴えでございますね?」
「ありがとうございます」
私は賞賛を素直に受け取っておく事にしました。
「ところで、ノヒト様のパーティメンバーの皆様にも討伐実績が付きます。【銅級】だった皆さんは【鉄級】に……【革級】の皆さんは【銅級】に、それぞれ昇級します。【ドラゴン・スレイヤー】の称号授与は今回はノヒト様お1人の討伐でしたので、何方にも与えられません。そちらは、ご了承下さい」
「わかりました」
冒険者クラスの昇級は、どんなに高い討伐実績を上げても1段階ずつしか上がりません。
一定期間内(概ね1ヶ月)の実績は一纏めに評価されるので、例えば明日また【竜】を討伐したとしても冒険者クラスは据え置かれます。
この世界では冒険者のクラスは社会的信用と見なされていました。
移民を制限している【ドラゴニーア】でもミスリルを超えるクラスの冒険者には資産状況の審査を受け在留資格が与えられる事が普通ですし、アダマンタイト・クラスを超えると資産状況に問題がなければ国籍も与えられます。
このまま順調に昇級して行けば、弟子達全員に【ドラゴニーア】の国籍が認められる日も遠くはないでしょう。
ロルフとリスベットも一応パーティ・メンバーに登録しておいて良かったですね。
因みに、私はゲームマスターとして冒険者のクラスを超越していますので、初めから昇級も称号授与も全く関係がありません。
・・・
私達はゾロゾロと【センチュリオン】の目抜き通りを歩きました。
【自動人形】が増えたので総勢11人+7体。
大所帯です。
これは、いよいよプライベート船が必要ですね。
私達はステーキ・ハウスに入りました。
ここは【センチュリオン牛】というブランド牛肉を食べさせてくれるお店です。
昨晩食べる予定だった高級鉄板焼きのフルコースのメインは、この牛肉でした。
昨夜の騒ぎでホテルのディナーを食べ損なったので……せめて、その肉だけでも食べて帰ろう……という訳です。
店内では嵩張るので【自動人形】はペアとなった弟子達の【収納】に仕舞わせました。
「私はシャトーブリアンを500g。ミディアム・レアで。ライス大盛りを下さい」
「我はサーロイン5kgとフィレを5kg。レアなのじゃ。ガーリック・ライスを大盛りじゃ」
私とソフィアに続いて、弟子達も思い思いに注文します。
まずは、各自が注文した肉のブロックを生の状態で見せてくれました。
これから、これを焼きますよ……という事です。
焼き上がりが楽しみですね。
「あのう、ノヒト先生……」
グロリアが言いました。
「何ですか?」
「昨日の【竜】の討伐に私達は何も役に立っていませんが、冒険者クラスが昇級してしまいました。良いのでしょうか?」
グロリアは戸惑いながら言います。
「それは【冒険者ギルド】の規定なのですから受けておけば良いのです。それに、あなた達が安全な場所に居てくれたというだけで、十分に私やソフィアの役には立っています」
「そうでしょうか?」
グロリアは困惑している様子。
「グロリア。それから、みんなも良く聴いて下さい。戦闘においては、絶対に私の役に立とうなどと考えないで下さい。率直に言って、そういう考え方では先行きが、とても心配です。あなた達が私の役に立とうとして前線に出て来るなどと考えただけで私は不安で仕方がありません。私の役に立ちたいと思ってくれるなら、私が……あなた達自身の身を守れ……と命じた時は全力で自分の身の安全を守って下さい。戦闘で私を助けられる存在は最低限ソフィアくらいの戦闘力がなければ話になりません。良いですね?あなた達は……死なない……これが最大の私への貢献になります」
「わかりました」
グロリアは言いました。
「ははは……ソフィア様が最低ラインなら、私達は永久にノヒト先生の戦闘支援は無理だね」
ハリエットが乾いた笑いをしながら言います。
そうです。
私はゲームマスターの業務として必要なら守護竜をも滅殺しなければならないですし、国家を相手取る事もあります。
そんな修羅場に弟子達を巻き込むつもりは絶対にありません。
・・・
ステーキが焼き上がり、各自の前に並びました。
美味いっ!
これは……何て美味い肉なのでしょう。
噛みしめるたびに旨味が溢れて来ます。
素晴らしい。
500g……大き過ぎるかと少し心配しましたが、これはペロリとイケてしまいます。
もう少し大きくても。
追加……いや、またの機会にしましょう。
次は絶対に高級鉄板焼きフルコースを食べなくては。
ソフィアは合計10kgの肉塊でさえも秒殺。
5kgずつを両手に持って交互に齧って2口ずつでなくなってしまいました。
ソフィアの頰っぺたが、あり得ないほど大きく膨らんでいますがモキュモキュと咀嚼して、あっという間にゴックン……。
弟子達はというと。
「はあ、こんな贅沢ばかりで良いのでしょうか……」
「このサラダのドレッシング最高!」
「うん。【センチュリオン牛】……侮りがたし」
「美味しいの」
……などと、ご満悦の様子。
何よりですね。
・・・
【センチュリオン牛】を堪能した私達は、【センチュリオン】の【神竜神殿】まで【飛行】で向かいました。
私がロルフをソフィアがリスベットを抱え、7人の弟子達は各自のペアである【自動人形】が抱えて飛行しています。
私の造った【自動人形】は日毎の回数制限はありますが【高位魔法】までは使えました。
これが【神の遺物】の【自動人形】なら魔力切れなどを気にせずに【高位魔法】をガンガン打ちまくれます。
丘の上の神殿に着きました。
ハリエットとアイリスは神殿長のオフィーリアさんと別れの挨拶をします。
「神殿長様。また会いに来るよ」
ハリエットは言いました。
「私も」
アイリスが言います。
「また会いましょうね。それまで元気で。ソフィア様とノヒト様の言い付けをきちんと守るのですよ」
オフィーリアさんは言いました。
「「はい」」
2人は頷きます。
「では、オフィーリアさん、皆さん。失礼します」
私は弟子達と一緒に【ドラゴニーア】の孤児院に【転移】しました。
・・・
「本日は、これで解散。明日は、また早朝に孤児院へ迎えに行きますので早目に休むように」
私は弟子達に解散を告げます。
「「「「「はい」」」」」
私とソフィアと獣人娘は【ドラゴニーア】の孤児院から再び【転移】しました。
【竜城】に到着。
迎えに来ていたアルフォンシーナさんに、ソフィアを引き渡します。
ソフィアは午後いつも通りに公務。
食事でかなり時間を取りましたが、【ドラゴニーア】と【センチュリオン】には時差があるので時間には余裕がありました。
「ああ、ソフィア。バタバタしていて忘れていました。これは【スマホ】です」
私はソフィアに【スマホ】を一台渡します。
「何じゃ、このミスリルの板は?」
ソフィアは【スマホ】を透かしたり裏返したりしていました。
その時ソフィアが持つ【スマホ】に着信。
ソフィアは何事かという表情をしました。
「ソフィア様。それは、こうして私達と話が出来ますよ」
ハリエットがスマホで通話します。
「なるほど。魔法通信機じゃな?しかし小さいの……」
ソフィアは感心しきり。
・・・
私は獣人娘達と【銀行ギルド】に【転移】。
頭取のビルテさんと挨拶をして【銀行ギルド】を後にしました。
メイン・ストリートを歩き【冒険者ギルド】に入ります。
7頭の【青竜】の買取を依頼。
既に【コア】は抜き取ってあるので、肉は私が引き取り、その他の部位は売却します。
エミリアーノさんは【センチュリオン】支部から連絡を受けていたらしく、【青竜】にも落ち着いて対応して……いないですね。
顔が引き攣っています。
私は【青竜】を【宝物庫】に移し替えて、エミリアーノさんに丸ごと預けました。
「査定結果は明日の朝までには出ると思います」
「よろしくお願いします」
「で、そちらの女性達は?」
エミリアーノさんは不思議そうに訊ねます。
獣人娘達の背後には彼女達の【自動人形】が影のように付き従っていました。
「【自動人形】です。彼女達の護衛、兼訓練相手です」
「ははは、ロスト・テクノロジーの【自動人形】とは。ノヒト様のなさる事には驚かされてばかりです」
エミリアーノさんは苦笑します。
「あ、ペネロペさん達だ」
ジェシカが声をあげました。
獣人娘達は、ラウンジにいた女性冒険者の一団に駆け寄り挨拶をしています。
「ウチの支部所属のエース・パーティ……【月虹】です。彼女達は4人を気に掛けて色々と面倒を見てくれていたのです」
エミリアーノさんが教えてくれました。
そうでしたか。
ならば、私も挨拶をしなくては。
「よう、お前らか。装備がピカピカだから気付かなかったよ。元気だったか?」
【月虹】の女性冒険者が言いました。
「はい。元気です」
グロリアが答えます。
「在留資格を貰えたのですって?良かったですわね」
別の【月虹】の女性冒険者が言いました。
「うん、ソフィア様とノヒト先生のおかげだよ。あ、そうだ、私達【鉄級】になったんだ」
ハリエットは【ギルド・ガード】を見せびらかしています。
【月虹】のメンバーは……これで、一丁前の冒険者だな……などと言って獣人娘達の頭を撫でていました。
冒険者は【鉄級】以上になって、ようやく一人前……という認識はゲーム時代と同じようです。
「初めまして。ノヒト・ナカと申します。今彼女達とパーティを組んでいます」
私は【月虹】の皆さんに挨拶しました。
「ふ〜ん、ギルマスから事情は聞いてるよ。あんたは素性の確かな立派な人だってね。でも、この子達は可愛いから変な気を起こしたら承知しないよ」
【月虹】の女性冒険者が腰に手を当てて言います。
「ペネロペ。失礼ですよ。申し訳ありません。彼女は、この子達が心配なんです。私はルフィナです。ほらペネロペ、みんなの紹介をなさいな。あなたがリーダーなのですから……」
【月虹】のルフィナさんが言いました。
「わかったよ……。よろしく。あたしはペネロペ。こっちはルフィナ……」
【月虹】のリーダーのペネロペさんは、メンバーを紹介し始めます。
冒険者パーティ【月虹】のメンバーは、全員女性でした。
構成はというと。
リーダーのペネロペさん……【魔法剣士】。
パーティの代理人であるキトリーさん。
サブリーダーのルフィナさん……【司祭】。
セーラさん……【魔道士】。
ティアナさん……【守衛士】。
ユルシュルさん……【守衛士】。
実動メンバーは全員上位職……。
尚且つペネロペさんとルフィナさんは【オリハルコン・クラス】。
他のメンバーは【アダマンタイト・クラス】。
裏方である代理人のキトリーさんにしても知能ステータスは相当に高い。
正に少数精鋭。
防御特化の【守衛士】2人が前衛を保ち……【魔導士】の火力で範囲攻撃……【魔法剣士】がバランスを取り……【司祭】が支援・回復・治癒で全体を支える。
うん、バランスも良い。
なるほど、【ドラゴニーア】のエース・パーティというのも納得ですね。
お読み頂き、ありがとうございます。
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